初め初めの物語。参 パターン・トパーズ 「…なーんか。すっかり置いてけぼりくらったったなァ。のォ、キモリ」 「キッ」  真昼の太陽の下。  すっかり幼馴染なイトコたちに置いてかれもーた可哀相なわいは、一人、道をテクテク歩いとった。  一人。  一人。  ・  ・  ・  ひーとりぼっちのひーつじかーい、レイホルレイホルレッイッホーーー!  …うわ、ごっつ淋しい。  やめたやめた。一人歌はやめよう。  ほら、キモリも呆れて見とるしな。  置いてかれたこと。でも、実際はもうどーでもエエねん。  いや、何て言うか、諦めたっていうか……。  ん?  ああ、自己紹介まだだったんな。  わいはトパーズ。  サファイヤとルビィの、幼馴染なイトコや。  なんたって、サフィ・ルゥ・パーズと愛称で呼ぶ仲やしナァ。  絆の強さは保障つき…って、なんや?  ん?  今まで名前すら出てこなかったのに、本当に仲がいいのか?  …あー。  まーた、わいの存在忘れていったか。  ん、まぁ、気にせんといてーや。  良くある事なんやわ。  なんか知らんけど、わい、結構忘れられる事が多いんや。あの二人に。  …全く、何処をどうすれば、こんなにインパクトのあるわいの事を忘れられるっちゅーねん。  こんな喋り方もしてるし、髪だってパツ金やし、服もハデハデにしとるし。  あいつらの脳、異常あるんとちゃうか?  そう! 自己紹介。まだ続きやで。  …えーっと、年は12。あいつらと同じ。  好きな言葉は、“雨降って地固まる”とか、“三歩進んで二歩さがる”とか。  ま、わいのモットーや。  世の中苦あれば楽あり、楽あれば苦ありやからな。 「キキッ」 「なんや、キモリ。あんまり引っ張らんといてーな」  わいの頭についとるビーズの飾りを、キモリはさっきからいじっとる。  ああ、頭巾も落ちるがなっ。 「キモリッ。大人しゅうしてくれや」 「キー」  ふて腐れた声が返ってき、わいは溜め息をつく。 「…お前、わいと違って行動派なんやな」  わいはどちらかというと、面倒臭がりの“君子危うきに近寄らず”派なんやけど。  さてさて。  今日はわいら三人組の旅立ちの日やった。  やったんやけど。  今、わいは一人なんやな、コレがまたどうしたことか。  なんで一人なのか。  …あっ、別にちゃうで、わいが寝坊して遅刻したんとは。  んな、どっかのアニメじゃあるまいし、そんなドジはわいは踏まへん。  むしろ真面目なわいは、三十分も早くに家を出たんや。  ああ、わいって真面目。優等生。お子様の鏡や。  …でもな。  わいは一番、ビリやった。  サフィとルゥは、何処にもいてへんかった。  もう旅立ったと聞いたわいが、どーんなに驚いてガッカリしたか。  あれは味わってみないと絶対分からんものや。  まあ、そんなわけで。わいはアイツらに置いていかれたんや。  そう、抜け駆けや。  あいつら、わいを残してとっとと行ってもーたんや!  …ああ、可哀相なわい。  でもな、別に怒ってはいないんやわ。  いつものコトやから、あの双子の暴走は。  あの突っ走りの暴走宝石兄妹に、モラルっちゅーんは求めてはいけんのや。  それが、今まで一緒に過ごしてきたわいが学んだ事や。 「キキッ、キッ」  わいの肩の上で、キモリが訳知り顔で頷く。 「…って、お前知らないやろが、あの二人のコトは」 「キー?」  そして、一番最後だったわいのパートナーは、必然的にこいつになったわけや。  草タイプのキモリ。  どーも、お調子者なのが玉に傷やけど。  なかなか良いパートナーになれる気がしとる。  ポーカーフェイスも得意そうだしな。  オレのパートナーにはピッタリだと思うわけだ…ん?  って、わ!  つい真剣モードで口調が戻ってしまったわ。  危ない危ない。  ん、なんで普通に喋れるのに喋らないのか?  まあ、いろいろあるんやわ。いろいろ。  ちなみに、アイツらも知らん。  わいが標準語を話したら、どんな顔するんやろか。  ちーとばかし、楽しみやなァ。  ま、そんなことにならんように願うけどな。  わいは裏方が一番なんやから。 「さてと。そろそろ行くか、キモリ」  わいはキモリに肩越しに尋ねる。  キモリが首を傾げて、それから頷いた。 「曖昧やなァ。まあ、ええわ。ほんじゃ、行こか」  わいはサフィとルゥも通ったであろう道に、一歩踏み出す。  そうやな。  当分の目標は、あいつらに追いつく事や。  さあ、何処で追いつけるものやら。 「もしかしたら、ずっと追いつけなかったりしてな」 「キキキッ」  キモリが笑った。  あいつの中では、有り得ないことじゃないらしーわ。 「まあ、わいとお前やもんな。…じゃ、のんびり行かせてもらうわ」  にへらっ、とわいは笑った。  三歩進んで、二歩さがるくらいが丁度ええんや。  ポケモンも、人生もな。  結果的に進めりゃ、オールオッケイ。  のんびり、のんびり行きましょや。 「キキッ」 「って、おい、走るなやっ。おいっ、キモリー!」  わいの肩から、突然キモリが飛び降りて駆け出した。  はぁ、参ったわ。  まずはアイツに、わいのペースを覚えてもらう事から始めな。 「待ちーや、キモリ! 先行くなッ」  前途多難。  でも、これはこれでえーんやろな。  サフィ、ルゥ。  わいも今から行くで。  何時会えるか、楽しみにしとれよ。