※注:このあとがきには本編以上にゲームのネタばれ(主にエンディング前)が全開です※ こんにちは。作者の久方小風夜です。 この度は『闇世の嘆き 時の護役』をお読みいただき、誠にありがとうございました。 この際ですので、この話の礎になった自分の考えについて、あとがきという場を借りて語らせていただきます。 生意気な素人の書いたかなりくだらない内容ですので、興味のない方は一番下までスクロールされることをお勧めします。 あとがきという名の語り +きっかけとなった出来事+ 『わたしはヨノワール。『時の護役』だ。』 (「Chapter−1:時の護役」より) 『ポケモン不思議のダンジョン 時の探検隊』『同 闇の探検隊』をプレイして、自分もそのストーリーに感動し、エンディングでは本当に号泣してしまいました。 前作の『赤の救助隊』『青の救助隊』のラストでもひどく感動し、正直な話もう前作を上回る感動はないだろうと思いこんでプレイしていたので、本当に衝撃的でした。製作者の方々にスタンディングオベーションです。 しかし自分は物事を捻くれた方向から見るという悪癖を持っています。 ストーリーには率直に感動しましたが、どうしても腑に落ちないところがありました。 ストーリーには確かに感動した。でもちょっと待てよ。 ヨノワールの言動の意図は何なんだ? 彼は本当に消えたくなかっただけなのか? 主人公のやったことって本当によかったのか? 主人公、実はとんでもないことをしてしまったんじゃないのか? 考えれば考えるほど、自分にとってこの結末は、とてつもなく恐ろしいものに見えてきてしまいました。 +『悪役』として描かれている彼、ヨノワール+ 『もし彼らがわたしに嘘をつかなかったなら、先手を打つことができたなら、 霧の湖の『時の歯車』も盗まれることなく、ジュプトルを捕らえることができたというのに!』 (「Chapter−4:迷走」より) ヨノワールはこのゲームのエンディングまでのストーリーの中で、ある意味では一番の悪役として描かれています(※あくまでもエンディング前の話です) 最初主人公たちに協力的だったかと思うと、突然態度を一変させ、主人公たちの命を狙ってくる。逆に悪役だと思っていたジュプトルが、実は主人公たちの味方だった。 ストーリー中の山場であり、最大のどんでん返しです。 あの逆転が起こったその瞬間から、プレイヤーが感じる『本当の悪役』、つまり主人公にとって最大の敵はヨノワールということになりました。 ラスボス(※あくまでもエンディング前の話)であるディアルガは正気を失っているという設定になっており、ストーリーの一番最後では正気を取り戻して主人公を復活させます。 それが救いになり、最終的には主人公の味方になるといった感覚を受けます。 一方ヨノワールは、発狂しているわけでも操られているわけでもなく、全く正気のままディアルガに従っており、主人公の命を狙ってきます。 しかもエンディング後にも一切の救いはなく、ただの『悪役』になりさがっています。結果、純粋なプレイヤーから最も憎まれる存在になってしまいました。 しかし、全く純粋でない自分は思いました。 「こいつ、本当に『悪』だったのか?」と。 +『罪』と『悪』と『正義』+ 『もし歴史を変えたら……わたしたち未来のポケモンは消えてしまうんだぞ……』 (「ポケモン不思議のダンジョン 時の探検隊」「同 闇の探検隊」及び「Chapter−9:闇世の嘆き」より) 正直な話、自分もヨノワールが態度を変えたあの瞬間、ひどいショックを受けました。 主人公の命を狙うなんて、あの優しかったヨノワールが、まさかそんな……と本気で思っていました。自分だって時には純粋です。 しかし、物語がいよいよ大詰めを迎えたその瞬間、冒頭のセリフが自分の目を引きました。 ああなるほど、今作では主人公はそうやって消えるのか、などと嫌に冷静な思いもありましたが、先を読むにつれ、違和感を感じるようになりました。 歴史を変えれば、主人公やジュプトルは消えてしまう。そしてもちろん、ヨノワールも。 更にジュプトルの話から、未来世界にいたセレビィも消えてしまうらしいです。 ここで違和感の正体に気がつきました。 もしそうならば、未来世界へ行ったときに戦った、ダンジョンに住むポケモンたちは? 当然、消えるでしょう。例外なんてあり得ません。 ジュプトルや主人公たちはまるで自分たちだけが消えるように言っていますが、実際は違う。 消えるのは主人公やジュプトルだけではなく、未来世界にいる全ての命。全ての存在。 失われるのは主人公たちとは何の関わりもない、数多の生命。 世界を消す。これはある種、かなりの危険思想なのではないでしょうか。 当小説内でヨノワールが何度も言っていることですが、これは大きな『罪』以外の何物でもないのではないでしょうか。 主人公たちは、一体何がしたかったのでしょうか。彼らのやったことは本当に『正義』だったのでしょうか。 そして、それを止めようとしたヨノワールは、本当に『悪』だったのでしょうか? +『方向性』の違い+ 『真っ直ぐで、自分に正直で、信じた道を脇目も振らずに進む。 彼はわたしによく似た男だと思っていた。……ただ、わたしと考える方向性が違っていただけで。』 (「Chapter−8:孤独」より) ヨノワールは結局、何がしたかったのでしょうか。 彼はストーリ中、ただの一度も、あの暗黒の世界が好きだとは言っていませんでした。 (自分はゲームを3回やり直して、さらに全てのセリフをメモしています。間違いありません) また、エンディング後のダ……『某闇の方』のように、世界をどうこうしたいという内容のことも一度も言っていません。 ではなぜ、あんなにも熱心に主人公たちを止めようとしたのでしょう。 自分が消えるから、と考えるのが自然かもしれません。 ですが、こうは考えられないでしょうか。 「ヨノワールは、主人公やジュプトルたちによって抹消されそうになっている、未来世界及びそこに住む者たちの代弁者である」 もしも、その考えが正しいとするならば。 ヨノワールが、過去を変えることによって世界がどうなるかを考えていたならば。 自分のためだけではなく、世界のために主人公たちと戦おうとしていたならば。 消されることになる者たちを、主人公たちから護ろうとしていたのならば。 本当にそんな罪を背負ってもいいのかと、主人公たちに問いかけようとしていたとするならば。 彼は自分の住む世界を、未来世界に住む者たちを守りたい一心で、主人公たちを追っていたことになります。ただひたすら、真っ直ぐに。 冒頭の一節は、自分がプレイ中に実際に感じていたことです。 世界を変えるために、過去を変えようとした主人公とジュプトル。 世界を護るために、過去を変えさせまいとしたヨノワール。 方向性は違えど、その『志』は両者ともよく似ていたと思います。 +『悪』は誰か? 『正義』とは何か?+ 『わたしは『正義』だ。 わたしが『正義』だ!!』 (「Chapter−6:正義」より) さて、今までヨノワールを弁護することを散々言ってきましたが、ここで少し主人公側からの視点で話をさせていただきます。 なお、仮定は全てこれまでの内容を引き継いでいるので、そのつもりで。 ヨノワールは自分の住まう世界を護るため、歴史を変えさせまいとしました。実際にそれが行われた場合、どうなるのでしょうか。 時は止まり、世界中が闇に包まれるでしょう。過去の世界と未来の世界のマップを見比べるとずいぶんと形も変わっています。 (閑話休題。未来世界のマップがどうしても『幻の大地』に見えてしまうのは自分だけでしょうか。でも未来で『濃霧の森』の光景を見ていたのならそうではないんですよね。よくわからない) そうなると、過去の世界(これは未来視点の表現なので、本当は「現在」が正しいかもしれません)に住んでいるポケモンたちはどうなのでしょうか。 未来世界での滞在期間と行動範囲があまりにも狭すぎるのではっきりとしたことはわかりませんが、未来世界のダンジョンには、過去の世界(エンディング前)で出会えるポケモンはほとんどいませんでした。 つまり、大半のポケモンが環境に適合できず、消えていったりしたのではないでしょうか。 ということは、ヨノワールが未来の世界を護ろうとすると、今度は過去(というか現在)のポケモンたちが消えることになるのかもしれません。 そしてあの暗黒の未来はダ……『某闇の方』が意図して作り上げたもので、消えても仕方がない、ということになるのかもしれません。 そうなると、主人公たちのしたことは決して間違ってはいなかった。ヨノワールのしたことは、やっぱり間違っていた。そういう結論になります。 しかし、その主人公とジュプトルが、消える運命にあるはずの未来からやってきている。 もし彼らが未来から来なかったら、結局はダ……『某闇の方』の思惑通り、未来は暗黒に包まれることになる。 だけどそうなるのなその世界から主人公とジュプトルがやって来て、未来が消えるから、その場合はヨノワールの正当性が立証されて……。 ああ、わけがわからなくなってきた。だから嫌いなんだ、タイム・パラドックスは。 要するに、主人公たちは確かに正しいことをしたのかもしれないけれど、ヨノワールのやったことも正しかった、ということになります。 当小説内で、繰り返し使った表現があります。 それは『正義』。一般に『悪』と対立する概念です。 ヨノワールもジュプトルも、自分たちを指して度々この言葉を使っています。 主人公やジュプトルの立場から見れば、暗黒の世界を変えようとしている自分たちは正しく、それを邪魔するヨノワールは『悪』。 ヨノワールの立場から見れば、たとえ暗黒の世界であろうとその存在を護ろうとする自分は『正義』で、罪を犯そうとする主人公たちは犯罪者。 そして一見矛盾しているようですが、どちらの考えも本当は正しい。 よって自分は、『正義』と『悪』は表裏一体、この世には『正義』も『悪』もないと思っています。 ただ、当人たちから見ればそういうわけにはいかないと思うので、このような表現をさせていただきました。 ヨノワールの行おうとしたことが正しかったとは思いません。 それでも自分は、主人公たちのやったことを手放しで称賛できないのも確かです。 実際、主人公たちの行いによって未来は消え、それなのに主人公だけが復活するなどという理不尽極まりないことが起こっているのですから。 もし、ヨノワールの視点からこのゲームの物語を見たら、一体どうなるのだろう。 もし、『正義』と『悪』の概念が逆転した視点から見ると、一体どのような物語になるのだろう。 それが、この物語を考える一番最初のきっかけとなりました。 (ああ……この一言のためだけに、どうしてこんなに長い文章が必要だったんだろうか……) +最後に+ 『わたしは今トレジャータウンを回って見てるんですが……いいところですね。ここは。 気候が温暖だしお店も充実してる。ここなら穏やかに生活できそうですよね。 わたしもここにずっと住みたくなりましたよ。ハハハハハッ』 (ポケモン不思議のダンジョン 時の探検隊」「同 闇の探検隊」より) 物語の中盤、エレキ平原に向かうよりも前、まだ主人公の正体も知らなかった頃、ヨノワールがトレジャータウンでつぶやいていた言葉を引用させていただきました。 この言葉は果たして、彼が主人公たちを欺くためのものだったのか。 それとも、思わず出てしまった彼の本音だったのか。 その判断は、あなたにお任せします。 今まで散々語らせていただいたことは全て、一般的な感覚から大きく外れた、たった1人の人間のちっぽけな意見にすぎませんから。 長いことお付き合いさせてしまい、申し訳ございません。 ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。 自分の小説を読んで、もし何か心に残るものがある方がいらっしゃったのならば、それ以上の幸せはありません。 (以下余談) ……こんなことを考え、この小説を書き始めたのが、探検隊が発売されてから少し経った2007年の12月頃のこと。 途中、なぜかどうしても書けなくなってしまった場所があり、発表できるような状態になるまでに随分と長い時間が経ってしまいました。 今度の春に発売が決定した「ポケモン不思議のダンジョン 空の探検隊」で「未来の真実」が語られるらしいので、今からわくわくが止まりません。 ジュプトルだけじゃなく、ヨノワールに対しても何かフォローがあるといいなぁ……。 2009年1月末 探検隊の新作に期待を寄せつつ So−ya・Hisakata |