〜〜短編読切・Flying! ――――――――― いいか、モグラ君。…『翼』ってのは、そんなにちんけなモンじゃない。                       翼ってのは… ――――――――――――――――― 暗く冷たい階段を下り、俺は大きな部屋に出た。天井は高く、面積も広いが完全な密閉空間。 音も無かったが、張り詰めた空気は喉が痛くなるほどあった。熱くて白い照明が皮膚を刺激して、背中がじっとり汗ばんでくる。 …突如ガァンと轟音がして、俺はそちらに振り向いた。檻を開け放たれたサイホーンが、狂った勢いで突進してくるのを見て取った。 「グゴグゴガガァアアアアッッ!!!」 「行けっキバ!!!」 今の俺が出来る一番素早い動作でボールを取り、一番真っ直ぐ前の地面に投げる。 直後衝突音がして、それからボールが開いた時の煙が消えた。キバは『盾』で、重量級の突進を受け止めている。今だ。 「キバ!炎の渦…怪力!!」 「ヴァアアアッ!!!」 サイホーンの体を、緋色に燃える螺旋が包む。 炎に捲かれた岩塊を、キバはその腕と太い尾の力を使って剥き出しの地面に捻じ伏せた。 「よし、よくやったキバ!」 「ヴァアアッ!」 『…よし!お前はもういい、次!!』 ひび割れた音声が、天井近くについているスピーカーから流れて、俺はキバと一緒に通路を引き返した。 俺と同じ『傭兵』が、訓練待ちの列を作っていた。 俺の警備場所は、施設南西の通路に当てられている。日に一度の実践訓練が終わったら、この場所に待機すれば良い。 換気機能を疑うようなカビ臭い空気は好きじゃぁないが、もう慣れた。…これ以外の空気の匂いを、嗅いだ事も無い。 物心ついてから、俺はこの巨大施設を出たことが無い。地下深く、光が差さないこの空間が俺の知ってる世界の全てで、 たまに来る侵入者がどこから来るのか、何をしに来るのか、俺達が適当に痛めつけて上に引き渡した後どうなるのか、何も知らない。 世界の外から、奴らはどこから来るんだろう?奴らは、姿は似れど異世界の生物なのか…そう思って、一人で納得する。  この湿っぽい、灰色の空間が『世界』だ。ここ以外に、『世界』なんて存在しない。  なぁ。誰にとっても、そういうものなんだろう? …ふと思い出して、俺は横であくびをしているキバを呼び寄せた。 「そうだ、キバ。お前の『盾』は大丈夫か?あの突進、結構重そうだったけど」 「ヴァアァァアッ」 キバが唸って、背中から生えた二枚の『盾』を、大丈夫だと煽らせる。触診してみても、特に異常は無いようだ。 俺は安心して、冷たく湿った壁にもたれかかった。                    *       *       * 幼い頃に『相棒』として配給されたヒトカゲが、二回目の進化を遂げた時、俺は司令官に聞いたことがある。 「何なんですか、この…背中に生えてきたでっかいうちわみたいなの?」 「………。これは攻撃を防ぐ時に身にまとう、盾だ。これで打ち付けて薙ぎ倒すための武器でもある」 「そうなんですか?なんかその割にはでか過ぎて、動かし難いんですけど」 「…余計な質問は許さない。お前達は、この世界を侵しにきた余所者を叩き潰していればいい」 その説明に納得はしなかったものの、司令官の声が低くて有無を言わせなかったし、何より別の用途など思いつかなかったから、 俺はそれを『盾』と呼んでいた。…俺の警備の地区に掛かった、その侵入者に出会う、その時までは。                    *       *       * 見張りの前を余りに堂々と通り過ぎるから、思わずそのまま見逃しそうになって、傍と気が付いて慌てて呼び止めた。 「うわっ!!?…おい、ちょっとお前!!何者だ、侵入者だな!?」 「ん?…ああ、部外者で、許可も取らずに入ってきたからな。侵入者ということになるんだろうな」 呑気な反応も行動も相当変だったが、服装も同じくらいに変な男だった。 青っぽいジャケットと同色系のズボンの軽装だけなら普通だったのだが、その上から真っ黒い長いマントを羽織っている。 …物凄く拍子抜けしたが、キバが横でたてた唸り声に急かされて、慌てて携帯用の非常警報ボタンを押した。 とたんに、施設中にけたたましい警報が鳴り響く。…俺よりも、キバの方が仕事に対する責任感があるのかなぁとチラッと思った。 …後ろに逆立った銀髪の頭を掻いて、マントの男は端正な顔を子供のように困らせた。 「…うわ、こりゃすごい警報だな…全員呼び集めてるのか…」 「何のつもりで侵入した?…今すぐ出て行け、と言いたいところだが、  一歩でも踏み入ったからにはこのままは返せないぞ…!!」 「うあぁ。…力づくかい?」 「当たり前。………キバ、炎の渦!!」 キバが長い首を唸らせると同時に、ばぁっと薄暗い通路が照らされる。 …男は戦い慣れていた。たたんと軽く後ろにステップを踏むと、翻ったマントの内側からボールを取り出して、投げた。 「ハクリュー、電磁波!…竜の息吹!!」 バシン、と激しい音。…それが電磁波の炸裂音だと気付いたのは、キバがぴりぴりと震えて動けなくなっているのを見た時だ。 信じられないほど強烈な電磁波だった。間髪入れず、緑色に輝く霞が薄青い竜の口から噴き出され、キバに襲い掛かる。咄嗟に、 「キバ!『盾』で防げ!!」 「ヴ…アァアッ!!」 キバが痺れに抗い、渾身の力を込めて纏った『盾』にぶつかって、息吹は辺りに四散した。 …だが、ダメージは防ぎきれなかった。力無くうなだれたキバに、俺は慌てて駆け寄った。男が怪訝そうな顔で、 「……?『盾』…?」 その呟きに込められた不思議そうな抑揚は、その時の俺には理解できなかった。 「君は…君達は、折角の立派な翼を随分荒っぽく使うんだな」 怒ったと言うでも呆れたと言うでもなく、純粋に驚いた口調で、マント男は言った。…一瞬何の事を言っているのか分からなかった。 「……ツバサ?…って、何だ?」 マント男は余計に面食らったように見えた。…しかし、すぐに事を察したようにああ、と一人ごつ。 「そうか。…物心付かぬ幼子に自分達のやり方を刷り込む…外界から隔離された巨大地下施設で戦力養成する、麻薬密売組織…  …空も海も、翼って言葉も…外の世界の存在を連想される概念は、全て除去され、洗脳されてきたのか。無理も無い」 男が何を言っているのかは全く分からなかったが、心が妙な不安に掻き乱された。ソラ?ウミ?外の世界って、何のことだ? キバが頭をもたげて、俺の顔を不安げに見た。俺が取り乱すと、その不安はキバにも伝わる…分かっていても、隠し切れない。 「…何だ、何言ってるんだ…?何のことだよ?ツバサって、…ソラ?ウミ?」 声が今までに無く上ずっていた。男は静かな目で、俺とキバを見ていた。 …が、やがて警報を聞きつけた仲間達の足音が聞こえ始めた頃、男はふっと力を抜いた。そして言った。 「…少年…。俺はね、腐り切って救いようもない、諸悪の根源を叩き潰しに来ただけだ。  だから、知らないだけの君達には、俺が知っている事の中で、一番今の君達に役立ちそうな事を教えよう。  良く見ておくんだ。今から僕が教えるコトは… …きっとモグラの『世界』を変える」 モグラと呼ばれた俺とキバは、瞬いて男の顔を見た。その顔には、見たことも無い優しい微笑みが宿っていた。 「いいか、モグラ君。  …君が『盾』だと教えられた、そのリザードンの背中に生えたもの。…違う、それは盾なんかじゃない」 マントの男は、まるで内緒話をするかのように、厳かに、楽しそうに囁いた。 その声の持つ力に惹き寄せられるように、俺は男の瞳を見た。…体内を巡る血液が、今まで感じた事の無い沸き立ち方をしていた。 「『翼』というんだ。そして用途も、盾とは違う。…振り回して相手を叩くような使い方も、勿論しない。  『翼』ってのは、そんなにちんけなモンじゃない。翼ってのは・・・・・」   暗い冷たい、湿っぽい…俺にとっての世界の中で、男の瞳は子猫のそれのようにわくわくと光っていた。 非常警報がまだ鳴っている。別の傭兵達の足音が、多く、大きくなってきた。 男はちらりと目線を上げて、それから俺に視線を戻し、にやっと笑ってひとつのボールを取り出した。 「ちょうどいい。…『空を飛ぶ』って言葉があるんだ、今からその意味を教えてやるよ。  百聞は一見にしかずだから、しっかり見てろ…こうやって」 ボンッと煙が弾けたかと思うと、目の前にクリーム色の巨体が現れた。 全然似てないのに、なぜかなんとなくキバに似てもいるそいつは、飛び出してくるなりかっと口を開き、眩い閃光を打ち出した。 ドガン、と天井に大穴があいた。同時に目が眩み、倒れそうなほど大量の光が注ぎこんできて、思わずうろたえる。 「ッな…!!?ンだ、この…照明?強すぎるんじゃ…」 「…照明じゃない、『太陽』さ。…そしてこれが、『羽ばたき』」 ぶわっと空気が巻き起こり、俺は思わずふらついた。キバが面食らったように、しかし食い入るようにそれを眺めていた。 その時、俺は初めてその巨体の背に、キバのと良く似た『翼』がくっついている事に気が付いた。 …そして、男の言葉の意味を、少し遅れて理解した。『翼』が、猛烈に空気を乱しながら『羽ばたいて』いるのだと。 「さぁ、…上を見ろっ!!!!」 男の号令に、ほぼ反射的に穴の外を見上げて…息が止まった。こんなに、こんなにも澄んだ蒼が、視界全部に飛び込んできて、 「…!!!!?何だ、何だこりゃ… …天井が無い…!!!蒼い、…空気が流れてる…!?」 見たことも感じた事も無いものを、連続で目の前に叩き出されてうろたえる俺を、男は面白そうに見た。ウインクをして、 「『空』と『風』。…天井の向こうにも世界があることを、君は知らなかっただろう?…さ、カイリュー」 竜は蒼の空間を見据え、羽ばたきをさらに強めた。…男が何をしようとしてるのか、そこで初めて気がついた。 けど、それは今まで思いつきもしなかったことで。………まさか、と、俺は呟いていた。 「まさか、…まさかだろ?……『翼』の使い方、って…」 「そうさ。その『まさか』」 ・・・・・・・・・・・・・・・・クリーム色の竜の背上で、マントの男は微笑んだ。 ―――――――――――― 高くて蒼い大空に、舞い上がるために使うんだ どぅっと衝撃が巻き起こって、けれど俺もキバも目を瞑るなんて考えもしなかった。 目の前でクリーム色の巨体が宙に浮き上がり、そのまま穴の外へ飛び出した。声を奪われたかのように、それをただ視線で追った。 蒼の世界のど真ん中。そいつは翼を力強く羽ばたかせ、縦横無尽に駆けていた。…そっと息と、唾を飲む。 「…キバ…これって」「ヴァアッ」 その時どっと仲間達が雪崩れ込んで来て、皆その暗い地下暮らしの網膜には強すぎる光に目を眩ませた。 目を押さえた皆のうめき声の真ん中で、空高く、俺の『世界』を崩し壊した、竜騎士の姿が小さくなっていくのを見送った。 男の言葉を忘れないようにと繰り返したのは、良く考えたら意味の無い事だ。…忘れようとしても、忘れようが無かった。 「…翼。…………太陽…  はばたき、 風、 空、    ……空を…飛ぶ…」                    *       *       * さほどせずに上官達が駆けつけて、空に通じた大穴を見て目を剥いた。 僕ら『見てしまった』奴らは絶対厳守の緘口令を出され、後から駆けつけてきた奴らは怒鳴りつけられて追い返された。 外の世界を垣間見ることは、恐ろしい禁忌のように扱われた。…無理も無い。一度見ただけで、価値観を根本から引っ繰り返される。 侵入者をまんまと逃がした罰として、俺とキバは上官の手で懲罰房に捻じ込まれた。 俺の両足は鎖で繋がれただけですんだが、キバなんかもっと最悪だった。一抱えもある鉄球を、両足に一つづつもぶら下げられた。 動くのもままならない…だが知らなかったものを一気に知りすぎた俺の頭は、更にそんな事を気にできるほど強くはできていなかった。   外界の情報から隔離されてきたモグラ達は、外の世界が存在することを知ってしまった。   そしてもう一つ、俺は見た。澄んだ蒼。…忘れるモンか。   …キバの『盾』とは『翼』なのだと。『世界』が変わると、男は言った。   もしもあいつの言う通り…これがホントに『翼』なら、ひょっとして、     俺達にも。同じことが出来るのだろうか。空を飛ぶ。   出来るのか、ホントに俺らにそんなこと?…わかってる。   ここでは無理だ。翼があっても、ここには空も、風も無い。………でも―――――――――― 光の届かない穴蔵の底で、その晩はなかなか寝付けなかった。ようやく眠りに落ちた後は、まだ何か分からない、ウミの夢を見た。 …俺だけが男と会話を交わし、飛ぶって言葉の意味を知ったことも、それを見たことも。上官達は、まだ知らずにいる。                    *       *       * ズズン、という妙な地響きで、俺とキバは目を覚ました。独房の中の割には、なんだか妙に明るかった。 瓦礫に変わった独房の半分が、その影までよく見える…何故そこが瓦礫になったのかという問いは、寝惚けた頭には浮かばなかった。 それよりも光が上から差していて、…そして、冷ややかな空気が流れ込んできた。俺は反射的にその方向を見上げ、息を飲んだ。 天井が崩れ、何メートルもの上方まで突き抜けていた。…無粋に開かれた穴はしかし、その向こうにあの色を映していた。 連続して聞こえる人工的な爆破音も、うろたえた誰かの怒号や悲鳴も遠く、他人事のように感じられた。…俺はその一点を注視した。 本能的に鼓動が高まっていく。…眩暈のような感覚に襲われて、けれど意識はハッキリしていた。 俺の全てが、その一点に吸い込まれていった。在るべき所に帰るように、それは自然な感覚だった。 空気の動きを、指先で感じた。キバが翼を、ぎこちなく羽ばたいた。…尖り切った意識の先が、ふいに完全に蒼の中に溶けた。 その瞬間、俺はキバの背中によじ登り、キバは地面を蹴っていた。衝撃が舞い起きた。                    *       *       * 最初からとはいかなかったが、すぐに体が浮いている感覚に慣れた。 キバの羽ばたきもぎこちなかったが、忘れたものを取り戻すように滑らかに、すぐに流れる風の捕まえ方を翼で覚えた。 風の中で、俺達は蒼に溶けていた。…空気が、宝石の欠片を散りばめたようにキラキラと光っていた。 バサ、とキバが翼を動かすと、風が起きた。その風は、常に俺達を高く押し上げたり、前進をせかした。 どこまでも広がる蒼と、遠くにぼやけていく地表の景色。壮大な景色の真ん中に、俺達は在った。…声を立てずに、激しく笑った。 “今から僕が教えるコトは… …きっとモグラの『世界』を変える” 男の台詞が、耳元にリフレインした。…変わったさ。確かに変わった。 キバの瞳が、今までで一番生き生きと輝いているのを見るのが嬉しかった。 下を見下ろすと、荒涼とした荒れ野の一角が、激しい爆発と崩壊を繰り返しながら瓦礫に変わっていくのが見えた。 あの噴煙と砂塵の下で、俺達の全てだった灰色の世界が崩れ落ちていく。…それはもう、どこかずっと遠いことのように感じられた。 あの下で、俺は十六年間生きてきた。寂寥は全く感じなかった。古びた昆虫標本でも眺めるような心持で、それを漠然と眺めていた。 …ふと視界の隅に、爆発から遠ざかっていく二人の人間が映った。 俺達が最高司令官と呼び、神のように崇めろと言われていた、施設の最重役の二人だった。 その時初めて、まだキバの足に、二つの鉄球がぶら下がっている事を思い出した。これは、空を飛ぶのには必要ない。 「…傭兵達は、出られなくしてあるんだろうな?あの爆発で全て隠滅しなきゃいけないんだろう?」 「ああ。ゲートは全て封鎖してきた。…万一逃げた所で、どうせ奴らは外の事も俺達の事も、何も知らない戦うだけの木偶だしな。  …逃げおおせた侵入者は、おそらく秘密裏の警察組織の奴だろう?仲間を呼ばれる前に身軽になって高飛びしか道は無い。  良く出来た仕組みだったがな…惜しいが、仕方ない。全て木っ端微塵にして埋もれちまえば、俺達の行方を追う事も…」 「最高司令官!!」 頭上から声を掛けた時、二人はとても奇妙な顔で此方を仰ぎ見た。その表情に、俺はいつも通り最敬礼して、 「!!?…な、…お前はあの中に居た筈じゃ!!?……何故ここに…」 「これ、お返しします!俺達は、もうあそこには帰らないから!!」 …外の清々しい空気を使って炎を吐くと、それはさらに強く鋭く、熱くなるようだ。簡単に、鉄球を吊るす鎖は焼き切れた。 黒々と光る二つの鉄球が、最高司令官だった二人の頭上に真っ直ぐ落ちていった。身軽になった俺達は、もう空に集中していた。 何かが砕けて潰れる音と、豚が鳴くような悲鳴が聞こえたけれど、興味は無かった。俺達は既に、そこから離れた空を飛んでいた。                    *       *       * 一切が、輝きの蒼。太陽が遠く彼方から、空にみなぎる色に命を与え、煌かせていた。 この白光に網膜が完全に馴染むのは、何年後だろうか。ふわっと空気が揺らめいて、風が流れる。 橙色の弾丸になったように、俺達はひたすら真っ直ぐに飛んでいった。 空気のカタマリが、眼前から叩きつけてくる。キバの猛々しい咆哮が、それらを全部ぶち抜いた。 傭兵に着用が義務づけられていた、灰色のスカーフが風に揉まれて吹っ飛んでいった。俺はキバを駆り、さらに速度を上げた。 風が唸る声だけが、耳元に響いてくる。広がる蒼が眼前で輝いて、…涙が出るほど、目に染みた。 「キバ、…キバ、……目が痛えよ…!!」「ヴルアァアッ」 滲む視界に馬鹿みたいに笑いながら、俺達は飛び続けた。                    *       *       *                    *       *       *                    *       *       * …ふう。差し障りの無い本は地下でもよく読んだが、書くのはそれの何十倍も疲れるんだな。 っと。横で寝てるキバが、目を覚ましそうだ。お開きにする前に、最後に一つ。 この記述を終え、キバが目を覚ましたら。 俺達は、今度はウミを見に行こうと思っている。 ウミとは巨大な水溜り…空の双子の弟で、空が高いのと同じ位、ウミは深いと話に聞いた。 ウミの水は辛いというのは、本当だろうか?見つけたら自分で舐めて、確かめてみたいと思う。 そしてウミ以外にもまだ、外の世界は知らないことだらけだった。新しい言葉を沢山聞いた。 『モリ』とは何か?『ヤマ』とは何だ?『チヘイセン』ってのの意味も、俺は知らない。勿論、キバも知らない。 『トリ』、『サカナ』。『アメ』に『クモ』、『ユウヤケ』『カミナリ』… ……いっぺんじゃ覚えられねぇよ。 ―――― さぁ、それらを全部見に行こう。      空を駆り、風を抜け、翼の意味を知った俺達は、どこまでも行ける。                   知らない言葉はまだまだある。知ったモノの百万倍くらいの速さで、知らない言葉が増えていく。      あの男に報告してやりてぇな。俺達は飛ぶことができた。自由という言葉の意味も知ったんだと。      いつの日か、世界の全てを知り尽くさぬまま果てる時が来るとしても。…それまで俺達は、飛び続けていようじゃないか。           『ボウケン』『ワクワク』『コウキシン』。     …それから、それから…… 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜Flying!・END  原文制作・2002年7月上旬  『空の無い翼』がまず最初に思いついたキーワード。  ニセモノの世界を舞台に、一気に書き上げました。  常識の概念皆無ってのは想像しにくいですね。  読者さん側としてはまず世界観から掴みにくいかと……すいませんー;;