怪盗のお仕事
「ふははははっ!私の華麗な技をとくとみ……きゃぁっ!!」 色鮮やかなアスレチックの上。6歳くらいの女の子が両手を放していて、落ちそうになっていた。 「リン、似てなーい!」 下に居た男の子が、女の子(リンっていう名前らしい)、その子を指さして笑った。リンは少し顔を赤くさせ、必死にアスレチックから落ちないようにしがみついて居る。 あたしはベンチから立ち上がり、リンに手を差し延べた。 「そんな事無いわ。よく似てたよ」 「ほんとっ? おばさん、ありがとう!」 リンが手を取った。 でも…… 「おばさん? どこに居るのかしらねえ……」 あたしがにっこり微笑みながらリンを下ろした。 リンと男の子は、何故か逃げていった。 いけないいけない。あたしは何やってるんだ。でも、「おばさん」って歳では無いはずだ。まだ、17なのに。仕事疲れかな……この頃頑張っちゃったし。 まあ良いか。 あたしは、リー。短縮しないで言うと、リーナ。結構な住宅地に住んでいる。500坪ぐらいの土地を持ってるらしい。あたしが。母親はコスメティック業界売り上げNo.1会社の社長。父親は大臣。首相の秘書のような感じだって。 それで、あたしは、昼間っからやる事もなく(高卒だから大学には行ってない)、公園とかでブラブラしてるって訳。 「ニュッ」 あぁ、今ベンチの後ろ側から出てきたのは、あたしのポケモン、ニューラ。すごく良い子で、ボールに入れてなくても大丈夫。 ニューラがあたしの足下に来たから、あたしは一緒に歩き出した。 「もうちょっと散歩しようか」 あたしも、一応仕事はしている。夜からだけどね。仕事の名前は、怪盗。さっきのリンって子が真似してたの、あたしなんだな。さすがあたし!よく知られてる! ……知られてちゃいけないんだけどね? まあ、仕事する時は仮面をつけて衣装も着てるし。 怪盗って、嫌なイメージあるでしょ?でも、そんなに嫌なもんじゃない。盗ってる物は美術館とかから盗まれた物。あたしはそれを取り返してるって訳。警察に返してるしね。仕事って言うのかは謎だけどね。 「ニュ」 ニューラが、ポッポを追い掛けてる。もちろん遊びだから、捕まえてもすぐに逃がしてるけど。 「ニューラ、雲行きが怪しくなってきたから帰ろう」 ニューラを呼んで、あたしは笑った。 雲行きが怪しいのは、良い証拠。仕事が上手くいく。 「よし」 ポストに手紙を一つ投函して、家への道を歩き始めた。手紙は、金持ちの社長さん宛。パソコンで打ってあるから、大丈夫。指紋もつかないタイプの便箋。絶対に社長の手に届くように、高価な物をつかった。 予告状だ。 日時は、明後日、夜10時。 怪盗Lがお邪魔致します! 明後日、夜8時、あたしはニューラに仮面をつけていた。あたしとニューラは、お揃いの仮面をつけて仕事をする。あたしもニューラも、ばっちりキマっている。さすがポケモンコンテストうつくしさマスターランクを取っただけはある! 「ニューラ、今日は、軽い仕事だよ。警備が少し手強いけどね」 「ニュッ!」 ニューラは頷き、あたしはにっこり笑った。 あたしの格好は、黒いマントに赤いヒラヒラのスカート。結構目立つんだけどね。 さぁ、決行だ! 社長さんのお宅は、やっぱりすごい警備だった。まぁ、あたしとニューラの手にかかれば問題なしだけどね。 門の前にはザッと20人。門の前から行くわけないじゃん。 庭には、多分100人くらい。庭なんか通らないのに。 屋敷内には200人くらいかな。500人相手に盗んだ事あるけど。 お目当ての物は、屋敷のほぼ中心。地下にあるみたい。うーん…ややこしいな。 あ、これらの情報はとっくの昔に調査済み。ルートもばっちり頭の中に入ってる。まずは、身軽なニューラが近くのビルからワイヤーを持って社長さんの豪邸に飛び移る。ニューラがワイヤーを縛り付けてくれて(しっかりとタオルで後が残らないようにしてね)、あたしがそのワイヤーにタオルをかけて豪邸まで飛ぶ。すごく簡単だし、証拠品はすぐにニューラが引き裂いて埋めてくれるから残らない。 「よし、ニューラ。右と左どっちが良い?」 ここで、あたしはいつもこう聞く。ニューラは、 「ニュッ」 と言って右を指した。ニューラの選ぶ道は、いつも正しい。あたしは頷いて、ニューラと一緒に走り出した。 誰にも見つからないようなルートを辿り、途中のポケモンを気絶させる。ニューラの攻撃はすごく強い。 やっと地下室の前まで来た。今の時間は… 「9時50分……丁度良いわね」 腕時計を見て、満足そうにあたしは頷いて、地下室の扉を開けた。地下室はひんやりしていて、寒気がするくらいだった。 「怪盗L」 突然、背後から太い声が聞こえた。 振り返ると、社長さんが居た。あたしが盗むはずの物を持って。 「なっ……!」 「君は、私の罠にまんまとはまったのだよ」 社長が扉を閉めようとする。ニューラが駆け出した。 しかし、扉は閉まってしまった。鍵のかかる音が聞こえて、社長の高笑いが聞こえた。 「ニューラ、きりさく」 あたしは、扉を指差し、ニューラに命令した。ニューラが素早く動いて、扉を粉々にする。 社長の驚く顔が見える前に、あたしは、 「どろぼう」 ニューラに命令していた。ニューラがそのまま社長さんの持っていた箱を奪い取る。 「くっ……! ペルシアン!」 あたしとニューラに挟まれながらも、社長さんはボールを投げた。 ポケモンバトルするつもりか… ボールから赤い光が放たれて、ニューラの前にペルシアンが現れた。 あたしは、社長さんの横をすり抜けてニューラの後ろについた。出口はあたしの後ろだけど、挑まれたバトルは受けなくちゃ! 「ペルシアン、みだれひっかき!」 社長さんの指がニューラを指し、ペルシアンが飛び掛かった。 ニューラは後退したが、みだれひっかきが当たってしまった。 「ニューラ! ふぶき!」 あたしは即座に命令した。 ニューラは体制を立て直して、目の前に居るペルシアンにふぶきを食らわせた。ペルシアンが吹き飛ばされる。ニューラは立上がり、そのままペルシアンに向かう。 「きりさく!」 ニューラの長いカギ爪が、ペルシアンの急所に当たった。 社長さんは、ガクガクと震えている。 「もう終わり? あっけない。これはもらって行くわよ」 あたしは社長さんを鼻で笑い、社長さんの視界から消えた。 「ニューラ、大丈夫?」 家に帰り、あたしはニューラの傷の手当てをしていた。ニューラの傷は、そんなには酷くなかったけど、あたしはすごく嫌だった。 小さい頃から一緒に居るニューラ。そのニューラを傷つけてしまったから…… 「ニュー」 ニューラが、あたしの様子に気付いたのか、あたしの頭を撫でてきた。 「ニューラ……ありがとう、ごめんね」 あたしは少し泣きそうになっていたのを拭い、にこっと笑った。 『怪盗Lの神業! 先日、あの大富豪の〇〇会社社長宅に、怪盗Lが忍び込んだ。怪盗Lは、楽々と社長宅に入り、社長のペルシアンを負かし、お宝を盗んだ。今回の宝も、無事警察に届けられていたぞ。警察は社長を逮捕。他SPも逮捕された。 今回のお宝は、ニューラの涙、と言う宝石。普段冷酷なニューラが涙を流した時にできた宝石で、時価1億円は優に超える物らしい。 日刊ポケモンニュース ○/×△号』 |