郵便屋さん

「ルリ、そこじゃないよ」

「ここだよ!昨日確認したもん!」

「違うってば」

「違くないもん!」

「ルリの意地っ張り」

「メウの分からず屋!」


 青い青い海が見える、レンガ造りの街。その街には、喧嘩するほど仲の良い郵便屋さんが居た。

 フシギダネのメウ。

 イーブイのルリ。

 2匹はこの小さな街で郵便屋さんをしている。
 喧嘩ばかりの郵便屋さん。
 それでも、郵便を間違える事は一度も無かった。

 首に鈴、いつも元気に走り回って居るルリと、青い郵便帽子、慌てん坊のメウ。
 この街では有名な2匹組だ。


 今日も2匹は元気に喧嘩。お届け先がわからないらしい。

「あら、メウとルリ。また喧嘩して…」

 家から出て来たのは、綺麗な毛並みのエーフィ、ネル。この街で占い師をしている。

「ネルさん! メウが!」

「違うよ、僕じゃないよ! ルリが間違えてるんだよ!」

「違うもん、メウだもん!」

「あー、はいはい……わかったわかった」

 ネルは2匹の声を静止した。

「じゃあ、その届け先を占って見ましょうね」

 ネルはそう言うと、ルリの持っている、ちゃんと宛先の書かれた手紙を手に取った。

「チチンプイプイチチンプイ!」

 ネルは簡単に呪文のような物を唱えると、手紙を軽く叩いた。
 ルリとメウが輝く目でその光景を見つめている。

「わかった?」

 ネルは宛先を少し見て、

「これは私のお隣りの人ね」

 と微笑んで言った。

「ほら! ルリが違ったじゃないか!」

「惜しかったもん!」

 メウとルリの口論がまた始まる。

「ほらほらストップ。これは郵便受けにちゃんと入れとくからね」

 ネルはそう言って、隣りの郵便受けに手紙を入れた。

「2匹とも、その鞄の様子じゃもう仕事は無いんでしょ?」

 メウとルリがこくんと頷く。メウとルリの郵便鞄は空っぽだった。

「ちょうどサンドイッチがあるから、2匹でピクニックに行ってきなさいな。ほら」

 ネルは家に入り、小麦色のバスケットを1つ持ってきて、メウに渡した。

「あっ! メウばっかずるい! あたしが持つんだから!」

 ルリはメウからバスケットを奪い取った。

「僕に渡されたんだ! 僕が持つ!」

 メウがまたバスケットを奪い返した。
 ネルは溜息をついて、2匹を静止した。

「ほら2匹とも。2匹で持てば良いでしょう」

 ネルはそう言って、片方をルリに、片方をメウに持たせた。
 郵便屋さんは満足して歩いて行った。
 占い師は微笑んで郵便屋さんを見送った。



「ねぇ、メウ」

「なぁに、ルリ」

 海の見える若草色の丘の上。
 郵便屋さんがピクニックをしていた。
 後ろにはレンガ造りの家々。
 前には青い青い大きな海。
 上には澄んだ水色の空。
 下には青々と生えている芝。

 その芝の上に、首に鈴をつけたイーブイのルリと、帽子を取ってお腹に抱えたフシギダネのメウが居た。
 そんな2匹の隣りには、占い師をしているエーフィのネルからもらった、サンドイッチの入ったバスケット。

 ルリは空を見上げた。

 メウも空を見上げた。


「すごく綺麗だね」