――――運命と言う言葉は、好きではないし信じてもいないが。                       まあ少なくともその時は、                   『必然』は、在りうるのかもしれないと、                        僕はそう思ったんだ。                                         ――Another Legend――                    もう一つの、語られなかった伝説が、ここに。 ―上の巻― 〜運命的で必然の出会い〜 時は21世紀。 車も空を飛びはしないし、時空移動も当然まだ出来ちゃいない。 ほとんど、今までと変わりのない暮らしが続いている。 そう変わりは無い。少なくとも一般的には。 ただ、 ほんの少しだけ。 今から8年前の事である。 その昔より、カントー地方には、とある伝説があった。 不死鳥 ファイアー、 雷帝 サンダー、 氷神 フリーザー。 たくさんの人たちが、この美しき3体の鳥神を崇め奉った。 神と言われているが、彼らは他のそれのように曖昧な存在ではない。 そう、実存する、彼らはポケモンなのである。 時にその圧倒的な力を見せつけ、時にその賢く優しき心もって人を救う。 彼らを神と崇める人が多いのも、頷ける話なのである。 しかし。 突如として彼らは姿を消したのである。 既に近隣の住人達以外にとっては、伝説や御伽噺となっていた事もあり、それに気づいた者は少なかったが。 初めこそ動揺していた者達も、1年、2年と経つ内にいつしかそれを忘れて行った。 ―きっと、どこかよその土地に行かれたのさ。 ―神様がこんな所にずっと留まっているはずは無いからねえ… あたかも、初めから彼らは御伽噺の住人だったかのように。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「なー、ガスハ。知ってっか?」 「…何がだ?」 トキワシティの、とある小さな図書館にて。 16歳くらいの猫毛の少年が、向かいに座った連れの少年―恐らくは彼よりも少し年下だろう―に声を掛けた。 「伝説のポケモンの事ー。ほら、ここ書いてあんだろ。」 猫毛の少年が、読んでいた本の一箇所を指した。 先ほどガスハと呼ばれた少年が、身を乗り出してそれを覗き込む。 「ああ、ファイアー、サンダー、フリーザーか。話に聞いた事はあるが。」 「何でもスッゲー強いらしいんだよ。神様って呼ばれるくらいだからな……捕まえたらスゴクねえ? オレ、強いから捕まえるってのあんま好きじゃねえけど、実際問題、ゲットして仲間にしたらマジでポケモンマスターになれそうじゃん?」 ぐっと拳を握って、自分の夢を熱く語る少年。 それをちらりと横目に見ながら、ガスハはそれでもクールに自分の持っている本にまた目を落とす。 そして痛烈な一言。 「図書館では静粛にが規則だろう。それにお前の夢ならとうに聞き飽きたぜ、カオル。」 「う・・・」 言われて見れば、周りの方々の視線が痛い。 カオルと呼ばれた少年は、ちょっとがっくりした様に席に座り込むと、大人しくまたさっきの本を読み始めた。 彼らは、別に昔馴染みだとかそう言った類のものではない。 ただそれぞれの旅の途中で出会い、どう言った訳か―おそらくカオルが誘ったのだろうが―こうやって共に旅をしているのだ。 それでもこのように上手く行っているのだから、お互い何か惹かれるものがあったのだろう。 しかし、それぞれ目的は別である。 カオルが、さっき言ったようにポケモンマスターになる事。 この年頃のトレーナーとしてはいたってよくある夢である。 しかし、最強の名を冠す事が出来るのは、たった一人。 普通なら途中で己の実力を知り、諦めるものも多いのが、このポケモンマスターというもの。 まして彼は過去の事故により、右目の光を失っている。可能性は格段に低いはずなのだ…が。 彼の場合、それは理由にすらならない。 彼と対峙した者は言う。 ―アイツの強さは圧倒的だ―と。 一方、ガスハの目的は。 ―彼は、6歳までの記憶が無い。 親の顔、自分の名前すら知らず。 この広い世界の中にたった一人、気が付けば雨の中に立ち尽くしていた。 彼は多くを語らない。ただポツリと漏らすには、 「ある人に拾われて、裏社会で10まで育った。名前もその人が付けた。 コイツを拾ったのは…7つの時だ。」 コイツ、とは彼のパートナーである、頬に傷のあるカイリューだ。(彼はリュースと呼んでいる) 彼の目的とは、そう…自分を探す事。 あの雨の日の、真実を知るために、彼は旅に出たのだ― 図書館を出て、彼らは一路トキワの森を目指す。 次の目的であるニビシティに行くには、森を抜けた方が近いのだ。 「さーて、どんなポケモンが出てくるかな?」 トレーナーとしての性だ。カオルが意気込む。 隣を歩いていたヘルガーのホムラ…彼のパートナーだ…も、主人の気持ちに同調したか、少し興奮したように喉を鳴らす。 「どうでも良いが、ホムラを連れて歩くのはどうかと思うぞ…」 「…何でだよ。」 小さく嘆息して呟いたガスハに、少しムッとしたようにカオルが尋ねる。 と、ガスハは近くの草むらを指して 「あそこにキャタピーがいるだろう。」 よくよく見てみれば、確かに草陰からキャタピーの小さな角が見える。…わずかに震えているようだ。 「それがどうかしたのかよ。」 「…いい加減気付け。ヘルガーは見てのとおり炎系。ましてお前のホムラ、レベルはいくつだ?」 額に手を当てて、溜息と共に吐き出されたその言葉に、カオルははっとする。 「あ……」 「そうだよ。森のポケモンなんてほとんど草系か虫系。炎系でレベルも格段に高いそいつがいたらみんな怖がって出て来ない。 ……そう言うことだ。」 「そのとーりっ!!」 ガスハの言葉に答えたその声は、カオルのそれとは明らかに異なっていた。 もっと甲高い……少女の声。 「だ、誰だよ!」 カオルが辺りを見回すが、それらしき人物は見当たらない。・・・・・・と。 ドガッ!! ガスハが物音に振り向いてみると、まず目に入ったのは呆然としているホムラだった。 彼の視線の先を追うと・・・そこには地面に倒れ付しているカオルと、その上に仁王立ちしている12歳ほどの少女。 ・・・おそらくどこか木の上から飛び蹴りでも放ったのだろう。 ガスハは心の中で小さくカオルに合掌すると、少女に向き直った。 「…誰だ?」 「森を荒らそうって奴に名乗る名は無いね!」 どうやら勘違いしているらしい。 ガスハは今日何度目かの溜息を吐くと、少女の目線の高さまで屈んでこう言った。 「オレたちは、別に森を荒らすつもりなんかさらさら無いぞ。」 すると、少女は少し驚いたようにしたが、すぐまた声を荒げて 「えっ・・・?でもコイツヘルガーなんか連れて歩いてたじゃん!お陰でみんな怖がってんだ!」 「・・・それについては今注意した所だ。悪いな。こいつは少し考えが浅い。」 「どうでも良いから・・・早く降りてくれ。」 弱弱しい声に、下を向く二人。・・・少女は、まだカオルの上に立ったままだった。 「なあんだー、そう言う事かー!」 少女は、裏闇(リアン)・トキワグローブと名乗った。ちなみに現在家出中だという。 そういうわけで、三人が今いるのは彼女の秘密基地だ。大きい毒消しの木に作られたそれは、意外にも居心地のいい所だった。 「って言うかいきなり上から飛び蹴りだもんなあー。かなりビビッたぜ。」 「アハハ、でもアレくらいでやられるなんざアンタもまだまだだなー。」 「ああ?オイ、オレをなめてもらっちゃ困るぜ。これでもポケモンマスターを目指してだなあ…」 「それにしてもコイツ、おもしろいくらい見事に伸びてたよな!」 「…っ、お前!人の話聞けよ!!」 和解したはずが、ともすればまた喧嘩勃発と言うような状況を止めたのは、やはりと言うか何と言うか、ガスハだった。 「ま、あんたが強いかどうかは置いといて。(ここでまた一悶着が合った) 二人とも、ポケモントレーナーなんだよな?」 「当たり前だろ!」 「…まあな。」 その答えを聞いて、リアンはしばし考え込むようにすると、やおら立ち上がって二人に頭を下げた。 「頼む!俺も旅に連れて行ってくれ!」 「「はあっ!?」」 あまりと言えばあまりに唐突過ぎるその頼みに、二人はただ呆然と顔を見合わせるばかりだった。 その夜、二人は結局森で野宿をする事になった。 リアンと話をしているうちに、日が暮れてしまい、森を抜けられなくなったのだ。 「なー・・・あいつ、リアンの事さ・・・どうするよ。」 寝袋に包まって、何をするでなしに空を見上げていると、突然カオルが口を開いた。 「どうもなにも、親が居るんだろう。勝手に連れて行くわけにも行かないじゃないか。」 そう、彼らとリアンの違う所。 それは親の存在である。 「親が反対じゃあなあ…」 呟いて、ごろりとカオルは寝返りを打った。 カオルも、ガスハと同じく両親が居ない。 10の時、家族でドライブに行った時・・・事故で同時に両親を失ったのである。 カオルは奇跡的に助かったものの、右目を失明するほどの大怪我を負った。 幸いにも、伯父がカオルを引き取って我が子のように育ててくれたため、彼はあまり生活に苦労せずに済んだし、両親を失ったショックからも立ち直る事が出来たのである。 カオルがポケモントレーナーとして旅に出たいと言った時も、伯父達は何かと協力してくれた。 (スゲエ幸せモンだよな、オレって。) 改めて、彼らに感謝すると共に、ふとさっき見たリアンの表情を思い出した。 彼女の目は真剣だった。まるで、自分が夢を語っている時のように、それはもうきらきらと純粋に耀いていて。 どうしても、放ってはおけなかったから。 「・・・・・・・・・なあ、ガスハ。」 「・・・・・・・・・明日、裏闇の家に行って見るか?」 (なんだよ、あいつも同じ事考えてたんじゃん。) そう思うと、何だか嬉しかった。 いつもクールなガスハが、珍しく自分の考えに乗ってくれたのも、彼女の事をちゃんと考えていてくれた事も。 「・・・・・・ああ。」 もし、彼女も一緒に旅をする事が出来るようになれば、彼女は一体どんな顔をするだろう。 なんとなく、太陽みたいな無邪気な笑みが、ちらっとまぶたの裏をかすめて行った。 続く 〜ATOGAKI〜 はい、これが噂の参加型中編(?)小説です。 ちなみに三話完結予定。 こんな私ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。