Another Legend ―中の巻― 〜旅の始まり〜 「着いたぜ。  ここ、俺の家ね。」 長閑(のどか)なトキワシティのはずれに、その家は在った。 他にどう形容しようも無く、とにかくそれはとてつもない存在感を持って二人の前に立ちはだかっていた。 それはもうとにかく ・・・『大きい』。 この町の雰囲気にそぐわないほどにそれはそれは巨(おお)きかった。 一言で言うなら、億万長者でも住んでいそうな豪邸。 「………」 「……スッゲ…」 生まれて初めて見る「お屋敷」とやらに圧倒されて、二人はただしばし呆然とするだけ。 「何やってんだよー!早く来いって!!」 広大な庭を突っ切る道の先から聞こえたリアンの呼び声で、ようやく二人は我にかえった。 「……行きますか。」 「………おう。」 ちなみに後で「あの時の二人ッたら、緊張のでカチンコチンだしいかにも居心地悪そうだしですっげー面白かった!」とリアンにからかわれる事になるのだが、 それはまた別の話。 屋敷に入ってからもまたやはり凄まじい。 数十人はいるだろうかと思われる召使たちは、リアンの姿を見るやきちんと整列し 「「「お帰りなさいませ、お嬢様。」」」 リアンは慣れたもので、「うん。」とあっさり流しては連れの二人の説明などしているが、二人は一層緊張してしまう。 「…オレ、こんな家に住んだらマジで死ぬ。」 「……確かにな。」 まあそんな訳で、やっと長い廊下を抜けて両親の元にたどり着いた時には、完全に二人は精神的に憔悴しきってしまっていた。 「どうしたんだよ、そんな疲れた顔して。」 疑問符を頭に浮かべるリアン。対照的にげんなりした顔のカオルが、彼女の肩にぽんと手を置いて呟いた。 「…リアン、お前ってすごいよな。…尊敬するわ。」 ガスハの方を見ると、やはりうんうんと頷いている。 リアンの疑問符が、また一つ増えていた。 「あら、裏闇お友達?」 「私達に話とは一体なんだね?」 突然聞こえた声に振り返ると、そこには上品そうな一組の夫婦。 この二人がリアンの両親らしい。 なかなか温厚そうな人物だ・・・二人はそっと安堵の息をついた。 「うん、昨日森で会ったんだ。二人ともスゲーポケモントレーナーなんだぜ!」 「あらまあ、それはすごいのねえ。・・・あ、ごめんなさい。どうぞお掛けになって。」 娘の話ににこにこと相槌を打ちながら、彼女は二人に椅子を勧める。 二人も大人しく、言われたとおりソファに腰掛けた。 「裏闇の事だ。大方話の見当も付いている。・・・また旅に出たいと言うのだろう?」 「そう!今度は一人じゃないし安全だろ!?」 やれやれと言った調子で、父親が苦笑する。 「だからと言って、勝手に一人で話を進めるのはよしなさい。この人達も迷惑だと思わないのか?」 「う、まあそりゃそうだけど・・・」 痛いところを突かれてしまった。確かに自分は二人の了承をまだはっきり得たわけではない。 「……まあ、確かに見たところお二人はかなり腕も立つようだが…」 ぽつりと、父親の口から漏れた言葉。 脇に控えたカオルのヘルガーを見て判断したのだろうが、それでも一般人ならこうは行かないだろう。 見ただけでトレーナーの力量を測れるのは、己自身もある程度の実力者である場合が多い。 どうやらこの男、ポケモンの事に関しては何も知らないと言う訳ではないらしい。 「…そうだな。裏闇、しばらく席を外していてくれ。」 言われて、リアンは何も言わず部屋を出て行った。 まだまだ幼いその顔に、期待半分…不安半分の表情を浮かべて。 「君達も緊張する事は無い。何も叱り付けたり取って食おうという訳では無いのだから安心してくれたまえ。」 言って、彼は豪快に笑った。つられて二人も少し笑う。 「さて、まずは自己紹介が先だ。私はアンバー・トキワグローブと言う。そして家内だが・・」 「コスモス・トキワグローブですわ。宜しくお願いしますね。」 にこり、とコスモスが微笑む。 二人が浮かべている笑みの所為か、二人はだんだん緊張もほぐれてきたようで、その頃にはもういつもの調子を取り戻していた。 「オレは、カオルって言います。ポケモンマスターを目指して旅してる途中です!」 「…オレの名は、ガスハと言う。…宜しく。」 「ほう、目指すはポケモンマスターか。なかなかに頼もしいじゃないか。」 「いや、オレは別段ポケモンマスターには興味は無い。」 ポケモンマスターといえば、トレーナーの誰もが一度は憧れるもの。 それを興味無いの一言で蹴ったガスハに、アンバーは少なからず興味を持ったらしい。 「そうか、頂点に立つ事に興味は無いと…では何故君は旅をしているんだね?」 「……自分が、何者かを探す為に。」 それからガスハはぽつりぽつりと自分の生い立ちを話し出した。 6歳までの記憶が無く、気が付いた時は雨降る都市の只中に立っていたこと。 その時に偶然通りかかった人―裏社会の人間だと知ったのは後になってだが―に拾われ、育ててもらった事。 自分と同じ境遇で、ポツリと捨てられていたミニリュウをパートナーにした事。 そして、10の時に一人旅に出た事。 「親がいない事が寂しいわけじゃない。ただオレは自分が何者か知りたくて旅をしている、それだけだ。 それに、親がいないのはこいつも同じだしな。」 言って、親指でくいっとカオルの方を指す。 指された本人は、どこか居心地悪そうに頬を指で掻きながら「まあ、そんなもんです」と曖昧な返事を返した。 「・・・そうか。君達『も』親がいないんだな・・・」 「「君達『も』?」」 アンバーの呟いた言葉に、何か引っかかる物を感じて二人は思わず聞き返した。 彼はゆっくりと頷くと、こう話し出した。 「実は、裏闇は……私達の実子では無いのだよ。」 沈黙が流れる。数秒の後に、やっとカオルが口を開いた。 「……マジですか?」 「ああ、本当の話だよ。そう驚かれる事でもないと思うんだがね…ああ、ちなみに裏闇も知っているよ。」 二人は、自分たちの生い立ちを棚に上げて、さも驚いたように顔を見合わせた。 「一応、他の人間には実子という事にしてあるがね。色々と面倒だからな…… だが、血のつながりは無くとも私達は裏闇の事を、実の娘以上に可愛がっているよ。 だからこそ心配で、今まで旅に出ることを許さなかったんだが…」 血が繋がっているだけが、家族じゃないだろう?と、アンバーは二人に問いかけた。 その答えなら、二人は身に染みて分かっている。二人はこくりと頷いた。 「私達は、子宝に恵まれなくてね………体に異常があるらしいと知ったのは、妻が流産して、医者に見てもらった時だった。 子を失った上、これからも永遠に子は授からない…悲しみに暮れていた、そんな時、裏闇と出会ったのだよ。 ……8年前になるかな、妻はその頃死んでしまった子供の事で酷く心を病んでいてね。少しでも負担が軽くなればいいと思って、このトキワシティに越して来たんだ。 しとしとと雨の降るその日、私は妻を連れて、トキワの森を散策していた。雄大なこの森が、少しでも彼女の心を癒してくれればと思ってね。」 アンバーがそこで少し話を切る。やはり今でも辛さは残っているのだろう。 と、隣に座っていたコスモスが、続きを引き継いだ。 「森を歩いていた時、私は何か子供の声のようなものを聞いた気がして、奥へと向いましたの。…その頃は子供と言う言葉に、酷く敏感になってましたから… そして、あの大きな木の下で…裏闇がいま秘密基地にしている場所ですわ…頼りなげに座り込んでいる裏闇を、見つけましたの。 声を掛けると、まるで初めて人を見たかのように驚いて、慌てて木の影に逃げましたわ……実際始めてのような物だったのでしょうね。記憶喪失に掛かっていましたから…」 はっ、と小さくガスハが息を呑んだのがカオルにも分かった。 「親も自分の名前も年も…何も覚えては居ませんでしたわ。私達は天からの授かりものと思って、彼女を養子にする事を決意しましたの。」 しん、とした沈黙が辺りを覆う。アンバーは暫しガスハの目を見つめて、おもむろにこう言った。 「君の話に、よく似ているだろう?・・・それでつい、話してしまったのだよ。」 「似ているどころか・・・オレが捨てられていたのも、8年前。しかも同じように雨も降っている・・・おかしい。ここまで一致するとは・・・」 不可解な一致。在り得ないくらいに。 「……君達についていけば、あの子も何か分かるのかも知れないな…」 複雑な表情だった。確かに、本当の親を思い出すのかも知れない思うと、良かったと思う反面、悲しいものもある。 「・・・真実を知るには、やはり犠牲が必要なのだろうか。」 それは一体誰に問うたのか。 誰にも答えは分からない。 数分の沈黙の後。 アンバーはとうとうこう言った。 「…あの子を、お願いできますかな?」 二人は、黙って一つ頷いた。 「ありがとう。・・・君達を見ていると、昔を思い出すよ。」 ふっと笑って、彼は言った。 「実は、昔は私も少し名の知れていたポケモントレーナーでね。」 悪戯っぽく笑うその瞳の中には、かつて夢に燃えていた、少年の姿があった。 「それじゃ、行って来ます!!」 「気を付けてね。あまり無茶はしてはいけないわよ。」 「・・・元気で。しっかりな。」 入ってきた時とは逆に、意気揚々と三人は屋敷を後にした。 「よし、じゃあ改めて自己紹介だ。ふりりん、シャイン、すぴる!出てこーい!」 ぽんぽんぽんっ、と軽快な音を立ててモンスターボールから現れたのは、バタフリーとピカチュウ、そしてスピアー。 三匹ともトキワの森で捕まえた物だろう。 「へえ、お前性格とは逆にえらく可愛いニックネームつけてんだ……がふっ!?」 けらけらと茶化すようにカオルが言うや、キレイに決まったリアンの跳び蹴りが顔面にクリーンヒットする。 「しばらくそこで寝てやがれッ!!」 青筋が立っている。相当ご立腹らしい。 「阿呆か。……まあこんなのは放っといて、とにかくよろしくな、裏闇。」 「ああ!…そう言えばさ、俺まだガスハのポケモンほとんど見てないんだー。ちょっと挨拶させてくれよ。」 「それもそうだな。ほら。」 ぽぽぽぽんっ!カイリュー、フシギバナ、ゲンガー、ブラッキー。大きなポケモンが多いので圧巻だ。 「おーっ!すっげえ!!宜しくな皆!」 「名前は、カイリューがリュース、フシギバナがフラ、後ダークとムーン・・・」 「…オレの扱いって…って言うかただちょっとからかっただけじゃん……ヒデエ。」 仲良くポケモンについて話している二人の脇で、カオルが倒れたまま泣いていたのは、 まあ・・・ご愛嬌、という事にしておこう。 お話はまだ続く。 本当の旅は、まだ・・これから。 ATOGAKI PartU カオル:てっめぇー!!何だよこの最後の奴ッ!! ―え、だってそれ自分がわr…げふうっ!! カオル:問答無用ッ!!この間もリアンに踏まれたし…ぶつぶつ ―ま、やられキャラって事で。いいじゃん、ほとんど主人公なんだし。 カオル:だからそのやられキャラってなんなんだよー!! (汗拭き拭き)えー、中の巻でございます。次が終わりになりますね。 ほんとに3話で終わるのか作者!最後の巻だけなんか長そうだぞ作者! 力量不足が顕著に現れすぎだぞ作者!(ダメ) さてさて、次はとうとうクライマックス!! 彼らの謎に迫ります。8年前、一体何があったのか。勘の良い読者様ならもう気付いているかも?!いや、気付くだろう(爆)な結末、乞うご期待!!(ヲイ