ここはディグダのあな。 いや、正式な名前ではなく、周りの人から「ディグダだらけのあな」から、いわゆる愛称。 ニビ−クチバをつなぐトンネルで、本当にディグダがいっぱいいる。 たまに、ダグトリオが現れる。 これは、ディグダのあなという愛称がなく、ダグトリオという生命体があまり知られてない頃のお話・・・・・・                                              ************************************              |     ダグトリオは憂鬱     |              ************************************ 「おぅ左、最近退屈じゃないか?」 「退屈もなにも、オレら最近こうやってあな掘ってるだけじゃん。 面白いことないよな、右」 「これでも、結構ウワサ聞いているんだよな、おいら」 なんとも平和そうな彼ら。 いや、彼らは三見一体の筈。 いやいや、それぞれ個体だったり・・・? そこらは研究が進むにつれて明らかになるだろう。 彼らには名前がない。 クチバシティという町は港としてでも結構有名だが、このトンネルはあまり有名じゃない。 足を運んでも、“モグラの集団”を見て、気持ち悪がって逃げたり、または“どろかけ”でもやられたか。 そのため、周りからは“モグラトンネル”といわれる始末。 「ほう、“ウワサ”とな?なんだ?」 「それがな、“唯一神”というポケモンなんだよ」 『ゆいいつしんー?』 左と中は声を揃えた。 そもそも、ポケモン協会が「ポケモンの名前は五文字まで」というレッテルを貼り付けているからだ。 ゆ・い・い・つ・し・ん と、これは六文字。 どういうことだろうか? 「アホか?右よ。ユイイツシンとは、六文字ではないか」 「そうだな」 「違う違う、そういう“あだ名”だよ。本当はエンティ」 エンティとは、ジョウト地方を駆け巡る伝説のポケモンを指す。 だが、たまにカントー地方を駆け巡ったり、鳳凰神へと忠誠を示したりと、イロイロ大変なポケモン。 「え?なにそのエンティとは」 「オレしってるぞ。確か伝説のポケモンだったっけな」 「そう。そのエンティの能力値を見てみなよ」 エンティは、攻撃力が非常に高く、素早さや体力も高いため侮れない。 しかし、その極端に高い攻撃力が問題となっている。 なぜだろうか。 「おおっ、攻撃力が高いな」 「で、なんで唯一神なんだ?」 「ふふふ、次に技を見てもらおう・・・」 ここまでくるとウワサ好きの右の独壇場。 誰も彼を止められる人はいないとか、いるとか。 「物理技ないな」 「そう、そのお粗末さが裏目に出てるっつーわけさ!」 「ふーん? その点、オレらはちゃんと地震とか切り裂くとかいう攻撃を覚えているだけ、まだいいな」 『でぃぐだぐでぃぐだぐ・・・』 彼らは延々と穴を掘り続ける。 掘る意味を知らず、なぜ掘るのかはわからない。でも掘っている。 ここにいるのはもぐらの大群。 ツメや足、下半身は見えず、どうやって“きりさく”をしているのかは、聞いてはいけないお約束。 モグラトンネル・・・・・・そこはひたひたとした洞窟のようなもので、石がごろごろしている。 声を出せば結構遠くまでこだまし、ひょっとすると周りのもぐらたちが迫ってくるのかもしれない。 なかは結構広く、横幅三メートル、高さも三メートルくらいある。 だが、床がごつごつしていて、散歩には向いておらず、しかも綺麗なところもない。 金銭的にも利益は得られず、ポケモンもこのもぐらたちだけなので、来ても「Oh my god!」といわれるのがオチで、彼らは繁殖し続けている。 ・・・いや、そういうと心なしか気持ち悪くなってくる。 穴を掘った後がかなり多く、ちょっとした溝ともいえる。 もし雨が降ると結構まずいことになるが、そのトンネルの入り口は横向きかつ、雨が降ると海のほうに流れるので安心である。 「はぁ・・・」 「どうした左」 「オレ、“コイ”してるのかな」 それは、些細なことだった。 そんな些細なことでも、楽しむことが“おはなし”だけという彼らだけに、お話は大好き。 「鯉?コイキングは不味いってウワサだろ?」 「そのコイじゃねぇ!」 「ふーん、恋か・・・」 「誰に?」 いま思えば、彼らはこのモグラトンネルから出たことはない。 というと、同種とにしか恋は出来ないという。 「ほら、あの娘だ」 左が指差した(?)先には、♀らしきモグラがいた。 「どこがいいんだ?」 「おいら、そっちよりあっちの大人な感じのがいいなー」 「なに言ってんだよ!あの可愛いつぶらな瞳を見てみろ!」 たまに他愛もない喧嘩、たまにおきらくな会話、そこから彼らが動く。 そして、何日かが過ぎ去ったある日。 『でぃぐだぐでぃぐだぐ・・・・・・』 モグラたちは一生懸命穴を掘っていく。 線路がどこまでも続くように、彼らの穴掘りもどこまでも続く。 大きな、固い岩が見つかり次第、大きく迂回してはやや柔らかい土を掘って、更に掘っていく。 が、カントー地方の土は埋め立てやら巨大建築物の増加のせいか、地盤が固く、ここでいう“やわらかい土”はホウエン地方でいう“かたい土”と同じである。 そのため、少しずつ、少しずつ掘っていく。 ・・・一日約二メートル。 「――で、そのコイとやらはどうなったんだ?」 「しゅん・・・」 「上、いま左は落ち込んでいるんだから」 どうやら、左の愛のコクハクは失敗に終えたらしい。 といっても、もし彼らが三見一体だったらどうしようもないが・・・ 「おぅ、一回一回の挫折で落ち込んでどうする」 「っるっせぇぇ・・・」 「コイって難しいモノだねぇ」 モグラごときに恋愛のいろはを理解されてたまるものか!という人もおられよう。 だが、本当に彼らにとっては“レンアイ”というのは難しいモノでもあった。 一匹一匹個性や性格などがあり、決して“性格や個性までもが一緒の生き写し”というのは有り得ない。 これは百パーセント。 「・・・・・・」 「どうした上?」 「(立ち直り早ッ! あれからまだ三日なんだけど)」 どうやら、今度はいつも相談される側の上が悩んでいるらしい。 青春盛り(?)に悩みはつき物だが、彼らには娯楽が“おはなし”のみのためか、悩みは人一倍多い。 上がため息を一つつくと、ゆっくり話す。 「空って、どんなのだろうな」 「なんだとぉ!? そんなことで悩んでいたのか(笑」 「左の悩みもおいらからしたら大したことないよ」 上がそういうのもしょうがないこと。 ここはトンネルで、見渡す限りの土や岩だらけ。 茶色や灰色、黒色など、暗いイメージの配色だらけ。 なぜそんな色をしているのかは、わからない。 これをかつての物理化学者 アイソ・シュタイン(仮名)に「なぜ地中は暗い色ばかりなのか」と聞くと、舌を出すだろう。 「空ねぇー、おいら見たことないや」 「見たことないなー」 「だろ?そのことについて悩んでいるんだけどな」 久々に、彼らに哲学的な“なにか”が駆け巡った。 「見に行く?」 「だめだろ、オレらは穴を掘らないと」 「・・・・・・なんで掘るんだ?」 誰かに指示されたわけではない、なぜか本能的に掘り続けている。 それを無視するのは不可能らしく、彼らには突き通す“なにか”が引っ掛かるらしい。 我々には意味のわからないことだが、それが彼らのオキテなのだろうか。 ・・・・・・ そして、彼らに憂鬱な毎日が続いた。 毎日毎日固い土を掘り、面白い話題もない。 これといって趣味もなく、 誰かに指示されているわけでもなく土を掘り続ける。 訪れる者は最近はいなく、会話もあまり弾んでいない。 起きて、ごはん(?)を食べて、仲間と一緒に穴を掘って、疲れて寝る。の繰り返し。 どこに向かって掘るのかは誰も知らず、掘る意味すら知らない。 『でぃぐだぐでぃぐだぐ・・・・・・』 「いつつくのかなー」 「さぁな。死ぬまでオレらは掘るのかも知れないぜ?」 「哀しいこというなよ」 そのとき、彼らが掘っているトンネルの最前列のモグラが、なにかの異変に気がついた。 土の感触がかわり、地域が変わったようだった。 気になったその最前列のモグラは上に向かって掘ろうと提案し、「とくに掘るしかやることはないし」 というわけで上を掘ることにしたらしい。 するとどうだろうか? その掘った先には土がなく、一つの眩い閃光が彼らを強く照らした。 そこには一色の青が広がっており、彼らには夢の世界でもあった。 その異変に気がついたモグラは、仲間を集めては驚いた。 それはそうだろう、彼らが見たことのない光が、ただただ差し込んでくる。 「これはなんだ!?」と、皆は混乱しそうで、一気に後ずさりした。 だが、その眩い一点の光はなにもせず、ただただ彼らに光を与えている。 不思議に思ったモグラがその光に近づいてみると、そこは暖かかった。 地中は寒く、季節に左右されずに寒い、冷たい。 土の感触の温度しか感じ取れなかった彼らには、素晴らしい世界で、そのモグラが和んでいるのを見ると、他の仲間達が少しずつ近づいてきた。 射してくる光を前に、「この上はどうなってるんだ」という疑問が、彼らの中に膨れ上がり、恐る恐る掘ってみた。 その先には、ツメで掘ろうとしても「スカッ」と空回りしては、土がないことに気づく。 更に疑問が膨れ上がった。 彼らには、土があるのが普通と思い込んでいたため、土がないというのは奇想天外な事実。 その先がかなり気になったのか、ある一匹のモグラが表に顔を出した。 するとどうだろうか。 いつも上下左右茶色だらけだったあの世界と違い、上には限りなく続く青、 左右を見ると緑のふさふさしたものが多々あり、 そこらで紫のネズミや黄緑のいもむしらが戯れている。 このモグラたちは、「いままで同種=モグラしか見ていなかったため、 一部を除きモグラの世界」だと思い込んでいたため、 これはまさに天地がひっくり返ったようなくらいびっくりしたこと。 また、その上に限りなく続く“あお”に天井がないことに気づいたモグラは、 その上方向一点に指(?)を指し、仲間に注目を集めさせる。 「なんだあれ!?」 「見たことない!」 「あれが・・・・・・“空”なのか・・・?」 騒ぐのが当たり前でもあろうか。 始めてみるものが素晴らしく、いつも見ていたのはちっぽけに見える。 永遠と続く青に、そこに模様をつくっているような白、そしてそれを美しく象らせるかのように羽ばたく鳥たち。 「井の中の蛙、大海知らず・・・・・・ってね」 彼らは、まさに井の中の蛙同然だった。 そのいままでの冷たい地中と違い、外は全てが新しい。 「これが・・・・・・俺らの待っていた世界なのか!」 ここから、彼らの新しい人生が始まった。 ・・・・・・ 地上の新しい世界に慣れた彼らは、外に出ようと決心したらしい。 当時彼ら“モグラ”の存在を知っていたのはそのトンネルに足を運んだ人物のみで、 一般的にはほぼ無名同然。 しかもそれがポケモンということに気がつかない者多く、誰も来ない。 新しいものを求めている彼らは、外に出てみようという決心をした後、おそるおそる足を運んだ。 それが、彼らの運命を変えることになるとは、誰もが知らなかっただろうか。 最初は、皆が皆驚いただろう。 昨日までいなかったモグラが、今日になって急に見るようになった。 しかもそれは始めてみる動物。 学会にも報告されず、永遠と無視され続けられた彼らを初めて見た者は、警察に連絡していたらしい。 聞きなれないパトカーの音を聞き、びっくりしたモグラたちは、一斉に顔を引っ込めた。 パトカーが到着し、警察たちがその通報者に「その未知な生物とはいかに」と言ったように、普段聞きなれない声が盛んに響き渡った。 本来ポケモンというのは人類の言葉を理解できる、賢い能力を持っているのだが、 彼らは初対面同然、なにを言っているのかはさっぱりわからない。 だが、それこそが“新しい”ということに気がついた。 騒ぎが大きくなり、その近辺にその近所の人はおろかじゃじゃ馬が大勢やってきては、 カメラ片手にそこらをたむろしていた。 そのときモグラたちは軽く恐れていたが、攻撃してこないとこを見ると敵ではない、 と考え、彼ら人類の前に顔を出した。 それからだ、彼らが「ポケモン」と認識され、有名になりだしたのは。 ・・・・・・ それから、数日経ったある昼下がり――― 「おぅ左、俺らって、名前って決められたのか?」 「オレに聞くなよ、右なら知ってるんじゃねーのか?」 「おいらも知らないなぁ」 「おーい!マサラタウンってところから、おおきどはかせ っていうエライさんが来て、なにか言ってるぞ!」 「おおきどはかせ?なにそれ」 「いいじゃん、行ってみようぜ?」 「面白そうだなー」 「え?俺らの名前!?」 「やったぁー!!」 「で、なんなの!?」 「どうやら、お前らと違って一体個体のやつは“でぃぐだ”らしい。 いつもの掛け声が」 『でぃぐだぐでぃぐだぐ・・・・・・』 「あ・・・あれね」 「でぃぐだ・・・ いい名前じゃないか」 「で、おいらたち三体一緒の名前は?」 「一体個体がでぃぐだで、三つだから・・・ “だぐとりお”だって」 「だぐとりお・・・」 「なんか、格好いいな!」 「おいらたちも、これで有名人か!!」 こうして、彼らモグラ・・・ いや、ディグダ・ダグトリオの憂鬱な毎日は終わり、次から楽しい毎日が続いたとさ。 おしまい ※これは完全なフィクションであり、人名、団体名など、現実のものとは全く関係ございません ※しかし、このモグラたちの毎日、新しいこと、そここあら生まれたなにか――― それはあなたの心に残り続けることでしょう。