(あれから、どれくらい経っただろうか・・・) (もう、数十年は経っているのかな・・・) (もうあの墓を荒らすものはいないし・・・) (ボクの、“シメイ”がなくなっちゃった・・・) 冷たい洞窟の中で、ひたひたとこだまする不気味なところ・・・ そう、ハナダの洞窟だ。 四方八方からくる邪気のオーラ、岩陰には恐ろしい狐もいれば、真っ暗なところでは水色の不思議なポケモンもいる。 この洞窟の奥底まで来るものは、誰一人いないだろう。いや、誰もいない。 理由? それは、ここに来た!というしるしが無いからだ。 その、ごつごつとした岩道を越え、続く水平線を進み、まるで立体迷路のような岩の道を越え、梯子を上り、さらに進み、 最後に再度水平線を越えて進むと最深部に到着する。 ここの水はかなりひんやりとしていて、岩も冷たい。 まるで、大理石を素手で触っているような感触、それは未知なるものだったのだ。 かなり大きく連なった鍾乳洞から落ちる液体は、全く未知なるもので酸性でもなければアルカリ性でもなさそうだ。 ここの入り口には、 “立ち入り禁止” “入った者、命を無くす” “退けよ。立ち入る者に幸運はない” という看板がある。 外では、もう冬真っ盛り。 世間では、“クリスマス・イヴ”といわれている。 世界でも教えを広めている“キリスト教”とは、紀元前に“イエス・キリスト”が生まれ、弟子たちにもその教えを言った。 「神の前では皆平等」 そのような素晴らしい教えを教えていただいた弟子たちは喜んだ。 世界でも、この名言を下に教えを広めているのだ。 読者のなかには、大抵がキリスト教か仏教であろう。 仏教独特の祝日は“正月”、キリスト教独特の祝日は“クリスマス”なのだ。 だが、この「神の前では皆平等」、それは少年には意味が無かった。 読者は、この少年をご存知だろうか? ロケット団に誕生され、世界で恐怖の的とされた、この少年を―――― 十二月 二十四日 クリスマス;イヴ カップルが手をつないで歩いたり、子どもたちが無邪気に走ったりして、いかにもお祭りムード。 クリスマスケーキやゲーム、チキンやピザなどを売っている店がほとんどであるからに、売り上げが確実に上がるということなのだろう。 飲食店にとっても絶好の稼ぎ時であり“二升五合”という張り紙が張り出されている。 特に、洋食専門の店が人気で、例外といえば焼肉屋。 まぁ、定番中の定番なのだが。 主人である娘の後ろを一生懸命に走るマリルや、ピカチュウと追いかけっこをする少年まで、どれを見ても微笑ましい。 ハナダの洞窟のなかには、クリスマスのクの字いや、kまでも知らない者が多く、なにがなんだかわからないそう。 そんなどんぴしゃなタイミングに、少年はこう言った。 (たまには、外にも出ようかな・・・) (もう、ボクのこと知っている人も少なそうだし。) そういって、テレポートを使って出口手前に移動した。 なぜ、一気に外に出なかったかって? それは、恐怖があるからだろう。 (・・・歩いていこう・・・かな。) スタスタスタスタ・・・・・・・・・ (・・・?) 洞窟を抜けると、そこは雪国・・・ といえるほどに、ぼたん雪がさんさんさんと降っていた。 無論、少年にとって雪とは、何なのかわからない。 ひと・・・ (!!?) 最初は、少年も雪の存在にビックリした。 当たり前だろう。 ロケット団に生み出されたのは夏、しかも秋にならないうちに洞窟にこもり・・・ でも、そんな少年にも感じられた一言・・・ それは・・・ 綺麗・・・・・・―――― 少年にも、わかるのだ。この雪の事が・・・ 降っては落ち、そして溶ける・・・ 前にまた次の雪が重なり、それが続いて積もった。 (・・・・・・久々に、何か食べようかな。) 少年は、別になにも食べなくても大丈夫なのだが、一応“味わう”知能を持っている。 だが少年は思った。 もし、ボクのことを知っている人がいて、あの時みたいに騒がれたら――? ミュウツーのかつての親、ミュウは変身の術を使えるが、ミュウツーにはその術はない。 かといって、どかどかと歩くと大変なことになってしまう。 (・・・・・・諦める・・・しかないの?) 少年は、近くのツリーの根元に座った。 雪はその根元の部分だけ積もってないが、誰かが作った雪だるまがある。 顔の大半のパーツが石なのだが、どこか、暖かい表情に見えるらしい。 そこで少しの間座っていると、少女が来た。 赤い服に、赤いカチューシャで、赤いマフラーを抱いて少年・・・いや、雪だるまに向かってきている。 おそらく、少女がこの雪だるまの創作主だろう。 その少女が、少年のことに気づき話しかけた。 「ええと、きみだぁれ?」 純粋な瞳が、少年の顔を見つめる。 どうやら、少年のことを知らないのか・・・・・・? 少年は、一応喋ることができるが、ここ数十年声を発してない。 上手く言葉を話せるのか――? 「ボクは・・・ ミュウツー・・・・・・」 その声は、想像よりは優しいものでキーが高め。 ポケモンのなかで言葉を話せるのは知能がずば抜けて高いものだ。 大抵は、エスパーポケモンだろう。 他には、テレパシーを使うものもいる。 「みゅーつー? あなたポケモンー?」 「・・・・・・そう・・・だ。」 「こんなポケモン初めてみるー。」 「・・・くしゅん。」 (・・・ちょっと寒い。) すると少女は、その小さな手に抱えた赤いマフラーを、少年に渡した。 それは、ずっと抱えていたのか、体温で暖められていた。 「はい。寒いでしょ?」 少年は、最初は戸惑った。 人間のマフラーを貰うのはいいが、もしボクが恐れられていることがわかったら、どうなるだろう――? 「遠慮しなくていーの! はい。」 今度は、強引に(?)少年の首下にマフラーを通し、クルッと慣れた手つきでかけた。 「私ね、雪だるまをいっつも創っても、マフラーをかけてあげると、気がついたら溶けるの。 それでね、これは十五個目の雪だるまで、マフラーをかけるのはみゅーつーさんで十五回目。」 少年は、これを無理に外すと少女が傷つくと考えたのか、嫌がらなかった。 「・・・・・・・・・ありがとう。」 「ねーみゅーつーさん。あなた、いつここ来るのー?」 「・・・・・・気が向いたらだよ。」 「えー?」 少女は、少しガッカリした表情を見せた。 大きなその瞳も、悲しみを訴えている。 「じゃあ、明日もここに居てねー!」 タッタッタッタッタッタ・・・・・・ そう言い残して、その場を去った。 少年は、ありがた迷惑だった。 いつまでも人間の目にかかる場所に残り続けるわけにはいかない。 だけど、もし約束を破るとその少女が悲しむだろう。 ・・・・・・あと一日くらい、ここに居よう。 少年は、あと少しこの木の下に居ようと考えた。 辺りは暗くなり、ツリーに掛かっているイルミネーションが夜の街を照らす。 クリスマス・イヴ本番だろう。 サンタの格好をしているピザの配達員、サンタの格好をしているゲーム屋の店員と、力が入っているのが見える。 少年は、することがないので眠ろうとした。 足元に雪が積もってきているためか、身体全体が寒い。 少年は足に掛かった雪をどけた。 隣の雪だるまは、いまでも少年を温かく見守っている。 少年は、足を伸ばして、上半身は木に預ける。腕は組んで、目をつむった。 「―――――ぇ・・・」 「――ぇ・・・」 「ねぇってば!」 少年は、目を覚ました。 辺りは、明るい。 もう朝なのか。 目の前には、昨日の少女が居る。 今度は、マグカップと箱に詰めたなにかがある。 「やっと起きたぁ。 エヘヘ。もう来ちゃった。」 手には、赤色で大き目のミトンをつけており、今度はカチューシャだったのが、丸いぼんぼんのある帽子を被っている。 「あのね、みゅーつーさんおなか空いてそうだったから、ごはん持ってきたー。」 そういっては、その箱のなかからサンドウィッチを出した。 形はあまり綺麗ではなく、レタスがパンからはみ出ている。 が、愛情はかなりこもっていそうだ。 少年は、なにかが気になり、質問をする。 「・・・・・・ボクのこと、怖くない・・・の?」 「えー?怖くないよ。とぉーっても、優しそうだよ!」 少年は、彼女の言葉に、強くココロを打たれた。 このコのような、優しい純粋なココロを持つ子どもを増やしていきたい。 少年は、そう思った。 彼女が差し出すサンドウィッチに、少年は今度は戸惑い無く貰った。 どうやら、警戒心は無くなったそう。 少年自身も、空腹を感じていたらしい。 パク 少年は、そのレタスがはみ出ているところから、食べ始めた。 パク、モグモグモグモグ 「おいしいー?」 コクッ 軽く、少年はうなずいた。 「じゃあ、これもあげるー。」 そういっては、今度は例のマグカップを差し出した。 湯気が出ているため、中身は温かい物だとわかる。 「えへへー、これはね、ココア。あったかかくて、おいしいものー。」 にこにこして、少年に説明をする。 少年は、確かにココアのことを知らなかった。 だが、この少女の説明から、怪しいものではないことを、素早く察知したのだ。 彼女から貰ったマグカップは、ココアだけでない、少女自身の温かみが感じられた。 コクコク・・・ (・・・少し、甘いね。) そう思いつつも、少しずつ飲んでいると、少女がくすくす笑った。 「・・・・・・なにか、おかしいことした?」 「いいえ、なんでもないわ。  ただ、 みゅーつーさん見てるとかわいー♪」 少年は、少し照れた。 少女は飲み終わったマグカップを預かり、バッグのなかに入れた。 すると、少女はバッグのなかから、ピンク色のリボンでラッピングされた箱を取り出した。 ころころころ・・・と、おそらく球体のものが入っているだろう箱を、少年に差し出した。 「これもあげるー。」 少年は、なにがなんだかわからない状況で、また渡された箱を、興味深く見ていると・・・ 「それ、私のいーちばん大切なひとにあげるって決めたのー。 中身は、私のだぁいすきな、・・・・・・宝石だよ。とっても甘いの。」 少年は、最初は矛盾しているなと思ったが、後の文章から食べ物だとわかった。 それから、少女と話し続けた。 趣味のこと、好きな食べ物や飲み物、ポケモンのこと・・・・・・ 気がつくと、朝だったのがとっくに昼過ぎ、およそ四時半くらいだった。 少年も、少女相手にすっかり心を開き、少女も、少年相手に恐怖の二文字はなかった。 だが、少年にはなにかが引っ掛かった。 「ね・・・ぇ、ボクとずっと話していて、楽しい・・・の?」 その質問がなければ、幸福になったのか、はたまた余計に・・・・・・? 少女は、少し顔が暗くなった。 少年は、聞いてはいけなかったのか・・・? そう思っていた。 だが、そういうわけではなかったのだ。 「私ね、明日から手術するの。いままでは、ずぅっと入院していたの。」 急に告げられたこの言葉が、最初はどういう意味なのかわからなかった。 しかし、少年は次第にわかってきた。 「で、私、しょっちゅう抜け出して、クリスマスの日までに・・・って、雪だるまを創っていたの。」 「でも、いっつも溶けるの。悲しいわ。」 「雪だるまを創ることしか、やることがなかって、暇だった。」 「でも、みゅーつーさんに会えて、いままでの不安、手術の怖さが消えたの!」 少年は、少女が病気に冒されていることを、いまわかった。 いつもいつも、入院につく暇から手術における恐怖、どれに対しても苦しみしかなかったそうだ。 だが、昨日少女がいつもどおりに木の下に行くと、そこには少年が居た。 その少年との会話などから、心のストレスが解消され、すっかり元気になったそうだ。 「病院に・・・戻らないといけないんじゃない・・・の?」 「・・・・・・とぉっても、とぉーってもみゅーつーさんに会えてよかった!」 少女は明るく振舞い、少年を心配させまい、と頑張った。 が、少年は少し悲しい目つきで少女を見つめる。 最後に、少女がこういう。 「ねぇ、これあげる。」 そして差し出したのが、赤いお守り。“手術成功志願”と記されている。 「私、そのお守りを大切に持ってたけど、みゅーつーさんにあげるー。」 少年は、首を横に振った。 そのお守りを受け取ってはいけない、そう思っていた。 「ダメ・・・だよ。それは受け取れ・・・ない。」 「私ね、みゅーつーさんに会えて、手術が怖くなくなったの。だからあげるー!」 少年の手元に、その赤いお守りを乗せた。 少年はすぐに返そうとした。 しかし・・・ 「ばいばい!私、頑張る! また今度、一緒におはなししよーね!」 タッタッタッタッタッタ・・・・・・ 少女は、すぐにその場を去った。 少年は、戸惑った。 すぐに返しにいけばいいのか・・・? だけど、そとにはボクのこと知っている人間が多く居る・・・ もしいまいくと、あのコにも迷惑をかけることになる・・・ 少年は、そのお守りを握り締め、そのツリーのしたで待つことにした。 ここには、あまり人はこない。 ここで待っていたら、あの子が帰ってくる。 ―――そう、思っていた。 だが、現実はそう甘くなかった。 クリスマスから、ざっと一年後・・・・・・ 少年は、いまもまだ待っていた。 この日まで、まだ誰にも気づかれなかった。 この日までは・・・・・・・・・――― 「魚釣りしよーぜ!」 元気ハツラツとした陽気な声が、聞こえる。 少年の居る場の近くの川で、釣りをするらしい。 仲間を三〜四人連れては、少年の向かいにきた。 そこから、悲劇が舞い降りた。 「じゃあ魚釣り・・・」 「お、おい・・・ あのポケモン、聞いたことあるぞ!」 「なに?あのポケモン。」 「み・・・   ミュウツーだぁ!!!」 「ミュウツーだって!?」 そう、そのなかの一人が、少年のことを知っていたらしい。 おそらく、絵本で読まされたのだろうか。 「俺、大人の人に知らせる!」 タッタッタッタッタ・・・・・・ この時、少年は瞑想中。ちょっとした音では、少年は目を開けない。 そして、先ほどの子どもが大人の人を連れてきた。 「ねぇ、あれってミュウツーなんですか!?」 その子どもが大人に問う。 答えは無論・・・・・・ 「ま・・・間違いない。すぐに警察に知らせよう!」 それから、ざっと数分後のこと。 「ほ・・・本当にミュウツーじゃないか。あれから、また現れたのか!!」 「ニュースです!ニュースです! なんと、あのミュウツーが、ハナダシティ西方面の、川の付近に居ます! いま、ポケモンレンジャーと警察が話をしています。 どのような方法で、彼を抑えるのでしょうか!?」 少年は、今はなにもするつもりもなく、なにもやってない。 なのに、世間の人間はこれなのだ。 数十年前の事件も、人間の早とちりから生まれたようなものだろう。 少年は、瞑想を終えて、集中力を元に戻して、目を開けた。 目の前に広がっていたのは、悪夢なのか、現実なのか・・・・・・・・・ そう、紛れもない、唯一無二の世界、現実――― ニュースのレポーターが、テレビを通して全国いや、世界に少年の情報が送られている。 「どうやら、話が決まったみたいです!」 「では、今回はどのような形で、ミュウツーを・・・?」 マイクが、レンジャーと警察の代表者に向けられる。 カメラのレンズが、二人を同時に映す。 「ミュウツーをヘタに刺激すると、前回のように世界が大変なことになりかねません。」 「ですので、今回は、話でいろいろ誘導します。」 そういっては、レンジャーがフーディンを繰り出した。 確かに、フーディンはエスパーポケモンのなかで最高位のポケモン、テレパシーも普通に使え、人間の言葉もわかる。 少年は、内容が飲み込めなかった。 カメラが何台もまわり、辺りでは人々が騒いでいる。 「じゃあフーディン・・・よろしくな。」 するとフーディンがテレパシーを使い、少年に言葉を送る。 《ミュウツー殿。おぬしは、なぜここに来た?》 少年は、言葉を発すると余計に騒ぎを大きくするだけだとわかり、テレパシーで返した。 《ここで、あの子を待ってい・・・る。》 《あの子とは、誰だ。》 《君には関係ない・・・よ。》 《そうか。早くここを離れたほうがいい。人間たちが、おぬしを襲うことになりかねん。》 《ボクはここを離れるわけにはいかないんだ・・・。》 《・・・・・・ならば仕方ない・・・。人間に襲われないように、気をつけろ。》 「いま、フーディンとのテレパシー交友が終了したとの模様!」 フーディンは、いまの会話の結果を、レンジャーに伝える。 「な・・・・・・。 交渉決裂・・・!」 この言葉に、辺りがまたざわつき始めた。 「な・・・おい、やばいんじゃねーの?」 「やだぁ、怖いわぁ。」 すると、またレンジャーたちと警察たちが講義を始めた。 バトルで強制的に帰らせるのがいい。 そんなことすると前回のミュウツーの事件みたいになる。 じゃあ、どうするか。 待つのか? 待てるわけない。 ミュウツーがそう簡単に我々の言うことを聞いてくれる筈ない。 それどころか、逆に攻撃を仕掛けてくるかも知れない。 ここは一斉非難にするか? でも、そうするとハナダシティの人々はどうすればいいんだ。 いつ帰るかもわからない、この時、一斉非難させるのは二度と戻れないかもしれないということだぞ。 もう、途方にくれているところへ、一人の少年が現れた。 さわやかな、少年だった。 その少年は、状況をあまり知らず、たまたま通りかかると、辺りがざわついていたから来たらしい。 「おい君、危ないから、近寄らないほうがいいよ。」 「ここは、我々ジョーイやレンジャーたちでなんとかするから、ね!」 その少年は、周りに注目させられている少年いや、ミュウツーを見た。 少年を見るや否や、歩み寄った。 危ないぞ。 こいつはミュウツーなんだ。 殺されるかも知れない。 そんな周りの声を無視し、少年に近づいた。 「行くんだ、ルカリオ!」 ぱぁん 「ブル!!」 青き炎をまとうポケモン、ルカリオを、読者はご存知だろうか・・・? 波動の勇者・・・である。 その少年は、ルカリオを繰り出しては、こう指示を出した。 ミュウツーの波動をキャッチせよ・・・ と――― 少年は、このルカリオが敵ではない、そう感じ取った。 ルカリオは、右掌を少年の額に向け、念をこめた。 ワァァァァ・・・と、漫画のような効果音まで聞こえ、辺りはすこし静まった。 「なんだなんだ?」 「あの子、レンジャーかい?」 「あー、あの人知ってるー。」 「確か、セキエイ高原の近くにある“バーナード学園”の首席って人だよ。名前は確か・・・“鳥谷”!」 「その子か! 通りでテレビで見たことがあるわけだ。」 この鳥谷少年は、バーナード学園というカントー最高峰の学校の最強トレーナー・・・といった感じの“首席”らしい。 そのためか、そのルカリオの力量はかなりのものだ。 「・・・グル。」 そのルカリオは、少年のオーラなどを読み取ったのか、掌を下ろした。 そして、テレパシーで周りの人に、こう言った。 《このミュウツーは争いごとはしないそうだ。 全てが人間の早とちり、決めつけからできた。 ただここに居るだけで、人間や我々ポケモンたちに危害を加えることはしない。》 「そんな筈無い!ミュウツーはバトルサイボーグのはず・・・」 「でも、ルカリオのIQって百二十あるって聞いたぞ。」 「なんと!突如現れた鳥谷少年のルカリオ曰く、このミュウツーは危害を加えることはないそうです! では、スタジオのダイさーん? 我々は、そろそろ引き上げます!」 「でも、ミュウツーが・・・・・・なんてね。」 辺りは、だんだん静かになっていく。 集まったじゃじゃ馬も、散らばっていく。 少しすると・・・・・・ さっきまでが快晴だったのが、雪が降ってきた。 その雪は、去年のクリスマス同様のもので、地面に落ちては、その雪が溶ける前にその上に積もる・・・ ぼたん雪だ――― サンタの格好をした人々が走っている。 サンタの格好をした人から何かを買っている。 立派なツリーには、立派なイルミネーションが飾られている。 ネオン街では、さっきのリポーターが取材、アンケートをし、じゃじゃ馬たちはネオン街で買い物を楽しむ。 少年の木にも、イルミネーションがあったらよかったが、飾りはない。 だが、大きな木にかかった雪は、飾りをしなくても十分綺麗だ。 その少年の前にいるのは、先ほどの鳥谷。 少年は、瞳を大きく開いた。 眠くなったのだろうか・・・・・・? 鳥谷がしゃがみ込んでは少年を見つめる。 すると、少年の手に握っているお守りが目に入った。 鳥谷は驚いたのか、少年に質問をする。 「このお守り・・・・・・ 誰から貰った?」 少年は、声を発した。 透き通ったような、綺麗な声で、静かに・・・・・・ 「名前は・・・わからない・・・ 赤い服で、元気ハツラツな子・・・」 鳥谷は、驚きを隠し、続けて質問をする。 「もしかして、手術するとかいっていた? その子。」 「そうだ・・・よ。 怖くなくなったからって。」 「その子は、僕の妹だよ。今から、四年くらい前に死んだんだ。」 「・・・え? ボク、去年にそのお守りを貰ったんだ。」 突如起こった食い違い、これは一体――? 鳥谷は、冷静に考えた。 「きょ・・・ねんだって?馬鹿な・・・・・・四年前に、手術ミスで亡くなったんだよ、その子。」 「でも、確かに貰ったんだ。」 少年は、頭がおかしくなってきた。 その少女は鳥谷の妹らしい。 しかし、少年がお守りを貰ったのが去年に対し、その少女は四年前に亡くなっている。 両者共に、記憶違いなど、全く無いのは確実なことだ。 鳥谷は、突如最近のニュースが頭に思い浮かび上がった。 最初は何でだ?と思っていたが、それが解決への糸口となった。 「ミュウツー・・・ おそらく、君は“冥府のアルセウス”の力によって現れた僕の妹から貰ったんじゃないかな。」 それは、意外な答えだったのだ。 確かに、最近シンオウの伝説がカントーに流れてきている。 だからといって、それとこれを結ぶのには証拠すらない。 だが・・・・・・・・・ 「僕の妹が無くなるとき、そのお守りを持っていたんだ。 だけど、そのお守りをいまは君が持っている。 てことは、もしかすると一時期蘇生した妹から貰ったんだと、僕は思うよ。」 「多分、遊びたかったのだろう。好きな、雪だるまをいっぱい創って・・・」 「亡くなってから去年までは、雪が積もってなかったんだよ。暖冬で。 でも、去年からは積もりだしている。だから、アルセウスに頼み、蘇生して、雪だるまを創って・・・ だけど、この温暖化のなか、雪だるまは一日もつか、どうかだよ。だから、毎日毎日・・・ で、君に会ったわけだ。そこで仲良くなって・・・ ついでかどうかは知らないけど、もう不要になったお守りを、君にプレゼントしたんだ。 私は、ここに居たよ、という証かも知れないし・・・・・・」 少年は、お守りを見つめた。 だから、あれだけ話してくれたのか。 だから、あれだけ優しくしてくれたのか。 限りのある刻のなかで、いっぱいしたいことがあったから・・・ 「ミュウツー、最近、嫌な予感がするんだ。シンオウ地方の神のポケモン三獣神の伝説がカントー地方にも来てね。 なにが起こるかわからない。けど、なにかしなければならない。 そこでだけど、僕と一緒に戦う仲間がいる。協力してくれるかい?」 コクッ 少年は、うなずいた。 世界が危ない、それを救うのは、少年としてもいい“シメイ”だろう。 少年は星空を見た。 この無限の星空が、暗黒の闇に侵される刻が来る前に、早く世界を救わないと・・・・・・・・・ 「じゃあ、まずは少し休もう。ポケモンセンターで。」 少年は、歩こうとすると、身体の横にある箱を見た。 去年、少女から貰った箱・・・ まだ開けてなかったっけ。 パカッ 少年は、少女の言っていた宝石のなかで、一番綺麗に輝いていたのを取り出しては、口のなかに入れた。 おしまい ※これは完全なフィクションであり、人名、団体名など、現実のものとは全く関係ございません ※しかし、このクリスマスでの出来事から感じた何か――― それはあなたの心に残り続けることでしょう。