〜〜〜 ・・・・・・ここは、どこなんだ? 俺は、いま見知らぬ浜辺にいる。 その強い日差しのせいか、身体は少し焼けている。 岩タイプの俺が、まさか日焼けするとはな。たまげたぜ。 確か、俺はジョウト地方から旅立った筈。 アレから北へ、北へ、と歩いてきて、もう一ヶ月くらいか。 野宿にはなれたもんだ。 空を飛んでいるのは、ハネッコではなくて、知らない鳥。 厳つい表情から赤いくちばし、赤い羽根に茶色の頭部。 シュン坊の話からすると、こいつぁオニスズメだな。 あ、読者は俺のこと知らねぇか。あらまし話すぜ。 俺は、前まではジョウト地方のとある屋敷に住んでいた。 そこの主がバーナードコーポレーションの初代社長で、かなりの金持ち。 シュン坊というのがそいつの御曹子で、一人っ子だから愛されている。 本名は、シュンなんだけどな。俺は、あだ名感覚でシュン坊と読んでるぜ。 ま、俺の言葉が通じる筈、ねぇけど。 そのシュン坊の最初のパートナーとして捕まえられたのが俺さ。 岩、地面タイプというありきたりなんだがな、シュン坊は翠色の身体に惚れ込んだらしい。 なんでも、ウツギ博士っつーうさんくさい博士によると、俺は進化するとかなり強くなるらしい。 確か、俺が進化すると岩、悪タイプになる、とか。 シュン坊は、いっつも俺のことを可愛がっていた。 一緒に海に連れてっては、一緒に甲羅干ししたり、山登りのときに山を食べているとシュン坊が笑ったり。 まぁ、それはそれで楽しかったけどよ。 俺は退屈だったんだ。 なんでも、捕まえられる前までに一緒にいた俺の仲間は、山を食べてはバトルを続けて、進化したらしいな。 俺も、手に汗握るバトルをしたかった。 進化して、シュン坊に見てもらいたかったぜ。 俺の、進化した立派な姿を・・・・・・ 俺は、シュン坊連れて、トレーニングルームに言ってはバトルの練習の要望を出すけどよ、バトルは危険だよとかいって、バトルさせてくれない。っ たく、ありがた迷惑だぜ。 だから、旅に出たのさ。 自分探しの旅でもあり、まずはバトルの経験を積んで進化したかったのさ。 一応、シュン坊から聞いた話では、世界一の大きさを誇る山、テンガン山っつー山に行きたかったけどよ、どこにあるのかわかんねーんだよ。 悲しいぜ。 とりあえずは、てな感じで歩いている。 で、いろいろな野生のポケモンを倒しては歩いたけどよ、最初はハネッコやコラッタ、メリープやエイパムだったけど、 次第にコラッタ、ドードー、ニドランとか、知らないポケモンとのバトルになってきたぜ。 え?なんで知らないポケモンの名前知っているかって? 簡単さ、シュン坊の膝の上で、よく勉強したんだからよ。 他にもいろいろ知ってるぜ。 ミュウツーとか、セレビィとかな。 細かくは知らないけどよ。 俺はいっつも、バトルになると頭突きで突進したり、噛み付いたりしている。 威力はないが、バトルをしているうちにだんだん強くなった気が・・・するな。 おそらく、れべるっつーのが上がったらしい。なにも、ゲームじゃねぇんだから。 シュン坊も、俺のことを愛しているなら、バトルをして欲しかったぜ。 あ、愛しているからバトルしねぇんのか。そうかそうか。 俺は、その浜辺に、ちょうどいい大きさの岩があったから、そこに腰をかけた。 夕日が沈んで行き、水面に茜色が反射する。 それに加わり、波がくるからかなり綺麗だぜ。 ぐるるるる 腹空いたぜ。なに食おうかな。土ばっか、飽きたし。 とかいっても、周りに木の実なんかあるわけ・・・―――? あった。 なんか、上手そうじゃないけど、匂いはいいもんだな。 全身が青色に包まれていて・・・・・・ ちょっと待てよ、これって確か・・・ “オレンの実”だった気がするな。 丁度これくらいの大きさで、青くて、いい匂いで。 しゃく 酸っぱくもなく、甘味控えめの美味しい味だな。 ただ、もうちょい熟していたらもっと美味かったかも。 なんか眠くなったし、もう寝るか。 近くに大きな葉っぱがあるな。丁度俺を全身包める程度の。 俺が旅立つ前までは、シュン坊と一緒に布団っつーモンに入って寝てたな。 これを布団代わりにするか。 なんか、“はいから”的な感じするな。 野生の身になっている俺が、布団掛けるっつーんは。 え?はいからの意味、違ぇか?いいじゃん。 くかぁー・・・ 〜〜〜 俺は、夜、シュン坊が寝たのを確認し、家を飛び出した。 ありきたりの毎日に、飽きたんだ。 俺は、最初は罪悪感が残った。 シュン坊のポケモンは、俺しかいないんだからよ。 だが、俺の夢、というよりわがままをたまには聞いてほしい。 書置きをしたかったが、流石に文字を書くことは無理だった。 夜は、警備が堅くなっているのだが、俺は意外にもノーマークだった。 シュン坊のポケモン、のことだけあるな。 俺の身体は硬いから、二階の窓から落ちても大丈夫だ。 シュン坊の部屋は、二階の奥部屋だから、広い。 窓が大きいのだが、開けることはなぜか少ない。 その窓を少し開けては、飛び出した。 だが、誤算だった。 俺の落ちたさきが、俺の苦手な湖だったとは――― どぼん 俺は、そこにいたヒンバスに助けてもらった。 「ヨーギラスじゃないか。どうした、家出か?」 このヒンバスは、なかなか俺のことをわかっていてくれて、いつも俺の味方なんだ。 得意の波乗りで俺を陸の方に運んでくれた。 「ま、坊ちゃんのそばにいると、だんだんマンネリになるしな。気をつけろよ。」 ヒンバスは湖から顔を出しては、温かい目で見送ってくれた。 周りのコイキングたちも、俺のことに気がついたのか、見送ってくれた。 「頑張れよ。びっぐな夢を、叶えろよ。」 「確か、進化するのが夢だったな。」 「いやいや、テンガン山に向かうんだろ。」 〜〜〜 俺の向かう世界は、大海だった。 井の中の蛙 大海知らず その“大海”とは、かなり惜しい世界だったぜ。 いつもは庭、部屋から見えるだけの世界だったのが、表に出ると鳥や、魚、陸ポケモンなどたくさんいて、全員が旅を温かく見てくれるかのように――― ・・・・・・ ムクッ 俺は、日の出が見えるくらいの早朝に目が覚めた。 昨日、おぼろげな月を見る前に寝たからなのか。 俺は、知らず知らずのうちに鉄人並のスタミナを得ていた。 休むことなく、何十キロメートルという道のりを歩いていたからだろう。 ま、これが岩ポケモンにとってはこれが普通なんだけどよ。 歩こう。 とりあえず、“男の勘”・・・なのか知らねぇが、テンガン山のある方角に歩く。 聞いた話だと、寒い地方にあるらしいから、とりあえず寒い方角に、とりあえず歩く。 俺のトレードマークは額の傷。メの字になっているんだけどよ、バトルで傷がついたんだ。 俺は、気がついたらトンネルまで辿り着いた。 車が中に入ったり、出てきたり。 本能的にこのなかを歩く。 ゴゥゴゥゴゥ・・・ 俺は、多分数キロは歩いた。 ・・・・・・・・・? あれ? トンネルを抜けると、さっきまでオニスズメが飛んでいたのがムックルに変わってきている。 ムックルて確か、ムクッとしてるポケモンだろ? これは確か、シンオウ地方に生息する・・・・・・! すると、もう少しなのか。 俺は、脳内のどこかに、熱いなにかが伝わった。 この込みあがる闘志・・・・・・ これこそ、俺の野性本能なのか。俺の進むべき道なのか。俺の・・・・・・ 俺の・・・・・・ 俺は、走り出した。 足はあまり速くないが、それでも俺なりに速く走った。 別に俺が望んで・・・なわけないのだが、本能的に走っている。 ・・・だが、不安な気持ちが脳内を巡った。 ――どこにいく・・・? そう、俺は、そのテンガン山への道や行き方など、何一つ知らない。 そう、都合よく地図なんざ――― ・・・? 俺の視線の先に、地図らしき、いや、タウンマップが・・・ あった・・・。こりゃあ、事実は小説より奇なり。こいつぁ便利だな。 ぴら 俺は、シュン坊と一緒に勉強していたお蔭で人間の言葉までわかるようになったんだ。 ほう・・・ こっから北へと歩くのか。 あ・・・あれか・・・ 俺が見えたもの、ここはテンガン山ふもとでないのに、テンガン山が見える。 方角といい、高さと言い、あっている。 ここまでデケェのか・・・ 俺は手を握り、思うが侭に走った。 走って、走って、走って・・・・・・ たまに、こけたこともあった。 たまに、道に迷ったこともあった。 たまに、水溜りに落ちたこともあった。 だが、俺は何処からでも見える山見て、その方角に走って行く。 “なぜ、そんなに走るの?” どこからか、そんな声が聞こえた。 高い、透き通っている声が。 俺は、そいつに返した。 《そこに、山があるからだ。》 “ふふふ。かわいいのね。” そいつは、俺に笑いかけた。 だが、俺はいたって大真面目だ。笑われる筋合いはねぇ。 《なにが可笑しい。男の夢に突き進むのは当然のことじゃねぇか。》 “別に焦らなくても、山は逃げないわ。焦らなくても、いいのに。” 俺は、確かにそうだな・・・と考えさせられたが、負けじと踏ん張る。 《夢は、いち早く現実にさせたいモンだろ。》 “ふふふ。『ユメ』っていうのはね、叶わないから夢なの。 将来の夢・・・とかだったらともかく、人生としての「ユメ」というのは、叶わないものなの。” 《おかしいのはてめぇだろ。夢を叶えさせるから生きるんだろ。》 “ふふふ。じゃあ聞くけど、ユメが叶ったあとの人生はどうなるの?どうするの?” ・・・・・・そうだ。 俺は、シュン坊の屋敷から飛び出した放浪モン。 それに、シュン坊の屋敷が何処にあるのかもわからねぇ。 帰り道がわからないし、叶えても別になにか起こるわけでもねぇ。 ・・・・・・ “誰にも、「ユメを叶えさせる」って頑張るんだけどね。叶ってもなにももらえないの。 叶っても、なにも得るものはないの。” 俺は、下を向いた。 「ユメが叶ったら、どうするの?」 俺の心に、酷く響いた。 ―――ユメってなんなのか・・・ “だけど、ユメというのは誰もが叶えさせようと努力するの。なんでだろうね。” 《・・・そこに、自分が見つかるからじゃねぇのか? 新しい、自分が見つかるから――》 “ふふふ。そうね。ユメっていうのは、自分が憧れるモノ、自分の目標・・・” “つまり、それはあなたの心のタカラなんじゃないかな?” た・・・宝か・・・。そうだな。そうかもしれない。 “心に宝を持つこと自体が、ユメなんじゃないかな?” “君の主は、悲しんでいると思うよ。あなたの主にとって、一番の宝が「友だち」「人生のパートナー」なんだから。” “誰もが考える「ユメ」というのは、もう実は開花しているの・・・・・・” “みんなの、心のなかでね―――” 〜〜〜 ガバッ ハァッ、ハァッ・・・・・・ ここは、どこなんだ? 青い、柔らかい布団・・・ 高貴な、優しい香り・・・ 心が安らぐ、不思議な空間・・・ 夢・・・・・・だったのか? いやいや、俺は確かに旅をしていた筈・・・ だが、いま腕をひねって(?)も痛い。 ・・・・・・なんだったのだろうか。 隣には、シュン坊が眠っている。 朝、ハネッコが窓の近くを飛んでは、ニコニコ笑っている。 温かい日差しが、窓を貫いて差し込んでくる。 俺は、なにがなんだかわからない。 だが、俺はわかったぜ。 “ユメ”とはなんなのか・・・てことをな! ムクッ・・・ おっと、シュン坊が起きちまった。 寝ぼけていても、愛くるしい表情で、寝癖の着いた髪の毛を手で押さえながら俺に顔を合わせて・・・ 「ヨーギラス、おはよう! 今日はなにして遊ぶ?」 宝、ユメか・・・ 確かに、俺はなににもおけない宝を持ってるぜ。 いま、開花したんだ――― おしまい ※これは完全なフィクションであり、人名、団体名など、現実のものとは全く関係ございません ※しかし、この主人公のユメ、タカラから感じた何か――― それはあなたの心に残り続けることでしょう。