「なぁ、ハク・・・」 「何?」 「お前、『最弱のハク』なんて呼ばれて、なんで怒らないんだ?」 私のバトル日記  〜ハクの怒り編〜 「そんな事を聞いたの?」 私は、ベンチで隣に座ってる、同じ年の男の子に言う。 彼はライガ。 黒系の服を愛着しているが、サラサラした銀髪に、青い瞳が涼しげで、クラスの女子の注目の的だ。 ポケモンバトルの腕も確かで、サンダースを使った、物凄いスピードのバトルをするため『光速のライガ』とまで呼ばれる。 私はアカリ。 そのライガと、互角に戦う事ができる。この町でもトップクラスの強さを持っている。 『百億万度のアカリ』とまで呼ばれて(呼ばせて)いるほどだ。 あ、足元で、ふせの姿勢で休んでるのは、私の相棒のブースター。 今は、練習のバトルが終わって、ベンチで小休止、というワケ。 バトルの結果? ・・・聞きたいの? 本当に聞きたい? ・・・・・・『今回は』負けちゃいましたよ〜だ! 「ああ。前々から不思議に思っていたんだがな。  ハクに直接聞く前に、他のヤツにも聞いてみたが、『知らない』って答えが返ってきた」 「ふぅん・・・で、ハクはなんて言ってたの?」 話題に上っているハクというのは、私の幼馴染で、やはり、私たちは同じ年だ。 この町で、最もポケモンバトルが弱いともっぱらの噂。『最弱のハク』なんていう異名まで持ってる。 私とライガとハクは、三人とも親しくしている。全然性格は違うが、何故かいい感じに付き合えている。 ライガは、ハクに「『最弱のハク』なんて呼ばれて、何故怒らないんだ?」とか「なんでそんな風に言われて、やめさせようとしないんだ?」と聞いたそうだ。 「『べつに〜、事実だから仕方ないじゃん?』だと」 ライガが、ハクの声マネをして言う。 ・・・あまり似てない。ていうか、無表情なライガがのんきなハクっぽい口調でしゃべると違和感というか・・・笑える。 「何笑ってる?」 どうやら、ほんとに笑ってしまったらしい。 私は、慌てて話を元に戻した。 「いや? それで?」 「『だったら強くなればいいだろう』と言ったら、  『ボクのちっちゃなプライドなんかのために、この子(ハクのトゲチックだろう。多分)をケガさせたくないんだ』と言った」 「ハクらしい答えね」 私はその答えに笑った。いかにもハクらしい。 「確かに、言ってることは理に適ってるんだがな。あいつはポケモントレーナーになって身を立てていこうとか考えてないし」 ポケモントレーナーとは、ポケモンを鍛え、戦わせる人や職業の事だ。 ポケモンバトルは、いわば、スポーツのような娯楽みたいな感じになっている。 プロの人でなくとも、趣味でバトルする人も多いし、何よりも、野生ポケモンがでる町の外では、多少の実力はないと辛い。 ケンカ等でポケモンバトルをするような輩もたまにいる。 「だが、あいつはアレでいいのか? 最弱なんて呼ばれて?」 「いいんじゃない? ハクが苦痛に思わなければ」 「確かに、苦痛に感じてるようには見えないな・・・。  そういえば、ハクが怒ったところなんて見たことないな」 「あなたはまだこっちに引っ越してから1年もたってないもんね」 「確かにそうだが、実際怒る事なんてあるのか? あいつに?」 「あるわよ? そりゃあ、人間だもん」 「そうか・・・」 一泊おいて、私からライガに聞いた。 「ライガが色々聞くなんて珍しいわね? どういう風の吹き回し?」 「別に・・・単純に気になっただけだ」 「そ☆ じゃ、昔話でもする? ハクが珍しく怒った日の事」 それは、私が9歳で、ハクが確か8つだった時・・・。 ――ちょっと待て、三年も前の話か。もっと最近の出来事とかないのか? ・・・そーいえば、ハクが怒るとこ、ここ一、二年見てない気が・・・。 ま、話を戻しましょ。 その時は、私のブースターがイーブイで、ハクのトゲチックがまだ卵からかえってなかったのよね。 他の子のポケモンはもう生まれてたか、もしくはもうすでに生まれたポケモンを親とか、 この町の博士(サンダース偏参照)からもらってたんだけど、ハクのだけ、まだ卵からかえってなかったのよ。 で、 「なんだよー? お前のポケモンまだ生まれてこないのかー?」 「そんなのメンドイから、割っちゃえ!」 とか卵を大事にするハクにヤジが飛んでたんだけど。中には 「お前がトロい性格だから、卵もうつっちまったんじゃねー?  そんなの捨てたらどうだ?」 なーんて言うヤツも居たんだよね! ――で、ハクはどうしたんだ? そしたら、なんて言ったと思う? 一泊の間を置いてから、 「捨てないよー。もうすぐ生まれてくるかもしれないし。  それに、ボクの性格がうつったんなら、ボクと気があう友達になるじゃん♪」 ・・・だって。これには驚いたわ。私も、あんな事言ったヤツも。 ――って、待て。ハクが怒った日の話じゃなかったのか? 怒ってないだろ? まぁまぁ、それはこれから。 ハクも昔っからかなりスットボケた性格しててさ。イジワル言う人はハクのスットボケぶりに皆撃退されてたのよ。 ハクが撃退できなかった場合は、私が落とし前つけて上げたけどね。 ま、それから1週間ぐらい立ってからね・・・。 ――1週間後かよ!? 今までの今までの話はなんだったんだ? ま、前振りよ前振り! 当時のハクも今のハクも大して変わってないって言うか、それの解説。 これからのハクは、「それ、ホントにハクか?」とか言わせる行動にでるんだから。 ――(年寄りかお前は!(=年寄りは話が長い))・・・それで? 話続けるよ? そんなことあってから一週間後ぐらいだったかなぁ、やっとハクのポケモンの卵がかえったのは。 もちろん、トゲチックの進化前のトゲピーね。その時のハクの喜びようはすごかったわ・・・。 当時のハクはポケモンをモンスターボールに入れるという概念がなくってね。 ――今もそんな概念はないと思うが ・・・それは置いといて。 嬉々としてトゲピーを抱いてたわね。 それにトゲピーって可愛いじゃん? そらもー注目の的でさ。 特に女の子たちが抱きたい抱きたいって。もちろん私が一番最初に抱かせてもらったんだけどね。 ――まだ話が見えてこないのだが? これからよ。これから。 女の子たちが、集まったおかげで、トゲピーが疲れちゃったと判断したハクは、 とりあえず、女の子たちに謝って、公園のベンチ、・・・つまり『ここ』に腰を下ろしたの。 そしたらね・・・。この前、『捨てたらどうだ?』なんて言ったヤツが来たわけ。 「そんなポケモンのどこがいいのか・・・。卵の殻に閉じこもったできそこないじゃないか」 ハクは、トゲピーに、ポケモン用のミルクを上げていた手を止めて、そっちに見上げた。その子は続けた。 「そんなできそこない。何の役に立つんだ?  そんな小さな手で、バトルできるか? 爪も牙もない。全くの能無しじゃないか」 「ちょっ・・!」 ありがちな考え方だけど『ほんとの事言って何が悪い』って考え方のヤツね。 今でも時折、気分が悪いと、そういう事言うヤツだけど・・・。 私が何か言おうとしたら、ハクが手で制したの。 ハクは、何か言おうとしたが・・・。トゲピーの、泣きそうな鳴き声を聞いて、やめた。 生まれたばかりのトゲピーでも、わかったのだろう。相手が、自分を傷つけるような事を言ってるという事に。 後々、わかった事だけど、トゲピーというポケモンは、人の気持ちを敏感に察知する能力があるそうだ。 おもむろに立ち上がったハクは、凄い剣呑な雰囲気を出してたわ。 「な・・・なんだよ?」 「トゲピーに・・・謝ってもらう」 それは、今までのハクとは違う。その様に感じた。 「お、俺はほんとの事言っただけだぞ・・・!」 「そんな事は、どうでもいい・・・。とにかく謝れ。  トゲピーが、泣きそうだから・・・」 そして、私の方に振り向いて。 「とりあえず、離れて。トゲピーが泣かないように」 「え・・・ええ」 急に言われて、私は驚いたけれど、確かにトゲピーが泣きそうな表情を見せていた。 ここにいては確実に泣くと判断した私は、ベンチから立ち上がって、その場を離れる。 男の子は、調子を取り戻したのか、また言葉を吐く。 「なんで俺が謝らないかんのだ? 俺は間違った事言ってないぞ」 「間違った事でも、言っていいことと悪いことがある」 そして、ハクは、相手の胸倉をつかんだ。 「謝るまで、帰さないよ?」 「は、離せよ!」 相手は無理やり引き剥がそうとして・・・あっさり離れた。 ――あっさり離れたんかい!? だけど、今度はハクは左手で掴む。 「離せって言ってるだろ!」 「謝れって言ってるだろ!!」 相手の言葉より、更に大きな声で、言い返す。 「・・・ハク、お前は・・・本当にハクなのか!?」 まったくの同意見だったわ。 ハクは、昔は、泣く事はあれど、怒る事はなかった。 ・・・あの性格のせいで、泣く事自体、珍しかったけど。 「ハクだよ。ボクは。分かりきった事言ってるんじゃない」 その表情は、普段のハクとはかけ離れた、真剣の表情。 私自身、始めてみる顔かも知れない。 相手は、そうとう怖いと思ったようで、微妙に声がどもっていた。 「は、離せ!」 今度は、中々離れない。離れないものだから、相手は思わずコブシを振り上げて・・・。 ハクの顔に当たった。 「この・・・!」 ハクがお返しにボディ・ブロウ見舞う。 片手で、相手の胸倉を掴んでいるハクの方が、不利だったけれど、決して手を離さなかった。 そのまま、乱闘騒ぎになって、ついに、相手がモンスター・ボールを手にかけて、ポチエナが現れて、ハクに噛み付いた。 思わず、私がイーブイで加勢したんだけど、それがマズかった。 ポケモンバトルするには、もっと近づかなくてはならない。 そのため、大声で、殴り合ってる声を聞いて、とうとうトゲピーが泣き出すわ。 ハクと殴り合っていて、ポチエナに指示を与えられなかったから、楽勝だったけれど、本当に大騒ぎでね・・・。 周りの人とかが、止めようとしたのか、騒いでたのか・・・よくわからなっかったけど、かなり大変な事に。 結局、後々事情を知った『3人』の両親が、皆子供をつれて、謝罪をして・・・。 ――アカリも謝ったのか まぁ、ね。 これで、私の話は終わり。どだった? 「あのハクが、殴り合いまでするとは・・・  いや、むしろハクらしいかもしれんな」 話を聞いたライガが、そう口を開いた。 「自分の事ではなく、トゲチックの事であそこまで怒るとは・・・ヤツもトレーナーという事か」 そう、ライガが言った・・・。 確かに、そういう意味では、ハクも立派なトレーナーなのかもしれない。 ・・・バトルの実力はともかくとして。 「・・・しかし、ヤツが、自分の事で怒ることはないのか?」 「へ?」 私は、ライガの質問に、反射的に疑問符を出した。 「いや、そもそもの発端は、『ハクが最弱と呼ばれて、なんで怒らないのか』という事ではなかったか?」 確かに・・・。 「そ、そーいえば、ハクが自分の事で怒ることは記憶に無いわね・・・。  あの頃より小さい頃は、怒るより泣くタイプだったり・・・  そもそも、あの性格だから、泣くこと自体少なかったし・・・」 「そうか・・・ある意味、最強かもしれんな・・」 「最強?」 ハクが? 「ま、それよりも、バトル再開と行きましょ! ちょっと休みすぎかもしれないし」 「・・・お前のポケモンは寝てるが?」 「え?」 見ると、あまりに退屈すぎたのか、私のブースターはぐぅぐぅ眠っていた。 「ブースター! おきておきて! バトル再開するよ!!」 ブースターは、あくびしながら、起き上がる。 「よし! いくよ! ブースター!」 そう言うと、私の相棒が、バトルスペースへと走っていく、 ちょうど、誰も使っていない。 今度こそ勝つ! 私もバトルスペースに走った。 後ろから、ライガが歩きながら、 「あわてるな。冷静さがないと、オレには勝てんぞ」 そんな事を言う。 彼の相棒が入ったボールを握り締め、バトルフィールドの私とは対極の位置に向かう。 「言ったわね! 今度こそは勝つんだから!」 「また、ずいぶんと古い話をするなぁ・・・」 ベンチの後ろの大きな木、その中ほどの枝に、黒髪の少年が腰を下ろしていた。 その髪は、寝起きのように、乱れていた。 トゲチックが髪の毛をいじくりまわすから、このような髪型になっているのだ。 もっとも、彼はそのような事を気にするような人ではないが。 盗み聞きするつもりはなかった。 だが、飛行タイプのトゲチックと、高いところでおやつを食べていたら、アカリが語り始めたのだ。 「ね。トゲチックは、覚えてる? あの時の事」 彼の近くいる、羽を動かさずに浮遊しているトゲチックに問いかける。 トゲチックは、かわいらしい鳴き声をあげて、首をひねった。覚えてないらしい。 「そっか」 あんな生まれたばかりの事、覚えて無くても無理は無い。 彼は言葉を続けた。 「単に、最弱なんて、全く気にしないから怒らないんだけどなぁ・・・むしろ、称号と化してるし」 そう言って、笑った。 すっかりぬるくなってしまったココアをグビっと飲み干して 「さて、アカリたちの審判でもするかな?」 そう言って、木から降りようとする。 アカリたちに審判なんて不要だが、バトルの後での、3人での語らいが気に入っている。 さて、今度はどんなバトルをみせてくれるやら・・・。 「う、うわっ!?」 バランスを崩した。 く・・・木に上る事は三桁。木から落ちることは99回! 三桁に突入してたまるか! そう思うも、バランスを立て直せずに、派手な音を立てて、地面にキスをした。 その上では、トゲチックがやれやれと首を振っていた。 おしまい。 ※補足説明。 ボクのポケモン日記 〜トゲチック編〜でハクが怒ってたじゃないか。 と思う方もいるかもしれませんが、怒ったところをアカリは見ておりません。 アカリが現れたのは、ハクが落ち着いてからです。