My トゲチ     学校中がさわがしい、給食の時間だから当然か。  皆、グループごとに席を寄せ合いペチャクチャとしゃべりながら給食を食べている。 「なあ、お前はだれだと思う?」 「う〜ん、シンタロが強いと思うけど」 ボクは、自分のポケモン、トゲチックにポケモンフードを食べさせながら答えた。 ボクたちのグループで話してるのは、『このクラスで最強はだれか』ちなみに、ポケモンバトルで。 5年生ぐらいになると、ポケモントレーナーとして旅に出る者もいる。だから、こうして最強の人はだれか?というのが話題になる。 「そういや、お前、このクラスで1番弱いってウワサ、ホントか」 「えーーっ!一体だれがそんなことを」 ボクは思いっきしおどろいた。モーモーミルクを飲んでいたら、はでに吹きこぼしていたにちがいない。 「少なくとも、最弱じゃないと思う…」 だれがウワサをながしたか、教えてくれない友達に、ボクはあまり自信のないことを、自信なさそうに答えた・・・。 「最弱はひどいよねぇ、トゲチック」 「ちょっき!ちょっき!!」 ファイト!ファイト!!だって、 「ありがと、トゲチック」 給食やそうじが終わり、5時間目をまっているところ。  しかし・・・、とボクは考えた。 10歳になったということはポケモントレーナーとして正式に認められたということだ。 10歳になって旅にでた人もけっこういるし、このクラスにもジムにかよっている人もいる。 週に1,2度のしかトレーニングしていないしバトルもほとんどしない自分とは大違いだろう。 まあ、ボクはバトルはあまり好きではないが、今のままでは、町の外に出る時とかにたよりないものがある。 ガラガラガラ!! 「ぷりーん!」 教室のまどがとつぜん開き、風船ポケモン・プリンがあらわれた。そして、 「ぷーぷるるーるー・・・・・・」 歌いだした。 「トゲチック!神秘の守りを!」 「ちょっき!」 トゲチックは急いで神秘の守りを張る。  クラスメイトたちが、プリンの歌の力により次々に眠りに落ちる。 ボクとトゲチックは神秘の守りによって守られているので効果はない。  1曲歌い終えたプリンが教室の外に出て行った。 「なんだったんだろ、あのプリン」 ボクは独り言のつもりで言ったんだけど・・・。 「追いかけてみよう」 「そうね、ここに居てもしかたないし」 「うわぁ!!」 突然後ろから声がしたのでおどろいた。振りかえるとそこにいたのは、クラスメイトのシンタロとアカリだった。 「あっ、ゴメーン!おどろかしちゃった?」 「あの時、とっさに神秘の守りの中に入れさしてもらってね」 「じゃ、外行こか」  後ろの2人が口々に言う。  ボクは2人といっしょに教室の外にでた。 別に追いかけるのは2人ににまさせて、他のクラスメイトを起こしてもよかったけど、だれがこんなイタズラをしたのか興味があった。 しかし、犯人はとんでもない人だった。それは・・・ 「なんだ、3人もおきていたのか」 「ロケット団!」 ボクたちのハモッた声のしめすとおり、ロケット団だった。しかも、プリンをモンスターボールにしまってる!  ロケット団とは、この世界で一番知られているいろんな意味で謎の悪の組織だ。 「全員ねていれば楽だったものを、ペルシアン、行け!」 ロケット団はそう言い、シャムネコポケモン・ペルシアンをボールの外へ出した。バトルでケリをつけようというのだろう。 「お前のようなヤツに、負けてたまるか、行ってくれ!ブースター」 「おねがい、ニャース」 シンタロは炎ポケモン・ブースターを、アカリは化け猫ポケモン・ニャースを出した。 さすが最強こうほの2人、たのもしい! 「ブースター、火の粉!」 「ニャース、猫に小判!」 「あまい!ブースターをきりさけ!」 火の粉と小判が同時にペルシアンをおそった。 しかし、ペルシアンは高々とジャンプし、こうげきをかわした。そして、落ちてくるスピードを利用して・・・ スバァッ!! するどいつめでブースターをきりさいた。 「ペルシアン、次だ」 シュシュッ!! ロケット団の声にしたがい、ニャースにたいして小判を投げつけた。 ブースターもニャースも鳴き声をあげてたおれた。シンタロとアカリがポケモンのもとへかけよる。 「さあ、次はどうする?」 ロケット団の余裕シャクシャクといった感じの問いかけに、2人はポケモンを抱きかかえたまま、何も言わなかった。 「勝ち目はないと悟ったか、それとも、ポケモンがもういないのか、どちらにしろ、きさま等のような学生などには負けん」 ポケモンがいないわけではない、シンタロはイーブイをもっていたし、アカリはあと5匹も残っている。 勝ち目がないのだ。ボクたちのように、シュミでポケモンしてるポケモン好き好き人間程度では、 ロケット団のようなポケモンを仕事(それも、悪い仕事)してる人にかなうわけがない。 「さぁ、残りは、お前ひとりだ!」 トゲチックに2つ目のディフェンダー(ポケモンの防御力を上げる道具)を使おうとしていたボクにロケット団は言い放つ。  じりじりと、近づいてくるロケット団にあわせて、あとづさりするボク。 「やめにしましょうよ、こんなこと」 「・・・・・・・・・」 「こんなことしても、だれもよろこびませんよ」 あとづさりしながら、こんなことを言い、ディフェンダーを使うボク 「命乞いか、それとも、時間稼ぎか、どちらにしろ、もう少しすなおにするんだな」 あう、思いっきしバレてた?うう、どうしよう。  しばらくの間あとづさりしていた、思いっきしダッシュして逃げたかったケド、ペルシアンがいるから逃げられないだろう。 「ちょっき!!」 いっしょにあとづさりしていたトゲチックがいさましく(?)前にでた。 「た、たたかうの?」 「ちょっき!」 「トゲチックか、初めてたたかうな、ペルシアン!けいかいしろ」 「にゃあ!」 シンタロとアカリはいつの間にかいなくなってる。にげた?ってことは1対1?なんて考えたが、今はバトルに集中しなくては! 「トゲチック、あまえる!」 あまえるとは、かわいくあまえて、敵の戦意を失わせるワザだ。 トゲチックはかわいい仕草で間合いをつめ、ペルシアンにあまえた。 「ふにゃ〜」 トゲチックにあまえられて、困ったような声をあげるペルシアン。 「ペルシアン!!」 ロケット団の大声にペルシアンが『ビクッ』としたのが見えた。 「トゲチック、急いでそいつからはなれて!」 「そいつをひっかけ!」 トゲチックは、ペルシアンの行動の開始がおくれたおかげでなんとか攻撃をかわした。 「間合いをとって、天使のキッスを!」 後ろに空中移動したトゲチックはボクのほうに着地し、投げキッスをした。 このワザをうけた相手は普通、混乱してしまうのだが・・・ 「ペルシアン!!」 またもや、ロケット団の大声にペルシアンが我にかえった。 「指をふって!」 トゲチックがゆっくりと指をふりはじめた。  指をふるというのは、全ポケモンのワザの中から、ランダムに1つ発動するというバクチワザだ。 本当は、こんなワザ使いたくないけど、ボクのトゲチックはこのワザでしか攻撃できない! この時、ボクは知らなかったんだケド、トゲチックはワザマシンを使わないかぎり、高いレベルのものでないと、『指を振る』以外の攻撃ができないらしい。 「猫に小判!」 ペルシアンが小判を投げたのとトゲチックの指が光輝いたのは同時だった。 しかし、ペルシアンの攻撃はあたらなかった。 「はねる・・・」 そう、コイキングのはねるで小判をかわしたのだ。そしてはね終わったところで、 「もう一度、指をふって!」 「おそい、ペルシアン、きりさけー!!」 ズバッ! こちらが指をふり終わる前に、ペルシアンが、するどいつめできりさいてきた。 「そいつからはなれるんだ」 「おまい、おいうち!」 ボクは、接近戦では勝ち目がないと思ったが相手に読まれていた。 ガスッ! 「トゲチック!!」 派手にふっとんだトゲチックをキャッチした。 「おわりだ、そいつをこっちにわたしてもらおう」 「イ、イヤだ!」 「そうか・・・。ペルシアン!」 「うわぁ!」 ペルシアンのひっかきこうげきをボクはすんでのところでかわした。 「よくかわしたな。と言いたい所だが・・・。フッ、今のはワザと外したのだぞ。しかし、次はそうはいかん」  うそを言うな、外せなんて言ってないだろ。なんて思ったが思うだけにしとく、ボクはトゲチックを見た。 つめでひっかかれた所が痛々しい。きぜつしたわけではない。痛そうに顔をゆがめていた。 ロケット団が1歩近づいてきた。ボクが1歩さがる。しばらくそんなことが続いた。 いいかげん、ペルシアンをけしかけてくるだろう。そう思った時、 「ちょっき〜〜!!」 突然、トゲチックはボクのうでからはなれ、空中にうかびあがった。 「ちょ〜〜・・・き!!」 そして、方向転換して、ペルシアンにタックル!そのスピードは、今まで見てきたトゲチックからは想像できない速さだった。 ペルシアンは、ふっとび、カベに背をぶつけてきぜつした。トゲチックはペルシアンがいた所で目を回してきぜつした。 「トゲチック!!」 ボクは再びトゲチックをだきかかえた。 「ありがとな、トゲチック。モンスターボールの中で休んでてくれ」 「・・・キサマをあなどった。まさか、すてみタックルをつかえるとはな」 ボクはおどろいた。ボクのトゲチックすてみタックルなんて、ハイレベルな危険なワザをつかったことに。  すてみタックルとは、レベルの高いポケモンと、レベルの高いトレーナーがそろわないかぎり、なかなか見られるものではない。 「だが・・・オレの勝ちだ!まだ、オレには、5匹もポケモンが残っているのだからな!」 「それはどうかな?」 ロケット団の後ろから声がした。こえの主はシンタロだった。 その後ろには、それぞれじまんのポケモンをつれた眠らされたはずのクラスメートがいた。 「これだけの数を相手にできまい。」 「フン、ザコが何人いたっていっしょだ!」 「それはどうかしら。」 こんどは、後ろから声がした。後ろをみるとアカリと先生がメガニウムをつれて立っていた。 「ゴメンなさいね。他のロケット団をしばりあげるのに、てまどちゃって」 そう、先生はボクに言った。  5分後、ロープでぐるぐる巻きにされたロケット団がいた。 ピーポーパーポー・・・  その後、警察がロケット団(たしか7人)をつれていった。それを見送った先生は、何事もなかったように授業をはじめた。  これは、ボクのトゲチックが最初で最後にすてみタックルをつかった話である。  余談だが、授業は算数のテストだった。みんなが、「えーー!」と言った時、ぼくは(こういう非常事態なら大かんげいなんだけど・・・)とおもった。                     おしまい