オレのポケモン戦闘記  〜トゲチック編〜 「・・・なんでお前がここにいる?」 「それは、私のセリフでもあるんだけど」 オレは目の前にいるアカリに問い掛けた。 アカリの特徴は、金髪に、赤みのある茶色の瞳で、暖色系の服をよく着ている。 そして、彼女のパートナーとも言えるポケモン。ブースターをいつもボールの外に出している。 『百億万度のアカリ』という異名を持っている・・・らしい。 と、話がそれた。なぜ、あのような会話があったかと言うと、 オレは今日、自分の町ではなく、隣の町まで来ていた。 目的は、いつもとは違うトレーナーとバトルしようと思って、遠出したのだ。 で、目の前にいるのは、いつもオレと対等にバトルしている、ライバル的な存在だ。 なぜ、隣の町で、こいつに会うんだ? 「なんでって、たまには隣の町のトレーナーとのバトルもいいかなぁって、  いつも同じ人とバトルするのはよくないし。ライガは?」 同じ理由か・・・。 おっと、オレはライガ。 サンダースをメインに使い、素早いバトルを得意とする事から『光速のライガ』との異名を持つ。 外見は、銀髪に青い瞳で、黒系の服をよく着ているな。 「同じだ。オレもたまには違うトレーナーと戦おうと思ってな」 「ふ〜〜ん・・・、ま、いいわ。せっかく会ったんだし、バトルよ!」 「なんで隣町まで来て、お前とバトルしにゃならんのだ!」 ったく、言ってることが矛盾してるぞ・・・。 そんな事を言っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。 「アカリー! 大変大変!!」 そう言って、ダッシュでこちらに向かってくるのは、やっぱりハクか。 黒髪に、適当な服を着たヤツで、なんか、のほほんとして、よくわからんヤツだ。 だが、今は、慌ててるみたいだな。 「あ、ライガ! どうしてここに?」 「それは、こっちが聞きたい」 「私に付いてきたのよ。私たちの町には置いてない物が買いたいけど、自分だけじゃ隣町にいくのが不安だからついてっていいかって」 「なるほど・・・」 ハクは、確かに隣町に一人で行くのは苦しいだろう。 隣の町とはいえ、いく途中に野性ポケモンと出くわしたりする。 『最弱のハク』とまで呼ばれているヤツなのだから。 まぁ、ハクはバトルで強くなろうとか、そういうことをカケラほども思っていない。だから、この異名も気にしていない。 アカリが、ハクに問い掛けた。 「で、何買ってきたの?」 「え〜っと、小説『バトルガールとノーバトルボーイ』ってのとポケモンパンと、市販ポロックと・・・」 と、背負ってる買い物袋に入っている物を挙げていく。 こいつ、さっき大変とか言ってなかったか? あの慌てぶりはなんだったんだ? 「おい。それよりなにが大変なんだ」 「ああ! そうそう、トゲチックが行方不明なんだよ!!」 そう言えば・・・、コイツがいるところに、必ずトゲチックがいたよな・・・。 何かがたりないと思っていたが、トゲチックだったのか・・・。 実際、コイツのトゲチックに、オレはあまりいい思い出はない。 まぁ、ここでは触れないが、トラブルメーカーとだけしておこう。 アカリが口をはさんできた。 「行方不明? アンタのトゲチックいっつもフラフラ飛び回ってるじゃん。気にしなくていいんじゃない?」 「ちがうよ! ボクらの町だったらほっといても構わないんだけど、別の町に来るとすぐ迷子になっちゃうんだよ!」 だったら、連れてくんなよ・・・。 オレは、いってもムダだとわかっている事を、心の中で言った。 コイツのトゲチックへの愛は半端ではない。今までの付き合いでじゅ〜〜〜っぶんにわかっている。 多分それは、アカリとて同じだろう。 「とにかく、探せばいいんだな。そういえば、ジグザグマはどうした?」 「え? 一応連れてきてるケド?」 「まさかとは思うが、トゲチックと一緒に行動させたりしてないよな?」 「え〜? 違うよ。ちゃんとボールの中にしまってあるよ」 ほう。コイツに、ポケモンをモンスターボールにしまうという概念があるとは知らなかった。 いつも、トゲチックを放し飼いにしているし、ジグザグマは、オレがはじめてあった時には、ハクの家で、お留守番をしていた。 ジグザグマは、好奇心旺盛なポケモンだ。あんなのを外に出したら、あっちこっち行って、迷子になる可能性100%だ。 「この前連れて歩いたらさ、何時の間にかいなくなって、探し回るの大変だったんだから」 経験済みかよ!! また、心の中でツッコミを入れる。 ハァ、流石、最弱のハクといった所か・・・。 「とにかく、トゲチックを探せばいいワケね」 アカリが、ハクが何を言いたいのかをまとめた。 仕方あるまい。いくらトゲチックがトラブルメーカーとは言え、ほっとくわけにはいかないからな・・・。 トゲチック捜索は、意外に順調だった。 とりあえず、三人が、バラバラに分かれて捜索する事になって、今はオレ一人だ。 適当に、道行く人に聞くと、3人目で、トゲチックを見たという事を聞けて、どっちいったか聞いて、またその先で聞いて・・・と、 イモずる式に、順調に進んでいく。 と、何度目かの分かれ道の所にいたのは・・・アカリだ。 なにやら、タイヤキを売っている店で話し込んでいる。 「あの〜、ここら辺でトゲチック見ませんでした?」 アカリの声を聞く限りでは、オレと同じ事をしていたらしい。 アカリの敬語なんて珍しいな・・・、そんな事を思いながら、そちらに歩いていく。 「あ〜、トゲチックね・・・。見かけたなぁ・・・」 店の人が、そんな事言った所で、ちょうどオレが入ってきた。 「あら、ライガ、そっちの調子はどう?」 「聞き込みながら、こっちのほうへ来たんだ。トゲチックはどっちへ行った?」 言葉の最後のほうは、店の店員に聞いたのだが・・・後悔した。 見るとその店員は、いかにもヤクザですって感じの強面の顔をした、いかついオヤジだった。 ご丁寧に、ほおに切り傷までついている。 ハッキリ言って、コイツ相手にタメ口を叩けるのは、かなりの度胸を持っているか、ただのバカだろう。 バトルには、絶対の自信があるが、バトルで勝てばイイという状況でもないしな。 「ん〜、確かにどっちに行ったかまでは見たんだけどなぁ・・・  イマイチ思い出せないんだわ・・・、何かキッカケがあれば思い出せそうなんだがなぁ・・・?」 そう言って、アカリに意味ありげな視線を向けた気がするが・・・、気のせいか? 「そ、そう、なんとか思い出してくれませんか?」 「ん〜、もうここまで来てるんだがなぁ・・・」 そんな、たよりない事を言うヤクザの店員。 と、そこへ、トゲチックの持ち主が入ってきた。・・・ハクだ。 「ここら辺で、トゲチック見なかった?」 ハクは、何も考えていないのか、目が節穴なのか、そんなフランクな言葉で男に問い掛ける。 「ん〜、さっきから、そちらのお二人さんにも聞かれてるんだが・・・  イマイチ思い出せなくてなぁ・・・、キッカケでもありゃ思い出せそうだが・・・」 「ふ〜〜ん・・・、ところで、おいしそうなタイヤキだね。三つちょうだい」 「ヘイ、毎度! 315円になります  あ、そうそう、トゲチックは、右側の方へ行ったぜ」 「アリガト〜」 そこで、ハクがサイフを取り出し、ガチャガチャとサイフの中身を調べ始める。 「あ、ライガ。100円貸してくれない」 「何故オレが・・・」 そう言いつつも、しぶしぶ、100円玉を取り出す。 まぁ、情報を聞き出せたんだから、まぁイイだろう。 オレたちは、情報を聞き出したからには、とっととその場から立ち去った。 それにしても、ハクって一体・・・? そう思ってると、アカリがハクをジト目で見ながら一言。 「ハク、アナタねぇ・・・、映画の見すぎなんじゃないの?」 ・・・全くの同意見だ。 オレたち三人は、あれから、順調に、トゲチックの足跡を追っていった。 ハクに、なぜあの時、オレに金を借りたのか聞くと、合流する前に、トゲチックがアメ売りからアメをもらったり、 たこ焼き屋から、たこ焼きをもらったり、駄菓子屋さんから(以下省略)でお金がほとんどなくなったそうだ。 ・・・あわれなヤツ・・・。 と、そんな事は置いといて、オレたちは、ついにトゲチックを見つける事に成功した。 すでに、町から出たところで、町から、そんなに離れていない場所だ。 そこで、オレたちは、信じられない物を見た。 まず、バナナが地面に置いてあって、木の棒が立ってて、ヒモがついている。 で、ザルが被さっていて、ヒモを引くと、ザルが被さってバナナと、バナナを取ろうとしていたヤツが捕まるという古典的な罠だ。 ヒモの先には、草の陰から、アヤシさ全開で、眺めている。怪しいヤツらの目が二組。 実にバカバカしい罠だ。 で、今そこでその罠にかかろうとしているマヌケがいる。トゲチックだ。 オレたちは、恐らく全員ボーッとしていただろう。多分ハクも。 現に、トゲチックに再開したのというのに、ハクは何も言っていない。 ハッとなったハクが声を上げる。 「トゲチック!!」 が、遅い! すでにトゲチックはバナナを手に取った後だ。 木の棒についたヒモが引っ張られ、ザルがトゲチックに覆い被さる。 突然の自体に、トゲチックは混乱したのか、ザルの中で暴れまわっている。 どうやら、あのザルは、意外と重くなっているようだな・・・、そうじゃなかったら、トゲチックの飛行能力で持ち上げられるハズだ。 と、向こうの怪しい人影の片方が立ち上がり、姿を見せた。 「やったぜ! うまくいった!!」 どうやら、それは、オレたちより少し年下・・・9〜10といったトコか。 と、今度はハクの発言。 「あの〜、そのトゲチック、ボクのなんだけど・・・」 「知るかよ。そんなモン。俺たちの邪魔をするのかよ」 「だけど、ボクのポケモンだよ」 アイツらは・・・、ウワサがあったな・・・。 「ムダだ。ハク。そいつらには、多分、正論は通じん」 「ライガ? あの人たち、知ってんの?」 「なんだよ。お前等は?」 オレとアカリの言葉に反応して、相手の男が反応する。 「ウワサぐらいは聞いたさ。ロケット団にあこがれてる、酔狂でヒネたガキってのはお前等の事だろ?  ソコに隠れてる、お前もな」 「なんだ。バレてたのか」 もう一人も、草の陰から、姿を表す。 バレないとでも思ってたのか・・・? いたずら好きで、迷惑千版で、ロケット団にあこがれてて、しかも親が放任主義で手におえないという二人組みだそうだ。 バトルの実力のほどは、二人でかかられると厄介と聞いた。 ダブルバトルの場合、オレには関係無い事が多い。 オレはサンダースとアリゲイツを持っているが、サンダースは横槍とか、そういうのがキライでダブルバトルをしたがらないからだ。 「あ〜、そういえば、そんな事言ってたトレーナーがいたわね」 アカリも、町で聞いたのか、そんな反応する。 「だったら、わかってるだろう? 俺たちの邪魔をするんなら、容赦しないぜ」 「お前らの邪魔する気はサラサラない。だが、オレたちの邪魔をするなら、こちらだって容赦しない!!」 オレは目を細め、相手をにらみつける。 「トゲチックは返してもらうわよ! それは、ハクのポケモンなんだから!!」 アカリは、いつでもバトルに入り込めるように、身構える。 アカリの足元に控えている、ブースターもやる気だ。 ハクは・・・ジグザグマでバトルする・・・わけないな。『最弱のハク』だし。むしろ足手まといになる。 「それは、結局、邪魔をするってコトじゃないか!!」 「当たり前でしょ! むざむざ、抵抗せずに、トゲチックをあきらめるわけないでしょ!!」 相手の言葉に、アカリがほえる。 「チッ、オレたちに敵対した事、後悔させてやる!」 片方がそういうと、二人はボールを取り出した。 ダブルバトルのはじまりだ。 「ブースター!!」 「マタドガス!」 「ハブネーク!」 「アリゲイツ!」 それぞれが、ポケモンを出して、今、バトルがはじまった。 「アリゲイツ! 凍える風!!」 オレの使う、二足歩行するワニのようなポケモン・・・アリゲイツが、口から、冷気を吐き出す。 冷気は相手の動きを鈍らせ、氷の粒がダメージを与える。が、所詮、氷系のあまり強くない技。ダメージは少ない。 アリゲイツはオレの主力のポケモンじゃない。そのため、今回はアカリのサポートに回るつもりだ。 「ブースター! マタドガスに突進!!」 アカリの指示どうり、マタドガスに一直線に突進し、大きな打撃を相手に与えるブースター。 攻撃ばっかりの、単純なヤツだが、攻撃力だけなら、目を見張るものがある。 「ハブネーク! ブースターにポイズンテール!!」 「遅い! 水鉄砲で妨害しろ!」 正確には、凍える風の効果で、『遅くした』のだが。 ともかく、ブースターに狙いを定めていた、相手のハブネークは水鉄砲の餌食となり、攻撃を中断せざるを得なくなった。 「サンキュー、ライガ」 「よそ見するな! マタドガスの自爆技は強力だぞ!!」 オレは、アカリの声に取り合わず、忠告だけする。 アカリは、ポケモンをブースターしか持ってないからな。ダブルバトルの心得がないはずだ。・・・オレもないが。 「そんなの、まだ使うわけがないだろ! マタドガス、ヘドロ攻撃!!」 「ゲッ!」 マタドガスはヘドロを吐き出して攻撃してきた。アカリのブースターは、よけようとしたが・・・右の前足に食らってしまう。 コイツのヘドロは毒を持っているハズだ。 ふいに、アイツの声が聞こえた。 「トゲチック! 指を振る!!」 ハクだ。いつの間にやら、トゲチックを救い出していたようだ。 トゲチックは上空で、指をゆっくりと振っていた。 指を振るは、全ポケモンの技の中で、ランダムに一つ選ばれ、発動する神秘の技・・・とはハク談。 オレに言わせれば、ただのバクチ技だな。 ゆっくりと振っていた指が突然、光った。 ピョーーン。・・ヒューー、バキッ! 「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」 解説しよう。 空中で指を振っていたトゲチックが発動した技は、『はねる』。 地上では無力なポケモンなんかが使う。ただはねるだけの技。何も起こらない。いってみれば、ハズレだ。 だが、今回は、空中でコレが発動した。さてどうなるか? 空中で、トゲチックはピョコンとはねた。そして、その後、地面にまっさかさまというわけだ。 これには、ここにいた全員が呆然。ハクさえも、呆然。 しばし、バトルを忘れて、空白の時間が流れた。 (み、見なかったことにしよう・・・) オレがそう思って、相手に向き直ると、相手は『ふぅ』とため息をついた。 「バカらし、シラケしちまった。帰るぞ」 「ああ、そうだな、とたんにバカらしくなった。帰ろう」 二人は、いそいそとポケモンをモンスターボールにしまい。立ち去った。 「・・・アハハ。なんか、結果オーライって感じぃー?」 ハクがそんな事を言う。 なんだったんだ。今までの緊迫感は! バトルで思いっきり暴れられない欲求不満。とたんにバトルの腰を折られたコト。 今までの苦労。そして、さっきのヤツらの態度!! この怒りと恥ずかしさを、ぶつけるべき対象は、一人しかいない! アカリも今、同じ気持ちなのだろう。 「二人ともアリガトねー、トゲチック探してくれて、  ・・・どうしたの、二人とも、フルフル震えて?」 オレたちは今、怒りに震えている。 「ブースター・・・」 「アリゲイツ・・・サンダース・・・」 「ど、どうしたの? 二人とも怖い顔して? ポケモンなんか出して・・・」 ただならない雰囲気に気おされたのか、ハクがジリジリと後ろに下がる。 逃がす気はない。オレたちもハクが下がった分だけ、前へと進む。 その後、ハクが、2時間、オレたちのポケモンに、追い掛け回されたのは、別の話・・・という事にしておこう・・・。 ちなみに、アカリのポケモンの毒は、ハクが最初に買ってきたものに毒消しがあったのでありがたく使わせてもらった。 END