今日は、二月です。 二月十四日。 そう、世界中の全ての乙女の心が飛び交う日。 意中の相手へ、それぞれの想いを込めたチョコレートと、 あるいは一言の、…言葉を。 祈りましょう。 愛の祝福を。 願いましょう。 本日の成果を。 <遠距離恋愛編> 「バレンタインデー…かぁ、」 悩みこむ乙女。 ここはハナダシティ。 ハナダジム。 ジムリーダーはお転婆人魚のカスミ。 そうなんです、ジムリーダーの彼女も、今日のこの日の為に。 「サトシ…」 いつの間にか呟いていた彼の名は。 本当に愛しくて、 今は、遠い遠い空の向こう。 近くにいた頃には感じなかった、辛さと切なさ。 自分にも、こんな感情があったんだ…と感じた頃には、余りに気付くのが遅すぎていたこの想い。 「タッツー??」 ハナダジム自慢の海中プールで、今日も彼女は泳いでいました。 横から彼女のタッツーがカスミを心配したのか、首を傾げて呼びかけています。 「……うん――」 返事は、上の空。 届けられるなら、今すぐ飛んで行きたいと思う。 私は、アイツの傍にいられたあの頃が…。 アイツの笑顔が、素顔が。 …やめよう。 考えても、虚しくなるだけ。 思い出していたんだ。 本当に、あの頃の事。 出会ったばっかりのアイツと。 成長した、アイツの横顔。 「…だけど、今年は直接渡せそうにもないよねぇ、タッツー」 「タッツ?」 吹っ切れたような、ご主人の呼びかけにタッツーはどう答えていいのか分からない。 カスミは何事もなかったかのように、再びプールの中へ。 飛び交う水飛沫と一粒の涙が入り交ざっていたことにも、彼女は気付かない。 …気付けない。 「…けど、女の子にチョコレートを一つも貰えないってのも寂しい…わよね?」 ――ホントウハ、チョクセツトドケタイケド。 「ま…、まぁいくらあのお子様でも義理チョコの一つも誰かに貰っても、罰は当たらないわよ!」 ――ワタシノキモチモ、シラナイデ、 「しょーがないなぁ!心優しいカスミ様は、義理チョコの一つも配れないほど心も狭くないわよっ」 ――ダイスキダヨ、サトシ… 口には裂けても言えない想いと気持ちがある。 偽りたくない、気付かれたくない。 だけど、本音には勝てるわけない。 だから結局この日、カスミはバレンタイン用のチョコを一つ配送しました。 『義理チョコだからねっ!(汗』 と、不器用な言葉と素直になれない気持ちが混じっていた一言だけの手紙と共に。 彼女の本心が、少年に届く日は……。 そうですね、まんざら遠くもないような気もして。 だからじっくりと見守ってあげましょう。 ※2004年2月14日・制作