ふわっとしてて…良い天気で、
だけど、物足りない…と思う日々。
子守唄が聞こえてくるような感覚が確かにそこにはあった。
懐かしくて、だけど思い出せない夢の幻想。


思い出して、傷つくのは自分だと悟っていたんだね。
無意識の内に、私は涙を堪えていた。




******



飼い馴らされるのは、ご免だと思っていたあの時の私が信じられないと思う。
彼に出会って、本当に考えが変わってしまっていたんだ。
真っ直ぐで、私を包み込んでくれる彼。
私だけの…私が愛してしまったご主人様。



「ロコンッ!」
「こん;」
嬉しかった。
私の名前を呼んでくれる少年の声色。
いつも傍にいてくれる。
いつも私に元気を分けてくれる。
彼の存在が…今の私の全てだから。













雨に濡れて、酷く苦しんでいた記憶がある。
鮮明に蘇ったんじゃなくて、微かな断片的な記憶の欠片。
時折、悪夢のように私の脳裏に浮かんでは消え、また現れてくるこの痛い思い出。
必死に泣き叫んで、逃げ惑っていても、決してそれは私を見逃してはくれなかった。









広がる雨雲。
辺りは…森。
雨に濡れて弱りきった身体は重くて。
思考回路が上手く回らない。
…この先、どうなるんだろう。
やっぱり…。
考えれば考えるほど悪循環で。
それが本心の筈はなかった。
辛いのは…嫌だ。
助けて…助けて欲しい。
私は逃げられない。
助けを縋っても、誰にも届かない気さえしてしまう。
(――…痛い)
右足が激痛を訴える。
だけど、立ち止まれない。
諦めようとしても、立ち止まろうとしても、
本心では…きっと助かりたかったんだと思う…。
苦しい…、逃げ出したい。
――解放されて…楽になってみる?


――ねぇ…
クスクス…、と私は私に笑われた。
壊れている自分の自我。
どうしようもないな…。
ふっと、私は苦笑していた。
極限状態と言うのは、どうもこのような場合を例えるのだろうか。
鏡に映りだす自分を見ているような不思議な感覚が、妙にリアルで新鮮に感じた。






***






「――ロコンッ?!」
…目が覚めると、心配そうな声色で彼は私を見つめていた。
痛みは消えていた。
当然だ、ただの夢だったのだから。
そうだ――…忘れていた、彼はいつもこうやって私を慰めてくれていた。
どんなに辛くても、どんなに酷い仕打ちを夢で受けたとしても、私が我慢できるのも、耐えられるのも。
全部、ゼンブ、彼のお陰なんだ。
「コン…」
私はついつい彼に甘えてしまう。
なんて子供なんだろう…、と自分では考えてみても。
彼の瞳は、本当に温かくて、私を泡のように溶かしてくれた――。







******







ぽっかぽか。
朝日が気持ち良い…。
太陽から浴びる温かい息吹は、シャワーみたいで。
それは私をぐっすりと夢の世界に誘ってくれる。
私の直ぐ傍で、彼が私を見守ってくれている。
心地良い…、きっとこれが私の幸せ。
私だけの、幸せだったんだね…。








だから辛くても良い。
私には、彼が居てくれればそれで良い。
見たくもない悪夢も、思い出したくもない昔の自分もゼンブ、彼が取り除いてくれるなら…。
私の居場所は…ご主人様の直ぐ隣なんだ。
何年でも、この先何十年先でも、きっと私は彼に着いて行く。
それが私の望み、幸せだと思うから。
だから私は救われたんだ。
旅に出よう。
未来は見えない、分からない。
だから冒険なんだ。
私の…大切なご主人様…、レッド。
大好き…だから、本当に。





※2004年3月15日・制作