本当に…どうしちゃったんでしょうか? 何もかもが判らないことだらけなんです。 気がついた時にはもうこんな風になっちゃっていて。 何処から来て 何処へ行くのでしょう? 「私」自身が。 ―――私の記憶。 ――――――私の名前。 ―――そして…、私の存在は…。 …思い出せません。 私が誰なのか。 私の名前が。 私の正体が。 ここが何処なのかさえも。 教えて下さい。 ――――――私は…誰なんですか? ――――――お願いです…どうか…どうか…。                 闇に失われし記憶の風 とある街道沿い。 天候は曇りだ。 灰色の空色には明るい太陽の日差しは見えない。 辺り一帯には足場の悪い砂利道が目の前に続く。 視界には木々もない。 人の姿もまた全くと言っていいほど見られない。 ただ一人の若い少女だけがこの道をゆっくりゆっくり歩いている。 年の頃は16…いや、18,19程か。 女の子にしては背は高めだ。 サラサラとした美麗な黄色い髪が涼しい風にゆらゆら揺れている。 黄色い頭の上には女の子らしいリボンをとめている。 薄白いふわふわとしたフードを着こなし、足下には歩きやすそうなスニーカー。 表情はニコニコ笑顔の優しい顔つき。 彼女の名前は…「ミルティ」。 …だが本名ではない。 彼女には「記憶」というものがない。 「ミルティ」というこの名前も彼女が自分で考えついた名前だった。 自分が何処で生まれ家族は誰で自分は今まで何をして生きてきたのか…。 判らない。 覚えていない。 自分が誰なのかすら…判らない。 それだけではない。 ここが何処なのか…、 自分が何処を目指して歩いているのかも、 判らない。 しかし彼女は旅を続けている。 確かに地理的な目的地はない。 そもそも行く宛もないし、よく知る知人なども彼女には無い。 あるのは自分の記憶探しの旅。 途方もない旅になりそうだ。 普通の人間なら絶望すら覚えるかもしれない。 そうだ、彼女だってたかが一人の人間だ。 それもか弱い女の子だ。 半ば諦めがついていたりしているに違いない。 だけど…違った。 彼女は決してその笑顔を絶やすことはなかった。 とてもそんな辛い宿命を背負っているとは思えないほど、彼女の顔は生き生きとしていた。 だけど、                  だけど、 その笑顔とは裏腹に彼女のその眼は…、 瞳は、 何処か寂しげで、辛そうなグリーン色に輝く。 砂利道街道沿いをゆっくりゆっくりと歩いていた少女は突然その足を止める。 不意に、立ち止まる。 そして ―――ふぅっ。 と深呼吸をする。 そして彼女はきょろきょろ目を動かし、辺りを見回してみる。 何もない殺風景な景色。 透き通っているような灰色の空。 何もなく、果てしない地平線の向こうへと。 「ふぅ…、この辺で一休みしましょうかぁ♪ ライナ、貴女もお腹空いていますかぁ?」 ニコニコ笑いながらそう言うとミルティは腰にかけてあったモンスターボールを手に取り、 足場の悪いざらざらとしている地面にそうっと手を放す。 ぼんっ すると一閃の閃光が放たれ、辺りを包む。 同時に現れたポケットモンスター…通称「ポケモン」が姿を現す。 長い尾、愛らしい顔つき、オレンジ肌。 そして一番の特徴はその優しく、愛らしく、希望に満ちたその眼。 彼女はライチュウのライナである。 ミルティの旅のお供だ。 ミルティが記憶探しの旅に出かけて間もない頃、このライナと出逢った。 あの時。 ―――ザザーッ 雨だ。 雨が降っていた。 風は強い。 草木が揺れている。 ―――ピカッ! 雷が落ちた。 それも近くでだ。 ――――――平…気? ――――――もう…大丈夫だから、ね ―――らぁ〜〜い…ちゅ…… 一匹のライチュウが森の中で倒れていた。 酷い怪我だった。 紅く…流れ出る血が出ている。 止まらない。 ミルティはライチュウをその腕に抱き上げ、走った。 地を蹴った。 ただひたすら走った。 宛もなく…ただ雨の中を走った。 ―――――――――だだだだだ…… いつの間にかミルティは森を抜けていた。 幸いにも彼女の視界に町が映った。 そして…。 ―――… ――――――らーい…ちゅー、らーい♪ ―――元気になったんですねぇ…、良かったわぁ♪ ――――――らーい、ちゅぅぅ…、らーいらーい? ―――え、私と一緒に来たいん…ですか? ――――――らーい、らーい、ちゅぅ♪ ―――あらあら、では貴女も私の旅につき合わせちゃいますねぇ… ―――私の記憶探しの旅へ ―――本当に・・・本当に私なんかについてきてくれるんですかぁ? ――――――らーい、らーい、らーいっ!! ―――あらあら…、ありがとうございます。 ―――そうですわ…貴女のお名前は… ――――――らーい…、ちゅ? ―――“ライナ”! ―――… こうしてミルティはライナと出逢った。 お互いに結ばれた暖かく、固い信頼で結ばれた。 「さて、そろそろ出発しますかぁ♪」 「らーい、ちゅぅw」 彼女は目指す。 元々行く宛も何もない旅。 自分の記憶を求めての長く果てしない、途方もない旅。 果たしてこの先彼女が旅路で目指すものとはなんなのか。 それは…神のみぞが知る。 真っ赤な太陽が後押ししていた。 不思議な気分にさせる。 願わくば、彼女の旅に幸が在ることを作者は祈る。 fin あとがき HCミルティの読み切り小説。 はい、今回は表の彼女とライナの出会いのお話。 機会がありましたら、 また続編でお会いしましょう。