−あたしはミュウ−  あたしはミュウ、  宇宙があたしの遊び場なの。  あたしはミュウ、  神さまのものまねが出来る程、力を持ってるの。  宇宙を飛び、星々をめぐる。  100万年も生きて、ポケモン達や人間達をずっと見守ってきたわ。  つまり・・・。  あたしはえらいっ、あたしってすごいっ!その上、かわいいっ!  どうよ、あなた。  アタシガ ホシイ デショウ?  でも、つかまってなんかあげないよ。  だって、あたしはあたしのモノだもの。あたしは誰よりも自由だもの。 −いたずらっこのミュウ−  5番道路でボーイスカウトと理科系の男がポケモンバトルをしていた。  そこにミュウが通りかかる。あぜんとしてボーイスカウトと理科系の男が空を見上げる。 でも、見上げた時にはミュウは岩陰にかくれていて、驚く二人をこっそりと見て、おかしそうに くすくすと笑うのだ。  山奥、洞窟の中で山男の前に突然現れ、びっくりさせた上にゲットしようと一生懸命になる山 男を、立てなくなるまで追いかけさせて、息があがって座り込む山男を見て、くすくすとおかし そうに笑った。  森のボスポケモンを決めるため、戦いの場となった広場に現れて、ボス候補のポケモン全員を 倒し、得意絶頂、絶好調で勝利のおたけび  「みゅうううううううっ!」 −ただの男の子−  ある日、ミュウはきまぐれで都会に行った。  幻のポケモンの出現にポケモントレーナー達はミュウをゲットしようとして溢れ出し、街は大 混乱になった。  ミュウを手に入れようとする必死の顔・顔・顔。  ポケモントレーナー達は争ってミュウを追いかけた。そんなポケモントレーナー達がおかし くって、捕まりそうな演技をしながら、全然余裕でその手をすり抜けた。  ふと、その時。視界の隅に男の子の姿が映った。  男の子は騒ぎに興味がない様子で、ピカチューの頬袋をマッサージしていた。  むかっ  ミュウはむっとして、その男の子に接近した。  男の子はミュウを見た。  サア オドロキナサイヨ オイカケナサイヨ  でも、男の子はふいっと顔をピカチューに戻して、マッサージを続けた。  むかぁっ!  ミュウの顔に血が上った。  そこにポケモントレーナー達が追いついてくる。  ミュウは機嫌を悪くして、宇宙に飛び去った。  なによ!あたしに興味がないなんてバッカじゃない?!  「ちょっと聞いてよセレビィ!」  原始の自然が残ったままの森に来て、友達のセレビィを捕まえグチを言う。  「なによ、どこにでも居るくせに。強くもないくせに。かっこうよくない、かわいくもない、 ただの人間のくせにぃーっ!!」  ハンカチを噛んでヒステリックに叫ぶミュウにセレビィはうなずいた。  「そうだよ、僕達の価値も分からないなんて頭がおかしいんじゃないか?」  ミュウは同志を得て、大いに男の子をけなした。  セレビィとの共感がミュウには嬉しかったし、セレビィと話すのは楽しかった。なんてったっ て100万年もいっしょの親友だったから。  「ちょっとだけすごいとこ見せたらそいつもすぐにわかるよ、ミュウのすごさが。」  絶対にそう。セレビィは自信たっぷりで言った。                    −ミュウと男の子−  「あたしって宇宙も飛べるのよ。」  100万年も生きていれば、人間の言葉ぐらい喋れるもん。  眠っているピカチューを膝に乗せて、本を読んでいる男の子に向かってミュウは自慢げに言った。  「そう、すごいんだね。」  男の子はそう言って、微笑んでミュウを見て、しかしすぐに目を本に戻す。  この人は馬鹿なんだ、やっぱりここは価値というものを教えてあげなくちゃ。  怒り、苛立ち。でも少しあせってミュウはがんばった。  「どんなポケモンもあたしには敵わないのよ。」  と、ミュウは言った。  「そうなの?君って強いんだね。」  と、男の子は答えただけ。  ただ、それだけ。  ポケモンをいっぱい連れて来て、ミュウは威張った。  「どう?あたしが声をかけるだけで、こんなにポケモンが集まるのよ。」  男の子は変わらず答えた。  「びっくりしたよ、君って友達が多いんだね。うらやましいよ。」  びっくりしたふうでも、うらやましそうでもない。本を置いて、ただこっちを見ただけ。  ミュウは泣きそうになった。敗北感が込み上げてきた。  ミュウはついに泣きだして、その場を飛び去った。                    −ミュウは考えた−  なぜこんなにあの男の子のことが気になるの?  なぜあたしはあの人のことを構うの?  考えて考えて考え抜いた。  生まれて初めてってくらい、真剣に考えた。  答えは出なかった。  ただ、あのピカチューのように、あの人のそばに居たかった。  しょんぼりして、ミュウは男の子のところに来た。そして素直に言った。  「そばに居ていい?」  男の子は変わらず言った。  「いいよ。」                 −幸せなミュウ・怒りのセレビィ−  「なんでおまえほどのポケモンが、こんなつまらない人間のものになってるんだよ!」  セレビィは怒ってミュウに言った。  「あたしは誰の物にもなっていないの。ただ、そばに居るだけ。」  安心と幸せで大きく潤んだ瞳をしたミュウが答えた。  セレビィは持ってきた心配が確かなものとなって、ミュウに確認した。  「まさか、おまえ人間を好きになんかなっていないよな?」  人間に恋をしたミュウというポケモンはどうなるか、この100万年でいやというほど見てきた セレビィは、このミュウだけはと信じていたのだ。  しかし、やはり心配は確かなものだったのだ。  ポロリ  涙を落としてミュウが言った。  「好きなの・・・。」  セレビィの怒りが憎しみにすら変わりそうになる。  「好きで、好きで。どうしようもないの・・・。」  泣きながらミュウは言う。セレビィが激怒して言う。  「バカッ!人間を好きになったミュウは力をなくすんだぞ!」  それどころか記憶をなくし、姿もまるっきり変わってしまうのだ。あらゆるポケモンの先祖た るゆえんだが、セレビィは長年の親友を失いたくなかった。  「宇宙も飛べなくなる。弱くなる。そして・・・。」  オマエガ カワッテ シマウ  オレノ コトヲ ワスレテ シマウ  セレビィはミュウにつかみかかった。ミュウは泣きながら言った。  「ねえ、人を好きになったっていいじゃない!愛したっていいじゃない!そんな自由も許され ずに・・・許されないなら、  宇宙を飛べたって、あたしは自由じゃない!!」  セレビィは手を離した。そして膝を地について泣き出した。ミュウはそんなセレビィを抱きし めて泣いた。  いっぱい、いっぱい泣いた。  泣きながらミュウは変わっていった。セレビィは目をそらさず見届けた。神のようだったポケ モンがただの人間・・・しかも赤子になっていくのを。  全ての力、全ての知力、経験。そして・・・セレビィとの記憶を無くしていくことを。                  −時をワタルポケモン−  セレビィはかつてポケモンだった人間の赤ちゃんを、コガネシティーにある教会に置いた。  ワカバタウンに教会があればよかったのだけど。  時を渡り、ミュウが好きだった男の子が生まれた日に、その男の子の出来るだけ近くに赤ちゃ んを連れてきた。  ミュウならそう望むだろうと思ったから。  教会のシスターが赤子の鳴き声に教会から出てきて、抱き上げる。  それを確認して、しかし元の時代に戻る気になれなくて、そのままふらふらと空を飛んだ。  むなしかった、空を飛ぶことも時を渡ることも。  心の自由に比べたら空を飛べることなんて、  なんて不自由なんだろう。  そう思ってしまったから。  そしてもうひとつ気がついた。  ミュウといっしょだったから、楽しく飛べたのだと。  ふと、その時。山道を猛スピードで走る救急車を見つけた。  中には若い夫婦と顔色の悪い赤ちゃんが乗っていた。  毒にやられたんだろう、もう長くない。セレビーは気にせずに立ち去ろうとした。助けること は出来る。毒を浄化し、自分の体を分子レベルに分解して赤ちゃんの体に入り込み、その子の命 の養分とすれば…。  しかしそれをすると自分は赤ちゃんの中に溶け込んで、なくなってしまう。  だから出来るわけがなかった。  でも・・・。  セレビーはその赤ちゃんに親友の面影を見つけて、とっさにその赤ちゃんを助けてしまった。  見捨てられるわけがなかった、大好きだったミュウと同じ、人間の赤ちゃんを。  こうして、  時をワタルポケモンはただの人間の、赤ちゃんの中に消えていった。  大好きだった人の面影を抱いたまま。 おしまい