これは私の懺悔の記録である。                     〜ホウオウになりたい〜  「ゴーシェ、おにいちゃんはもう、ダメだ。」  ゴーシェ…ガラガラは、振り向かずに、私…ポッポから立ち去った。  ゴーシェは母親をロケット団に殺された。  …もう、昔の話だ。ゴーシェがまだカラカラだった頃の話…。  その後、ゴーシェは父親に引取られた。  父親は優しい男だった。酒さえ飲まなければ―――。  酒に酔った父親は理由もなく、ゴーシェを殴った。  いや―――。  理由はある。食事中、茶碗を置いたときに「コトン。」と小さい音が鳴ったのだ。  父親は、ゴーシェを殴った。  父親が怒る理由というものは、そんな些細なものばかりだった。  ゴーシェは、逃げ出した。  世界はゴーシェの友達で満ちていたから、生活には困らなかった。  ゴーシェは、世界中を旅して回った―――――。  ……………楽しかった。  しかし、世界は突然に変わってしまった。  「エイパムにいちゃん、あのリンゴを、ボクのために取ってきておくれよ。」  森で、美味しそうなリンゴを見つけたゴーシェは、木の上にいたエイパムに言った。  幼子の愛らしい声に振り返ったエイパム。しかし、すぐに首をかしげた。  まるっきり子供の声でかけられたソレは、地上の大きな体をした“ガラガラ”から、かけら れたからだ。  「ヤダよ、自分で取りなよ。大人なんだろう?」  そう言うと、エイパムは行ってしまった。  そう、カラカラはガラガラに………大人になってしまったのだ。そしてゴーシェにとって不 幸なことに…心は子供のままだった。  大人になってしまったゴーシェを、誰も助けてはくれなくなった。  友達に頼って育ったゴーシェは、自分で食べ物を取ることが出来なかった。  やがてゴーシェは―――――。  背を丸め、ガリガリに痩せて、弱って行った。  ただ、目だけが………ギラギラと野獣のように輝いていた。  そして――――。同情を誘うため、哀れな生い立ちの子供のフリをした。  同情をさそって恵みを受け、ほどこしをしない大人には、“あわれな子供を見捨てる罪悪感 ”を感じるように演技して…………。  それは脅迫じみてさえいた。  しかし、ゴーシェは危険なほど、可愛らしい。  その仕草  その声  その言葉  それは、大人を喜ばせ、元気を与え、奮い立たせた。  「なにをしても、助けなきゃ!!」  大人たちは、そう言った。  それは本当に大人が理想としている“夢の子供”の姿…。  ゴーシェは子供の“プロ”であり、子供の“素晴らしい芸術作品”だった。  しかし、それを体が全てを裏切った。  体だけが大人になってしまったゴーシェを、誰も助けてはくれなくなった。  大人を利用して育ったゴーシェは、自分で食べ物を取ることが出来なかった。  やがてゴーシェは―――――。  だれかれかまわず、助けを求めた。  友達に助けを求めた  友達は友達に助けを求めた  友達の友達は、友達に助けを求めた。  友達の友達の友達の友達の―――、そのまた友達が私、ポッポであった。  私はゴーシェが、恐かった。  ウソもホントも、やっていいことも悪いことも、全てを使って、ぶつかってくるゴーシェ に―――恐怖した………。  まさしく命がけだったのだろう…。  見ず知らずの大人や、ゴーシェが言う“友達”に取り入るために磨き上げた話術の全てで、 私にぶつかった。  ゴーシェが言う友達とは―――。ゲームセンターで顔を合わせた、見ず知らずのやさしい人 のことであった―――。  私にはムリだった。  私はゴーシェを、私の先生の元に送った。  説得のすえ、先生は、ゴーシェを引取ることを承諾してくれた。  私はホッとした。  先生ならば、大丈夫だろう。  私はゴーシェに未来を見た。  しかし、それはあっさりと打ち砕かれた………。  先生から電話が、かかってきた。  ゴーシェが先生の、ちいさな子供の女の子に、性的イタズラをしたのだ。  ゴーシェは、分かっていなかった。  やっちゃいけないことは、やってはいけないということを。  子供だった。  大人のマネもフリも出来なかった。  でも、体は大人だった―――。  体は、自分と同じように、心が子供の異性を求めた。  そして、それは歪んだ求愛であった………。  ゴーシェにとっては、純粋な“愛”である。  我慢をすることも、できなかった―――――。  そばについて、我慢をする体験をさせて、我慢の訓練をさせる必要があった。  やっていいことと、やってはいけないことを教える必要があった。  まるで、子供をしつける母親のように――――。  私のことを「おにいちゃん」と呼ぶゴーシェは、私に助けを求めた。  私は答えた。  「ゴーシェ。おにいちゃん、もうダメだ。おまえを助けることは、俺にはできない。」  私は―――。ポッポは“ホウオウ”ではなかったのだ。  ホウホウになりたいと願った私には、それは夢を打ち砕かれる――――。  夢をあきらめる言葉となった。  そのうえ――――。  友達を失望させてしまった――――――――――――っ。  ゴーシェは、振り向かずに、私…ポッポから立ち去った。  私はただの“ポッポ”…………………。  深い挫折感に、私は泣いた。  ホウオウどころか、ゴーシェの母親にすらなれない―――。  私は、ただの“ポッポ”。  そして、私は飛ぶことができなくなってしまった。  こんな、なにもできない………無能な私を、友達は許してくれた。  でも、私はまだ、私自身を許す事ができないでいた。  だから、飛べない。なのに――――。  なぜ  あの 果てしない青空を見上げて――――。  「ホウオウになりたい。」  そう願うのだろうか。  おしまい