ゴミの山、その山頂に座って、イエローが、助けてくれた女性型ロボットに、自分の身の上 話をした。  すると、意外な答えが、ロボットから返って来たのだった。  女性型ロボット“ナニィ”は言った。  「出口? あるわよ?? 誰でも知ってる事よ???」                     −第5話−  イエローは疑問を抱いたまま、ナニィと一緒に、暗い地下通路を、出口に向って歩いていた。  「なぜ、ブルーさんは、「出口は無い」みたいな事を言ったのだろう?」  疑問はそのまま口に出た。ナニィは答えた。  「私には分かる気がするわ。」  「えっ?」  その言葉に、イエローは聞き返していた。  ナニィは、まるでそれが常識であるかのように答えた。  「だって、イエローちゃん、カワイイもの。手元に置いておきたいって思うのは当然だわ。」  まるで過保護なママの言葉である。「はあ…。」イエローは曖昧(あいまい)な返事を返 した。  風化が進み、自然の洞窟と区別がつかなくなったような、トンネル通路。  かつては、超近代的な乗り物が走っていたのだろうか? レールのようなものが真っ直ぐ、 どこまでも続いている。  空気に流れはなく、足元は崩れ落ちた外壁が散らばり、あぶなっかしい。  チョロッ  「あっv」  突然、壁から顔を出したコラッタ。イエローが喜びの声を上げる。  チチチと、舌を鳴らし、手を差し出して、イエローが近付く。  愛嬌たっぷりで首を傾げるコラッタの喉に触れた時。  「イエローーーーーーーっ。」  ブルーの声が追ってきた。大きな声にビックリしたコラッタが、穴の中に引っ込んでしまう。  「イエローっ。」  ブルーが追いついた。トライも居る。  イエローは、ブルーを睨みつけた。  トライは、ナニィの顔を見つめて、表情が凍り付いている。  トライが、下げていた拳を上げた。力を込めて握りこぶしを作り、小刻みに震える。  「ブルーさんっ、ヒドイじゃないですか! ボクに「出口はない」なんてウソをつくな んて!!」  そんなトライに気付かないイエローが、ブルーをなじった。  ブルーは、開き直った。腰に右手を当て、口元に左手を添えて、高笑いをする。  「オホホホホ。わたくし、「出口は無い」なんて一言(ひとこと)も言ってなくってよ。 ただ、微笑んだだけですわ。」  左手の小指が立っている。なんて高飛車な女であろうか。  イエローは顔を真っ赤にして怒った。  「とにかくっ。もう、ブルーさんの言う事なんて、信じませんからね!」  プイッ  と、横を向いてホッペタを膨らませる。  「あぁ…、カワイイv」  と、ナニィが、それを見て、両目を潤ませる。  そこに、乱暴な右手が割り込んで、ナニィの襟首を捩(ね)じ上げた。  「なっ、なにをするのですかっ!」  狼狽(ろうばい)したナニィの声。それがトライの表情を見て、凍りつく。  扱いきれない憎しみに歪んだトライの顔。口が言葉を吐いた。  「返せ…。」  え………っ!?  ナニィの顔色が焦りに変わった、自分に非のある不都合に気が付いて。  いらだち  怒り  膨れ上がった憎しみに―――。  トライは、吼えた。  「トリスの………、姉さんの顔を、返せ!!!!」  ナニィは、トライの腕を振り払って、跳び退った。  そのナニィとトライが、同時にモンスターボールを構える。  「行って、ユキワラシ!」「サイホーン…、GO!」  ふたりの前に、それぞれのポケモンが現れた。  「ブルーさん…、いったい…?」  戸惑いに、イエローは、ブルーに質問していた。  「えぇ…、トライと―――、そのお姉さん“トリス”。お兄さん“トリスタン”は、ロケッ ト団によって改造された人間…“ロボット人間”なの。」  ミュウツー、ロボット化計画の試作として…。  驚きのイエローが声を上げた。  「ロケット団のロボットが、どうしてここ…ゴミ捨て場に居るの!?」  ブルーは、悲しみに俯(うつむ)いた。そして言ったのだ。  「捨てられたのよ…、失敗作として―――。」  イエローは、顔を覆った。  「ひどいっ!!」  イヤイヤと、首を左右に、弱々しく振った。ブルーは続けた。  「捨てられて、ゴミの山で、体を奪われて――――。」  ブルーの声が、涙に震えた。一度、大きく呼吸をしてから、最後に、こう言った。  「そして、誰からも、忘れ去られた―――――。」  捨てられた“ゴミ”に振り返る者は、居ない………。  「ユキワラシ、ふぶき!!」  「サイホーン、とっしんだ!」  ポケモンたちが、トレーナーの指示で、ワザを放つ!  ユキワラシのふぶきを、正面からまともに受けたサイホーンが倒れた。  「戻れ、サイホーン。」  トライは、サイホーンをモンスターボールに戻した。そして、右手に持って、天高く掲( かか)げる。  「見てて、イエローちゃん。あれが、トライの性能…。」  イエローが息を飲む。トライは叫んだ!  「転送っ!」  すると、トライの体が光に包まれた。掲げた右手に乗ったモンスターボールが吸い込まれる ように消え、同時に、トライの体が、岩の巨人の姿に変身した!!  『オォォォォォ!!』  サイホーンのフォルムをした岩の巨人、トライが雄たけびを上げる。ブルーが説明した。  「同じ転送装置に、人間とポケモンが入って転送をおこなうと、転送先で合体して、ひとつ の生き物となるアクシデント…。それを兵器に利用したのが、トライよ。」  右手に持ったモンスターボール、その中のポケモンを自分の体に転送し、合体する。  そして、合体したポケモンの力と技を使う超人と化すのだ!!  「ユキワラシ、ふぶき!!」  ナニィの指示が飛ぶ。トライは――。  ドォーン!!  突然、地面に潜り込んでかわした。  相手を見失ったユキワラシが、キョロキョロする。  「下!!!」  ナニィの声!  ドォーン!!  ユキワラシが反応するより早く、地面からトライが現れた。凄まじい勢いで、ユキワラシを 突き上げる。  空中に舞ったユキワラシ。それを追って空中に飛ぶトライ。トライが空中でユキワラシを掴 んだ。  『オォォォォォォッ!!!』  雄々しく吼えたトライが、“かいりき”で、ユキワラシを地面に叩きつける!  「ユキワラシ!!」  ユキワラシは戦闘不能になった。光となって、ナニィの手の中、モンスターボールに戻る。  それをナニィが、口に添えた。  「まさかっ!?」  ブルーの驚愕の声。叫ぶナニィ!  「転送!!」  ナニィの体が輝いた。吸込まれるように消えるモンスターボール。  ナニィの体が光って、ユキワラシの衣装を着た美しい少女の姿に変身した!  冷たく光る瞳が、トライを射抜く。  指した指からは、超低温の光が飛んで、トライを襲った。「冷凍ビーム!!」  「トライ!!」  その光が、トライの右足を、凍り付かせた。  ナニィは冷凍ビームを浴びせ続け、トライの下半身は完全に氷付けとなった。  勝負あった。  動けないトライを見てそう思ったか、ナニィはゆっくりと左手をあげて接近する。  それに対してトライは――――。  「再転送。」  言葉と同時に、光に包まれ、左手にモンスターボールが現れた。同時にトライの変身も解 ける。  「トライ!!」  悲痛なブルーの声。  観念したと確信したナニィが、掌(てのひら)で、トライに触れようとする。  “絶対零度”。必殺の掌が触れる―――。  その瞬間、トライが右手をナニィの胸に突き出した。その右手、肌にスジが走り、3つ、蓋 が開いて銃口が現れる!! トライが、吼えた!!  「トライアタック!!!」  銃口から放たれる“かえんほうしゃ”“10まんボルト”“冷凍ビーム”が、圧倒的な物理 攻撃となって、ナニィの胸を、打ち抜いた!!  機械の破片をバラ撒いて、ナニィが倒れる。  イエローが悲鳴を上げて、駆け寄った。  「ナニィさんっ!!」  助け起こそうとするイエローを、トライが乱暴に押し除けた。  「返してもらう、姉さんの顔を。」  トライは、ナニィの顔に手を掛けた。  そして、引き剥がす!!  キャアアアアアアア!!  悲痛な叫びが、トンネルに満ちた。  「返して………、返してくださぁい………。」  涙ながらに訴えるナニィ。同情に叫ぶイエロー。  「人の大切なものを奪っちゃいけないんだ! 返してあげてよぉ!!」  トライはイエローに振り返った。そして言った。  「それは、私に対しての言葉ですか? それともナニィさんに対しての言葉ですか?」  イエローは―――、泣き出した。  そして、振り払うように駆け出した。出口に向って――――。  「イエローーーーーっ!」  ブルーが、追った。  仕方なしに、それを追おうとするトライ。一度、ナニィに振り返った。  「カオ………、ワタシ ノ カオ………。」  電子音と生身の声が混ざり合った声、それが深い奥底から響くように、ナニィの口から漏 れた。  地虫のように、這いずってゴミ捨て場に戻ろうとするナニィ。  次の犠牲者を求めて―――。  トライは―――。  ロケット団の帽子を、目深に被り直した。  出口の扉の前で、イエローはブルーに捕まった。  「離してよっ、ブルーさん! ここは地獄だよ!! 一分一秒だってここには居たく ない!!!」  ブルーも必死だった。  「ダメッ! 絶対ダメなのっ!! 誤解を招いた事は謝るわ! でも、知らないほうが幸せ な事だってあるのよ!! わたしを信じて!!!」  それをイエローが振り払った。  「なに言ってるの!? 知ってたほうが、いいに決まってるでしょ!?」  大きな両開きの、サビた鉄扉…。  その前にブルーが、立ちはだかった。  「行かせない……たとえ、力ずくでも!!」  そして、自分のポケモン“ポリゴン2”を出す。  「行って見せますっ、力ずくでも!!」  イエローも答えた。そして、自分のポケモン“ゲンガー”を出す。  「ゲンガー!!」  まず最初にイエローが動いた。手馴れた調子で、指示を出す!  「ゲンガー!!  ボクを、励ますんだ!!」  チャッ♪ チャッ♪ チャッ♪  ゲンガーが、日の丸の入った扇子を両手に持ち、頭にハチマキを絞めて、イエローを応援 する。  「よーーぅっし、ガンバるぞぉーーーっ!!」  「ポリゴン2っ、電磁砲!!」  チュドォーン☆  モウモウと立ち昇るホコリの中で起き上がり、イエローがブルーにクレームを付けた。  「ヒドイよっ、ブルーさんっっ。あなた、鬼だっ!」  「鬼で結構っ。ここから先には行かせないわ!」  ポリゴン2が、瀕死寸前のゲンガーにロックオンをかける。イエローが、叫んだ。  「ゲンガー! 道連れ!!」  電磁砲が発射された。直撃を受けて倒れるゲンガーの影が伸びて、ポリゴン2の影を掴み、 引きずり込む。  ポリゴン2は、まるで魂を抜かれるように、倒れた。  「次っ、ハピナス!!」  戦闘不能となったゲンガーをモンスターボールに戻して、代わりにハピナスを出す。  「トライっっ、トライ!?」  ポリゴン2を戻したブルーが、焦って、トライを呼ぶ。が、トライは―――。  ボーッ  待機状態(?)なのか、直立不動で身動きひとつしない。その内、スクリーンセーバーが働 いて、踊りだすのかも知れない。  「ハピナスっ、のしかかり!」  トォ!  ハピナスの巨体が、ジャンプで空中に飛んで、真っ直ぐブルーに迫る。  「あーーーーーーーーっ!」  ズズゥン……………。  ハピナスに圧(の)し掛かられて身動きひとつ取れないブルーを横目に、イエローが扉に手 をかける。  「行っちゃダメ! イエロー! とめなさいよっ、トライ! 何考えてるのよっっ!?」  ブルーが叫ぶ。その言葉にトライが待機状態から、通常状態に復帰した。  そして、言う。  「私の考えで発言させて頂けるのでしたら、言います。           真実は知るべきです。          」  ナニ、かっこつけてんのよっっ。とかなんとか叫ぶブルーの声も遠く、イエローは決意を固 めた。  「真実は知るべき……………。」  イエローは―――。  扉を開けた。  「え……………?」  トビラの向こう、トキワの森があるはずの風景に、イエローは唖然となった。  「ウソ…でしょう………?」  いいえ、“これ”が、真実。  「ウソだーーーーっ!!」  叫びが――――――。  地平線にまで広がる、“砂漠”を走り抜けた。  空には――――――、巨大で濁った赤色の太陽が、圧し掛かるように浮かんでいる。  灼熱の風が、唸りを上げて、吹き荒ぶ。  「ここは、どこなのっ!? ここは地球じゃないの!?」  振り返って、ブルーに尋ねる。  ホコリを払ってブルーが立上り、答えた。  「地球よ…、そして間違いなく、ここはトキワの森。」  「ウソだ!」  ブルーは、頭を掻いた。  「信じられないのも、ムリないわ。わたしだって信じたくない。聞いて、イエロー。」  「転送装置には、時間を超えて転送するものがあるの………。」  知っている。マサキが開発したそれによって、三年後の世界とポケモン交換が可能となった。  「過去に帰るという機能を犠牲にすれば、はるかに遠い未来に、ものを転送する事が可能 なの………。」  「イエロー。トライは―――……、いいえ、私達は“ゴミ捨て場”という場所……空間に捨 てられた。  それだけじゃなく―――――。  はるか未来、寿命末期の膨張した太陽に、地球が飲み込まれる寸前の――――………                時間に捨てられた。           」  つづく  2004年4月6日:誤字修正