「まず、色々教えてもらうわよ、マサキさん。」  ブルーの声は、完全に詰問口調であった。  ダストパラディーゾ、ブルーたちの塒(ねぐら)の前には、ビーチパラソルとテーブルが置 かれ、周りにイスが並べられていた。  テーブルには、コラッタの姿をしたマサキが、まるでそこが被告席であるかのように、睨み つけられている。  マサキは、ここダストパラディーゾにゴミを送る転送装置を開発した“元”人間だったのだ。  なぜ、その人間“マサキ”が、コラッタの姿をしてここに居るのか? それについて、トリ スが質問した。  「どうしてコラッタの姿をしているの?」  「よう聞いてくれた。実はな、政府の人間に脅迫されて、未来にだけ転送する転送装置を作 ったんやけど、完成したら、やつら「おまえはもう、用済みだ。」って、言ってわいを捨てよ ったんや〜っ。」  涙ながらの告白であった。  「転送装置も、研究段階やったから、色々と不安定で、わいは、たまたま紛れ込んだコラッ タと合体して、未来にきてしもうたんや〜。」  不安定要素未解決のままの転送装置は、不定期、場所不確定に口を開け、まったく無関係の 人間やポケモンも吸い込んでしまう。  「そんな不安定な機械を使わなくてはいけないほど、政府は焦っていたということね…。」  ブルーが推察する。それをマサキが受け継いだ。  「そうやなぁ、まさか研究が成功に終わるとは、政府も考えてなかったんやろなぁ。まさか 人類の能力をはるかに超えた“新人類”が完成するやなんて。」  「「「え………っ!?」」」  マサキのつぶやきに、みんなが驚きの表情で振り返った。                     −第13話−  「どどどどどっ、どういう事よっ、それ!?」  どもりながら、ブルーが、マサキに迫る。  「なんや、なんや、知らんかったんかいな。政府の計画は成功したんや。見事、新人類を完 成させたんや。」  「じゃあじゃあ、なぜ? どうして??」  イエローが問う。  トライも、トリスも、スタンも、マサキの言葉に注目する。  マサキは答えた。  「新人類に、今の人類が支配されてしまわないかと恐れたんや。  政府の人間は、新人類によって旧人類が地球の支配者の座を奪われると思ったんやろな。」  そう言って、深くため息を吐き、「サカキくんもヒイラギちゃんも、そんな事、夢にも思わ へんような、いい子やったのに。」と、付け足した。  失敗作は、捨てられた。  しかし、完成品も捨てられていたのだ――――!!  その事実にトライは、気がふれて、笑ってしまった。  「サカキって―――、もしかしてロケット団のボス……………?」  「それは分からん。時間的に、つじつまが合わへんしな。」  「その…完成品―――新人類は、今、どうしてるの?」  その問いに、マサキは答えた、あっさりと。  「元の時間に帰ったんちゃうやろか? どっちにしろ、もう、ここにはおらへんで。柵も塀 もない国境を越えるようなもんなんや。未来も過去もあらへん。あいつらは、どこにでも行け るからな。」  新人類やで? 古い人間に、どうこう出来るもんやない。  「新人類は、帰ることが出来た―――。でも………。」  不安を隠しきれないイエロー。  ポケットからクッキーを取り出し、両手で包んで、聞いた。  「旧人類……、ボクたちは帰れるの?」  「それは、分からん。」  そのマサキの声を最後に、全員が沈黙した。  沈黙を破ったのは、スタンだった。  立ち上がり、明るく言った。  「さて…、新人類の足跡を、たどって見ますか。なにか帰る手がかりがあるかも知れない だろ?」  全員の体を、イスに縛り付けていた重たい空気が、その一言で軽くなった。  みんなは、立ち上がった。  両足のない、立ち上がれないトライも―――、サイホーンの背に乗った。  「それで、新人類…サカキくんとヒイラギちゃんの住んでた所って、どこなの?」  ブルーの質問に、マサキが答えた。  「ダストパラディーゾの地下、最深部や。もっとも、あいつらの部屋の前には、政府執行 機関、最強の男が、今も守ってるけどな。」  その言葉に、ブルーが驚いた。  「じゃあ、そこに出口があるの!?」  マサキは「分からない。」と言った。そう言ったが、こうも付け足した。  「そこにあったら皮肉やな、上やなくて下に出口があるやなんて。」  地下には―――。  なんと、清浄な太陽の光が降り注ぐ、広大な公園があった。  みごとに手入れされた、宮殿の前庭のような公園―――。みんな、驚きに声がなかった。  公園のあちこちで、ポケモンたちが、幸せに暮らす風景が見れる。  「なんで…、なんでロボットたちは、ここで暮らさないのよおっ!?」  ブルーが、頭を抱えて叫んだ。  「故郷の島に、一番近いところが、いいんやって。それが例え、どんなにゴミにまみれてい ても。」  マサキの語る真実は、悲しかった。  公園の中央に、宮殿のような建物があった。  立派な扉、その前に、一人の男が座っている。  短い金髪、精悍な顔つき。中肉中背の体は、しかし、油断ならない危険な気配を発していた 。革のズボンを履き、真っ白なTシャツの上に、革のジャケットを着ている。  シャク…。  男は、手に持っていたリンゴをかじる。  視線は一行を捕らえるが、まるで「食事中だ、後にしろ。」と、言わんばかりである。  その姿を見たトライが、その男の足を見て、顔を憎悪に歪めて叫ぶ!  「それは俺の足だな!? 俺の、両足を返せっ!!」  男…“ファング”は―――。  ポイっ  まるで、リンゴを投げてよこすように、自分の両足を毟り取って、トライに投げた。  そして、驚く一行の視線を受ける中、食べ終えたリンゴを、ジャケットのポケットに入れ、 代わりにモンスターボールを、ポケットから出す。  「こいっ! ウィンディ!!」  声と共に業火を纏って、伝説のポケモン“ウィンディ”が現れた。  背中には馬の背中に着けるような鞍がある。ファングはそこに乗ってベルトを締めた。  それを見たトライが、手に持った自分の両足を、隣に居たブルーに押付け、言った。  「このままでいい、決着をつけてやる。」  ガオーーーーーンッ!!  ウィンディとサイホーンが、同時に吼えた!  トライを乗せたサイホーンがとっしんする!  それをファングを乗せたウィンディが、神速でかわした!  「かえんほうしゃ!!」  ファングの声。しかし、効果はいまひとつだった。  「サイホーン、つのドリル!!」  ウィンディの腹の下から、突き上げるように、つのドリルが決まった!  空中に放り出されるウィンディ。しかし、空中でウィンディの瞳が燃える!  空中で体勢を戻し、サイホーンに襲い掛かった!  「よけろ! サイホーン!!」  横に跳ぶサイホーン。  「なに!?」  トライの驚きの声。着地したはずのウィンディの姿が、土煙をあげて地中に消えたのだ!!  「くっ、“穴を掘る”か! サイホーン、地震!!」  サイホーンが、地震を起こそうと、体を大きく仰け反らせる。そこに、地中からウィンディ が強烈なタックルをかけた。  戦闘不能になって、横たわるサイホーンとトライ。そのトライの首を牙にかけ、殺そうとす るファングのウィンディ。  「転送っ!! 雪の精霊!!!」  トリスの体が、声と共に光に包まれる。ユキワラシと転送合体したトリスが強烈な“ふぶき ”をウィンディに放った。  ガァアアアアッ!!  しかしウィンディは、ただ息を吹きかけるだけで、ふぶきを霧散させてしまった。そのまま 、火炎放射を浴びせて、トリスも戦闘不能になる。  トライとトリスを踏みつけて、雄たけびを上げるウィンディ。そこにスタンが前に出た。  ピク…  ファングの顔色が変わる。そこに日本刀を抜刀するかのような緊張感が現れた。  ゆるく笑ったスタンが、モンスターボールを出す。  「ギャロップ、頼むぜ。」  ヒヒィーーンッ  嘶き(いななき)を上げて、スタンのギャロップが現れる。そこに強烈な火炎放射が浴びせ られた。  「ギャロップ!!」  イエローとブルーの悲壮な声が響く。しかし、ギャロップは。  ス…  涼しそうに、目を細めた。  「ギャロップ! 火炎放射!!」  そしてスタンの声に、口から放った火炎放射が、ウィンディの火炎放射を押し戻し、その上 、ウィンディに大ダメージを与える。効果がいまひとつにも関わらず!  「くっ、戻れ! ウィンディ!!」  ファングが手元のモンスターボールにウィンディを戻す。そして叫んだ!  「転送―っ!!!」  ファングの体が光に包まれ、そこにウィンディと転送合体した虎男のようなファングの姿が 現れた。  「戻れ、ギャロップ。」  スタンも手元にギャロップを戻した。そして胸の前で腕を交差し、そこにモンスターボール を乗せて叫ぶ!  「転送―――!!」  モンスターボールが胸に吸い込まれ、スタンの体が光に包まれる。そしてそこに、頭部から 背中にかけて、一筋の炎のたてがみを持った、スタンが現れた。  ガオオオオーーーーッン!!  恐ろしく吼えたファングが、スタンの首筋に噛み付いて、噛み砕こうと力を込める。  ドムッ!  その時、恐ろしい音が、ファングの、みぞおちでした。  大きく開いたファングの顎。よだれをだらだらと垂らして、弱々しくあえぐ。  ファングのみぞおちに深く沈み込んだスタンの拳…。それがオーバーヒートする。  「ォラ」  ドムッ!!  「ォラ ォラ ォラ!!!」  ドムッ! ドムッ!! ドムッ!!!  フラッシュのような閃光を放つパンチが、連続してファングの体に叩き込まれる!  無数のパンチが放つ閃光で、目を開けていられなくなったブルーとイエロー。  ふたりが再び、目をあけた時―――。  消し炭のようになって、崩れ落ち、ファングが地に伏せた。  焼けた空気で、喉が渇く―――。  ふたりはゴクリと息を飲んだ。  「再転送―――。」  合体を解いたスタンの傍に、まるで恋人のように寄り添って、ギャロップが現れ、頬を寄 せた。  そのギャロップの顔を…スタンが優しく撫でた。  つづく