「これによって、神々は新たに選ばれし者を選出しなくてはいけなくなった。」  幼姫は語る。  「しかし、人間には、新たな選ばれし者が誰であるのか分からなかった。国連も軍も、伝説 に従って、血眼になって捜した。そして最近になって―――。」  そこでジュンサーが、口を挟んだ。  「選ばれし者と思われる者が、複数現れた………、ですね?」  「そうじゃ、これにより、更に混乱が深まった。」  部屋に、ゆるやかな風が流れ込む。  白いカーテンを、かすかになびかせるだけの風の音、その音が聞える程、全員が黙ってしま った。  「やがて、軍は国連との協力体制から出て、独自に動き出した。」  皆が幼姫の言動に注目した。幼姫は続けた。  「国連は、“伝説のふたりの巫女”の子孫をエサに、選ばれし者をおびき出そうとした。」  ミオが、ハッとした。  「それが今回のポケモンリーグですね?」  そうじゃ。と、幼姫がうなずいた。  「リーグ優勝者こそが“選ばれし者”………。国連はそう考えておる。」  じゃあ………。  ジュンサーとジョーイは、顔を見合わせた。  「カンタくんはポケモンリーグに、優勝しなくてはいけない?!」  と、そこで皆が、キョロキョロし始めた。  「「カンタとシャルが居ないっ!?」」  気付くの遅いっス。  ミオとハルノが窓から身を乗り出して、中庭を覗く…。しかし、そこにカンタとシャルペロ の姿は、なかった。  都市の中の森…。公園の中にかつて建っていたジム。そこにカンタはシャルペロをともなっ て立っていた。  リードによってガレキと化した、岩タイプのポケモンジム。いまだに再建の気配はない。  太陽に照らされて焼けたガレキの匂いが、熱を帯びて伝わるだけ。  「カンタくんじゃないか。」  ふと、声が、かけられた。  振り返ると、そこにジムリーダー“金髪のマサシ”の姿があった。  腕に包帯を巻いて、三角巾で首から吊るしている。  頭にもバンダナのように包帯を巻いたマサシが、ニッコリと笑い掛けた。  「どうしたんだい? こんなところで。」  マサシはカンタをガレキに座らせ、聞いた。  マサシもその隣に座る。  「マサシさん…。ボク、ポケモンリーグに出場して、優勝したいんです。」  少し、驚いて。しかし、目をつむって納得して、マサシは答えた。  「そうか…。」  「どうすれば…。」  迷いが完全に晴れているわけではない。カンタの言葉には曖昧な響きがあった。  「カンタくん…。まず、バッジを集めなくてはいけないよ?」  「いえ、そんな当たり前の話が聞きたいのではなく、どうすれば優勝できるか。アドバイス を下さい。ボクの大切な役目は―――どうやら、リーグ優勝しなくては行けない処にあるみた いなんです。」  ほほう。マサシは感心の声を上げた。  「トラは、ジム戦では使えません。対戦相手を殺してしまいます。新たに手に入れたホ ーリーって名前のイーブイも、ある意味、危なくて使えません。ポン太は―――………。」  カンタは混乱の中にあった。  「どうしよう………。」  カンタは両膝を抱え込んで、うつむいた。  ポケモンリーグには、まったく興味がなかった。誰かに勝つ事。それは誰かに敗北を与える 事でもあるから。  イヤだ。  なぜ、勝者と敗者に分けなくてはいけないんだ。  好きな友達に、勝利を与えてあげたい。ボクは一生、敗者でいい。それで構わない。  ボクは…いや、誰も一人では生きていけない。  協力しなくてはいけないのに、なぜ、戦って、傷つけ合う。  それよりも、育てたい。生み出したい。  お兄ちゃんのように、生き生きとポケモンを育てたいっ。  どうして、戦わなくちゃ、いけないの!?  いつの間にか、カンタは泣いていた。  カンタは自分でそれに気が付いて、固く抱き寄せたヒザに、深く顔を埋めた。  シャルペロが、鼻を寄せた。  「優しいね、カンタくんは…。そして、きっと誰よりも強い。」  そんなの褒め言葉じゃない。答えでもない。  「答えは――……、カンタくん、キミが知っているんじゃないのかい?」  カンタはヒザに埋めた顔を上げなかった。ピクッと少し、動いただけ。  「うつむいてないで、周りを見てご覧よ。」  今、ここに、全ての答えがあるから。  「カンタ」  「カンタさま。」  「キルル〜。」  「「カンタくん。」」  「カンタ、立つのじゃ。」  声に振り返ると…。  そこにミオやハルノ…、全員が集まっていた。  カンタは、顔を上げた。  なぜ、戦うのか?  なぜ、戦わなくては、いけないのか?  ああ…、そうかぁ…。  この綺麗な花達を、踏みにじられるわけには、いかないからなんだ…。  ボクは選ばれし者…、ううん、“自らを選びし者”になろう。  そして、みんなを滅亡から、救うんだ。  マサシが、カンタに岩タイプジムのリーグバッジを手渡し、言った。  「戦って、傷つく勇気と、傷つける勇気を、キミに。」  カンタは、立ち上がった。  「リーグ優勝作戦、大会議――――っ!!」  マイクを持ったカンタが、あらぬ処を指差して、言った。  パフパフ♪ ドンドンッ☆  ここは、ポケモンセンターの会議室。  タイコを持ったピカチューのオードリーと、ラッパを持ったピチューのスカーレットが、か き鳴らす。  席についているのは、ミオ、ハルノ、アヤとシャルペロ、という、いつものメンバーと、 幼姫、チャーレム、アサナンだった。  ジュンサーさんとジョーイさんは、仕事に戻った。  「さあ、ここでリーグ優勝をするためには、どうすればいいのか? 意見を聞かせて頂き たいっ。」  「まず、ミオさんっ。」  カンタの指名に、ミオがイスから立ち上がる。  「修行あるのみっ!」  グッと、こぶしを握り締めて、ミオが言った。  「はい、ありがとうございます。では、ハルノさんっ。」  はいっ。と返事もよく、立ち上がったハルノ。ブーたれるミオ。  「まず、普通のポケモンを、手に入れるべきだと思います〜。」  はい、よく出来ました。と、カンタ。照れて喜ぶハルノ。ぶーたれるミオ。  「そうじゃのう、今のポン太はいいとして、トラとホーリーは、話にならぬのう。」  カンタ達は想像してみた。  ジム戦に登場する、トラ。  腰を抜かす、ジムリーダー。  警察に、通報。  「早く来て下さいっ、バケモノですっっ!」  ジュンサーさんに、しょっぴかれるカンタ。  シーーーーーン  ジム戦に登場する、ホーリー。  さっそく血を吐いて倒れる、。  病院に、通報。  「早く来て下さいっ、急患ですっっ!」  駆けつけたジョーイさんと、ポケモンセンターにホーリーを連れて行くカンタ。  シーーーーーン  「キルル…。」(人間語訳:ダメじゃん。)  アヤはイスに座った机の下で、足を前後にブラブラとさせた。  「では、さっそく、ポケモンゲットだぜっ!!」  「ダメじゃ。」  カンタの言葉に、幼姫が水をさす。  「リーグ戦まで、後わずか3週間。その間に、全てのジムを回らねばならぬ。時間がない。」  では、どうすれば…?  全員の視線が、幼姫に集中した。  「手持ちで考えよう、意外と悪くない組み合せじゃぞ?」  イタズラっぽく笑って、幼姫は言った。  「まず、シャル。そして、アヤ、チャーレム。これで3体じゃ。」  アサナンはチャーレムと同じタイプじゃから、予備軍という事で。  「ポン太、そして…ゲンガー。」  言って、突然、幼姫がチャーレムの影に、手を突っ込んだ。  そして、引っ張り出すと…。  「えっ!? アンズさんっ??」  そこから、女の子の忍者、“ジムリーダー・くのいちのアンズ”が現れた。  「まだ居たのっ?! アンズさんっ!?」  「おぬし、本当に、ゲンガーのようじゃのう。」  幼姫が、そう言うと…。  ポンッ☆  軽い音を立てて、アンズがゲンガーに変身した。  あきらめ顔のゲンガーが、会議に加わる。  「そして、わらわ…。クチートじゃ。」  幼姫が、自分を指差して言う。すると…。  ポンッ☆  またまた軽い音がして、なんと幼姫が、ポケモン“クチート”に変身したのだった。  幼姫の、人間をポケモンに“戻す”能力である。  「あとで人間に戻しておくれよ、“孵す者”カンタ殿。」  人間の言葉を喋るクチートは、幼姫の声で、そう言ったのだった。  ここに、ジム戦用、チームが出来上がった。  ポニータ“シャルペロ”。  炎タイプ。  山火事起こすぞ、危険なファイアースターター。  キルリア“アヤ”。  エスパータイプ(?)。  怒りの鉄拳、岩をも砕くぞ。 カワイイ顔して、ハードパンチャー。  ライチュー“ポン太”。  電気タイプ。  過去の実力は、デタラメ。今はどうだ? 物語のカギを握るぞ、ラブリーミステリー。  チャーレム。  エスパー・格闘タイプ。  念力の力は巨人なみ。実は優しいお姉さん。タイタニックビューティー。  クチート。  鋼タイプ。  元、人間“幼姫”。戦えるのか? 心配だぞ、ペティットプリンセス。  ゲンガー。  毒・ゴーストタイプ。  元、ジムリーダー“アンズ”。おおっと、これは強そうだ。がんばれ、リトルクノイチ。  全員が集まって、手を組んだ。  「「えいえいおーーーーっ☆」」  つづく