−第17話−  キャハハハハハ☆  「では、“スカベンチャー”よ、報告せよ。」  「ハッ。」  玉座に座った“破滅のポケモンにして、神デオキシス”の声に、ひざまずいたピッピが、か しこまって答えた。  ここはシルフカンパニー、幼姫の部屋。  大きなドーム状の天井いっぱいに星空と…そして、彗星が写し出される大きな部屋であった。  キャハハハハハ☆  「ポケモンと化した人間、それが入ったモバイルを、カンタという人間が持って逃げま した。」  「追わなかったのか?」  「申し訳ございません、全てワタシの責任です。」  鷹揚(おうよう)にうなずくデオキシス、恐縮するピッピ、そして―――………。  キャハハハハハ☆  デオキシスとピッピ…スカベンチャーは振り返った。そこには―――。  狂ったように笑い転げるリードがあった。  「ところで―――………。」  それを見たデオキシスは、一度「コホンッ」と咳払いをしてから、スカベンチャーに聞いた。  「……“私が選んだ者”は、大丈夫か?」  キャハハハハハ☆  デオキシスの7つの目が、リードを見ていた。額にでっかい汗が浮かんでいる。  さあ? と、答えかけて、ピッピが慌てて答えた。  「もちろん大丈夫ですっ、デオキシスさまっっ。ワタシに任せて下さいっっ。」  デオキシスがうなずいて、ピッピに振り返った。そして、もう一度「コホンッ」と咳払いを してから言った。  「それはそうと…。」  「ハッ!」  かしこまって返答するピッピ。  キャハハハハハ☆  キャハハハハハ☆  キャハハハハハ☆  ドームに笑い声が響いている。  デオキシスの声が、それにかき消される事なく、おごそかに響いた。  「スカベンチャーよ………。」  「いいかげんに、顔を拭け。」  立ち上がった人の影のような真っ黒な手に、トイレットペーパーを持ったデオキシス。  「あっ、いえ、これは、その、これがあると“リンド”の奴が笑ってくれるので、 そのっ。………、あ、ありがたく頂戴致しますっっ。」  神の言葉に、いっそう、かしこまって答えるピッピ。  その顔には“ウンP”が付いていた。  キャハハハハハ☆ キャハハハハハ☆ キャハハハハハ☆☆☆  部屋に良く響く、リードの笑い声が、いつまでもこだましていた。  ところ変わって、水ポケモンジム前。  「あなたは“選ばれし者”ですね?」  白い制服を着た、細面(ほそおもて)の少年が、カンタに言った。  「違うよ、僕は“選ばれし者”じゃない。」  「でも、聞いた話では、カンタさん、あなたは“カビゴン”“エンテイ”キュウコンの進化 前ポケモン“ロコン”を持っている。」  ハッキリと否定したカンタに、少年は食い下がった。詰め寄って“選ばれし者”の条件を並 べる。  そう、伝説によると、瞳が金色に輝く“選ばれし者”は、ふたりの“巫女”を連れ、銀色の 瞳を持った“光のカビゴン”、“闇のエンテイ”、“精霊神のキュウコン”、“闘神バシャ ーモ”、“不死鳥のホウホウ”に守護されている。  「違うってばっ。」  「じゃあ、証拠を見せて下さい。」  一歩も退かない少年に、カンタはため息をついた。  「これがボクが持っているポケモン、全部だよ。」  カンタはポケモンを全部出した。  ライチュー、キルリア、クチートにゲンガー。チャーレム、アサナン、ポニータ、そし て――………。  カンタは、あのポケモン達を出す事を、ためらった。  それに気付いた少年が、カンタに言った。  「どうしたのですか? やはり、あなたは“選ばれし者”なのでしょう?」  カンタは…。  ポンッ  と、少年の肩に手を置いて言った。  「気をしっかり持つんだぞ。」  ?  少年が首をかしげた。  カンタはあのポケモン達を出した。そして―――。  「どっぴょろげェーーーーーーーーーーーーっ!!」  それを見て恐怖し、混乱した少年は、なかなか“カオスチック”な悲鳴を上げた。  それは断末魔の絶叫に似ていた。聞いた事ないけど。  ミオとハルノは、「安らかに眠れ」と合掌した。  水ポケモンジムのプールサイド。青いプラスチック製のベンチに仰向けになり、少年は頭に 濡れタオルを乗せて、寝込んでいた。  プールでは、ここのジムに通うトレーナー達が、ポケモンのトレーニングに、いそしんで いる。  「どうしたの? そのコ。」  ジムリーダーであるキョウコが、心配して聞く。  「ええ、ちょっと、ショックな事があったみたいで。」  カンタは適当な返事を返した。ウソではない。  と、その時。  プルルルルルル  ジリリリリーン  ミオとハルノの携帯が同時に鳴った。  「「はい、もしもし――…。えっ!?」」  ふたり同時に驚いた。  あたふたと会話をして、切った。  カンタに振り返って、口早に申し立てる。  「「ちょっと、用事で、行かなきゃいけなくて、とにかく行って来る!!」」  ふたりは大慌てで、ジムの外に駆け出した。  「あっ、オイ。」  カンタが手を伸ばす。…が、届くはずも無い。中途半端に伸ばした手が、置き去りにされて いた。  「うぅーーーん。」  その時、少年が目を覚ました。  「おっと、気が付いたか。えっと……、名前は?」  大丈夫か? と聞こうとして、カンタはまだ少年の名前も知らなかった事に気が付いて訊 ねた。  「あ、はい。僕は“ミノル”といいま………っ。」  ゲホ ゲホ ゲホッ!!  と、名前を言った途端、ミノルは病的に咳き込み始めた。よく見ると顔色も青白い。  「おいおいっ、大丈夫か?」  驚き、ミノルの肩を掴んで、カンタが聞いた。  少年、ミノルは、ポケットから白い器具を出して、口に含み、何度も喉にクスリを送り込 んだ。  やがてクスリが効いたのか、落ち着いたミノルが、真っ青な顔をカンタに向けた。  「大丈夫です、スミマセン。」  全然、大丈夫そうでない。  それを見てカンタは、ふと、思ってしまった。  あっ………、このコ、近いうちに死ぬんだ。  そう思ってしまってから、カンタは自分のその考えが恐ろしくなって、ゾッとした。  「どうして“選ばれし者”を捜しているんだい?」  カンタはミノルに聞いた。  ミノルは答えた。  「僕には―――………。」  ミノルが、なにかを言いかけた、その時!  「このボクが来てやったぞっ、“選ばれし者”の、このボクがっ! さあ、バトルしろ! 当然、“選ばれし者”のボクが勝つに決まっているけどなっ。」  バタァーーーンッ!!!  と、派手にトビラを開け、何人ものチアガールを引き連れて、ひとりの少年が入ってきた。  フォーマルな服装は高級感を持ち、丁寧にセットされた髪が、風になびいている。  選ばれし者、“おぼっちゃんのヒデマロ”だ。  それを聞いて、ミノルくんが立ち上がった。  「あなたは“選ばれし者”なのですね!?」  ジムリーダーであるキョウコが、なにか言うよりも早く、ミノルはヒデマロの前に立った。  「その通りさァ。キミもボクには失礼のないようにした方がいいよ。」  「バトルして下さい!」  ヒデマロの言葉が終わるか終わらないかの内に、ミノルが言った。  なに慌ててるんだろ…? あいつ。  カンタは、そう思った。  ヒデマロはムッとして答えた。  「ボクが勝つに決まってるじゃんか、ジム戦のジャマしないでくれる?」  「怖いのですか? ボクが。」  ミノルのこの一言。ヒデマロは完全に気を悪くした。そして言った。  「やってやるさ、後悔しても遅いんだよ、“無礼者くん”」  「後悔は出来ません。僕は後悔すら出来ないのです。」  カンタは―――…、不思議な事を言う奴だ。と、興味を持った。いいえ―――…、少し、気 になっただけ。  「カモンッ! バシャーモ!!」  ヒデマロは瞳が銀色に輝くバシャーモを出した。  「降参しなよ、あやまれば許してやるよ、無礼者くん。」  明らかに普通のバシャーモとは存在感の違うバシャーモ。ヒデマロは、いい気になって高ら かに笑い、サラサラとした前髪を、もてあそんでいた。  「頼むよ、“バシャーモ”。」  と、言ったミノルの声。そして現れた“銀色の瞳をしたバシャーモ”!  ミノルも、“選ばれし者”だったのだ!  カンタは、ミノルのバシャーモを見て思った。  明らかに“格”が違う。  現れた途端、ミノルのバシャーモは、その燃え上がる炎のオーラで、ヒデマロのバシャーモ を圧倒していた。  驚きのヒデマロに、ミノルは言った。残念そうな…本当に残念そうな声で。  「キミじゃ、ダメだ………。」  ボクは本当に無礼者くんだね………。  ミノルは、静かに“選ばれし者”の呪文を唱え始めた。  「ナウ. ブリング ツウ アン エンド(もう、終わりにしよう)」  バシャーモの銀色の瞳が輝きだす。ヒデマロは鼻水を垂らして恐がった。  水ポケモンジムのプールサイドは、伝説のバトルのフィールドと化したのだった。  場所は戻って、ここはシルフカンパニーの、主が代わってしまった幼姫の部屋。  「それでは、モバイルを破壊して参ります。」  元に戻ったリードの、胸に抱かれたピッピが、デオキシスに言った。  「待て、おまえらはジムバッジを集めるのだ。」  行こうとしたリードとピッピが、振り返る。  「では、モバイルは、どうするのですか?」  デオキシスが、人間を誰ひとりとして見逃す気などない。ピッピはそれを良く知っていた。 だからこそピッピは―――………。  「気が付かぬか?」  デオキシスは、ニヤニヤしながら言った。  ピッピは首をかしげる。  そういえば…。  リードは辺りを見回した。  アキノが居ない!!  ピッピは、気が付いた。  デオキシスの7つあった目、そのひとつが消えていることに。  デオキシスは、6つある目のひとつを、掴んだ。  そして虚空に投げる。  目は、時空を超えて、飛んでいった。  「すでに刺客を、放ってある。」  デオキシスは邪悪に微笑んだ。  天空の彗星、それを王と冠して。  つづく