−第19話−  「ねえさん……、あたしを殺して………。」  「やだよ…、そんな事、出来ないよ〜っ。」  アキノの言葉に、泣きながら、ハルノが言った。いやいやと弱々しく首を横にふる。  「だよなぁ☆」  明るく、アキノが答えた。そしてもう一歩、ハルノから離れた。  「変な事、頼んでゴメン。やっぱ、自分で始末つけないとな♪」  アキノがつり橋の手すりに手をかけた。ハルノは妹がなにをするのか、それを分かって、弾 かれるように走り出した。  アキノが手すりの“外”に身を翻す(ひるがえす)。下には途方もない深さの谷があった。 アキノは自分で自分を殺そうというのだ!!  ダッシュしたハルノがスライディングをして、手すりの隙間から手を伸ばし、落ちるアキノ の襟首を掴む。  つり橋が激しく揺れた。  掴んだ右手がちぎれそうになった。でも、ハルノは決して放さなかった。  「手を放してよっ、ねえさんっ!! あたしがあたしで居られる内に死なせて!  早くっ!!」  アキノが、泣き叫んだ。  歯を食いしばったハルノ。手を放す気配は、まるっきりなかった。  アキノは、泣きじゃくった。子供のように。  「ダメなんだ…、ダメなんだよォ…。殺してしまう…全ての人間を!! おとうさんも、お とうとも、ハルノ…ねえさんまで。」  「殺しなさい。」  食いしばった歯から、ハルノの声が漏れた。  強い意志と、厳しさを込めた声だった。  「私も、お父さまも…、世界人類、全員を殺しても、あなたは生きなさい。」  驚きでハルノの顔を見上げるアキノ。彼女にハルノは言った。強く!  「アキノは、あなたしか居ないんだぞ!!」  アキノは目をパチクリとした。何てこと言うんだ、この人は…。アキノの目に映るハルノ の顔…それに亡き母の面影が重なった。  「私は殺されないし、お父さまも弟も殺させない。あなたに誰も殺させたりしない。」  ハルノはそう言って、アキノに顔を向け、微笑みかけた。そして言った。  「だから、安心して、私を殺しに来なさい。」  ウインクまでしてみせる。  負けた………。  アキノはハルノの手を取った。  そしてつり橋に、這い上がる。  つり橋に上がった後…、二人は距離を取って向かい合う。  ハルノがスカートを引き裂いて足を出し、足のガンベルトに付けてあった小さな銃を手に取 った。  アキノが上着を広げた。その内側のガンベルトに、大きな拳銃があった。それを手に持つ。  「ガンマダム・ハルノ…。」  言ってハルノが、たたんだ日傘を横になぎる。すると傘は光を帯びて変形し、盾となって左 腕に装着された。  「マグナムシューター・アキノ…。」  無骨なまでの大きな拳銃…。それを抜き放ってアキノが言った。  「「 行きます!! 」」  ズドンッ!!  ユウの大剣が宙をなぎった。  爆風が起こって、ミオとオードリーを吹き飛ばす。  地面を転がって、ユウと距離を取るミオとオードリー。  夕暮れ時、町外れの街道で、ミオとオードリーは、ユウと戦っていた。  ヒザ立ちになって、ミオがうめく。  ミオとオードリーの体には細かな傷がいっぱい出来ていた。  ユウの起こす爆風は、まるで無数の針が仕込まれているかのように、ミオとオードリーを傷 つけた。  「殺気風圧………!」  ミオは、うめいた。  物理的力さえ秘めた殺気が、ミオたちを傷つけていたのだ。  触れるだけで…、いえ、見るだけで傷つけられそうな殺気。それがユウの体から放出されて いた。  大剣の直撃を喰らったら、いったいどうなるのか…?  ミオは、ゾッとした。そして、笑った。  満足げに、そして言った。  「嬉しい…本当に嬉しい。」  ズドンッッ!!!  針のような殺気を含んだ爆風が来た。  ヒュオオオオっ!  ミオが呼吸に“気”を込めて吐き出す。そして!!  ズバンッ!!  光のブレード(刃)で、爆風を真っ二つに切り裂いた。  「ユウ…、あなたに手加減される事、相手にされない事、それがどれだけ辛い事だったか。」  下段、後方に構えた剣の切っ先が地面を走って、ユウがミオに迫る。  砂塵を巻き上げて、剣戟が繰り出された。  ダンッ!!  砂塵に乗るように、ジャンプしてかわすミオ、オードリー。  ユウはミオの剣の師匠であった。絶対に敵わない強さを持った師匠であったのに、ユウはい つも、ミオに負けてくれた。  「わざと負けてもらっても、全然嬉しくなかった…。」  ソンナ ヤサシサ ハ “アイ” ジャナイ  着地して、ユウの懐に入ろうと、地面を蹴ろうとするミオ。その足が、止まった。  ユウの左手、2本の指が、ミオの目を突く形で迫ったのだ。  逆方向に地面を蹴って、後方に逃れるミオ。  砂塵を纏って(まとって)、大剣を構えるユウ。そこに隙は、なかった。  「ユウッ!!!」  ミオは、叫んだ。それは武人の本音であった。  「………私、殺されてもいい。あなたの本気を見せて。」  ミオは光のブレードを構え、言った。  「ブレードダンサー・ミオ。行きますっ!!」  ウォークライが、夕焼けの街道に、響き渡る。  空に―――………、彗星が輝いていた。  ……………一番星が輝く前に。  「どうもお世話になりました。」  そう言って、カンタに頭を下げるミノルくん。  ここはポケモンセンター前の広場、アヤも傍に居た。  次の“選ばれし者”を捜そうとするミノルを、カンタが呼び止めた。  「ミノル、バトルしてくれよ。」  カンタの申し出を、ミノルは丁重に断った。  「悪いけど、時間がないんです。」  「怖いのかい? 俺が。」  カンタが挑発した。ミノルは笑った。  「ダメですよ、その手には乗りません。」  「いいから、戦えって。」  言ってカンタがアヤを見る。アヤは、うなずいて前に出た。『納得済みです。』といった顔 をして。  「俺は“選ばれし者”じゃない…でも―――………。」  ミノルはアヤの姿に見入った。  パッと見、気が付かなかった。あまりにも自然に、そこに居るから。  しかし、歩み、近付くたびに、大きくなっていく存在感。  華奢な体のキルリア…。なのに、まるで巨人を見上げるような圧倒感に、ミノルは触れられ る事なく、後ろに倒されそうになった。  「俺は“自らを選びし者”なんだ。」  アヤが拳法のかまえを取った。  その途端、真っ赤な灼熱のオーラが噴出し、キルリアの華奢な体を覆った。  それがバシャーモの姿をかたどる。その圧倒的迫力は、ミノルのバシャーモに決して劣るも のではなかったのだった。  谷に架かるつり橋で  夕日に染まる街道で  ポケモンセンター前の広場で  それぞれのバトルが、始まった。  つづく  注意!!  次の第20話が、登録の手違いで(真琴のへたっぴで)最終話の後に並んでいます。  お手数ですが、どうか、最終話の後ろの第20話を、第21話の前に、読んでやってください。