ミオは舞った。  まるで体重などないかのように。  そこに、今まで以上の爆風が押し寄せた。  ミオは………。  舞った。  爆風を切り裂き、風を巻いて爆風を遡った。  大剣を振り抜いたユウ。  爆風の中で、ミオがユウに迫る。  ミオがユウの懐に飛び込んだ。その時。  ユウが腰から短剣を引き抜いた。それをミオに向ける。  ミオの顔に迫る短剣。その時、ミオの頭を飛び越えてオードリーが飛び掛った。  ズバァーーーーンッ!!!  オードリーの“アイアンテール”が、ユウの短剣を叩き落した!  爆風は止んだ。  夕日の差す街道で、ふたりは立っていた。  ユウの振り抜いた大剣は、ユウの後ろにある。  地面に落ちた短剣。その横に着地したオードリー。  そして―――………。  デオキシスの目に、ブレードを突き刺したミオ。  ミオはゆっくりとブレードを引き抜いた。  すると、デオキシスの目は、シールのように剥がれて落ちる。  現れるユウの頬には、傷ひとつない。  グラッ………。  倒れるユウを、胸に抱く。  抱きしめたユウの呼吸が、耳元で聞えた。  ミオはため息をついた。  「本気の試合は、また今度…ね。」  ミオは剥がれ落ちた“目”を一瞥(いちべつ)した。そして言った。  「あなた…、弱いわ。」  すると、剥がれた目の傷跡が“口”に変形し、言葉を喋った。  「キサマ…、何者だ。」  ミオは答えた。  「私は“ミオ”…。ブレードダンサー…、刃(やいば)の踊り子・ミオよ。」  デオキシスの目…、それに出来た口が言った。  「それだけではない…、キサマは、まさかっ!?」  そこまで言って、目はドロリと溶けて、風に消えていった。  空に―――、  ―――――ようやく、一番星と月が見え始めた。  ガドーンッ!!  バズーカーのような銃声は、ひとつだけ聞えた。  ガキキィンッ!!!  しかし、ハルノの光の盾に命中したのは、3発のマグナム弾だった。  ボクゥン…ッ!  生々しい音がして、ハルノの肩の骨が外れる。そのまま腕ごと弾かれ、ちぎれ飛びそうに なる。  ハルノは、骨の外れた左腕を掴んで、つり橋を入り口の方に走った。  つり橋の入り口、シャルペロが見守る横を走って、木の幹に左肩から体当たりをする。  ボクゥンッ!!  もう一度、生々しい音がして、抜けた肩が元に、はまる。  激痛に転がるハルノ。しかし、すぐに立ち上がった。  強い意志と訓練によって、悲鳴すら上げないハルノは、小さな銃…“デリンジャー”を構 えて、アキノに向って疾走する。  ガーーーーンッ!!  再びマグナム弾が発射される。ハルノは―――。  つり橋を蹴った。  そして、手すりを壁走りしてマグナム弾をかわし、アキノとの距離を一気に縮めた!  まるで重力を無視した超疾走! 至近距離でデリンジャーを撃つ!  腕の腱(けん)を狙った狙撃は、しかし、後ろに飛んだアキノに、かわされたのだった。  ダァーン!!  ハルノも宙に飛ぶ。  月面宙返りをするように、アキノを飛び越え、空中で、何発もの銃弾をアキノに撃ち込んだ。  カン カン カンッ!!  薬莢(やっきょう)と、何丁かのデリンジャーがつり橋に落ちる。  2発しか撃てない小さな銃、デリンジャー。  弾切れしたデリンジャーを捨て、ハルノは足にいっぱい装着してある“デリンジャー”を空 中で引き抜き、発砲したのだ。  目にとまらない程の早撃ち―――。  手足の腱を撃ち抜かれて、アキノはつり橋に倒れた。  その横にハルノが降り立つ。  もう、アキノは腕も足も動かせない―――。  ハルノは、安堵の表情で、ゆっくりと呼吸を吐いた。  「やめて…。」  ゴボ ゴボ と、アキノの口から声がする。  近付こうとしたハルノ。その足が止まった。  「やめてぇ………。」  ブラブラとした腕、そして足で、アキノが不自然に立ち上がった。  それは、操り人形に似ていた。そんなアキノがマグナムをかまえた。そのマグナムに殺意が 集中する。  時空をゆがめ、全てを引き裂く程の殺意―――。それがおそろしく収束していった。  まるで、あの彗星が、ここに現れたかのよう…。  ハルノは一歩―――――、  気圧されて後退った。  どこに逃げればいいの…?  ハルノは自問した。  しかし、答えは無情なものだった。  逃げ場はないっ!!  つり橋の上で、ハルノは成すすべなく立ち尽した。  ハラハラと、  オドオドと、して。  メソメソと泣いて、ただ、見守るだけだった、シャルペロが―――。  ふいに、顔を上げた。  どこか晴れ晴れとした、決意の表情をして――――。  「やめて やめて やめて やめて やめて―――――…。」  アキノの悲痛な声が大きくなる。  シャルペロが、いきなり――――。  自分の体の“中”に、“炎の渦”を、叩き込んだ。  ありったけの力と熱を込めて、叩き込みつづけた――――。  そんな事をすれば、どうなるのか………!?  そんな事、考えもしなかった。  ただ―――……。  ただ、シャルは、  『大好きな、ハルノを守る!』  それだけを………、たったそれだけを、考えていたのだ。  高熱に、地面が、まるで溶岩のように、グツグツと煮え立つ。  シャルペロの体は、とろけ、………まるで空中に浮かんだ、火の玉のようになった。  「やめてぇええええええええっ!!!!!!!」  アキノの声が絶叫となった時、銃は発射された。  眼前が白い殺意に包まれた。  ハルノは、静かに、目を閉じようとする。その時!!  火の玉が飛んできた!!  それが殺意の塊(かたまり)にぶつかって、お互いに消滅する!!  爆風が発生し、トランポリンのように、ゆれるつり橋。  振り落とされそうになる、アキノを、ハルノが捕まえた。  引き寄せたアキノの顔に見える凶悪な“目”。  クルリ……。  ふざけるように、白目を見せる“デオキシスの目”  「あ……………。」  「ああああああああああああーーーーっ!!!!!!!!!!!」  それにハルノは、ありったけの銃弾を、叩き込んだ!!  谷底に、ばらまかれ、落ちていく、いくつもの薬莢と、デリンジャー…。  揺れるつり橋が、ようやくおさまった時…。  火の粉が、雪のように降っていた。  熱のない―――………やさしい…花吹雪のような火の粉が―――………。  守るように、アキノに覆い被さっていたハルノが、顔を上げる。  同じように顔をあげたアキノ。その顔から“目”が、剥がれて落ちた。  ニコ…。  アキノが笑った、アキノの笑顔で。  ハルノは、うれしくって―――………。  「やったーーーーっ。」  叫んだ。  振り返って、シャルペロを呼ぶ。  「やったよ〜っ、シャル…ペロ………?」  ハルノの声が止まった。  振り返ったつり橋の入り口。そこにいたはずの“ポニータのシャルペロ”が、いないのだ。  ただ、シャルペロが居たはずの場所が、まるで溶岩のように、煮え立ち、蒸気をあげている。  火の粉が、雪のように降っている。  谷風に煽られて――――、  花びらのように、舞っている―――――。  「シャル〜っ? シャル〜〜〜っ…。シャルペロぉ〜〜〜〜〜?」  ハルノの声が…炎の雪とともに―――………、谷底に降り注いだ。  いつまでも―――…。  谷底には――、ただ、一羽のポッポが飛んでいる―――だけだった。  つづく