「夢も希望もない、明日があるから、死にたいんだよ。」  デオキシスは言った。  それを聞いたリンドが、ボソッと呟いた。  「誰かが用意した夢や希望で、満足なんかしないクセに…。」  デオキシスがジロッと睨みつけた。リンドは目を逸らした。  カンタが言った。  「勝手にひとりで死ねば?」  デオキシスはキレた。  「世の中が悪いのさ、なんで俺が死ななきゃいけないんだ。世界人類全員、道連れだ!!」  カンタがボソッと呟いた。  「自分の人生に責任を取れるのは自分だけやん。」  デオキシスがギロッとカンタを睨みつけた。カンタは目を逸らした。  その時、光の世界に、黒い影が無数、取り囲んだ。  それは、狂気に目を光らせた、最強クラスのポケモンたちだった。  「神々の決定なんぞに従えるかっ! 人間を神ごと滅ぼしてやる!!」  最大級、最強クラスの、デオキシスに操られたポケモンたちが、カンタたちと神々に襲い 掛かった!  「バクフーン、オーダイル、メガニウム…、あなたたちとは戦いたくなかったよ…。」  ほかにも、フシギバナ、リザードン、カメックスまで、その他、全てのトレーナーに馴染み 深いポケモンたちが、デオキシスによって正気を失って、カンタたちに襲い掛かった。  「デオキシスを排除せよ―――。」  神々の長、レックウザが告げる。  そして、最終決戦が始まった。  カンタとリンドが、互いの背中を守るように、合わせた。  しかし、ポケモンたちは、デオキシスの命令によって、集中してカンタとリンドを目指した のだ。  包囲し、押し寄せるポケモンたち――、そこに。  ズパァーーーン!!  光る“ブレードリボン”が、大きく螺旋を描いて、ポケモンたちをなぎ払う。  ミオの“ブレードリボン”を持った“アヤ”が、舞った。  「あたしのカンタに、手を出すなっ!」  人間の言葉で、言った。  アヤと一緒に、オードリーも舞っていた。  まるで長年タッグを組んできた相棒のように―――。  キイイイイイイイア!!  スカートを裂いて、ハルノが、たたんだ日傘を横になぎる。  足から、“デリンジャー”を取って、カンタたちを守る為に立つ。かたわらには、スイクン となったシャルペロが控えている。  「カンタさま、ありがとうございます。―――本当に。」  ポポポンッ☆  カンタのモンスターボールが、勝手に開いた。  そして、クチートが、ゲンガーが、チャーレムが、アサナンが飛び出す。  「カンタどの、いよいよ最終決戦じゃな。よくぞ、ここまで来てくれた…。」  クチートが涙を流した。飛び出したポケモンたちが、カンタを守ろうと、立ちはだかる。  「みんな、もう一度、力を貸して――っ。」  リンドが言った。そして、かつて“選ばれし者のポケモンたち”だった、モンスターボール にキスをする。すると―――。  輝きが戻り、“銀色の瞳のポケモンたち”が、次々に、モンスターボールから姿を現した。  「クアアアアアアアアアッ!!」  デオキシスが、吼えた。  そして、空に大きく広がって、光の世界を影で覆い尽くした。  神々が、力を合わせてそれに攻撃する。しかし、拡大された彗星から、真っ赤に焼けた鉄の 塊が降り注いだ!!  それの内、2つがカンタ目指して降って来る。  「カンタっ!!」  悲痛な叫び!  しかし―――。  「ふははははっ、はははーーーっ!」  突然おこった笑い声と、飛来した“カイリューのマージョリカ”が、破壊光線で鉄の塊のひ とつを叩き落した。  「サイコキネシス、シャドーボール、火炎放射、ハイドロポンプ、10まんボ ルトーーーっ!!」  突然、瞬間移動してきた少女“ミキ”。彼女が連れた5匹のイーブイ進化系の放った技によ って、もうひとつも砕け散った。  「ユキオさん! ミキっ!!」  「私たちも協力しますっ!」  デオキシスは―――。  「要らぬ…、もはや両目も要らぬわーーーっ!!」  残ったふたつの目も、掴んで虚空に投げる。すると、時空を引き裂いて、エンテイ、スイ クン、ライコウを連れた“ルギア”と、サンダー、ファイヤー、サンダーを連れた“ホウオウ ”が現れた。額に“デオキシスの目”が、貼り付いている。  それが、一斉にカンタを目指す。  「ナウ レッツ スタート(さあ、始めよう)」  「スタンダップ ゴッド オブ ガイア(立ち上がれ、大地の神よ)」  「ヒア ウィ ゴー!(さあ、行こう!)」  そこに聞き覚えのある声で、“選ばれし者”の呪文が響いた。  大軍すらも焼き払ってしまいそうな灼熱の波動が、ルギア、ホウオウを退ける。  「ミノル!!」  ミキのテレポートによって現れた友達の姿に、カンタが叫んだ。  「あなたの言った通りですね、ボクも、なかなか死にません。」  ウソがホントになった―――。  顔色の良くなったミノルが、カンタの前に出る。  「さあ、ここはボクたちに任せて、カンタさんはデオキシスを!」  カンタは嬉しくて泣きそうになった。  背負ったリュックから、モンスターボールを出す。  闇のオーラを垂れ流しにする、物騒なモンスターボール。  5本のシッポがはみ出した、死の瞳でダランと首が垂れ下がるモンスターボール。  そして―――。  オシリと足がはみ出した、超重量のモンスターボール。  トラを―――。  ホーリーを―――。  そして。  ポン太を呼び出して、魔法の呪文を唱える。  「アイム ビー フリーダム!(我、自由自在なり!)」  天空に覆い被さる、闇を睨みつけた。  睨みつけたまま、魔法の言葉を紡ぐ。  闇を払い、明日を呼ぶ為に―――。  スカーレットを乗せ、シャルペロを駆るハルノが、伝説の3匹を引き連れたホウオウと相対 する。  唸り、威嚇するシャルペロを囲み、3匹が、攻撃を繰り出した。  エンテイは火炎放射を、ライコウは10まんボルトを、スイクンはハイドロポンプを。  「シャルペロっ!!」  ハルノの声に、シャルペロが、ジャンプ。上空に逃れる。  そこに―――。  「ホウオウ!!」  ホウオウが待ち構えていた。  聖なる炎がハルノを襲う。それを螺旋に回る念力が、食いとめた。  「チャーレム! アサナン!!」  ハルノを守った“めいそうポケモン”の姉弟が、笑い掛ける。  ハルノは無事、着地した。  しかし、そこに伝説の3匹が待ち構えていた。  「スカーレット、かみなり! シャルペロ、かえんほうしゃ!!」  ハルノの指示で、スカーレットが、かみなりをスイクンに。シャルペロが火炎放射をライコ ウに繰り出した。ハルノ自らは、エンテイにデリンジャーを撃ち込む。  スイクンは大ダメージ、ライコウも深手を負った。しかし―――。  「ダメッ! デリンジャーぐらいの威力じゃ、ダメージを与えられない!!」  ハルノは優しかった。  デリンジャーは本当に弱い銃。至近距離で、頭を狙い撃ちしても気絶くらいしかさせる事が 出来ない。でも、だからこそ―――、ハルノは“デリンジャー”を選んだ。  殺す為の銃ではなく、威嚇の為の銃――。それがデリンジャー。もっとも、ハルノの凄腕 によって、筋肉のスジに直接叩き込まれる弾丸は、確実に敵の自由を奪う。  その為、人々は、いつしかハルノに称号を与え、称えた。  ―――ガンマダム…銃の貴婦人、ハルノ―――と。  しかし、ポケモン相手――、しかも伝説の3匹では相手が悪かった。  撃ちもらしたエンテイが、ハルノに迫る。  エンテイがハルノに襲いかかり、キバを剥いた。その時!!  ガドォーーーンッ!!  一発の銃声に3発のマグナム弾!!!  それがエンテイを確実に撃ちぬいた!  バズーカの直撃のような威力に、エンテイは弾け飛び、戦闘不能になる。  タンッ  と、シャルペロの背中、ハルノの背後に、あの娘が飛び乗る。  「ハルノぉ、あたしも来たよ☆」  弾む声、元気な言葉。それはアキノだった!  「アキノさん〜っ。」  嬉しさに泣き出しそうなハルノの声。  「おとうさんも、大丈夫だよ。今、フユノねえさんと、ナツノねえさんが看病してるよ。早 くハルノの顔が見たいってさ☆」  家を出ていったはずのふたりの姉…、家の危機を知って、駆けつけてくれたのだ。ハルノは 、嬉しさに泣き出してしまった。  「ホラホラ、気を抜かない☆」  アキノが言う。上空にはチャーレム、アサナン姉弟と、空中戦を繰り広げるホウオウが、地 上にはまだ、スイクンとライコウが居る。  「じゃあ、いつもの行く?」  アキノが言った。明るく。  「ええっ、よろしくってよ☆ アキノさん〜。」  ハルノが答えた。明るく。  ふたりは、声を合わせて言った。  「ガンマダム・ハルノ!」  「マグナムシューター・アキノ!」  「「 行きます!! 」」  フシギバナのはっぱカッター!  刃物と化した無数のはっぱが、クチートを襲った。  「くっ!!」  クチートは“てっぺき”を使って、その嵐のような攻撃を耐えた。しかし―――。  そこに上空から、リザードンが火炎放射をかけて来たのだ!!  クチートの弱点を突いた攻撃!  クチートは避け切れないと悟り、歯を食いしばった。その時!  クチートとリザードンとの間に、ゲンガーが割って入った。  超高速で移動! 後、シャドーボールで、火炎放射を受け止める!!  と、そのゲンガーに、今度はフシギバナのはっぱカッターが迫った。  嵐のようなはっぱカッターにクチートが、ためこんだエネルギーを背後の顎(アギト)から 一斉に放射する!!  ジャッ!!  一瞬で蒸発するはっぱカッター。クチートとゲンガーはお互いの背中を守るように、動いた。  「妙な縁じゃな、アンズどの。わらわを恨んでおるとおもうておったのに。」  かつて人間“幼姫”であったクチートが言った。  『恨んでおりまする、幼姫さま。そのお返しに、これが終われば我が主君として、一生仕え させていただきまするぞ? 覚悟いたしませ。』  かつて人間“ジムリーダー・くのいちのアンズ”は、明るく答えた。それは、心からの尊敬 の言葉であった。  クチートは嬉しさに目を潤ませた。  「では、アンズどの、いっしょに躍るとするか! 相手に不足することはないからのォ。」  楽しそうに、クチートが言った。  目の前に、フシギバナが、上空にはリザードンが居る。  『はい、我が主君。』  嬉しそうに、ゲンガーが答えた。  強敵を前に―――。  ふたりは決して臆する事はなかった。  「スカ、ありがとう。」  リンドは、戦いながら、胸に抱いたピッピに言った。  「名前を奪ったのも―――、髪を切ったのも―――、あたちが…、“リード”が“リンド ”だってバレないようにする為の変装―――。デオキシスと取引したのも、選ばれし者だけを 殺さない…あたちを人類滅亡後も、生かす為―――。その為に自分を悪役にして、あたちを守 ってくれて―――。  本当に、ありがとう。  あなたは、あたちの―――。  本当の家族なの。」  リンドに、鉄の塊が迫った!  それをスカベンチャーが、指を振って、サイコキネシスを発揮し、方向を逸らして守った。  「あーー、その、なんだ。やめろよ、俺はそんないいヤツじゃねぇよ。誤解すんな。」  なぁ、リンド―――。  お前の為に…、命を賭けるヤツがひとりくらい居てもいいだろう?  同情じゃねぇぞ。俺も似たような境遇だったからな。どうしても守りたいんだ、俺の勝手な んだ。ただ――。そう、家族なんだ、俺たちは。なあ、そうだろう? リンド。  照れて、ピッピは言った。  「ああ、それからなあっ。」  照れまくってピッピが言った。  「―――俺をスカって呼ぶな。」  照れ隠しにピッピは言った。  リンドは、明るく、笑った。  輝くような、その笑顔に―――、スカベンチャーは、たまらなく嬉しくなって、幸せに笑っ て照れた。  カンタは最大の呪文を唱えた。  ポン太が、ホーリーが、トラが、銀色に輝き出した。  焼けた鉄の塊が無数、カンタに降り注いだ。  それを打ち落とす、ユキオとミキ。  撃ち洩らしたいくつかの塊が、カンタに当ろうとしていた。  そして―――。  強力なバリアーが、カンタを守った。  バリアーでカンタを守ったミュウツーが、カンタのとなりに立った。  その厳しい目が、「やれ。」とカンタに言う。  全生命力すら注ぎ込んだ呪文が―――。  ガクッ  カンタのヒザを折った。  倒れようとする、カンタ。  そこに、呪文と、支えが入った。  カンタの体を支えるのが、リンド。  呪文を助けるのが、ミノルだった。  デオキシスに操られたポケモンの大群。それを全て蹴散らしたアヤとオードリーが――。  ホウオウに打ち勝ったハルノとアキノ、シャルペロ、スカーレット、チャーレムとアサナン が――。  戦いに打ち勝って、クタクタと座り込むクチートとゲンガーが―――。  降り注ぐ鉄の塊を打ち落とすユキオと、ミキが―――。  みんなが、叫んだ!!!  「「「 いっけーーーーーーーーーーっ!!!!! 」」」  カンタは――――。  両足を踏みしめて、天を睨み付ける!  そして、叫んだ!  「レット イズ デストラクション!!!」  輝ける光の洪水が―――  天を覆う影を――――  消し飛ばした―――――。  そして――――  戦いは終わった。  闇の消えた天空から、ボロギレのようになった、ちいさなデオキシスが落ちてきた。  それが、カンタの足元に落ちる。  カンタが―――、  神々と、みんなが注目する中―――、  デオキシスに手を差し伸べた。  そして、言った。  「いっしょに行こう、デオ。」  神々が驚いた。みんなからは、不満の声が漏れた。  でも、カンタは言葉を、くつがえさなかった。  「あなたが居なければ―――、滅びがなかったら、人間は本当に滅んでしまう。  滅びが―――、“死”が、なければ―――――。  あなたが居なければ―――――、  新たな“命の誕生”は、ないんだ。」  冬に散った葉が、大地の養分になって―――  新たな葉を育むように―――。  育ったのは…  今まで、生きてきた事は―――  決して無駄ではない。  決して、無駄ではないんだ――――。  デオキシスは―――  やさしく微笑んだ。  そして、厳しく言った。  「カンタ、この世には――、どうしても救えない奴だって居るんだ。  それを知っておけ―――。」  そうして、デオキシスは―――  光の中に、消えて行った―――――。  カンタは―――、涙を拭って、みんなの方に振り返った。  そこへ―――、  一羽のポッポが、飛んできた。  カンタは手をかかげ、ポッポがその腕に降り立つ。  カンタの前に、まず、クチートとゲンガーが進み出た。  カンタが名前を呼んだ。  「幼姫さま。そして、アンズさん。」  すると、クチートが幼姫に、ゲンガーがアンズの姿に戻った。  そして次に―――、  ポン太が進み出た。  カンタが名前を呼んだ。  「ポン太―――、おにいちゃん。」  すると、カビゴンのようなポン太が――、  ライチューを抱いた人間…。  兄、ポン太の姿に戻った――――。  すこし、涙を潤ませたカンタ。  「よくやったぞ、カンタ。俺の弟―――。」  兄、ポン太の声も――、少し涙に震えていた。  そして――――。  カンタは、突然振り返って、駆け出した。  その先に、“キルリアのアヤ”の姿―――。  カンタは、叫ぶように呼んだ。  「ミオーーーーーっ!」  すると、アヤの姿が―――――。  死んだはずの、ミオの姿に変わったのだった―――いや、戻ったのだ。  そう、アヤこそが、ミオの生まれ変わりだったのだ!  ふたりは、そのまま抱きしめあった。  ミオは―――、震える声で言った。  ずっと、言いたかった言葉を――。  ずっと、言えなかった言葉を…。  言ってしまうと、恋に落ちてしまう…、告白の言葉を―――。  「好き―――――。  好きっ、大好きーーーーーーっ!」  そして、物語は、大団円。  壊滅した都市は、再建の活気に満ちていた。  奇跡的に死者もなく、人々の顔には笑顔があった。  シルフカンパニー本社跡に、幼姫と、カンタの姿があった。  新本社ビル建築現場の片隅で、ふたりは話しをしていた。  「しかし、アヤがミオの生まれ変わりだったとはの。」  おもいもよらなかったぞ。  幼姫の影に、幼い忍者の影が見える。  カンタは苦笑して答えた。  「時の神様が気を使ってくださった。だって。」  カンタが笑って、兄から聞いた話しをそのまま言った。  「それにしてもカンタ――、「人間は滅びるべきか。」  この命題(テーゼ)に対する答えが「明日がある。」なんぞで良かったのか???」  未だにナゾである。  なんで神々はアレで納得したんだ????  「いいんじゃないですか? だって、人生だって―――。  答えの中にあるのじゃなくて  答えを見つける過程の中に、あるじゃん。」  幸せも、愛も。だからきっと人間の存亡も人の生死も―――。  「カンタぁーーーーーーっ。」  ふたりは声に振り返った。声の主を見て、幼姫がカンタを冷やかした。  「ほれ、未来の花嫁が呼んでおるぞ、はやくいかんか。」  その言葉に照れたカンタが―――、幼姫に手を振って、走って行った。  幼姫は、青空を見上げ、本を広げた―――。  本には、今年のポケモンリーグの結果が記されてあった。  しかし、この本にも、どの本にも―――、カンタたちの活躍は記されていない。  幼姫は、本を閉じた。そして目を閉じ、風を感じる―――。  カンタたちの物語は、記録というカタチには、残らなかった。けれど――  だからこそ、時代、場所、人に合せてカタチを変え、変化する。だからこそ―――  人々の心に  想いを映して  波紋のように広がって  きっと―――――――――  ―――――――この物語は                     永遠を生きる物語  おしまい☆                            2004年3月11日 by真琴  誤字修正:04年3月12日