−第6話−  このままでは岩、地面系ポケモンを使うジムリーダー、金髪のマサシに勝てない。  ミニスカートのミオは短パン小僧のカンタ、お嬢様のハルノをともなって、一度帰省するこ とにした。  「キルルゥ?」  あとどれくらい? と、聞くかのような声。  岩が剥き出しの山道を行くミオのすぐ傍には、自分は絶対に人間と信じているポケモン、“ キルリアのアヤ”が歩いていた。  昼の太陽が、岩の陰に消えて久しい。  夕闇は未だ訪れる気配はなかったが、黄昏の足の速さを用心して、一行は歩みを速める。  ハルノは景色が珍しいのか、いや、全てのモノが珍しいのだろう。キョロ キョロと辺りを 、嬉しそうに見回し、そのたびに、さした純白の日傘がゆれる。隣には寄り添うように“ポニ ータのシャルペロ”が歩いている。  カンタは…。  ……………。  手に持った、“それ”に頭を悩ませていた。  それはモンスターボール。  ただし  少しだけ開いている。  少しだけ開いたそこから、まるで水に黒い絵の具を落としたように  ドロリ…  と、黒いオーラがこぼれ落ち、と、同時に。  ユラリ…  と、空気より軽い成分の黒いオーラが、糸を引くように昇っていく。  ガリッ…  と、時々、ナイフのように鋭い爪が、開いた隙間をかきむしり、  ギロリッ!!  と、血走った目をのぞかせる。  泣く子も黙りそう…。いや、よけい泣くか。  それは、先日捕まえた、黒いエンテイ…のようなグラエナである“トラ”(旧名ナトラー) の入った…もといっ、入りきらないモンスターボールだった。  どっこいしょっ  と、担ぎなおした重たそうなリュックからは、大きなライチュー…カビゴンに近しい“ポ ン太”のシッポと足が、はみ出している。  泣く子も笑いそう…。うん、これは間違いない(キッパリ。  どうして、こうなっちゃうかなァ。  短パン小僧“カンタ”。悩み多き10歳の夏だった。  若年寄(わかとしより)街道まっしぐらだねっ、カンタ♪  空は青く、岩は乾いた灰色。しかし風は、行く先から草原のさわやかな緑の香りを運んで くる。  山道は曲がりくねって先が見えない。  「この先、岩場を抜ければ、わたしん家よ。」  小さな山…と、思っていたら、それはなんと岩だった。  それを迂回するように、岩がゴロゴロする道が続いている。  コケッ  ニワトリの鳴き声?  いえいえ、アヤが“なにか”に足を引っ掛けて、転んだ音ですよ。  そして、それは起き上がった。  ズゴゴゴゴゴッ!!  突然、地震が起きて、カンタ達は立っていられなくなった。  まるで道が、せりあがって迫ってくるかのような迫力で、道と思っていたそれは、巨大な“ ハガネール”となって起き上がった!!  こめかみに青筋を浮き上がらせ、眉間にアヤの足型をつけたハガネールが、涙目で『痛いや んけ、なにすんねん、ワレ。』と、アヤに襲い掛かる。  「アヤっ!あぶない!!」  焦ったミオの声。  しかし!!  スイ…  アヤはまるでボクサーのように上体を後ろに逸らして、ハガネールの体当たりをかわした。  流れるように、クルリと回って腰を落とし、拳をかまえ、  バシューーーーーッ!!  いきなり、その華奢に見える体から、炎のような深紅のオーラを噴き出した!! そしてっ。  ズガァーーーンッ!!  まるで突発的な竜巻が天に昇るかのような、“スカイアッパー”をハガネールに叩き込んだ。  ガシャアーーーーーーッン!!  まるでガラスが割れるような音がして、ハガネールが砕け散った!!  砕け散った鋼のカタマリが降る雨の中、軽くステップを踏んで、指の腹で口の端を拭い、薄 く笑うアヤ。  まるで、どっかの初代カンフースターである。  「キルッ。」(人間語訳:フッ)  まるで「私と戦(や)ろうなんて、10年早いわ。」と、言わんばかりである。  ポケモン図鑑を持たないカンタ達は、頭の記憶に頼ってキルリアというポケモンを調べた。  えっと〜…エスパータイプ???  ミオは、でっかい冷や汗を流した。  まるでバシャーモです、アヤさんっ。  『わぁーーーーっ!』とか言って、砕け散ったハガネールが、小さな無数のハガネールにな って、散らすように逃げていく。  おおきくなれよーーーーーっ。  カンタはハンカチを手に持って、大きく振った。  一行は大きな岩を大きく迂回して、道を抜ける。すると、突然、世界がひらけた。  「キルーーーーーッ!」  アヤが大きな驚きの声を上げた。カンタ達も驚きに顔を輝かせる。  どこまでも広がる草原は緑に輝き、風になびく草がまるで海原のようである。  かすんでうっすらとしか見えないはるか向こうの山脈は、果てしなく地平線に横たわって いる。  その緑の海の中央に…。  「キルッ、キルッ、キルゥーーーッ!!」  おおはしゃぎのアヤ。  遊園地…。  そうっ! そこには遊園地があった。  数々の巨大な遊具に、ポケモンの姿をした大きなバルーン。今はまだ、かすかに聞える楽し く弾むような音楽。  「キルーーーーーーッ!」  まるで子供のようにはしゃいで、アヤが坂となった道を駆け下りていく。  足をもつれさせたカンタが、その後ろを転がって落ちていく。  「わぁあ〜っ、遊園地が実家でいらっしゃるのですか〜? ミオさま〜。」  おっとりとハルノがミオに訊ねた。  「ええっ、そう。移動遊園地専属のサーカス一座。そこがあたいの実家さ。」  やや、なまりを含んで砕けた感じの喋り方をするミオ。  その顔は、うれしそうに緩んでいた。  「おーい、待てよーっ。アヤー。カンタぁーーーーっ☆」ミオの、カンタ達を追いかける声 も足取りも、喜びに弾むよう。  ジリリリーーーン!!  そのとき、ハルノのポケギアが鳴った。まるで警報のような、電話の着信音だった。ハルノ はすぐに“それ”を止めた。  ポケギアを胸に抱き、痛みに耐えるように、目を閉じる。  ポニータの“シャルペロ”が心配そうに、濡れた紅い大きな瞳でハルノを覗き込み、鼻を寄 せる。  急速に深まった夕闇がハルノを隠し、薄紫に染まった空が一番星に瞬いていた。  白い日傘だけが、かすかに揺れていた。  メリーゴーランドに灯りが灯っている。  クリスマスツリーの飾りが輝くように、子供達を乗せて輝いている。  観覧車やジェットコースターも、まるで降り積もった星を乗せているかのよう。  一行は心をそれらに奪われ、いつ迷子になっても不思議でない足取りで、ミオに付いて行く。  ドームみたいな大きいテント脇を抜け、裏に出る。  そこでは夕食のバーベキューをするピエロやマジシャン達…サーカス一座の人達が居た。  「ミオッ!!」「まぁ、ミオちゃんっ。」「ヒャッホー、ミオ!」  みんながミオの姿に驚き、喜ぶ。  ミオのほっぺたがふくらんで、両端が上に上がった。それにともなって笑った口が大きく引 き伸ばされる。  ミオ、笑いすぎて、人相変わる。  「うわァ、ミオってば子供みたいだよォ。」  子供です。  カンタは、そのような感銘を受け、相棒の普段見せない側面…顔の発見に喜んだ。  「みんなァーーーっ、ナマステぇーーーーっv」  両手を広げて、ミオが駆け寄る。  Σミオさまっ、なぜにインド語っ!!  カンタ達は大歓迎を受け、夕食を供にした。  「ねェ、ジーラおじいちゃんは?」  アヤの耳がピクッと動く。  夕食はバーベキューパーティーである。バーベキュー台を挟んで向うの、踊り子のお姉さん にミオが聞く。  「楽屋裏のいつものとこ☆」  ウインクで星を飛ばしてお姉さんが答える。  ミオがバーベキューの串を何本か持って、裏口からテントに入る。  舞台道具が乱雑に置かれた薄暗いテントの中。  木箱の間を縫って奥へ進むと、奥にうっすらと灯りがついている。  「キルゥ?」  「本当にこんなところに居るのか? おじいちゃん。」  「うわ〜、バイクスタントの檻までおいてあります〜。」  「うわあっ! びっくりしたーーーっ!!」  突然、後ろからかけられた声に、ミオが飛び上がる。  後ろにはカンタ達がついてきていた。  テントの奥に出ると、そこに海をイメージしたメリーゴーランドが、その機械部分を剥(む )き出しにして置かれてあった。台座の機械扉から人間の足が2本、生えている。  そこからカチャカチャと、機械整備を行う音が響いていた。  「おじいちゃんっ。」  再会を喜ぶミオの声。  「おお、ミオ!!」  くぐもった声が返される。  と同時に足がズルズルと上体を引き出す。すると…  「わぁーーーーーっ!!」  「キルーーーーッ!!!」  「あら〜? お魚さん???」  そう、おじいちゃんの頭が、メリーゴーランドの乗り物であるテッポウオになっていた。  「もう、相変わらずだなァ。」  おちゃめさんっ♪ と、ミオが笑う。カンタとアヤが抱き合って震えている。  「それだけではないぞっ! ミオっ、ここのボタンを押してみなさい。」  と、おじいちゃんこと“ジーラ”が自分の作業服の胸ポケットを指差す。  「?」  ミオが言われるまま胸のスイッチを押してみる。すると…。  ガキィーーーンッ  なんと、頭のテッポウオがオクタンに変形した!!  「す…すげぇーーーっ!! おじいちゃん!! いったい、どんな仕組みになってんだ!?」  カンタが恐怖も忘れて感心する。  「フフフン♪ ポケモンの世界は不思議でいっぱいぢゃ☆」  「いえ、どっちかって言うと不気味でいっぱいです。」  カンタがジーラを見つめて言った。  頭がオクタンなおじいちゃんは、まるで仮面ライダーの怪人である。  数本の足がウジュルウジュルと、生々しく動いていた。  「ヌハハハハっ、うまいこと言いよる。」  ジーラはカラッと笑った。  「あれ〜、ここにもスイッチがありますよ〜?」  ハルノが、ジーラの後頭部付近の“ドクロマーク”のボタンを“押しながら”言った。  「イカーーーンッ、それは自爆スイッチじゃあああああああ!!!」  ジーラの叫び!  「なぜに、自爆スイッチ!?」  カンタの突っ込み。  後頭部に扉が現れ、パカンッと音を立てて開く。  そこには束ねられたダイナマイトがあった。  電線でつながったアナログ時計が、カチコチと針を動かしている。  「カンタさまっ!?」  危機感に緊張したハルノの声。  「ああ。」  険しい表情のカンタ。  「この時計、時間が狂っています〜っ!」  「本当だっっ!!」  Σちょっと、カンタ? ハルノ???  アヤが冷や汗を流して、手のひらを「オイオイッ」と動かす。  「今、何時だ?」  「ちょうど、深夜0時です〜。」  「うむ、5分ほど遅れているな…。」  カンタがそれを手に持って時間を合わせ始める。  アヤ、ミオ、ジーラが真っ青になって、脱兎のごとく逃げ出す。  楽屋裏に飛び込んで、大きな木箱の影に隠れた、そして…。  サーカスの夕食は遅い。  ナイターのライトアップされた観覧車から、最後のカップルが降りてからも、後片付けや事 務処理が残っているからだ。  ミオの姉貴分、踊り子の“ユウ”がバーベキューをひと串、取って口に運ぶ。  夕食を取るのが日付けが変わる頃になることなど、ざらである。  それぞれ思い思いに腰掛けたピエロやマジシャンたち。気遣いのない、いい仲間。  ユウも串を持って、その輪に加わろうと歩いた。その時。  チュドーーーーンッ!!  ズズズゥン………  楽屋裏で爆発音と黒煙が上がり、地面が振動した。  「おじいちゃんってば、また、やってる♪」  ユウはさして気にも止めず、仲間達の輪に加わるのだった。  慣れてますねっ、ユウおねえちゃんっっ!  サーカスの夕食時−−−。  「おい、あれ…1000年彗星だよなァ。」  夕食の話題は、1000年彗星のことだった。  1000年に一度、地球に訪れる彗星が夜空に、星よりも若干大きく浮かんでいた。  それっきり、言葉が途切れる。  みな、夜空を見上げたまま。  それがなぜ、ホウキを持たないのか?  ホウキ星と呼ばれるそれが、なぜ、ただの大きな星に見えるのか?  言及する者はいなかった。  「1000年彗星、現る時。ポケモンの神々が、世界のあり方を、もう一度決める。」  伝説の…古い伝説の言葉が、頭をよぎった。  同時に、人間が一年前にポケモンに対しておこなった“アレ”に思い巡らし、沈黙を深めた。  「ねェ、おじいちゃん。昔話をしてよ。」  メリーゴーランドのトドグラーに乗ったミオが、寄り添うジーラにねだった。  「よし、今日はどんな話をしようかねェ。」  好々爺の笑みで目を細め、ジーラが思いめぐらせる。  「世界の始まりの物語がいいー。」  子供返りしたミオが言った。  カンタ達も、思い思いに腰掛けて、ジーラの言葉を待つ。  「よし、では話そうか。」  むかしむかし  人間とポケモンは同じ先祖を持った兄弟でした。  世界の始まりの頃、人間は文明を持たず、とてもとても、弱い存在でした。  そこでポケモンの神々は言った。  「では、ポケモンが人間の力になろう。」  ポケモンの神々は人間に約束しました。  そうしてポケモンは人間の力、友達となり、その助けとなった。  人間とポケモンは仲良く協力して、この星で幸せに暮らしました。  しかし  人間は成長し、道具や武器を生み出し、その力は大きくポケモンを追い越しました。  ポケモンの神々はそうなることが分かっていましたので  1000年に一度、ポケモンと人間との関係をどうするのか。  神々とポケモン、人間の代表、みんなで集まって、それを話し合う事にしました。  話し合いの日は1000年彗星が地球に近付く時。  もし、人間がポケモンに悪いおこないをしていたら…。  「彗星は地球に衝突し、人間を滅ぼしてしまう。」  シーン…  楽屋裏は静まり返った。  「だから、けっしてポケモンを、ぞんざいに扱ってはならんぞ。」  ジーラは、そう話を締めくくった。  「ジーラさん…。」  カンタは言った。  「そろそろ、かぶりもの、取らない?」  ジーラの頭は相変わらずオクタンであった。  「おやすみです〜。」  ハルノがおやすみを言って、布団に入った。  バスのようなキャンピングカーの中、両側に設えられたベッドで、ハルノ、アヤ、ミオが眠 っていた。  いや  寝付けずに、何度も寝返りを打った。  「ねェ…1000年彗星…地球に衝突するのかなァ?」  ミオが呟く。  「だって、人間は1年前の戦争で、いっぱいポケモンを戦わせて殺しちゃったんだもん…。」  その戦争は正義の為、と言われた。  しかし、戦争の理由だった敵国の大量破壊兵器は存在せず、その上、攻め込んだ兵隊たちは 宝物を奪って逃げたのだ。  被害は最小の無血戦争。  軍関係者は口を揃えて言う。しかし、その中に犠牲になったポケモンの数は含まれていなか った。  「最近…人を襲うポケモンが増えたよね…。」  ミオが呟く。  ふと、ミオが上半身を起こして、ハルノの方を向いた。  クウ スウ クウ スウ  寝息が聞えた。  ミオは寝転がって、本格的に寝ることにした。  ミオの寝息が聞えてきた。  同時に  ハルノの寝息が止まった。  ハルノは目を開けていた。  誰も見たことのない、緊張感を持った、真剣な目をしていた。  次の日――――。  光と影が交差した。  全包囲から響いてくる、体を揺さぶるサウンド。  ドーム型のテントが熱気と歓声に満ちていた。  ペルシアンが火の輪をくぐり、ドンファンが玉に乗る。美しい踊り子がブランコで空を飛 んだ。  サーカスのステージを見つめて、カンタとハルノ、アヤも興奮ぎみだ。  ミオは居ない。  いや、居る。そう、ステージに。  ステージに上がる前、彼女はカンタたちに言った。嬉しそうに。  「ひさびさにステージに立てるよォ。ここでは全部が嘘…“ショー”だけど、あたいの全 ては、ここにあるからさァ。」  色鮮やかなレオタードにレースのミニスカート。ステージ衣装を着たミオがピカチューのオ ードリーを連れて、見上げるほど高い位置に張られたロープに姿を見せた。  ロープの上を疾走し、宙返りを繰り出す。  オオオーーーーッ  歓声がテントを揺るがす。  ミオが両手にグリップを持つ。  スイッチを押すと、光輝くリボンが現れ、螺旋を描いて空中に広がった。  ミオがそれを手に持って、ロープの上で空を舞うのだ。  オオオオオーーーーーーッ!!  いっそう大きな歓声が起こった。  「すごいよなっ、ミオはっ! なあ、ハルノ。………?」  興奮したカンタが隣を見ると、そこにハルノの姿がなかった。アヤが『な〜に?』と小首を 傾げる。  オオーーーッ!?  ふと、歓声にカンタが頭を上げた。  見ると、ロープのミオの対面に、昆虫っぽい顔をした若い男が立っていた。  「あれ?」  カンタは首を傾げた。  男が着ていた服が、TシャツにGパン。到底、ステージ衣装に見えなかったからだ。  その男の後ろにはポケモン、アサナンが居て、見たことのない色のモンスターボールをもっ ている。  オオオーーーーッ!!!!  カンタと観客が驚きに声を上げた。  アサナンがモンスターボールを構えると、そこから光線が出て、若い男を吸い込んだのだ!  まるで捕獲されるポケモンのように!!  シーーーーン  テントが鎮まる。  アサナンがモンスターボールを投げた。すると!!  そこにストライクが現れた。  「ストラァーーーイッ!!」  ストライクが叫ぶ。アサナンがなにか指示を出した。すると、ストライクがカマの手を振り 上げて、ミオに襲い掛かった!  後方に宙返りをして、ミオが避ける。  避けきれなかったスカートが、切り裂かれて宙に舞った。  「おい…、あれ、ショーだよな…?」  会場がざわめいた。  ミオは、打ち合わせにない真剣勝負に焦っていた。  このままじゃ、ショーがむちゃくちゃになる。  オードリーが全身の毛を逆立てて威嚇する。  ミオは呼吸を整えた。  ショーで予定外は付き物。  ミオはロープをしならせてリズムを取った。  グリップにある、もうひとつのスイッチを押す。  すると、光のリボンは短くなり、刃(ブレード)の形で固定した。それを逆手に持って剣の ように構える。  アサナンの声で、ストライクが突撃する。  ミオは、静かに目を閉じた。そして言った、力強く!  「ブレードダンサー・ミオ…いきますっ!!」  ダァン!!  ミオが、ロープを蹴る。  ガシイイーーーーーーッン!!  ふたりは、ロープの中央で激突した。  交差した光のブレードがストライクのカマを受け止める。  ストライクの圧倒的膂力(あっとうてきりょりょく)がミオを押し戻す。  「オードリー!!!」  ミオの叫び!!  ダンッ!  すると、ミオの背後から、頭上を飛び越えて、オードリーが飛び出した。  シッポに光を宿して、ストライクに切りかかる。  「アイアンテール!!!」  ズバァーーーーンッ!!!!!  必殺の音がした。  オードリーがストライクの背後に、優雅に降り立つ。  グラリ…  ストライクの体が揺らいだ。  ロープから落ちて、下に張られた安全用アミにバウンドする。  と…  ピカッ!!  その体が光に包まれ、若い男の姿に戻った。  『チッ…。』  それを見て、アサナンが舌を打ち、テレポートで消えてしまった。  シーーーン…  会場が鎮まり返る。  ミオは光のリボンを広げて舞い、丁寧に、うやうやしくお辞儀をした。  イタズラっぽく笑って、チロッと舌を出す。  ワアアアアーーーーーーーーーーッ!!!  本日最大の歓声がテントを包んだ。  ミオがショー用の笑顔でそれに答え、手を振った。  楽屋裏にひとり、ハルノが居た。  ジリリリリーン  警報のような、ポケギアのベルが鳴る。  ハルノはポケギアを電話の受話器のように、手に持って耳に当てた。  「はい…分かりました。作戦を開始します。」  楽屋裏、薄暗闇に…。  ハルノの表情は見えなかった。  つづく