−第7話−  樹齢何年だろう。大人が10人手をつないでも囲む事の出来ないような大木が、苔(こけ)の 衣装を着て林立している。  その森の中で、横倒しになった大木に腰掛け、ポケモン…チャーレムの姿があった。その膝 に顔を埋めて泣いているのは、同じくポケモンのアサナンだ。  木漏れ日が二匹を、光と影のまだら模様にする。風はなく、苔に染み込んだ新鮮な水の匂い が煙るようにしていた。  鳥やポケモン、動物の鳴き声をかき消して、膝の上のアサナンが泣いていた。  『悔しいよォ、もう少しでレア人間の“ブレードダンサー”をゲット出来たのにーっ。』  アサナンは、子供のように、泣きじゃくった。  『よしよし、泣くんじゃないよ、男の子だろう? “ミニスカート”から進化させたら ダメ?』  チャーレムが優しくなだめる。  『通信進化アイテムの“ブレードリボン”が、ないんだもん。もうちょっとだった のにーーーっ。』  泣く子には勝てない。ついにチャーレムが言った。  『よし、分かったよ。おねえちゃんが取ってきてあげる。』  その言葉にアサナンが顔を上げた。あっという間に泣き止んでいる。  『本当っ!? おねえちゃんっ!』  『えぇ、本当よ。おねえちゃん、人間ゲットのプロなんだから、任せなさいっ。あ、でも交 換だから、そこらへんで“短パン小僧”でもゲットしといてね。』  短パン小僧と交換なら、タダみたいなものだ。  やったーーーっと、喜ぶ弟…アサナンに微笑みかけ、チャーレムは皮ベルトのポケットに、 モンスターボール…に似た“ヒューマンボール”をはめた。  これは、まるでポケモンのように人間を捕まえ、操るものである。  長い時間入れておくと、人間がポケモン化してしまうのが欠点で、いまだ改良の途中であ るが、いくつかのサンプルが出回って、一部のポケモンに大流行であった。  『いってらっしゃーーーいv』  アサナンの声に、手を振って答え、チャーレムは念じてテレポートした。  姉のチャーレムが去った倒木の上で、アサナンは、イジワルで、いたずらっぽく『イヒヒ』 と笑った。無邪気な子供の…それ以上でも以下でもない笑顔だった。  「ヒャッホーーーッ! ここに最強のオレ様、参上―――――ッ!! そして、最 高―――――ッ!!!」  何者ッ!?  得意絶頂、絶好調の雄たけびが、都会のジムに響く。  コロッセオを模したステージはライトに煌々(こうこう)と照れされ、対戦するジムリーダ ーとチャレンジャーを輝かせた。  ジムリーダーは金髪長身の青年“マサシ”。岩系のポケモンを使う手練(てだれ)の男だ。  対するは子供。  短パンに野球帽をかぶったTシャツ姿の男の子“カンタ”である。  「もう、このポケモンを使えば、ジム戦なんて余裕ッスーーーーーーーッ!!」  シリをプリッと振って、親指を立てるというポーズまでとっている。  調子に波乗り暴走気味のカンタであった。  そう、さっきの声もカンタである。  旅の仲間であるミニスカートのミオを押しのけて、前に出たと思ったらコレである。  「頼もしいですわ〜、カンタさま〜。」  憮然としたミオとは対照的に、おっとりと明るく、同じく旅の仲間であるお嬢様の“ハルノ ”が手を叩く。その隣にはポニータの“シャルペロ”が、寄り添っている。  「キルルゥーーーッ☆」  やっちゃえーーーーっ。と、言わんばかりで飛び跳ねて、カンタに勝手にくっついてくるポ ケモン、キルリアの“アヤ”。  「へい、かもん、“トラ”」  カンタがリュックから、それを取り出した。  それは、  ドロリッ…  と、闇のオーラを垂れ流しにする、薄く蓋の開いたモンスターボールだった。  ガリッ  と、ナイフのような爪が数本、隙間から出て、引っ掻いた。  オーバースルーで投げると、空中に黒の軌跡を残して飛び、地面に落ちる。  べちゃぁ…  闇のオーラが嫌な音を出して、地面に広がった。  ……………。  一同は沈黙した。  さすがにカンタも、青ざめてきた。  ジューーーーーッ シュ シュ シュシュシュッ!!  闇のオーラが、光に触れて蒸発する。  その異様な音の中、地面に広がったオーラの中から、それは浮き上がるように現れた。  それは、闇のオーラがエンテイの姿をかたどったグラエナ…“トラ”であった。  バァオオオオオーーーーーーーーッ!!!  夜の帳(とばり)が声帯…かのような、トラの大声が響く。  それは、カンタ達の内臓を鷲掴みにして、激しく揺さ振った。  カンタが、そしてマサシが腰を抜かし、シリもちをついて叫んだ。  「「ひぃいいいいいいいっ!! 殺されるーーーーーッ!!!」」  殺しません。  理知的で、落ち着き払ったトラの視線が、ふたりに突っ込みを入れた。  「いけっ、トラ。かみくだくだ!!」  気を取り直したカンタが指示を出す。  マサシの持つ最強のポケモン、ゴローニャがそれを迎え撃った。  ゴローニャの転がる攻撃!!  トラは…  ペシッ  踵(きびす)を返して後ろを向いた。その時、シッポがゴローニャを、はたいた。  「ゴローーーンっ><」  ゴローニャが場外にはじき出される。  よしっ!  いける!! と、拳を握り締めるカンタ。しかし…  「?」  そのままトラがカンタに歩み寄ってきた。  そして、ジッと、その知性を秘めた瞳で見つめる。  「えええええっ?」  まるで子供を諭すような、大人びた瞳に見つめられ、カンタは戸惑った。  カンタ、ポケモンに諭される。  「あ、はいっ。ゴメンナサイッ。」  カンタ、謝るの早いっ。  自分の悪いところを自分自身で納得出来るまで、例え自分が間違っていても謝っちゃダメ。  そして…。  シュン…  トラはモンスターボールに帰っていってしまった。  「えええええーーーーーーーっ! どうしてーーーー!?」  しかし、それ以上、トラの入ったモンスターボールから反応は無かった。  しかたないっ!  背に腹は返せない。カンタはリュックに手を入れた。  そして、アレを探る。  「えっ?!」  ないっ!? どうして?!  そう、アレはなかった。マサシを見つめたまま、カンタの額に冷や汗が流れる。  「どうした!? カンタくん。ギブアップかい!?」  励ましに似たマサシの声。しかたなくカンタは別のなにかを掴んだ。  マサシを睨みつけたまま、それをゆっくりと引き出す。  果たして、それはっ!!  「え…っ?」  一同は唖然とした。  それは、オモチャ。幼女向けアニメ商品の、魔法のステッキだった。  「えええええっ???」  カンタは魔法のステッキに貼り付けられたメモを見つけた。  そこには父の文字で、こう、書かれてあった。  「いざという時には、これを振って『チリポロピレン、強くなぁ〜れっ(はあと)』と、魔 法の呪文を唱えなさい。 父 」  「誰が、唱えるかぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」  がしゃーーーーーん!!  と、カンタ、地面にステッキを叩きつける。  「ふ、ざ、け、る、なーーーーーっ!!」  叫び、そのまま足で父親のメモを、ゲシゲシと踏みつける。  その頃、ポン太はジム近く、都会の公園の真ん中で座り込み、キョトンとしていた。  カンタ達を捜して、きょろきょろする。  ここ、どこ???  カンタの大きなリュック、その底には穴が開いて、抜けていた。  カンタ、不戦敗!!  「えーんっ、オヤジの変態――――――――――っ!!」  カンタは泣きながら、ジムを飛び出した。  不憫っ、不憫だわっ、カンタ!!  「カンタさま〜、お待ちになって〜。」  ハルノが追いかける。  アヤもそれに続こうとするが、ふと、引き返して、魔法のステッキを拾ってから追いかける。  そしてジムを出ると、人目につかない木陰に隠れ…。  「キルキルキルル、キルリルリ〜ル(はあと)」(人間語訳:チリポロピレン、人間にな 〜れっ(はあと))  と、言って魔法のステッキを振った。  ポー…ポッポ ポー…ポッポ  頭上でポッポが、のんびり鳴いていた。  当然、アヤに、なにも起こらない。  クスン…。  膝を折り、地面に手を付いて泣いた。  アヤ、挫折。  カンタに代わって、ミオが前に出た。  不敵に微笑んで、モンスターボールを構える。  「水タイプか草タイプのポケモンを、手に入れたのかい?」  マサシが言う。  「必要ないみたい。」  首を横に振って、ミオが答える。  「また、ピカチュー一匹で戦うのかい?」  あたしも一緒に、戦いたい。  でも、それではルール違反だ。  「もちろん、勝算はあるわ。」  「本当かい?」  ミオはそれ以上、語らなかった。  代わりにモンスターボールを投げる。  「答えはバトルにあるっ。違って? マサシさん。」  マサシもイシツブテのモンスターボールを投げて、答える。  「違わないっ。いけっ! イシツブテ!!」  オードリーとイシツブテの視線が、バトルステージで火花を散らせた。  トンー。  ダンスでポケモンを操るミオが、リズムを取る。すると、オードリーのシッポに光が宿った。  「イシツブテ、たいあたりだ!」  マサシの指示が飛ぶ。  ミオはクルリと舞った。  すると、オードリーもクルリとイシツブテをかわすのだ。と、その時。  バァン!!  オードリーのシッポが、鋼鉄と化してイシツブテを打った!  攻撃をかわす動作と攻撃が一体となった。高等戦術だ!!  「イシツブテ!!」  マサシの驚きの声。そのたった一撃で、イシツブテが戦闘不能となったのだ。  「戻れっ、イシツブテ!!」  マサシはイシツブテを、モンスターボールに戻した。  対戦相手の急成長に、マサシは背筋にヒヤッとするものを感じた。  「いけっ、ゴローン!!」  次いでマサシはイシツブテの進化形、ゴローンを呼び出した。  丸い大きな岩に2本の大きな手と小さな2本の手、合計4本の腕を持ったポケモンが現れる。  ミオは踵でリズムを取った。  「ゴローン、岩なだれ!!」  ドーーーンッ  轟音がして、頭上から無数の岩が降ってきた。  オードリーに岩がぶつかる!!  と思った瞬間、ミオが踵を鳴らした。  とたん、オードリーが分身した。  次々に降り注ぐ岩を分身でかわし、ゴローンに接近していく。  「ゴローン、マグニチュード!!」  マサシの声に、ゴローンが大きな腕を振り上げて、振り下ろす。  その一撃が大地を地震のように振動させた。  決まった!!  前回、オードリーに大ダメージを与えた大技に、マサシが拳を握る。  しかし、そこにオードリーの姿は無かった。  トン トン トンッ ♪  リズムに乗ってステップを踏むミオが、会心の笑みを浮かべる。  その視線の先を追って、マサシが驚愕した。  空っ!?  そこには降り注ぐ岩を蹴って、空中に飛んだオードリーの姿があった!!  重力の力を上乗せしたアイアンテールが光る!!  「二度も同じ手が通用するなんて思わないで!! オードリー、アイアンテール!!!」  ズガーーーーンンッ!!  アイアンテールの一撃で、ゴローンが倒れた。  「くっ、戻れゴローン。」  マサシはゴローンを、モンスターボールに戻した。  「いけっ、ゴローニャ!!」  モンスターボールから、最後のポケモンを送り出す。  飛び出したゴローニャは、空中でいきなり、高速回転し始めた。  「いけっ、ゴローニャ!! “ころがる”だ!!!」  「ゴローーーーンっ!!」  着地したゴローニャが砂煙を巻き上げて、突進してくる。  トーーーンっ  ミオが強く地面を叩く。  それに答えてオードリーが、大きくジャンプして空中に逃れた。  するとゴローニャはターンして、オードリーの着地地点に転がってきた。  転がるたびにスピードが上がるゴローニャの攻撃に、ついにオードリーが捕まった!  「チャーーーーーーーッ><」  ゴローニャの攻撃を受けて、オードリーの体が宙に舞った。  「いけっ、ゴローニャ! たたみかけろ!!」  オードリーの着地地点を目指し、スピードを上げるゴローニャ。  トン トン ダーンッ!  ミオがステップを踏んで、最後に強く地面を蹴った。  オードリーがそれに呼応して、シッポに光を宿した。  ゴローニャの迫る着地の瞬間、オードリーは…  「オードリー、アイアンテール!!」  地面にアイアンテールを打った。その反動で、ゴローニャのころがるを受ける直前に空中に 逃れる。  「なんだとっ!?」  ゴローニャの頭上に逃れたオードリーがハイソに笑う。  空中で掲げた手が爆炎に包まれた。  「オードリー、爆裂パンチッ!!」  「ゴローニャ、ころがる!!」  オードリーの必殺パンチが当たる瞬間、ゴローニャがマサシの声を受けて更にスピードを 上げ、それを逃れた。  「やったっ………なんだとっ!?」  一瞬、安心したマサシの声がすぐに裏返った。  オードリーの爆裂パンチが地面にヒットして、爆発が起こり、その爆風がゴローニャを空中 に投げ出したのだ。  オードリーが優雅に歩いて、ゴローニャの着地地点に待ち構える。腰を落として、拳に爆炎 を纏(まと)う。傷だらけの顔に浮かべたハイソな笑みは、どこまでも不敵だった。  ミオは風を纏って踊り、最後のステップを踏んだ。そして…  「オードリー、爆裂パンチ!!!」  ズガァーーーーンンッ!!!  ゴローニャは、戦闘不能になった。  ミオの勝ちだ。  「ゴローニャ、戦闘不能! よって、勝者は………???」  審判をしていたジムのメンバーの声がよどんだ。  突然、なんの前触れもなく、バトルステージに一匹の、めいそうポケモン、チャーレムが現 れたからだ。  そのチャーレムが腰のホルダーからボールを出して、他には目もくれず、ミオに投げつけた。  ミオはソレを左手で受け止めようとする。  手のひらにソレが接触した瞬間!!  ソレの蓋が開いて、光が線を引いてミオを包み、やがて…  「!!!!!」  そこに居る全員が目をみはった。  モンスターボールに似たそれが放った光が、ミオを包んで小さくなり、ボールの中に捕らえ たのだ!! まるでゲットされるポケモンみたいに!!!  そこは暗かった。  でも、暖かい…。  心地よさに意識が消えそうになり、ミオは焦った。  このまま身を任せたい…。  それは耐えがたい誘惑となってミオに迫った。  しかし、そうすると、自分はなにか別の生き物…。  そう…。  ポケモンになってしまう!!  確信が電撃のように頭をよぎった。  ミオは必死で足掻いた。  ここに居ては、いけない!!  「出してっ!!!」  叫びが闇に響いた時。  ポンッ  音がして、ミオはボールから飛び出した。  激しく動き、バクバク言っている心臓を押えて、乱れた呼吸でチャーレムを見ると。  『やっぱり、弱らせないとムリかァ。』  と、頭を掻いていた。  走って逃げたカンタが、公園の中心付近で、なにか柔らかいモノに衝突した。  「のおおおぉおおおおっ!?」  反動で後ろに転がって、歩道脇の木に激突する。  腹をポリポリと掻いて、なにか、ぶつかったかな? と首を傾げる“柔らかいモノ”ポン太 であった。  「やっと、追いつきましたわ〜。」  「キルゥ〜。」   と、そこにハルノとアヤのふたりが追いついた。  と、その時、カンタが不思議そうな顔をして、視線を空に向ける。  ハルノとアヤも、そっちを向くと、空中に“めいそうポケモン、アサナン”が浮いていた。  「あら〜、ひょっとして、サーカスの…。」  そう、あのアサナンであった。  そいつはイジめっ子の顔で、あのモンスターボールに似たボールを、カンタの前に投げる。 すると…。  ポンッ  音がして、バイクに乗ったモヒカン頭の人間が飛び出した。  「オウ オウ オウッ、アサナンぼっちゃまの命令だ。痛い目に会ってもらうぜィ。」  バウン バウン バウン!!  改造バイクのエンジンを吹かして、 “暴走族のサブ”が、言った。  「え〜っ、どうなってますの〜?」  ハルノ、おっとり。  「キルッ キルッ キルゥーーーッ!!!」(人間語訳:わたしのカンタに手を出したら、 許さないわよっ!!!)  アヤ、恐い。  「アーサ アサッナン。」(人間語訳:バーカ、早い者勝ちだよ〜。)  アサナンはベロベロベ〜っと、アヤにアッカンベーをする。  「サナ サナン サーナンっ!」(人間語訳:いけっ、サブ! 突進だ!!)  アサナンの言葉を受けて、サブが改造バイクをウイリーさせ、カンタに突進した。  「あぶねっ。」  カンタが、ひょいっと避ける。と…。  サブがカンタの側を通り過ぎて、ポン太のおなかにぶつかった。  「あーれー。」  数倍の力で跳ね返され、サブは、バイクと一緒に星になる。キランッ☆  「アサッナン!! アサナーン アッサン アッサンッ」(人間語訳:そんな、アホなァ!! ひどいよっ、ヒューモンの世界に大人が出てくるなんてっ)  アサナンがポン太に、なにか文句を言っている。  ポン太は少し困っているみたいな顔をしている。  カンタとハルノには全然分からなかった。  「アサナン アー…。アサナン アーサナ。」(人間語訳:いいよ、もぅ。おねえちゃん はゲット出来たかな?)  ふくれっつらでアサナンが呟いて、ジムの方に飛んでいった。  「おい、ちょっと、待てよ。」  カンタ、そしてハルノ、アヤがそれを追いかけた。遅れてポン太が追いかける。が、遅い。  「ポン太――――っ、ころがれーーーーーー。」  先に行ったカンタの声が前方からした。  いいの?  と、ポン太が小首をかしげる。そして…。  「チャッムゥーーーーーッ、チャーレム チャム。」(人間語訳:いっけーーーっ、“ジ ムリーダー・キョウ”)  ミオと向き合ったチャーレムが、ヒューマンボールを投げた。  すると、そこに忍者が現れた。  無表情でクナイを構える。  ミオはゾッとした。  まるで、そのクナイから血の匂いがしたように感じたのだ。  ミオはポケットから、グリップをふたつ取り出した。  カチッ  両手に握ってスイッチを押すと、光の刃…ブレードが伸びる。  「チャレーーームッ チャムチャム!!」(人間語訳:いっけーーーーっ、きりさく!!)  シュン!!  まるで距離などないかのよう。  キョウは一瞬でミオとの間合いを詰めた。  ミオの腰が、無意識に逃げる。  ガキィーーーン!!  火花を散らせて、ふたりが激突した。  光のブレードと鈍色のクナイが、火花を散らせて交差する。  バァーーーンッ  上体が逃げていたミオが、激しく吹き飛ばされる。  ダンッッ  ミオの体は、後方のカベまで吹き飛ばされ、痛烈に打ち付けられた。  「ゲホッ、ゲホッ。」  肺の空気を強制的に排出され、ミオが激しく咽(むせ)た。  「チャム!! チャムチャム!!!」(人間語訳:キョウ!! みねうち!!!)  クナイの柄にある、鉄の輪ッかが、横殴りに振り下ろされる。  ガンッ  その攻撃を側頭部に喰らったミオが横に吹っ飛び、音を立てて地に倒れる。  「なにをするんだ!! 暴力はやめろ!!」  マサシが駆け寄ろうとするが、チャーレムの目が光ると、マサシはまったく体を動かせな くなった。まるで、見えない巨大な手に掴まれているみたいに。  キョウの目に知性も意識もあるようだった。だが、戦うのが当然と、迷いはまったく見られ なかった。  ミオは、立ち上がった。  カクン  立ち上がった途端、ヒザが折れた。  力が入んないよォ…。  ミオは泣きそうになった。その時  ゴンロ ゴンロ ゴロゴロ………  地面が大きく揺れ始めた。  ガシャーーン  いきなり窓から、泣きべそをかいたアサナンが入ってきて、チャーレムに泣きつく。  そして、それはやってきた。  グワッシャーーーーン!!!  地面を弓なりに揺らし、カベを粉々に粉砕して、巨大玉ポン太が現れた。  「!!!!!」  それを見たチャーレムが青ざめて、キョウをヒューマンボールに戻し、大慌てで逃げ出した のだった。  「ミオ、どうしたんだ?」  ポン太の上から、カンタの声がかけられる。  ミオはその場に、クタクタと座り込んだ。  「助かったよ、カンタくん。よく来てくれた。」  壁を壊したので、怒られるかな? と思っていたカンタであったが、その言葉で肩の力を抜 いた。  「マサシさん、もう一度ジム戦、してくれよ。」  カンタの申し出に、マサシは頷いた。  よし、とカンタ。ポン太をバトルステージに送り出し、息を吸込んで口上を述べる。  「今、ここに最強のオレ様、降臨っ!! 輝けっ、黄金の瞳―――――っ!!!」  どうやら、トラと戦った時に現れた、自分の特殊能力に頼っているみたいだ。  ポン太の後ろで、全身に力を込めて、集中している。  しかし、いっこうに瞳が金色に輝く気配はない。  「うおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーっ、燃え上がれ、オレの小宇宙(コ スモ)ーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」  コスモ?  それでカンタは更に、全身に力を込めた。  「ハァアアアアアアアーーーーーーーーーッ!!!!」  更なる力を込めるカンタ。そしてついに!!!!!!!!!!!  プゥっ ☆  カンタのシリから、情けない音が、放たれたのだった。  つづく☆