地下…  下水道の奥深くに、人口の洞窟が崩れ、自然の岩肌が出ている場所があった。  岩肌から、とうとう、と、キレイな水が流れ出し、汚い下水を押し流していた。  どこからか、自然の風と、高い天井…。  上が見えないところから、太陽の光が一条、降りてくる。  そこに粗末なバラックが建てられてあった。  庭に自然の地肌が出ている所もあって、そこで野菜も育ててあるのか、野菜の青々としたハ ッパが茂って見える。  夜  月の光が天井からこぼれてきた。  すると、畑の野菜たちが、むくむくと起き上がった。  それは“ざっそうポケモン”ナゾノクサたちだった。  おや…?  ひとりだけ起きない子がいるぞ。  その子の名前は“オイ”  こんな名前をつけられているが、女の子だ。ちなみに妹が“コラ”。  朝  日の出とともに、天井から朝日が舞い降りてくる。  「んーーーーーーっ。」  バラックの狭い子供部屋。たくさんの子供達がザコ寝している中心で、ひとりの女の子が目 を覚ました。  暗く深い、底の見えない闇色の目をした、女の子だ。  どこかナイフの刃先のような、危険な雰囲気を持っている。  おいしそうなニオイと、軽快なリズムで包丁の音が聞こえて来る。  女の子は起きて、裏の台所に顔を出すと、少年強盗団“クズハ”の姉貴分“ミロ”が朝食 を作っていた。  「ミロー、手伝おうかー?」  「絶対にダメっ!」  はねかえるように、返事が即答された。  いつもの挨拶を終えると、その女の子“美由生(みゆう、と読む)”は、いつもの服装…。 長袖のTシャツに、ピチッとした短いタイツ。胸の所までしかない短い裾の上着を着て、表に 出た。手には皮のサヤに収めたままの、ナイフを持っている。  トントン  その場で跳ねてみる。  単に跳ねただけなのに、膝より高い位置まで跳んでいる。  トン  地面につく、身をかがめる。  ダンッ!  瞬き  まばたきを閉じて開くぐらいの瞬間で  美由生はナイフを抜いて、着地地点の1歩先で、空気を切り裂いていた。  ダンッ!  瞬き  大人の頭を軽々と飛び越えるであろう、ジャンプをして、元の位置に戻る。  着地の瞬間、前後左右にナイフを繰り出す。  ピチュンッ チュン チュンッ!  空気を切り裂く音が地下にこだました。  !  その時、美由生は背後に気配を感じて、ナイフを繰り出す。  !!  そこにはナゾノクサ“オイ”が、居た。  !!!  …とまった。  寸でのところで、美由生はナイフを止めることが出来た。  「オイぃーーーーーー。うろつくなって言ってるでしょおぉーーー。」  ヘナヘナと力尽きて、美由生がその場にヘタリ込む。  美由生は人を刺しても、ポケモンは、けっして刺さなかった。  ここは暗黒街。  子供さえ、ギャングを名乗って歩く街だ。  美由生のような子供は残念ながら、珍しいというわけではない。  …ナイフ、そして体術に関しては、抜きん出て珍しいが…。  「オイぃ、コラぁ。聞いてるのぉ?」  キョトンとして、なにを考えているのか、さっぱり分からない、オイ。  そこに、寝ぼけ眼をムニムニさせながら、“コラ”が歩いてきて  呼んだ?  小さく首を傾げる。  いえ、呼んでませんよぉ。  顔の前で、手を左右に振る。  まだ眠っている足取りで、コラが畑に戻って行く。  オイはその場で、上を向いて  ボーーーーーッ  と、していた。  「オイぃーーーー。おねえちゃんねぇ、訓練してるから、畑に戻ろうねぇ。」  語尾の母音を伸ばす独特の喋り方をして、オイを持ち上げて畑に持っていく。  モチッとした手触り、おしりに土がついていて、そこだけザラッとしている。  じんわりと、あたたかさがあって、畑に戻して、手を放した後も、尾を引くようにあたた かい。  美由生は戻ってきて、すぐに、足を踏み鳴らす。  ダンッ!  踏み出して、突きを繰り出す。  まるで、ナイフが4〜5本あるように見える連続突きだ。  タタタタタン  その場でステップを踏んで、体を乗せたナイフの“切り”を、する。  まるで、円を描いて舞うようだ。  !  背後に気配  !!  円の動きのまま、ナイフが気配を追いかける。  !!!  オイだ!  ズベテーーーンッ  間に合わない!そう思った美由生は、自分の右足で自分の左足を蹴って転んだ。  器用だ。  キョトン、と。オイが見つめている。  「オイぃ、コラぁ〜〜〜。」  いたいよ〜〜〜。と、いう響きで美由生が言う。  呼んだ?と、コラが、寝ぼけ眼でやってくる。  呼んでないよぉ。と、美由生が顔の前で手を振る。  オイは  昼間に徘徊するめずらしい“ナゾノクサ”は、上を見て  ボー  と、している。  もぉ、なんなのよぉ。  と、言いかけて、ふと、美由生は気が付いた。  この子、日光浴がしたいのだ。と。  オイを中心に朝日が地面に、輪郭のぼやけた円を描いている。  日光浴  を、するにはあまりにも弱々しい日の光…。  ハァ……。  オイがため息をついた。  シオシオと、頭の草がしおれた。  美由生は黙ってオイのことを見ていた。  鉛色の空、廃墟の街。  都市の裏側  路地裏の裏社会。  鉛色の空は、工場の排気ガス。  ここは二度と太陽の昇らない街なのだ。  廃墟のビルの狭間。  古タイヤが積み重なって出来た山の頂上で  美由生がオイを膝に乗せて座っていた。  ボー  と、上を見上げ、ため息をつくオイ。  美由生も上を見上げていた。  ふと、遥か向うに、鉛色の雲に、その身を貫いている高層ビルが見えた。  「オーイ、美由生。仕事だぞー。」  ヒャハハハ  と、クレイジーに笑いながら  兄貴分のクレオが呼ぶ。ミロも居る。  トン  一足で、クレオの前。タイヤの山のふもとに立つ。  まるで距離などないかのよう。  美由生はオイを地面に置いて、帰るように言って  三人は仕事………  強盗に出かけた。  「ああ、サンリーチビルのことな。」  夜  夕食後、チビたち…。クレオ・ミロ・美由生が面倒を見ている、小さな子供達が寝静まっ た後。  パチパチ  焚き火の火が爆ぜる。  爆ぜるたびに、ポンポンッと、香ばしい煙りの香りが頬に当る。  天井は見えず、まるで、闇のドームが覆っているよう。  ケムリは風に流れ、絹状の帯をたなびかせる。  オレンジに照らされたクレオ・ミロ・美由生の三人。その影だけが、ゆらゆらと落ち着かな げに、壁に踊っていた。  崩れた岩に腰掛け、眠るオイを膝に乗せた美由生に、床に転がったクレオが言った。  美由生が昼間見たビルのことを、クレオに聞いたのだ。  ミロはデッキチェアを持ち出して、繕い物をしていた。  「あのビルってぇ〜〜〜。」  ん?  「てっぺんは、雲の上に出てるかなぁ?」  ヒャハハハハ  クレオがクレイジーに笑った。  うっせー、黙れ、しばくぞ、クレオ。と、クレオの声に、指を針で刺してしまったミロが涙 目で言った。  「おもしれぇこと言うなよ、美由生。お前いつから、そんな乙女チックになったんだ?」  腹をよじって笑うクレオ。  しかし、実結は言った。  「確かめたのぉ?クレオぉ。」  ……………  笑い声が止んだ。  「確かめてないのねぇ。」  クレオが、後ろを向いてしまう。  美由生は闇色の眼を細めて、小さく笑った。  「あしたぁ、あそこに行って来るからぁ、」  仕事はお休みぃ。  と、言って美由生は膝の上のあたたかいハッパ付きのまんじゅうを撫でる。  やさしさに似たやわらかな感触が、撫でる手を追いかけた。  触れることが、出来ないでいる手が、  触れないことも、出来ないでいる手が、  ただ・・・・・  壊れないかと、戸惑うように撫でる。  まんじゅうが自分から、フニフニと、手に圧力を求める。  まんじゅうは………やわらかく、あたたかかった。  次の日の  朝  「じゃあぁ、行って来るねぇ。」  スニーカー、タイツ。タートルネックの長袖Tシャツに、裾の短い上着。いつもの姿の美 由生。  トントン  と、スニーカーで地面を叩いて、クレオとミロ。そして、チビどもを振り返って言った。  オイを抱いて行こうとすると  「待ちなさい。」  ぐわしっ  と、乱暴に、肩を掴むのはミロだ。  「なぁにぃ?」  引きずり込まれそうなくらい、闇色が濃い瞳をして、美由生が振り返る。  「おまえなあ、サンリーチビルは表社会の象徴。中心みたいなものなんだぞ。お尋ね者のお まえが行ったら、いっぱつで捕まるぞ。それに、もうひとつ。おまえも知っているのだろう?」  ミロが畑を手で振り返って言った。  そう、今、都会では、ナゾノクサ健康食が空前の大ブームなのだ。  ここに居るナゾノクサたちも、表社会では生きられず。ここ、裏社会に逃げて来たのだ。  「だから、止めときな、分かったな。」  「イヤですぅ♪」  美由生は聞く耳持たずで、肩に置かれたミロの手を、ホコリのように払いのける。  「美由生っ!」  再びミロが、乱暴に肩を掴んで振り向かせると………、  ……………  ミロは美由生の顔を見て、止まった。  顔を近づけて、静かに吼える。  「マジかよ。」  コクン、と、神妙に美由生は頷いた。  「わかった、逝って良し!………でも、ひとつだけ条件がある。」  ミロは言い終わらない内に、力任せに美由生を引きずってバラックに入っていく。  中では大騒ぎが起こっていた。  嫌がる美由生の声と、黙れ、逆らうな、従え、しばくぞ。と、脅すミロの声。  チビどもがハラハラし、クレオがドキドキしてバラックを見守る。  数分後………。  出てきた美由生に声が起こった。  「うわーっ、美由生おねえちゃん。お人形さんみたいーーー。」  「かわいいっ。」  「これだったら、誰も美由生おねぇだって気が付かないぜっ。」  はやし立てるチビたち。あんぐりと口が塞がらないクレオ。  その姿は………。  裾の広がった黒と赤のワンピース。レースやフリルで飾られて、西洋人形を思わせる。  薄く化粧までしていて、さっきまでの美由生とは、まるで別人である。  「はいっ、仕上げーっ。」  ミロが赤い、かわいい靴を持って出てくる。  そして、美由生をひっくり返し、スニーカーを奪い取って、履かせる。  言っておかなくてはいけない………。  パンツは、かぼちゃみたいだったぞ。  あれ?クレオは?  文句を言う美由生をほっぽいて、ミロが見渡す。チビどもが、わたしもーとか、俺もーと か(?)言って群がってくる。  うるせー、しばくぞ。とか言って暴れる。  チビどもを追っかけまわすミロに文句も届かなくて、ハリーセンのように、ほっぺたを膨ら ませる美由生。その背中にリュックが、ぶつかった。  振り返ると、クレオがリュックを美由生に差し出していた。  「持っていけ。」  それ以上、なにも言わなかった。  美由生が中味を覗こうとすると、ミロが帰ってきて、美由生に話しかけた。  美由生は中味を確認するのを止めて、ミロの言葉を聞いた。  「ナイフを持って行くこと・物をもらうこと・歩道の端っこを歩くこと ・背中を見せて、走って逃げること。」  ?  美由生が首を傾げる。  「この4つは禁止だ。」  「それから、襲われそうになったら、まばたきをせずに相手の目を見なさい。」  ??  なお首を傾げる美由生に、ミロは自分の人差し指にキスをして、それを、美由生の“おでこ ”の真ん中に触れて、付け足した。  「これは、おまじない。言いつけを守れなくても、あきらめない。大丈夫な、おまじな いだ。」  「えっとぉー、どおいうぅ〜〜〜?」  うっせーっ、黙れ、しばくぞ。  照れ隠しで、真っ赤な顔をして、すごむミロ。  「行きゃわかるさ。」  ヒャハハ  クレイジーに笑うクレオ。  なんだか、ごまかされたような、だまされてるような  小首を傾げながら、オイを抱いて美由生が出かけた。  路地裏  スラムを出て、表通りを行く美由生。  キラキラ輝くショーウィンドウ。手入れされた並木。きちんとした身なりの紳士。明るく笑 う子供を連れた母親。  ……………。  美由生は、いつのまにか、暗い目をして、うつむいて背を丸めてしまった。  オイが心配そうに、美由生を覗き込む。  美由生は笑顔を作って、オイに見せた。  と  ふと、美由生は路地裏を見た。  薄暗い路地裏から、目つきの悪い男が美由生を…、いや、オイを見ている。  ナイフっ、ナイフっ!  ………ないっ。  美由生は心細さで泣きそうになった。息を飲んで通り過ぎようとする。  「おい!」  男が美由生の肩を掴んだ。美由生がうつむいている内に、いつのまにか歩道の端っこ、路地 裏のほうを歩いてしまっていたのだ。  「そのナゾノクサをよこせ!」  泣き出しそうになる美由生。心の頼みであるナイフがないのだ!!  その時、美由生のおでこの真ん中があったかくなって、勇気が湧いた。  キッ!  美由生が、まばたきせずに、男の目を見た。  すると、男は急にオロオロとして  「な……、なんだよぅ。もう、いいよぅ。」  と、言ってスゴスゴと、引き下がった。  ホッ  と、胸をなでおろして、歩き始める。  「ああ、君。」  と、しばらく行くと、ひとりのジェントルマンが美由生を呼びとめた。  やさしげな紳士に美由生は振り返った。  「なにか欲しいものはないかね?」  ハ?  美由生は目をパチクリする。  「ピチューのぬいぐるみは、どうかね?等身大カビゴンのぬいぐるみだって買ってあげ るよ。」  ピクッ!!  とうしんだいっ!!カビゴン!!!  「くれるの?タダで!?」  「ああ、もちろんだとも。」  興奮して迫る美由生に、ジェントルマンは両手を広げてやさしく言う。  やったーっと、ジャンプしておおはしゃぎの美由生。  さて  等身大カビゴンを持ち上げて歩く美由生を、ジェントルマンは、どこまでも付きまとった。  「君がそんな恩知らずだとは思わなかったよ。  いいかい?ものをもらったら、お礼をするものだ。さあ、そのナゾノクサを渡したまえ。」  こういう事から、人と人との不和って始まったりするんだよ。それが戦争の原因になったり もするんだよ?君も戦争はダメだって思うだろう?  とか、説教を垂れ流しながら。  「おい、あれ……。」  「まあ、ナゾノクサだわ。」  「あれは高く売れるぜぇ。」  人々の声がヒタヒタと、振り返れない美由生の背中に、張り付いて来る。  美由生の後ろに行列が出来た。  みんながオイを狙っている。  ひしひし  と  じわじわ  と  恐怖が満ちてくる。  いい?背中を見せて、走って逃げること…。これ、禁止。  ミロの言葉が、頭の中で繰り返された。  トトト  しかし、足はそれに反して、速くなる。  いい?背中を見せて逃げないこと………。  トトトト  目の前に、サンリーチビルが見える。天に消えて行く巨大な柱…、その入り口が、走ればす ぐだったのだ。  美由生はカビゴンを投げ出し、走った!!  ワーーーーーーーーーッ!!  まるで堰を切ったように、行列が美由生に突進した。  「わぁーーーーーーっ。」  美由生が泣きそうになって、逃げる。手の中、胸に抱いたオイも、もうパニックだ。  入り口に駆け込んで、ロビーを、エレベーターを探して走る。見つけて、スイッチを押すが 、押し寄せる人波が迫ってきて、あきらめてエスカレーターを目指す。  何階かエスカレーターを駆け上がったとき、脇のエレベーターが開いて、人波が溢れ出した。  美由生は非常階段に逃げ込んだ。  ビュオオオォーーーッ  強烈な風が吹いていた。街がミニチュアに見える。排気ガスのケムリが目にしみる。  美由生はスカートを押さえて、駆け上がる。人波は後から後から溢れて、追って来る。  カンカンカンッ  音を上げて走る。呼吸が苦しい。履きなれない靴が足を締め付ける。  カンカンカンカンッ  オイが、美由生を見上げた。  美由生は笑顔で、返事する。  オイは、健康食として都市に連れて来られ、妹のコラを自分を犠牲にしてまで守っていた。  だから…。  誰かが、オイの為に、なにかしなくちゃいけないんだっ!  オイの重さ、大きさ。両手で持った感触、やわらかさ、あたたかさ。全部、胸に抱いて美由 生は走った。  踊り場で右の靴が、弾け飛んだ。  …走った。  次の踊り場で、左の靴も弾けた。  それでも、走った。走った、走った。  スカートが風で踊った。化粧も取れてしまった。素足からは、血もにじんでいる。  かまわない  美由生は………。  走り抜いた!!  走り抜いて辿り着いたそこは………。  「あははぁ……。」  雲の中  だった………。  力なく、屋上の床に座る。  「おもしれぇこと言うなよ、美由生。お前いつから、そんな乙女チックになったんだ?  出てるわけないだろう、雲の上なんかに。  夢なんか見るなよ。」  腹をよじって笑ったクレオ。頭に残るその声が響いた。下の方からは、階段を駆け登ってく る人波の音が聞こえる。  夢なんか見るなよ………っ。  美由生はやりきれなくて、背負ったリュックを投げた。  と…、その中から、美由生のスニーカーと…、  コロコロコロ…  モンスターボールがひとつ、転がり出た。  モンスターボールは屋上の中心、オイがボーっと立ち尽くすそばに行って…、開いた!  モンスターボールから、ひまわりの姿をしたポケモン“キマワリ”が、現われた!  キマワリが両手を大きく広げて、天を仰ぐ。すると…!  「わぁあああああぁぁぁーーーーーっ。」  美由生が声を上げる。  天の…、空の排気ガスが払われて、青い空と……、太陽が現われたのだ!  太陽の光と熱が肌を押す。  風だ……、太陽の光って風なんだ…。  生まれて初めて浴びる太陽の光に、美由生は驚いた。  体………物質の壁など、ものともしない風が  美由生の中を、通り抜けて吹いていく。  わたしは………  わたしの闇は、わたしそのものは  わたしの影に逃げ込んで  体の中は輝きで満ちた。  体の中の輝きは、全ての命を祝福する  歌……?  歌を歌っているっ!  命をもつなら、誰も選ばない………。わたしだからって、わたしが強盗だから照らさないな んて、そんなことしないんだ…。  体がふるえた  心がふるえた  祝福と  祈りの  合唱に  美由生は泣いた  オイは踊った  葉を大きく開いて、跳ぶ様に。  すると、オイの体が輝き出した。  オイは“クサイハナ”に進化し、そして………  「オイぃ」  美由生は驚きに声を上げる  オイが、さらなる輝きに包まれる  オイは花びらのスカートを翻した。頭に、ふたつ、髪飾りのような花をふたつ咲かせて、舞 った。  「キレイハナ!!」  美由生の声。そう、オイはキレイハナに進化したのだ。  そこに、人波が押し寄せ…、止まった。  「あれ、ナゾノクサは?」  「なんだ、キレイハナに進化したのか…。」  「あ〜あ、追っかけて損した。帰ろ帰ろ。」  好き勝手言って、解散したのだった。  夕日  夕日が沈むまで、美由生はそこに居て。  夕闇がヴァイオレットのベールで、空を覆う頃。ようやく立ちあがった。  キマワリのモンスターボールを、拾ったリュックに入れて、スニーカーを手に持つ。  スニーカーを履いて、  トントン  跳ねてみる。  ピョンピョン  オイがマネをして、一緒に跳ねる。  美由生はそれが、おかしくって笑った。腹の底から笑った。  「オイぃ〜、コラぁ〜。笑わせないでぇ。」  ピョンっ  オイが美由生の胸に跳びつく。  美由生は、オイをまるごと受け止めて、抱きしめて、  笑った  瞳の闇が、影に向かって逃げ出すような、  太陽のような、笑顔で。  おしまい