・・俺は思った。 随分長い事、あの2人と一緒に旅を続けているが。 一番、あの2人と長く居た自分だからこそ言える。 ・・あの2人・・・ ・・なんて微妙な関係なのだろうと。 ―大作戦― 雲1つない空。 文句の付け様のない天気が続く。 そして、ここは丘の上。 のどかで静かな丘の上。 今朝、街を後にし、次の街に行くまでの少しの休憩時間。 ピカチュウやトゲピー、イシツブテやコダック。 そしてヒノアラシ達は、自分特製のポケモンフードを昼食にとっている。 何年も月日をかけて大きく聳え立った一本の熟木の下で、糸目の男は目を細めた。 その視線は、”あの2人”に注がれている。 カスミ「アンタねぇえ!!人が隣で食器洗ってる時にいきなり水浴びなんかしないでよ!!     水しぶきのせーで食器落っことしちゃったじゃない!!」              ←あの2人。 サトシ「水浴びじゃねーよ!!帽子が風に飛ばされたから取ろうとしただけだろ!!     だいたい水しぶきくらいで食器落っことすなんて、お前の注意力が足りないんだよ!!」←あの2人。 タケシ(・・ウム、仲、睦まじき!) それを木の下で観察する糸目男・・タケシは、うんうんと頷いた。 あの2人はなんだかんだ言って仲が良いのだ。 長く一緒に居た俺が一番良く知っている。 あの2人には仲良くしていってもらいたいと、心の片隅で密かに思っている自分が居る。 サトシ「だーからもうそこで洗い物なんかすんなっつってんだろ!     ワニノコ達が休んでんだから、あっち行って洗えよ!」 カスミ「だったらアンタがやればいいんでしょー!?     人にばっかり洗い物押し付けといて、そんな偉そうな口叩ける立場なワケ!?」 サトシ「ジャンケンで当番決めたんだから、今更そんな文句言われても無駄ですー!」 カスミ「だったらアンタも文句言わないでくださいー!     どこで洗おうが当番の勝手ですー!」 思いっ切り、憎まれ口叩き合う2人。 どうやら今日もケンカは長引きそうだ・・・ もう慣れた事なので、タケシは頭を掻いて溜息をついた。 あの2人、あの通り仲良い事は仲良いのだが。 全くもって、進展が見られない。 ・・俺には、思わぬ所で素敵なお姉さん(ウチキド博士)に出会い、そこで2人と一度別れてしまった過去がある。 離れるのは正直寂しかったが、あの2人がもっともっと仲良くなれるチャンスかもしれない・・と、心の片隅で思っていた。 ・・・そして、色々あり(聞かないでくれ。)、俺がマサラタウンに戻ったその時。 俺はド肝を抜かれた。 あの2人が仲良く手を繋いでいたとか、そんな素敵な知らせがあったからではない。 もう1人、男がいるじゃないか。 しかもやたらと人懐っこい。 ハナコさんに「何が食べたい?」と聞かれたら、元気良く「サトシ!!」と答えるような奴だ。 オーキド博士に会うやいなや、「僕の観察スケッチ見て下さい〜〜!」とか叫んで大量のスケッチブックを持ち込む奴だ。 しかもなんだか俺と同じ様な立場に居るそうじゃないか。 正直少し、対抗意識というものが・・・・と、話がズレてしまったので、これはここまでにしておこう。 とにかく、あの2人には全く進展が見られなかった。 俺が居ないとすぐケンカを始めてしまう。(俺も極度の方向音痴は変わってなかったが) 全く、何か少しでも進展していれば良いなと思っていたのに。 この2人を見守って行けるのは、やはり自分しか居ないようだな。 ・・ようし、ここは1つ、このタケシさんが2人をエスコートしてやるぞ! ・・と、意気込んでいたあのワカバタウンの夏。 そう簡単に、計画は進まなかった。 だって進めば進むほど、素敵なお姉さんと出会って行くではないか。 あの2人の手ではなく、綺麗なお姉さんの手をエスコートしている自分が、気付けば2日に1回存在している。(多い時は3回。) 色々あったせいか(聞かないでくれ。)、お姉さん病が更に悪化しているらしい。 マズイ。 しかも、女としてこういう最低的男は許せないのか、カスミが毎度毎度耳を引っ張って止めに入る始末。 マズイ。 しかも、サトシはかなりの鈍感男。 カスミの行為にヤキモチやジェラシー(言っても「それって新しいポケモン?」と返すだろう。)という洒落た感情を抱かないらしい。 マズイ。 いかん・・いかんぞコレは。 俺はあの夏、2人をエスコートしようと固く誓ったハズじゃないか。 このままではあの2人は進展どころか、あのまま良き友達止まりしてしまうではないか。 ようし・・ここは少し頭を冷やして、お姉さんにはなるべく過敏に反応しないようにしよう! ・・と、誓ったエンジュシティの秋。 俺は、舞子さんに4連続連回ハートを撃ちのめされてしまった。 美しい・・・美し過ぎる! なんて美しいんだ・・・まるで、天女!? いや、女神!? っつーか神様!? いかん。 いかんのだこんな事では。 しかもカスミ、今度は鼻を引っ張ってくるではないか。 マズイ。 マズイぞコレは。 しかもサトシは相変わらずの鈍感男だ。 いかん。 いかんぞコレは! ・・・よし、こうなったら俺はもう一切女性には興味を示さない! あの2人を進展させるには、それしか行く道は無い! ・・そう誓ったチョウヂタウンの冬。 ・・・やはり、俺のお姉さん病が止む事は無い・・・ マズイ・・マズイんだってこのままでは! そう、マズイのだ! いや、マズイんだよ! マズイのよさホントに! ・・・そうした心境の中、俺は今、この場に居る・・・ やっぱり以前として、あの2人には進展が見られない。 いや、カスミがサトシに好意を抱いている事は確かなんだ。 オレンジ諸島で何か色々数回あったらしいし。 ・・というか、ジョウトに来てからほとんど俺があの2人の仲を邪魔しているような気さえもする。 う〜む・・・ 頭の重くなる問題だ・・と、タケシは頭を抱えた。 確かに重いと思います。 イシツブテが頭の上で昼寝してるので。(っつーか気付けよタケシ。) カスミ「タケシ?     何さっきから笑ったり泣いたり怒ったり叫んだり転がったり跳ねたりしてんの?」 ケンカを一時休戦させたらしいカスミが、洗った食器をカチャカチャと運びながら尋ねて来る。 タケシはカスミを見るやいなや、「come on!!」とばかりにカスミを引き寄せ、耳元でコショコショと話を始めた。 タケシ「・・カスミ、1つ聞きたい事がある!」 カスミ「は?何よ。」 タケシ「時にお前・・・サトシの事を、どう思う?!」 カスミ「はぁ?」 唐突に尋ねられ、カスミは思わずそう返す。 タケシ「『好き』か『嫌い』か『普通』か『おばか』か『お子ちゃま』か『もっと日本語勉強しろ』か『HEY!ア〜ッシュvvv』か、     どれだ!?」 カスミ「意味わかんないわよ。」 タケシは「フッフンv」と顎に手を当てると、左斜め横顔で(この角度、自信あるらしい。)白い歯をキラーン☆と光らせた。 タケシ「隠しても無駄だぞカスミ!     俺は何もかも全てお見通しさっ!     そう、恋愛名探偵とでも呼んでもらおうか、このタケシ!     お前達の姿はカントーの時からず〜っと微笑ましく見守らせてもらった!     色々な出会い、様々な別れ、色んな事があっただろう!     だがお前達はそんな荒波にも負けず、どんな事件が押し寄せようと、     2人手に手を取って涙を堪えながら共に乗り越えて来た!(なんか違)     そんなお前とサトシの関係、恋人までとは言わんがただの友達とは言わせんぞ、さぁ、答えぃ!!!」 クルッと振り返ると、もぬけの殻。 ヒュルリラ〜と一陣の風が去ると共に、ピカチュウとトゲピーがキャッキャッとじゃれ合いながら去って行った。 タケシ「・・・・・・・・・フ☆     全く、思春期の子供というものは・・・☆」 で、アンタいくつなの。 タケシ「・・仕方が無い。     あんな素直じゃない2人には、やはり周りのサポートが必要みたいだな。     こうなったら、このタケシさんがあの2人を徹底的にエスコートしてやろう!     題して、『サトシとカスミをくっつけちゃおうキャンペーン実施中ですv作戦』だ!!」 なんだか意味がわからない。 ―――まず、作戦その@!! タケシがビシィッ!!と宙を指差した。 (テーマ)あの2人を互いに意識させてみよう! (内容)そう・・自分が仲間入りする前からあの2人はず〜っと昔から一緒に居る。     その時間が長過ぎて、互いを異性として意識してない部分が垣間見られるのだ。     ・・つまり、恋愛へと発展させるにはまず!(ビシッ☆)     互いは異性なのだと確認させる事から始めなくてはならない! (結論)・・ということで、全然恋愛解ってない、お子ちゃま鈍感サァ〜トシクンから行ってみよう! ―――――― タケシ「サトシッ☆」 元気に陽気にハツラツとした声が聞こえ、昼寝中のベイリーフの頭を撫でていたサトシは「ん?」と振り返る。 やあ☆とばかりに、細い目を更に細めたタケシが、何やらニヤニヤと微笑みながら自分を見ていた。 サトシ「・・な、なんだよ?」 タケシ「カスミは何処だっ?」 サトシ「あ、ああ、なんか散歩してくるって・・     ・・・で、何?」 タケシがこんな顔して近付いてくるという事は、何かろくでもない事を頼んで来る時。 現に、とあるサーカス団のテントでバリヤードに無理やり変装させられた事のあるサトシは、嫌な予感を胸に秘めつつタケシに尋ねた。 タケシ「フフフフ・・・サトシ!お前に1つ、聞きたい事がある!」 サトシ「聞きたい事?」 嫌な予感は更に積もって行く。 タケシ「時にお前・・・どういうタイプの女性が好みだ?」 サトシ「はァ?」 キラーンと目を光らせながら尋ねて来るタケシに、サトシは思わずそう返した。 タケシ「そうだなぁ・・俺の場合は、やはり綺麗な年上の清楚な感じの女性がタイプだな!ウン!     サトシはどうだ?お前も男だ、好みやタイプが当然の如くあるであろうっ??」 ・・やっぱりろくな質問じゃなかった。 サトシはさっさと手を引いてもらおうと、ぶっきらぼうにこう答えた。 サトシ「・・はぁ・・・別に、そんなのキョーミないし。」 そう言って、タケシにクルリと背を向けるサトシの肩を、タケシがぐわしっ☆とばかりに掴んで引き止める。 タケシ「何を言うのだサトシッ!!     男足る者、女性に対して、いつどんな時でも興味を示しておかないと、     世の中から置いてけぼりにされてしまうのだぞッ!!」 サトシ「はぁあ〜〜〜・・???」 なんだか今日はヤケにしつこいタケシに疑問を感じつつ、サトシは汗を垂らした。 タケシ「例えば!オレンジ髪の女の子であるとか!     横ちょんまげみたいな髪してる女の子であるとか!     やたらと水ポケモンに命を懸ける女の子であるとか!     えげつないくらい男女問わず暴力振るう女の子であるとか!     その割に女の子らしい優しさもあるんだなーと思わせつつ、スープ作ろうとして毒薬並の物作っちゃう女の子であるとか!」 どうしても無理やり『カスミ』の名前を出したいらしいタケシ君。 そんな事に気付く筈もない鈍感サトシ、「〜〜〜??」と、首を傾げるだけ。 サトシ「・・あ、あのさ、どうでもいーけど俺、早く昼寝したいんだ。話、終わっていい?」 タケシ「秤スを言うのだサトシィイッ!     話はまだ終わっとらん!     寝ちゃいかん!!     寝たら死ぬ!!!」 ムチャクチャな事言い出すタケシさん。 しかもタケシさん。 ダダこねるサトシの肩をガシッと掴み、眠るのを拒んで来た。 サトシ「狽セーからなんなんだよって〜〜〜!?」 タケシ「いーから座れ!ここに座って、俺とゆっくり話をしよう!     じっくりコトコトと煮込むように大事な話を今ここで!」 サトシ「意味がわかんねーよ〜〜〜〜〜〜〜!!」 更にメチャクチャな事言うタケシに拒まれ、必死の抵抗を試みるサトシ。 すぐ傍で眠っているベイリーフが、そんな不快音に気付いてパチリと目を覚ました。 ・・・見ると、愛しのお方が糸目男に襲われているではないか。(ベイリーフの目線) ベイリーフ「狽ラいぃいぃぃい―――――――――――――――ッ!!!!!!(激怒)」 相手問わず、葉っぱカッターを炸裂。 その事態に気付いて、サトシとタケシが「狽ヘっ!!?」とベイリーフに振り返った。 サトシ「買xッ、ベイリーフ!!!?」 タケシ「狽ィ、落ち着け違うぞベイリーフ!!!?」 そうは言っても、もう遅い。 眩いばかりの葉っぱカッター。 ピカチュウの目の前で、チラチラと美しく宙を舞って消えてった・・・ ――――――― ・・・静かだ。 森の呼吸も穏やかで、ポケモン達の平和な暮らしが行われている事を物語っている。 静かだ。 穏やかだ。 風がとても心地良い。 修行にポケモン。 それがどうした?と尋ねてしまいたい。 とても良い気分だ。 そう、巨大で凶悪で巨漢ですんげー野生ポケモンが飛び出して来ても、きっと自分は笑顔を返すだけに終わるのだろう・・・ 「シゲルッ!!」 そのハツラツとした一声で、そんな気分を壊された。 一気に機嫌を悪くした(元に戻った)シゲルは、「ぁあ?!」と敵意剥き出しでその声の主に振り返る。 ・・と、そこには何度か見覚えのある男の姿。 そう、ライバルの旅のお供をしている糸目の男、今はなぜだか全身生傷だらけ。(しかも笑顔) シゲル「・・・・どうしたんですか。」 タケシ「気にするなッ☆」 無理です。 タケシ「いやぁ、奇遇だなぁ!シゲル君もこの辺を歩いてたなんて!     あっちにサトシもいるぞ!どうだ?一緒にちょっと団欒してかないか?」 シゲル「・・いやー・・・いいです。」 傷だらけのタケシを見て、なんとなくヤな予感を覚えたシゲル。 しかも、なぜだかずっとキラキラ笑顔のタケシを見て、なんとなく寒気を感じたシゲル。 そして、妙なテンションでやたらと自分に近付いて来るタケシを見て、なんとなく殺気を感じたシゲル。 タケシ「シゲル君ッ☆」 シゲル「いや、だからなんなんですかって。」 等々、糸目な顔面をズイッと近づけられ、シゲルは急いで尋ねた。 タケシ「ちょっと協力してもらえないかィ?」 シゲル「・・協力?」 タケシ「そう!     題して、『サトシとカスミをくっつけちゃおうキャンペーン実施中ですv作戦』!     シゲル君に協力してもらえれば助かるのだが!」 シゲルは、「なんだよソレ・・」という顔をすると、仏頂面でこう答えた。 シゲル「・・はぁ、そんなキャンペーン1人でやってて下さい。じゃっ。」 タケシ「待たぬかシゲルッ!!」 去ろうとするシゲルの肩を、ぐわしッ☆と掴んで引き止める。 タケシ「お主はサトシとカスミの関係が気にならんのか!     微妙で絶妙でイ〜〜〜ッとなるあの関係を!!」 シゲル「お主て何だよ。」 タケシ「わからぬか!!     ライバル&幼馴染である君の協力があったら、ものすごい可能性を手に入れられちゃうという事を!!」 シゲル「・・可能性?」 悪魔で冷静&クールに返し続けるシゲルに、タケシは元気ハツラツとハッスルモードでこう答えた。 タケシ「そう!具体的に、こういう事だ!」↓↓↓ (テーマ)サトシはカスミを女の子として見ているか!? (内容)海やお祭り、女の子〜な格好をしたカスミを見てサトシがしばらく見とれていた事があるのは、俺も既に調査済みだ!     だがしっかぁし!(バーンッ☆)     サトシは平気でカスミと一緒に風呂入ったり(水着着用)、平気で一緒に眠ったり(俺付き)     全くとしてカスミを女の子として見ていない事が判明した!     これはイカンという事で、カスミだって女の子としての魅力をちゃんと持っているという事を、     ちゃんとサトシに見せ付けなければいけない! (結論)・・という事で!『カスミ、ナンパされる』と題した第A作戦! タケシ「・・シゲル君よ!     ―――君、カスミを口説いてきたまえ!!(ビシィッ☆)」 シゲル「めんどくさいっス。」 キラーン☆と笑顔付きで頼んだのに、シゲルはアッサリとそう返した。 タケシ「秤スを言うのだシゲル君っ!!     君、カントーの時はあんなにも女の子を口説いて(しかも年上)連れ回して(しかも車)モテモテ男をしていたではないか!!」 シゲル「嫌な事を思い出させないで下さいな。」 拒絶反応を示すシゲル。 タケシ「あの2人は本当に素直じゃないんだ!それどころか不器用だし!     ああいう2人には、もっともっと周りの暖かいエスコートが必要なのだ!     ライバルでもあって幼馴染でもあるシゲル君の協力があれば、     あの2人は急速に仲を急上昇させていくに違いない!     ・・・・・・・って、買Vゲルくんッ!!逃げるんじゃない〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」 顔を上げた時にはもう既に、シゲルはウィンディに乗って颯爽とその場を走り去っていた為、タケシは「くぉ〜〜っ」と地面に拳を殴り付けた。 タケシ「ぬぅぉおぁあ〜〜〜〜!!シゲル君の協力があれば心強いのにぃぃいぃ〜〜〜〜〜!!(苦悩)     あと他に使えそうな人は・・・・・・狽っ!」 ちょっと周りを見回すと、たまたま偶然その場を通り掛った通行人の少年の姿を発見。 タケシ「ヒロシくぅぅう〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」 突然熱い(暑い)抱擁をされ、買rクッと少年、ヒロシが立ち止まる。 ヒロシ「タ、タケシさん・・?」 タケシ「なんて奇遇な日なんだ今日は!!     そうだ!シゲル君の代わりをやれるのは君しかいない!     頼むヒロシ君!!ぜひ、協力してくれたまえ!」 ヒロシ「は、はぁ・・?」 そう、本当に偶然(いや、ホントに)通り掛ったこの子は、シゲル君同様サトシのライバル&親友の関係! きっと、そっと、暖かく、協力してくれるに違いない! タケシはウンウン!と頷くと、キラリと歯を光らせて、汗を垂らしたままのヒロシにこう言った。 タケシ「頼む、ヒロシ君!     ―――君、一発、カスミを口説いてきてくれたまえッ!!」 ヒロシ「・・・・・」 (間) ヒロシがニコリと微笑んだ。 ヒロシ「・・メガトンパンチv」 レオン「ピガァッ!!!」 ドガッ☆ タケシ「狽ョほっ!!!」 突然、顎に鋭いパンチが直撃。 ヒロシ「僕は忙しいのでこれで☆」 そして、爽やかにキラキラと去っていくヒロシクン。 うつ伏せに倒れ込んだタケシは、・・の、NOならNOと口で言って・・と顎の痛みにしばらく絶えていた。 「・・・あれ〜?タケシさんじゃないですかー!」 そんなタケシの耳に、突然そんな陽気な声が入って来る。 タケシは、もしかして天使のお迎えかッ!?と、まだ死にたくない!の顔でバッとその人物を見上げた。 タケシ「狽ィぉおぉおおッ!!トオルじゃないか!!!」 トオル「久しぶりー!元気でした〜?」 カメラを首からぶら下げた、見たまんまカメラ小僧のこの少年。 ライバルではないが、同じくサトシの友達で、何度か旅を共にした事がある。 タケシ「いやぁ今日はなんてホントにステキで都合良くて偶発的な再会の多い日なのだろう!!     トオルッ!!君ならなんでも受け入れてくれると信じているぞ!!ちょっと協力してくれないかっ!?」 トオル「? 僕にできる事ならなんでもするけど・・・」 今日はなんだか何時にも増してテンション高めなタケシに首を傾げつつ、トオルはそう答えた。 タケシ「―――君、カスミを口説いてきてくれないかっ☆」 トオル「・・・・・・・・。」 ・・・・・・。 ・・・・・・。 ・・・・・・。 トオル「ピッピのモノマネ。フラッシュ。」 カッ!!!!!!!!! タケシ「狽、ぐぉをぉおを!!!!!」 突然カメラの眩いフラッシュを目に浴びせられ、タケシは80のダメージを受けた! なんとか耐え切ってバッ!とトオルを見やる。 タケシ「トオルゥゥゥゥウ―――――――――ッ!!     人に向かってフラッシュ向けちゃいかあぁ―――――――ん!!     特に、糸目の人は繊細だから光に弱あぁ―――――――い!!(豆知識)」 豆知識を加えて叱り付けるが、やはりもうトオルは既に走り去っていた。 タケシは無念の思いを胸に、ドサリとその場に跪く。 タケシ「・・・・くっ・・・・     ・・・・なぜだ・・・・     なぜ皆、俺の協力要請を受け入れてくれないまま逃げて行くんだ・・・っ!」 いや、貴方の勧誘の仕方が悪いのではないかと。 タケシ「・・・いいさ、俺にはまだ仲間がいるのさ。     コヤツなら、俺と同じくサトカス支持者だから、ポ〜ンと1本電話入れれば飛んで来てくれるのさ・・。」 ちょっとスネ気味のタケシ、ポケットからポケギアを取り出し(持ってたのか)、一人淋しく『PIPIPI』と番号を入力した。 プルルルルル・・・ 受話器の向こうで、ベルの音。 かけた場所は、オーキド研究所。 そう、始めは対抗意識バシバシだった俺達も(何)、今はもう仲良くやっているのだ。 タケシ(お気楽天然スケッチわんぱくボーイよ・・!出ておくれ・・!) ガチャッと、受話器の取る音が聞こえた。 タケシ「もっ!もしもし!!ケン・・」 『はい、こちらオーキド研究所です。  只今、手が離せません。  ピ――――っという発信音の後に、メッセージをどうぞ。  そして留守番電話に当たったラッキーな貴方へプレゼント一句。  「コイキング ピチピチ跳ねて 来いきんぐ」  ・・どうじゃった?  《ピ――――――――――――――――――――》・・・』 タケシ「・・・・・・・」  ちょっと孤独を感じ取ったオレ☆ ――――――――― はぁ〜〜〜〜・・と、長い溜息をついて、サトシ達の所へと戻って来るタケシ。 タケシ「いかん・・・いかんぞ。     このままではあの2人をいつまでたってもエスコートする事が出来ないじゃないか・・・     こうなったら、俺がカスミを口説くのか・・・?     いや、それには色んな意味での様々な問題がアリまくりで・・・」 何やらブツブツとぼやきながら戻って来るタケシは、待っているであろうサトシに目を向けた。 が、そこにはお馴染みの光景が。 サトシ「現れたなぁ―――!ロケット団!」 ムサシ「現れたわよぉ―――!ジャリボーイ!」 またまた、お馴染みのバトルが始まっていた。 ビシ〜ッとお互いを指差しながら、ザッと地面を踏み込んで身構えるサトシ(&ピカチュウ)とムサシ(&コジロウとニャース)が、睨み合っている。 タケシ(・・・ロケット団か・・・・・・・・) 毎度の事なので冷静なタケシは、買nッ!!と頭の中で、またもや何かよからぬ事を思いついた。 ――これは使えるぞ!(ピ〜ン★) (テーマ)題して、2人の愛でピンチを乗り越えちゃおう作戦(B)! (内容)今回はロケット団にも協力してもらって、カスミを人質にとってもらうんだ!     そして、「ジャリガールを返して欲しければピカチュウと交換よー」とかなんとか言ってもらって、     きっとサトシはなんとかロケット団を倒すだろうから、     その後サトシがカスミを助け、2人はイイ感じ〜なムードへと変わってく!     なんて素敵で綺麗でロマンでマンボウ(謎)なのだろう!! (結論)・・という事で、まずはロケット団にその話を付けなくては!! タケシ「ロケット団〜!!」 タケシがキラキラと、笑顔を零しながら振り返る。 ・・が。 サトシ「ピカチュウ、10万ボルト!!」 ピカチュウ「ぴ〜かちゅぅうう〜〜〜〜〜〜ッ!!」 バリバリバリバリ★ どっか〜ん☆ ムサ:コジ:ニャー「や〜なか〜んじぃぃぃぃ〜〜〜〜〜・・・」 キラン☆ タケシ「・・・・・。」 早。 ―――――――― タケシ「いかぁぁあ――――――ん!!     日が暮れてしまったではないか―――――――!!」 頭を抱えて苦悩するタケシ。 辺りは夕闇。 オレンジ色の光も消え、暗闇と化した草木達を、夜空に浮かんだ満月が明るく照らす。 タケシ(まだ作戦1っっっつも成功してないのに!!     サトシの気持ちもカスミの気持ちもまだ全然全然全然全然確認出来てないのに!!) ・・と、拳を握り締めてやるせない思いをぐぉ〜〜〜〜っと堪えるタケシ。 そんなタケシの耳に、サトシの不安そうな声が入って来た。 サトシ「・・なぁ、タケシ。」 タケシ「なんだっ!サトシッ!」 堪えきれないやるせなさを必死に押えながら、バッと振り返るタケシ。 サトシ「・・・カスミ、帰って来てないよな?」 タケシ「え?」 その言葉で、タケシもちょっと表情を変える。 サトシ「散歩行ったのが昼飯ん時でー・・・     それから1回も戻って来てない・・・よな?」 確かにもうすぐ夕食の時間。 カスミの姿は、一向に見えない。 タケシ「変だな・・。     サトシ、カスミどこに散歩行くって言ってたかわかるか?」 サトシ「いや、近くに花畑があるからトゲピーと一緒に行ってみるーって・・・」 タケシ「花畑か・・・」 暗闇に包まれた辺りを見回してみる。 タケシ「・・・ううむ。     こんなに暗くちゃ、いつ凶悪なポケモンが飛び出して来るかもわからんな・・     心配だし、探して来るか。」 サトシ「ああ。」 タッと駆け出すサトシとタケシ。 ピカチュウが不安そうに顔を歪めながら、サトシの後に着いて行った。 ―――――― サトシ「お――――――い、カスミ――――――!」 タケシ「カスミ―――――――!」 ピカチュウ「ぴかちゅぴ―――――――!」 大声で近くを捜し回る。 真っ暗な道に、途中何度か転びそうになりながらも、サトシはヒノアラシの灯かりを頼りに辺りを見回した。 サトシ「・・ったく、どこ行ったんだよ・・」 タケシ「サトシ、俺はあっち捜してくるから、そっちを頼むぞ。」 サトシ「ああ。」 ダッと駆けて行くタケシを見送ると、サトシは心の中で、カスミに「ったく」と一喝してから再び走り出した。 ・・と、 ピカチュウ「ぴかぴ――――!」 遠くの方で、ピカチュウの呼び声が聞こえた。 ずっと自分の足元に居るものだと思っていたサトシは、「え?」と声のした方向を見やる。 サトシ「どうした、ピカチュウ〜?」 ピカチュウが居ない事なんて、いつもならすぐ気付くのに・・と、その声のした方に向かいながら、サトシは自分に向かって首を傾げた。 茂みを飛び越えると、ピカチュウが「こっちだ」とばかりに手を振っていた。 そして、その近くには大きな落とし穴。 「?」と思いながらも、サトシはピカチュウに誘導されるがままにその落とし穴へと近づく。 ヒョイッと中を覗き込むと、そこには捜索中の人物が。 サトシ「カ・・カスミ!?     おい、お前っ!こんな所で何やってんだよ!」 サトシに気付いて、カスミがハッと顔を上げる。 カスミ「・・う、うるさいわねっ!     落ちちゃったもんはしょーがないでしょ!」 腕の中に居るトゲピーが、呑気にもニコニコ微笑みながらピカチュウ達に手を振った。 そんなトゲピーに癒されながらも、サトシはこう続ける。 サトシ「みんな捜してたんだぞ!     っつーか・・なんでこんなトコに落とし穴なんかがあんだよ!?」 カスミ「そんなのこっちが聞きたいわよ!」 落とし穴の正体は多分、ピカチュウを引っ掛けようと待ち構えていたロケット団の涙の結晶の残留とかそんな所だろう。 ・・ったく、心配して損した!・・と、サトシは心の中で溜息をつくと、ベイリーフのツルでカスミを引き上げ、フゥと、腕を組んだ。 サトシ「・・で、聞かしてもらいましょーか?     なんで、花畑行って、こんな花も草も無い道端で落とし穴に引っ掛かるのか。」 サトシの真っ直ぐな目が、カスミを捕らえる。 カスミ「・・あったのよ。花。     私が採っちゃったからもう生えてないだけ。     面白い花見つけて、ついついよそ見してたら・・・落ちちゃった。     それだけですっ。」 照れ臭そうに、プイッとそっぽを向いて、「なんか文句ある?」とサトシを睨むカスミ。 サトシ「面白い花って?」 キョトンと尋ねるサトシの胸に、ズイッと何かが押し付けられた。 「え?」とカスミを見やるが、カスミはそっぽを向いたまま。 なんだかよく分からないまま、サトシは差し出されたソレを受け取る。 それは、細い茎を囲む様にドレスを付けた花。 少し変わった形で、淡紅紫色の花びらを曲げ、人の形を象っていた。 カスミ「・・・オドリコソウっていうんだって。     花の形が、踊ってる姿に見えるから、踊り子草。」 カスミの呟きに、もう一度その花をじっくり見てやる。 サトシ「へぇ〜・・・面白い花だな。」 素直に感心するサトシを見つめ、カスミは少し俯いた。 カスミ「・・・言いたい事・・・1つ。」 小さく呟く。 カスミ「・・・・”ごめんなさい”。」 「え?」と、サトシが振り返る。 カスミ「ケンカしちゃって、・・・・・ごめんなさい。」 俯いたまま、頭を下げるカスミ。 サトシはキョトンとして、そんなカスミを見つめた。 その鈍い頭を回転させ、この花はお詫びの印なのだという事をようやく理解する。 サトシ「・・い、いや、俺の方こそごめん。     ケンカふっかけたの、俺の方だし・・・」 少し頭を掻きながら、サトシも頭を下げる。 その言葉を聞いて、カスミがゆっくり顔を上げた。 目が合った。 同時に、吹き出す。 「アハハハ」という笑い声が、その場に響いた。 そんな2人のを見て、ピカチュウとトゲピーが楽しそうに笑う。 しばらく、そんな和やかな雰囲気が流れていた。 だが突然、プツリと電源を切るように、笑い声が途切れる。 なんとなく、見つめ会う2人。 サトシ「・・・あの・・さ。」 カスミが、少し顔を上げる。 サトシ「・・・俺・・・さ。」 口篭もりながら、少し頬を赤く染める。 それにつられるかの様に、カスミの頬も次第にピンク色に染まって行った。 もう春の暖かさも、太陽と共に静んでいった筈なのに。 顔がやたらと熱を感じて行く。 森のざわめきと、風の音と、心臓の音。 そんな静けさが、痛いくらい体を突き刺した。 なんとなく、またまた目が合う。 瞬時に耳まで赤くなる。 緊張感だけがやけに染み付いて、なんとなく息まで気を使う。 慣れない雰囲気に、不器用な2人。 ピカチュウとトゲピーが、不思議そうに首を傾げた。 ・・・・・・・・・ タケシ「ぬぉおぁあを―――――――ッ!!!     もう1分経過したぞ―――ッ!!!この不器用カップルめ―――――――ッ!!!」 突然、ガサッ!!とばかりに、タケシが茂みから飛び出して来る。 サトシとカスミは買rクッ!!と肩を震わせ、素早くタケシに振り返った。 カスミ「タ、タケシ!?」 サトシ「な、なんでそこに!」 タケシ「俺も捜していたという事をもう忘れたのか――――ッ!!」 ちょっとショック!と、タケシはその話を受け流すと、続けてビシィッ☆と2人を指差した。 タケシ「恋愛名探偵このタケシ!     もう全てお見通しだぞ!     『好き』なら『好きです』とさっさと言うのだ!!     さぁ、今すぐ!!さぁ早く!!!」 サトシ:カスミ「狽ネっ!?」 ・・にを言い出すやら!?と、2人は同時に顔を赤く染めた。 サトシ:カスミ「そっ・・そそそそそっ!!」 声にならない声を上げると、 サトシ:カスミ「そんなワケないだろ(でしょ)―――――――――ッ!!!」 ボッカァ〜〜〜〜〜ン!!! タケシ「ぐほ!!!」 同時にナックルパンチを食らわして、目にも止まらぬ速さで走り去って行った。 鮮血に染まった血をダラダラと口から流しながら、腹這いに倒れ込んだタケシ。 「ぴーかちゅ?」・・と、優しいピカチュウの慰めが頭を撫でる。(トゲピーは笑ってます。) タケシはゆっくり顔だけ上げて、2人を見送った。 タケシ「・・・・・フ☆     全く、思春期の子供というものは・・・・☆」 だからアンタいくつなの。 タケシ「・・・だがまぁ、あれがあの2人の自然な姿なのかもしれないな・・・     フフ、時を急がず、もう少しゆっくり見守ってやるのもいいかもしれない・・・・」 ピカチュウが、「ぴか?」と首を傾げる。 そんなピカチュウを見て、タケシが哀愁を漂わせた笑顔で頭を撫でてやった。 タケシ「・・・いやぁ、独り身って淋しいねぇ。」 ヒュ―――――・・と吹く春風を、冷たく感じてタケシは嘆いた。 END 〜あとがき〜 なんか、バラバラな出来になってしまいました・・(汗) タケシをとにかく活躍させたくて。 タケシみたいなハッスルキャラって、私にとっては、とてつもなく書き易・・(お黙りなさい)