Happy Happy 私、かなえ 13歳 世間では、ポケモントレーナーになって、ポケモンマスターになってやるとかほざいている奴らがいるけど、ハッキリ言って、私はただのバカ夢だと思う だいたい、世間はポケモンに支配されまくりじゃない? ポケモンセンターとか、ポケモンショップ ポケモンジムに、ポケモンリーグ しかも、ボール型のポケモン用捕獲機械まで作って、「モンスターボール」なんて名付けて・・・ バッカみたい ポケモンなんて、人間と同じ、この世の生物じゃない それを勝手に、人間がえらそうにポケモンを捕まえて、戦わせて・・・ ポケモンはいい迷惑よね 人間にいいように使われてさ そういえば、私の友達もポケモンマスターになるとか言ってたな 私「ねぇ・・・」 友達「ん?」 私「あんたさ、将来ポケモンマスターになりたいんだって?」 友達「そうよ!」 ほら・・・目、輝かせて、小さい子供みたいにはしゃぎまくるんだから・・・ 私「なんで?」 友達「だってね、ポケモン達と友達になれるんだよ!スッゴイ素敵じゃない!かなえも、一緒にポケモンマスターになろーよ!」 冗談じゃない そんなバカみたいな夢、なんで私まで持たなきゃいけないワケ? だいたい、ポケモンと友達〜とか言ってるけど、それはただの「キレイごと」じゃない。 本心は、戦いの道具としか思ってないくせに・・・ 私、嘘までついてキレイごと使うの、大ッ嫌い 人間みんなそんなもんよ みんな同じよ みーんな信じてるとか言っておいて、結局は裏切るんだ 人間なんて・・・・ ―・・・でも、こんなひねくれた性格を持つ私を、ある一つの出会いが変えてくれたの そう・・・あれは、学校帰りの、雨の降る日だったわ 私は、電柱の下に、ダンボール箱の中に入れられている、捨てられたポケモンを見つけたの 私「・・何これ?捨て犬・・じゃなくて、捨てトゲピー?」 そのポケモンは、トゲピーだった 結構人気のあるポケモンで、テレビとかでもよく出てたから、私でも知ってた トゲピー「ちょげ・・・」 そのトゲピーは、私を悲しそうな目で見つめてきたの 雨降ってるし、寒いみたいで、体を丸めて震わせながら、今にも泣き出しそうな目で・・ 私「・・あんた捨てられたんだ・・・。」 トゲピー「ちょげ・・・」 そのトゲピーは、首を横に振った 認めたくないのか・・・そうよね 私「・・やっぱ人間って無責任よね。飼ってたポケモンを、こんな風に捨てるなんて・・・。」 トゲピー「ちょ・・・げ・・・」 トゲピーの目に、涙が溜まってきたの よほど、その飼い主のこと、好きだったのね いつからここにいるんだろう・・・ 朝、登校して来た時にはいなかったし、少なくとも、長い間ここにいるみたい・・・ ずっと、ここで寒いの我慢して、来るはずもない、その飼い主を待ってるんだ・・・ 私は、自然とそのトゲピーをその腕に抱いたの トゲピーの体は冷えきってて、まるで、冬の海に投げ入れられた後のように・・・ こんな小さいポケモンが、ずっとここで待ってるなんて・・私はもう見ていられなくなった だから・・・ 私「・・ねぇ、家来る?」 トゲピー「ちょげ・・?」 私は、トゲピーを抱いたまま、尋ねたの 私「飼い主が見つかるまでの話だけどさ。あたし、一人なんだ。だから、あんたには快適だと思うよ。おいでよ。」 トゲピー「・・・・・」 こんな出会いで、私はトゲピーを育てることになった 家には本当に誰もいない 両親は、私が小1の時に離婚して、私は母親に引き取られたけど、母親はずっと他の男の所に行ってて、家に帰ってくるのなんて、1ヶ月に一度くらい 金さえ置いていけば、それでいいと思っている親だ 淋しいといえば淋しいかもしれない だけど、それを認めたくはない だって、それだと私は負けているような気がするから・・・ まぁ、こんな家でも、一人暮しみたいで、嫌じゃないけどさ トゲピーが来て、小さな家族が増えた気がしたの それはちょっと嬉しかったりする 私は、取り合えずトゲピーにミルクを飲ませた コンビニで買ってきた、パックの牛乳だけどね・・ それを、美味しそうに飲み干すトゲピーを見て、なんとなく微笑ましかった 私「ね、トゲピーじゃ堅苦しいから、ニックネーム付けない?」 トゲピー「ちょげ?」 私「うーん・・・トッピなんてどう?」 「トゲピー」の「ゲ」と「ー」を抜いた名前だ トゲピー「ちょげ!」 その時、トゲピーが、初めて笑ったの どうやら気に入ったようだ 自然と私も、にっこり微笑んだ それから数日、楽しい日々が続いた トッピと一緒に寝たり、トッピと散歩したり・・・ハッキリ、幸せだった そんな私の口癖 私「トッピは、絶対幸せになってね。私みたいに、ひねくれちゃダメだよ。」 それを言うたび、トッピは笑った その笑顔が、いつも脳裏に焼き付いて、学校に行っている間も、トッピの事、考えてる おかげで、テストの点数は最悪(笑) 友達にも、最近なんか変だよーなんて言われちゃうし 家に帰れば、必ず一番にトッピと遊ぶし、学校以外では、いつでもどこでもトッピと一緒 すっごく幸せ こんな気持ち、初めて味わった 結構、私のひねくれた性格も直ってきてるんじゃないかって思う これも、トッピのおかげ・・・ だけど、私にはやらなきゃいけない事がある トッピの飼い主を見つける事だ もちろん、私だってトッピを飼いたい だけど、それだとトッピが可哀想な気がした 私みたいに、ひねくれた性格の奴に育てられたら、嫌に決まってるもの・・・ 取り合えず、チラシを配る事にした チラシを作って、電柱に貼って、飼い主を捜すというものだったの トゲピーというポケモンは、結構人気があるみたいだし、飼い主はすぐに見つかった その飼い主とは、8歳の女の子 元気で優しそうな子だった この子なら、トッピを幸せにしてくれる そう思ったの 私「この子だよ。トッピっていうんだ。可愛がってあげてね。」 私がトッピを差し出すと、女の子はすぐに飛びつくようにしてトッピを抱きしめた 女の子「わぁ〜!可愛い!ね、ね!本当にもらっていいの?」 私は、チラっとトッピを見た トッピは、私じゃない女の子に抱かれて、少し戸惑いながら私を悲しそうに見ていた 私「・・・・いいよ。」 トッピ「・・・―――」 私は、トッピに手を振った トッピもようやく実感したようだ お別れの日が来たってこと トッピ「ちょ・・げ・・」 トッピは、女の子の腕から離れようと必死にもがくけど、やっぱり小さなポケモンの力では、全然かなわなかった 女の子「ねぇ、この子嫌がってるよ?」 私は、正直、トッピをまた抱きかかえたかった だけど、この子に幸せになってもらうためには、この女の子にもらってもらうしかない・・・ 私は、やっとの思いでそれを我慢して、その女の子に笑いかけたの 私「・・きっと、まだ慣れてないんだよ。大丈夫、可愛がってあげてね。」 私が微笑んでそう言うと、女の子も安心したのか、笑顔でその場を去った 女の子「うん!ありがとーお姉ちゃん!」 女の子はそう言うと、前へと向き直って、歩き始めたの その降り直る瞬間、女の子の腕にいるトッピの悲しそうな顔が、忘れられない・・・ これで良かったんだ あの子にもらわれて、トッピはこれで幸せになれる・・ 私はそう思った ううん、思いたかったんだ トッピとの思い出が、次々と思い出されて・・・ それを振り離そうとするけど、離れてはくれない そんな調子で、数日がたった 私「トッピ・・元気でやってるかな・・・」 ・・そんなある日・・・ 私が学校から帰ってきた時、あのトッピを拾った所の電柱に、またダンボール箱があったの 今度は何かと思って覗いてみると・・・ 私「・・・トッピ!」 それは、少し悲しそうな目をしていたトッピだった 間違いない でも、どうして・・・? トッピ「ちょげ〜!」 トッピは、私を見ると、笑顔で飛びついたの 私「トッピ!・・・どうしたんだよ!?あの女の子にもらわれたんじゃ・・・まさか・・捨てられたの・・?」 トッピ「ちょげ」 トッピは私を見ると、首を横に振った 私「・・違うの?じゃ、どうしてまたこんな所にいるんだ・・?」 そう聞くと、トッピは私から目をそらすように下を向いた 私「・・・トッピ・・あんた一人で、ここに戻って来たの?」 トッピは、小さく頷いた 私「・・私に会うために?」 また、トッピは小さく頷いた 私は、トッピの気持ちが嬉しかった だけど、これだとトッピのためにならない あの女の子だって心配してる そう思った・・ だから・・わざと、キツイ口調で言ったの・・・・ 私「・・バカ・・。」 トッピ「ぴ・・?」 トッピは、私を不思議そうに見つめた 私「バカだ・・・バカだよ・・。何やってんの・・?なんで、私に会いたいの?   だいたい、あの女の子が心配してる事くらいわかってんでしょ?   生き物って甘やかすとこれだから・・・人間だけじゃなく、ポケモンまでそんな心なんだ。   戻ってくれば、ちゃんと出迎えてくれるとでも思ったの?バッカみたい。   世の中ねぇ、そんなに甘くないのよ。それくらいわかるでしょ?   あんたも生きてんだしさ、わからなかったら、ただのバカだよ・・バカ・・・バカ・・バカ!!!」 私は思わず走り出した トッピの顔なんかもう見たくもなかった ただ、走り去る時に、トッピが何か私に言っているように聞こえた だけど、私は振り向かなかった いやだ・・・・・いやだ・・・・いやだ・・・いやだ・・!! こんな自分がもういやだ! バカはどっちよ! 相手の気持ちも考えず、ただただ言うだけの私の方がバカだ! トッピだって傷ついたに違いない! 何やってんのよ! トッピにあんな事言ったって、心を傷つけるだけで、どうにもならない! いやだ!!! 私は、自然と涙を頬に伝わらせていた・・ 家に一応帰ってみるが、やっぱり親もいない 私は一人・・・ もう、誰もいない・・・・ お父さんも・・お母さんも・・トッピも・・・・ もう、私には・・・・・誰もいないんだ・・・・ そう思うと、ますます涙が溢れ出てきた 一人だって思うと、自然と出てくる 止まらない・・・ 強がってても、やっぱり一人は嫌・・・ 孤独は嫌だ・・・ 一人は嫌い・・・ 辛い・・・・ 一人は怖い・・・怖いよぉ・・・・! そのまま、私は眠っていたらしい さっきまで日照りが激しかったのに、もう窓から夕焼けのオレンジ色が、部屋に差し込んでくる ピンポーン・・・ そのインターホンの音で、私は目が覚めた 涙は止まっているものの、まだ跡が残っている 取り合えず、玄関へ向かうことにした 私「はい・・・」 ガチャ・・ ドアと開けると、そこにはあの女の子と、その腕の中にいるトッピがいた 私は目を丸くする 女の子「お姉ちゃん、こんにちは!     あのね、やっぱりトッピ、この家がいいんだって!     トッピが急にいなくなったから、探しに行ってたの!     そしたらね、このお家のドアの前にいたんだよ。     ずっとドア叩いてたんだって!気づかなかった?」 私「・・気づかなかった・・・」 そうだったの・・・・? トッピを見ると、こちらを嬉しそうに見てる・・ さっき、あんな事言ったのに・・・・ 私「トッピ・・・・」 私は、女の子からトッピを受け取った トッピは、笑顔で私を見てる・・・ あんな事言ったのに・・・私の事・・・嫌いにならないでくれたの・・? 私「トッピ・・・!!」 私は、また涙を流して、トッピを強く抱きしめた トッピ「ちょげ!」 トッピは嬉しそうに私を抱きしめてくれた・・ 女の子「あのね、あのね!トッピね!お姉ちゃんの事、一番好きなんだって!だから、離さないであげてね!」 私「・・・・?」 私は、女の子が不思議に感じた だって、何でトッピの気持ちがわかるの・・? 前もそんな感じだった・・  女の子『ねぇ、この子嫌がってるよ?』  女の子『ずっとドア叩いてたんだって!』  女の子『お姉ちゃんの事、一番好きなんだって!だから、離さないであげてね!』 この子は・・・ 私「ね・・・君、トッピの心・・・」 女の子「うん!私、ポケモンの心がわかるの!」 私「・・・!?」 女の子「私ね、ポケモンの事、だぁ〜い好き!     でも、私達はポケモンの言葉はわからないよね。     わかりたいな〜って思ってたら、いつの間にかわかるようになっちゃった!」 笑って言う女の子・・・ ああ、そうか・・・・ ポケモンは、思う気持ちが強ければ、必ず心で返してくれるんだ・・・・ 私「・・・うん、離さない・・!トッピの事、絶対離さない!」 私は、笑顔でトッピをより強く抱きしめた トッピも笑顔でより強く私を抱きしめてくれた 私の目には、まだ少し涙がたまってたけど、さっきとは全然違う、まったく正反対の涙だった ポケモン・・・人間の事を優しく見てくれる・・・とても優しい生き物・・・・・   END