彼の名はヒロシ。 私の心の王子様。 〜〜夜河花火〜〜 ツバキ「はぁぁ・・」 両手を頬に当て、うっとりした瞳で地面一点を見つめる少女。 うずまき列島でのあの事件以来、もうずっと、       とりこ。 ツバキ「なんて素敵なんだろう・・・     ああ・・・あの瞳が忘れられない・・・」 爽やかスマイルな目で、殺された経験のある少女。 ツバキ「ああ・・・あの声が忘れられない・・・」 真剣スタイルな顔立ちに、負けた経験のある少女。 ツバキ「ってゆーか全部忘れられない!     忘れられるワケないっ!     ねっ!そーでしょそれが当然だよねドククラゲッ!?」 急に立ち上がって、突然自分をビシィッ☆と指差す主人に、ドククラゲは思わず「びくっ」と体を震わせた。 ここは、釣りの名所である、とある大きな川岸。 コンクリート場の地べたに座り込み、柵を乗り越えて釣り糸を垂らす釣り人が、自分の他に何人か居た。 当然、その釣り人達全員、自分を白い目で見ている。 だがツバキは恋する乙女、そんな事いちいち気にしてられない。 ツバキ「そういえば、あの時もこんな風に釣りしてたんだよねー・・・     そこで、ピカチュウ(レオン)が溺れてて・・・     それを助けた時に、あのお方が現れて・・・・」 その瞬間、ガクッとツバキが膝立ちに倒れ込む。 当然、周りは余計変な目で見る。 ツバキ「ああッ!!     もうッ     エルッ     オーッ     ブイッ     イーッ!!(LOVE)     なんでそんな素敵なのッ!!貴方はッ!!」 主人のそんな様子に、ドククラゲはとりあえず他人のフリ。 ツバキ「はぁぁ・・なんでそんな素敵なの・・     なんでそんな爽やかなの・・     なんでそんなキラキラなの・・     なんでそんなサラサラなの・・     なんでそんなゴゥゴゥなの・・」 ※恋する乙女です。深くツっこまないであげて下さい。 ツバキ「ああ、神様・・・私はあれからずぅ――〜〜〜っと、ヒロシだけを見つめております・・・     どうか、どうか一度だけでもいいからヒロシと会わせて下さい・・・vvv」 両手を握り締め、雲に隠れがちの太陽に向かって、キラキラとミュージカル舞台のヒロインの様に呟くツバキの傍から、釣り人達が次々と消えて行った。 祈るだけ祈ると、ツバキはフゥ・・と寂し気な溜息をついた。 ツバキ「・・なぁんて、世の中そんなにうまくいくわけないのよね・・・・     例えばまた、あの時みたいにレオンが溺れてたりなんかしたらいいなーなーんて・・・」 「ぢゅう〜〜〜〜〜〜!!!(バシャバシャッ)」 ツバキ「箔Mれてる―――――ッ!!!!?」 嘘だ――――ッ!と思いつつ、よぉーく目を凝らして見てみたが、それは間違い無くピカチュウ。 しかも気のせいか、前髪がチラッと見えた。 「レオ―――――ン!!」 ぇえ――――ッ!?と思いつつ、少年の声のした反対岸に目を凝らしてみると、それは間違い無くヒロシ。 だが今度は自分が助ける間も無く、岸近くまで走って行ったヒロシが、素早くレオンを抱き上げていた。 ヒロシ「レオンッ、また足滑らせたのか!?     お前は水との相性悪いんだから、気を付けろって言ったろ!」 レオン「ちゃぁ〜〜・・」 属性関係無く、そういう意味で水との相性が悪い電気ポケモンらしいレオン。 そんな会話を聞いている中、ツバキがようやく我に返った。 ツバキ「ヒロシ――――――――ッ!!     こっち――――――――ッ!!」 大声を張り上げて、反対側にいるヒロシにそう呼び掛ける。 だが、ヒロシがその声に気付く前に、 ぼっぼぉ〜〜〜〜〜〜〜・・・♪ ・・と、のろいのろ〜い船バスが、2人の間を強烈な汽笛と共に進んで行く。 その汽笛の音に邪魔をされ、ツバキのその大声も軽く掻き消されてしまった。 しかも、この船はのろい上、でかい。 ヒロシの姿どころか、向こう岸さえ見えない。 (オラッ!どけっ!邪魔っ!さっさと行けぇっ!) ・・と、歯痒い思いをぐぁ〜〜〜っと堪えながら、ツバキは足をジタバタさせた。 ・・・・1分程経過した頃だろうか。 ようやくその船の巨体も消え、向こう岸がパァッと見える様になる。 ツバキ「ヒロシ!」 長い戦いを終えた後のように、ツバキは爽やかな笑顔で向こう岸に瞳を向けた。 ・・だが。 ―――そこにはもう、ヒロシの姿はなかった。 ひゅるりら〜〜〜〜・・・(風) ・・お約束的な展開に、ツバキはしばらくその場で固まっていた。 ―――― ツバキ「はぁ〜〜もうっ!せっかく会えるチャンスだったのにっ!」 昼間の苦痛も冷めぬまま、オレンジ色の夕日を浴びつつ、ツバキが不機嫌そうに呟いた。 ツバキ「・・でも一目見るだけでも見れたし・・神様には感謝かな。     けど、なんかこれじゃ諦めつかない〜っ!」 ずっと川岸を歩いてて、ふと気付く。 通り過ぎる女の子達を見かけるたび、皆、同じ格好をしている事に。 そういえば、屋台も2、3軒見かけた。 ツバキ(お祭りがあるのか・・・) ちょうど隣を通り過ぎた若いカップルを見つめて、ツバキはそう思った。 浴衣を着て、嬉しそうに腕を組んでいる。 ツバキ(・・いいな・・) 浴衣も、その姿も。なんだか両方羨ましい。 ツバキ(よぉし、私も頑張るぞっ!     頑張って、今日中にヒロシ見つけちゃおうっ!     きっと、まだそんな遠くに行ってないハズだし!) 足を止めてグッと拳を握り、ツバキはその場で意気込みを見せた。 ツバキ(まず、ヒロシが行きそうなトコ・・・     ・・ポケモンセンター、図書館、資料館、ポケモンジム、ポケモンショップ、その辺の民家・・・) おいおい。 ツバキ「う〜ん・・・よっし!まずは、近くのポケモンセンターから当たってみよう!     なんか私やってる事ストーカーっぽい気がするけど、ストーカーじゃないわ!うん!たぶんね!」 うっしゃ!と気合を入れると、ツバキはクルリとポケモンセンターがある街の方向へ体を向けた・・その時! ツバキ(・・は!!) 何かを感じ取ったツバキ。 ツバキ(聞こえる・・・聞こえるわ!     この、鈴の音のようにかろやかで澄んでいてそれでいて優しくふんわりとした美しいお声の持ち主は、紛れもなくあのお方!) 前にもあったな、そんなセリフ。 ツバキ「ヒロシ!?」 その声が聞こえたらしい方向に、バッと振り返るツバキ。 ・・と、約8m先に、人込みに紛れてヒロシ(レオンも)の姿がチラリと見えた。 すごい・・すごいよツバキさん。 ヒロシはレオンと何か楽しい話でもしてるのか、クスクスと微笑んでいた。 ――――――――狽ヘあぅっ!!! ハートを撃ちのめされたツバキ。 ――――――――あ・・嗚呼・・なんて素敵な笑顔・・vvv         眩し過ぎて私は今にも倒れそうよ・・・・・・☆☆☆ クラッとよろめき、近くの柵にもたれかかるツバキを、通行人が白い目で見つめている。 ツバキはすぐに気を取りなおし、体勢を整えて大きく息を吸った。 ツバキ「ヒ〜〜〜〜〜ロ〜〜〜〜〜〜・・」 とにかく、ありったけの大声で叫んでみるのだが、人込みが激しいばかりか 「ヘイ、らっしゃい!」とかいうどうでもいいオッサンの客寄せ声が邪魔して、当然のごとく本人には届かなかった。 ツバキ「あ〜んもう、こうなったら!」 ダッと駆け出すツバキ。 だが、人込みのせいで走る事すら出来ない状況。 こんな所でモタモタしてたら、またヒロシを見失う。 ツバキ「うぅう〜〜〜・・・っヒロシ〜〜気付け〜〜〜っ!!」 聞こえるワケがない。 子供の体は押されに押されまくり、流れに任され逆に遠ざかっている。 あぁあ〜〜!と掴みようのない手を伸ばしつつ、遠ざかって行くヒロシを悲痛に見つめる。 ツバキ「なんでこんなに引き離されなくちゃいけないのぉぉ〜〜〜」 ・・と、1人涙するツバキ。 結局そのまま引きに引き離され続け、とうとうヒロシの姿は見えなくなった。 嗚呼・・・・ 正にその言葉がピッタリ。 少し人込みが落ち着いた所で、ツバキはガクリとうな垂れた。 ツバキ「で・・でも、大丈夫!ヒロシ、居たもん!     絶対また見つける!私、負けないっ!」 グッ!と拳を握り締め、再びそう意気込みを見せるツバキ。 ツバキ「とにかく、人込みを避けなきゃ!     こうなったら意地でも会ってやるんだから〜!」 戦闘心にボッと火がついたツバキさん。 この場合、なんか違う気が・・。 ――意地でも会ってやる!と意気込んだのはいいのだが、やはり地道に探すしか方法が思いつかない。 ツバキ「きっとまだこの辺にいるはずよね!     絶対探し出してやるんだからっ!」 そう推理して、辺りを見回す。 ・・と、少し人の並から離れた所に、1人の少年の姿が。 推理的中、それは紛れもなくヒロシ。 川沿いの柵に寄りかかって夜風に吹かれ、レオンと談笑しながら少しセンチメンタルな雰囲気を漂わせていた。 ――――――――狽ュはぅっ!!! またハートを撃ちのめされたツバキ。 ――――――――あ・・嗚呼・・なんて素敵な横顔・・vvv         綺麗過ぎて私は今にも倒れそうよ・・・☆☆☆ またクラッとよろめくツバキを、通行人は白い目で見つめながらなるべく避けて通った。 ツバキは気を取りなおして体勢を整えると、笑顔でヒロシに駆け寄って行く。 ・・が。 ズドドドドッという、謎の大群に邪魔をされた。 女1「あっちに例のヤキソバ店員いるらしいわよ―――――っ!!」 女2「めっちゃカッコイイって噂よね―――――っ!!」 女3「さぁ、そのカリスマ店員を一度でいーから目に焼き付けてやるわよ――――――っ!!」 女4「おぉ――――――――――っ!!」 ツバキ「カリスマ店員なんかどうでもいい―――――っ!!     私とヒロシを引き離さないで―――――――っ!!(号泣)」 そのままそのギャルの集団行動に流されて行くツバキ・・・ やはり子供の身長のせいか、そのまま軽々流れるがままに流されて行ってしまうのだ。 結局ヒロシから遠く離れた場所でギャル軍団を振り切り、はぁぁ・・とその場に崩れ落ちた。 撃沈。 今はその言葉がピッタシ。 ツバキ「・・ま・・負けない・・・     負けるもんか・・・     意地でも会ってやる・・・     牛乳ガンガン飲んで、背も伸ばしてやるっ・・・」 やっと、さっきの場所へと戻って来る。 だが、やはりもうヒロシは居ない。 辺りを見回してみるも、それらしき影も見えない。 ツバキ「・・今度こそ本当に見失ったかも・・・」 くっ・・あのギャル軍団めぇ・・!と拳を握りつつ、ツバキは辺りを見回した。 ツバキ(・・は!!) 何かを感じ取ったツバキ。 ツバキ(感じる・・感じるわ!     斜め35度角、推定10平方メートル先、約2.56mの木の下、体長約1.5m!     爽やかで涼しげで優しくてほがらかなキラキラオーラがその地点に!!) ツバキ、アンタ一体何者だ。 ツバキ「ヒロシッ!」 その推理した地点をバッと見やると、そこには迷子になった小さな男の子を介抱してあげているヒロシの姿が。 優しく微笑むヒロシに、その男の子も安心したように微笑んでいた。 ――――――――狽ヌあぅっ!!! またまたハートを撃ちのめされたツバキ。 ――――――――あ・・嗚呼・・なんて素敵な優しい仕草・・vvv         男らし過ぎて私は今にも倒れそうよ・・・☆☆☆ 白い目で見つめる通行人。 ツバキは、今度こそぐずぐずしてないで早く会うんだっ!とばかりに拳を握ると、ダッとヒロシに駆け出した。 ツバキ「ヒロシ〜〜〜〜〜!」 ・・が。 男1「おい、お前見たか!?あっちにスッゲー可愛いギャルがいるぞ!」 男2「おう、あのロングだろ!?たっまんねーよな!!」 男3「よぅし、こうなったら即効口説いて合コン誘うぞ!!」 男4「お―――――っ!!」 また変な若者達の突っ走りに邪魔された。 もちろん、その流れに流されて行くツバキ。 だけど今度は諦めない。 ツバキ「ヒィ〜〜〜〜〜ロォ〜〜〜〜〜シィ〜〜〜〜〜ッ!!」 男1「まずケータイの番号だな!!」 ツバキ「ヒロシッ」 男2「それから名前聞き出してー!!」 ツバキ「おヒロッ」 男3「住所もなんとか教えてもらってー!!」 ツバキ「ロッシーッ」 男4「そっから俺達の口説きが始まるというワケよ!!」 見事に全部邪魔された。 またまたヒロシから遠ざかって行くツバキ。 ツバキ「ぅぅう〜〜〜〜!!くぉらぁヒロシィっ!!いい加減気付けぇ!!呪いかけんぞぅっ!!」 ちょっと壊れてきたツバキさん。 そんな願いも虚しく、ツバキはそのまま流され続け、再び人込み離れた場所でようやく介抱された。 ・・・ もう何かを言う気力もなかった。 ―――気付けば辺りは真っ暗。 立ち並ぶ屋台の灯りで、川沿いだけは明るく染まっている。 ツバキ「はぁ〜あ・・ヒロシ、もう帰っちゃったのかなぁ・・」 とにかく川沿いを歩いて目で探しまくる。 もうここにいないかもしれないし、帰ってしまったかもしれない。 けど、会いたいという思いで、ツバキはとにかくヒロシを探した。 ツバキ「ヒロシならすぐ目立つと思うんだけどなぁ〜・・     カッコ良くてー、爽やかでー、キラキラしててー、周りもそのキラキラムードに包み込まれててー、     バラの映し出されたバックを背景に、王宮に流れてきそうな綺麗なBGMが今にも聞こえそうな雰囲気持ってるからなぁ・・」 ※ツバキにはそう見えるらしい。 ・・と、ふと気付く。 「よーよー、いーじゃんかよォー。」 「ん?」と振り返ると、川沿いの端の方で若い男3人組が、18くらいの女の子をナンパしていた。 いかにもガラの悪そうな男達に、その女の子は困惑している様子。 断ろうにも断れない状況。 こういう状況を見て、放っておけないのがツバキだ。 ツバキ「ちょっとー!なに無理やり女の子口説いてんのよ!その人困ってるじゃない!」 ズカズカとその女の子を守るように、しゃり出てくるツバキを、男たちはうさんくさそうに見つめた。 男1「あぁー?なんだぁ、このガキ。」 男2「邪魔する気かァ?おうち帰ってママとおネンネしてな。」 ツバキ「子供だからってナメるんじゃない――ッ!」 カスミ似の持ち前のおてんばを発揮させるツバキは、スッと腰のモンスターボールに手をかけた。 だが、その手がパシッと背後の男に掴まれる。 男3「おぉーっと、ポケモンはナシだぜ嬢ちゃん!」 男2「どうやら、痛い目見ねーとわからねーみてーだな!」 男1「やっちまえ!」 ヒロシ(・・ん?) 河原の上。 ちょうどポケモンセンターに戻ろうとしていたヒロシが、そこで足を止めた。 何やら下の方が騒がしい。 なんか不良っぽい3人組と、2人の女の子・・・・ ・・あれ。 ヒロシ「・・ツバキ・・?」 ツバキ「女子供相手にはしたないわよ!     ドククラゲ、水ポケモンの底力、見せつけてあげなさいッ!」 両手を掴まれ、捕らえられた状態でそう叫ぶツバキに、男たちは目を丸くする。 ・・が、それはすぐに驚愕の表情に変わった。 なぜなら、突然、すぐ隣の川からバッシャ――――ンとばかりに巨大なドククラゲが飛び出したのだから。 ドククラゲ「どォォォォ〜〜くゥゥゥゥ〜〜〜〜ッッ!!!」 男達「でか!!!!!!」 そしてドククラゲは指示通り、男達を強烈な水鉄砲でバシュ――――――ッと撃退する。 男達「ぐはぁ〜〜〜〜〜っ!!」 吹き飛ばされた男達は、なんでそんな所にドククラゲが―――ッ!と叫びながら☆になった。 女の子「・・・あ・・ありがとう・・・助かったわ・・・」 ナンパされていた女の子は、まだ少し驚きつつもツバキにそうお礼を言った。 ・・だが、ツバキは無反応。 それどころか、ヘナヘナ〜と腰の力が抜けたように、地面にペタンと座り込んだ。 ツバキ「・・・・はぁぁ〜〜〜・・・     ・・よかったぁ・・あの時、ドククラゲ残しておいて・・・・     どうなっちゃうかと思ったぁ・・・・」 そう、本当に偶然、川でまだ遊びたいというドククラゲを、渋々川に残しておいてあげたのだ。 実はめちゃくちゃ緊迫していたらしいツバキは、緊張の糸が切れた様にドククラゲを抱き締めた。 急いで助けに行こうとしていたヒロシが、そんな様子を静かに見つめていた。 ヒロシ「・・・・」 ・・変わんないな。 少し微笑むと、ヒロシはツバキの名前を呼んで駆け寄ろうと走り出す。 だが、祭りの櫓を運んでいた男達が、ちょうどそれを阻止した。 ―――――― ツバキ「・・あれから、1時間かぁ・・     結局ヒロシ見つかんない・・・」 さっきのでパワーを使い果たし、いい加減疲れて来たツバキはそう嘆いた。 ツバキ「・・やっぱもう行っちゃったのかなぁ・・・・     ・・・・・どうしよう・・・・」 ・・と、その時! ツンッ ツバキ「きゃっ!」 足がもつれ、思わず地面に手をつく。 いったぁ〜・・と片足を見てみると、靴擦れで皮膚が真っ赤に染まっていた。 ツバキ「あ〜ぁあ・・・いった〜・・・」 通りを離れ、木の植え込められた草むらの段差の所に腰をかける。 靴を脱ぎ、しばらく足を休めた。 特にする事も無いこの時間。 ツバキは1人、思いにふけった。 ツバキ「・・はぁ・・こんな事続けてたって、いつまでたっても会う事なんて出来ないよね・・・     もう帰っちゃったんだろうなぁきっと・・・」 どうしようかな・・・と、あれこれ考える中、ツバキはふと顔を上げた。 ・・と、さっき見ていた若いカップルの女性が、1人で辺りをキョロキョロと見回していた。 どうやら、相手とはぐれたらしい。 困惑した表情で、必死に目で相手を探す女性。 その目線がある一点に絞られたかと思うと、すぐに女性の顔から安堵の表情が見受けられた。 相手が走って来て、女性に駆け寄る。 「悪い悪い」とでも話しているのか、女性に怒られている相手の男性は、苦笑いで手を合わせていた。 だがすぐに2人共微笑み、仲良く手を繋いで再びお祭りのロードへと足を運んで行った。 ツバキ「・・・・」 その様子を、ずっと静かに見つめていたツバキ。 その顔が、少し寂し気に歪む。 ツバキ(・・恋人・・同士って・・・・ああなのかな。) また、ヒロシの事を思う。 ツバキ(あたし達は違うから・・・・すぐ離れ離れになっちゃうのかな・・・) 熱いものが込み上げてきたが、ツバキはそれをくっと堪えた。 片想いとは・・こんなにも辛い事か。 気付いてももらえない。 もどかしさだけが心に残って。 それでも相手は笑って自分を見てくれる。 それだけで良かったのにな・・―――。 自分に芽生えた『恋心』という感情に、ツバキは少し妬いてみた。 でも。 きっとそれが嬉しいんだ。 そこまで達せられるかなって、自分自身が成長してってるような気がして。 相手を想うっていうこの気持ちが、すごく心地良くて。 相手が笑ってくれれば、嬉しいし。 相手が泣けば、悲しくなる。 きっと、自分以上に。 だから、頑張らないと。 好きだよ・・・ ・・言えないね。 変なの。 会いたいな・・・―――――― ――――夜の河は暗くて真っ黒で、じっと見てたら吸い込まれそうになる。 足を踏ん張って堪えるけれど、目はなぜだか悲しくも美しい夜河を映す。 心細いなぁ・・ 思わずそう思う。 ツバキ「隣にヒロシが居ればなぁ・・・」 そして、思わずそう呟く。 お祭りも佳境に入り、盛り上がりは最高潮にまで上り詰めていた。 そして、それと同時に終わりも近付く。 もうそろそろタイムリミットか・・。 ツバキは時計を見上げた。 8時・・・36分・・・ ・・・帰ろうかなぁ・・・ でも・・・ヒロシ、居るかもしれないし・・・ 再び迷いと闘う心。 会いたい・・・ ・・でも・・・ ・・そんな時、突然、人の並がドッと流れ込んでくる。 「!?」と思う間もなく、ドォンという大きな音が聞こえた。 そして、パラパラパラ・・という散るような音。 振り返ると、夜空には美しい火の絵が描かれていた。 ツバキ(花火・・?) ・・・こういうのって・・・ 2人で見たかったな・・・ まだ悩んでる自分が、なんだか情けなく思えて来た。 ツバキ「・・帰ろう。」 人々が美しい花火に目を奪われる中、ツバキは1人、背を向けた。 ・・向けた、そこに。 少年が立っていた。 ずっと、自分が探していた少年――。 ツバキ「・・!」 ヒロシ「・・もう帰るの?」 相変わらず、優しい青い瞳で穏やかに微笑みながら自分を見つめてくれている。 ツバキ「ヒロ・・シ・・・」 それしか言えない。 さっきと似た様な、でも今度は違う熱いモノが込み上げて来た。 うりゅりゅ〜〜と瞳いっぱいに涙溜めて。 ツバキはダッとヒロシに駆け寄った。 ・・が、抱き着くなんてそんな恐れ多し大胆な事できないので、なんとか寸前で立ち止まった。 そして、グイッと荒々しく片手で涙をこする。 ツバキ「ずっ・・ずっと探してたんだよッ!     昼間、川んトコで見かけてっ!話しかけても気付いてもらえなくてっ!     そんで、それからずっとず〜〜〜っと探してたんだからっ!     何回も声かけてっ!流されてっ!撃沈してっ!     それでもっ・・・・諦めないで、探してたんだからね・・っ!」 せっかくこすったのに、再び水が零れて来る。 ヒロシ「・・ツバキ・・・」 しばらくそんなツバキを見つめ、少し俯く。 ヒロシ「そっか・・ごめん・・・」 そして、静かに顔を上げ、ツバキを見つめた。 ヒロシ「全然気付かなかった。」 ツバキ「・・ハッキリ言うよねヒロシは。」 涙がそこで止まった。 最後に一拭きすると、ツバキは寂しさっていう感情が消えて行く奇妙な感覚を感じていた。 ヒロシ「・・・なんかさ、似てるよね。こういうトコも。」 ツバキ「え?」 ヒロシ「あの2人に。」 少し、考える。 いや、考えなくとも解かった。 自分達が出会ったキッカケも、あの2人だったから。 ヒロシ「なんか変な所で鈍感だったり、変な所で不器用だったりさ。     つくづく似た者同士だなぁって。そう思った。」 ツバキ「・・・・」 どういう意味だろう・・ ちょっとドキドキ。 「うん・・」とだけ答えておいたが。 ヒロシ「せっかく来たんだし、帰っちゃうのは勿体無いよ。     もうそろそろ祭りも終わりだし。」 ツバキ「か・・帰んないよっ!     ヒロシ・・見つかったし・・」 そこで、ヒロシが優しく微笑む。 ヒロシ「じゃ、一緒に花火見ようか。」 にっこりとそう言われ、ツバキは少し顔を赤くする。 だが、すぐにニッコリ微笑んだ。 ツバキ「・・うんっ!」 上の方が見やすいからと、河原を昇るヒロシに着いて行く。 周りの人込みに押されながら、今度こそ絶対見失わないとツバキは早足で頑張った。 ・・が。 ツバキ(あぁあ、待って!) 自分がどんくさいのか、ヒロシが器用なのか、人込みに体を縛られ、思うように歩けない。 そんな時は必ずと言っていい程、ドンッと人とぶつかってしまう。 ツバキ「あっ、すみません!」 頭を下げてから、再び目を戻す・・が。 ツバキ(がーん!     見・・見失った―――っ!) 慌てて辺りを見回してみるも、どこにもヒロシの姿はない。 どうしようと、オロオロしているツバキの手が、ガシッと掴まれた。 ヒロシ「こっちだよ。」 ハッと振り返ると、優しく微笑むヒロシ。 ヒロシ「ちゃんと手、掴まってな。」 鼓動が速まる。 夜の薄暗さが、その場を更に夢心地にさせる。 でも繋いだ手は暖かくて、夢ではなく、現実だと確信した。 ドォンと打ち上がる花火。 いつも見るより綺麗に見えた。 ヒロシ「・・思い出すな、セキエイリーグ。」 ツバキ「え?」 ヒロシ「セキエイリーグの閉会式の時も、こんな風に花火が打ち上がって。     すごく綺麗で美しくて・・その時、色々決意が出来た。     たくさん修行積んで、次のリーグでは必ず優勝しようって・・。     あの時の花火のお陰で、ここまで来れたのかも。     ・・って言っても、僕なんてまだまだだけどね。」 最後はちょっと苦笑して、ヒロシはそう語った。 ツバキはそんなヒロシを見つめると、夜空に描かれる火の絵を見つめる。 自然と、笑顔が零れた。 ツバキ「・・よぅし、じゃ、私も頑張っちゃおう!」 ヒロシ「水ポケモンマスターなるのとか?」 ツバキ「う〜〜ん・・・内緒っ。」 ・・まだね。 でも、今度こんな綺麗な花火をヒロシの隣で見た時は・・・ きっと必ず、打ち明けるからね―――――― ☆おしまい☆ ***おまけ*** 花火も終わり、再び月と星達だけが夜空を明るく照らす。 夜風と共に人々も、次第に街へと消えてった。 ヒロシ「寒くなって来たね。大丈夫?」 ツバキ「うんっ、平気!」 相変わらず気配りしてくれる優しいヒロシに、ツバキは笑顔で答えた。 ヒロシ「じゃ、そろそろ帰ろっか。(にっこり)」 ツバキ「うんっ、そー・・――――」 そこで、ツバキの笑顔が一時停止する。 ツバキ「・・・・・」 ヒロシ「?」 ・・・・・バタッ。(倒) ヒロシ「煤I?」 また突然倒れるツバキを、急いで抱き起こすヒロシ。 ヒロシ「どっ、どーしたのツバキ!?     まだ虚弱体質治ってないの!?しっかり!」 ヒロシの中で、そういう設定になっているらしいツバキ。 ――――――――ああ・・・・・・王子・・・・・・         いきなりそんな素敵な笑顔見せないで下さいな・・・ ・・と、またあっちの世界に飛んで行くツバキ。 でもなんだかとっても幸せなツバキなのでした・・・。 今度こそ終。 〜あとがき〜 帰ってまいりました「〜〜私の王子様〜〜」。(意味不明) 何気に気に入っているので、続編書いてて楽しかったです♪ 相変わらずヘッタクソでぶっ飛ばしまくりなのですが、その辺はどうぞ鼻で笑って許してやって下さい・・。 なんか、天神祭りの影響受けております。 素敵ですよ、天神祭りは・・・☆ 花火見えないけど。(だめじゃん) よく考えたら、ヒロシとツバキって美声カップルですよね・・・(は)