番外編・ポケットモンスターRPG(リアルプレイングゲーム)       その1「カオス 穢れ無き水の時代・・・」 今日も、一日中暇で仕方ない。 日も当たらぬ部屋の中、穢れた空気がとめどなく流れる部屋の中でアクア団第三部 隊隊長・・・最もこれは名目上で実質はどこの部隊にも属さずただ一人で任務を遂 行する男、水神 河悪蘇(ミズカミ カオス)は机に頬杖をつきながらただ ぼーっとしていた。 外に出ようにもリーダー・アオギリは他の団員を含め任務中はあまり外に出さ せないようにしているので(カオスとしてはそれを無視してでもこんな穢れた 基地からでたいのが最新のセキリュティというのはそれさえ許さない) 人間の顔も見たくない、喋りたくない、関わりたくないという非社交的三拍子の そろっているカオスは部屋から出るきもなく、ただぼけっとしているのだった。 ぼけっと・・とはいっているが決してマヌケで呆けているような表情ではない。 どっちかというとむすっとしていて無表情。気の小さい人間は今の彼の表情を 見ただけで腰を抜かしてしまいそうだ。 彼は、人を恨み人の支配するこの世を消滅させようと思っている。 しかし、彼自身の力だけではそんな計画は無謀だった。 しかし、ここアクア団・・そしてこの組織と対立しているマグマ団が野望を 達成しようと「地神」「海神」を自分達の愚かな力で目覚めさせようとすればきっと 二匹の神は暴れ出してこの地に恐怖と絶望と破滅をもたらすに違いなかった。 だから、彼はこうしてアクア団にはいり、その成り行きを見守る事にしたのだ。 しかし、そんな彼の思惑など誰も知らない。 たとえそれをアオギリが知ったとしても彼は100%自分の計画が達成されると 信じているのだからカオスのいう事などこれっぽっちも信じないだろう。 「何をたわけたことを。この世界が滅びるなどと。この世界はこの俺様が支配 するのよ。」 こういうに違いない。他の団員に至ってはアオギリのこんな野望すら知らないの だから話にならない。 もうすぐだ。・・おそらくもうすぐだ。 あと少しで憎い人間はみんな死ぬ。 人間に、愚かな虫たちに俺の苦しみも憎しみも悲しみもすべてすべて味合わせて やるんだ。 カオスはそう決めた。あの日・・・自分にとって大切な存在・・一人の少女と 守ってきたポケモンたち、守り続けた歴史と穢れ無き聖域を一瞬にして奪い さられたあの日から。 そしてカオスは、そのために今まで抱いていた人間を慈しみ大切にする心、 何かを守る力そして心、大切な思い出を。 すべて・・・すべて・・・捨てた・・・。 といいたいところだが・・・・。 「・・・・・まだ捨てていないものもあったか・・・・・」 カオスは机の引き出しを静かに開けて、そこに入っている水の色をした勾玉の ペンダントだった。 「・・・捨てようとしても捨てられぬ・・・・・。何故だ・・・人間は憎い はずだ・・なら、なら・・・・」 自分の世話をしてくれたあの村の者たちも憎いはずなのに。 どうして捨てられぬ。どうしてだ。 カオスは、まだ自分が何もかも捨てていなかった時のことを、思い出したくも 無いのに思い出していた・・・・・。 〜8年前〜 「ええ!?俺にあの遺跡に行けって!?」 長老の一人息子、長老がバカ息子と呼んでいる男、フェードは自分の父であり 「オーチャズタウン」の村長である長老に長老の部屋でそういわれて思わず大きな声 を出す。すると「でっかい声をだすな、バカモン」といって思いっきり拳で殴られる。全く、こういう時だけはこの長老、元気である。 「何を驚く事があるか、バカ者。別に遺跡に化け物がいるわけでもないじゃろう。 あそこにいるのは可愛い少年と可愛いポケモンだけじゃ」 「んなことは分かってるって。でも今の今まで親父が行っていたからbっくりした だけだよ。」 「わしはもうあそこまで通うほどの体力はないんじゃよ。つべこべ言わずにさっさと 行けい!」 「って、今からかよ!!」 今はもう3時。あそこまでは時間がかかるからついたころには夕方、下手すりゃ あ夜だ。・・・ってことはあの遺跡に泊まれというのか。 それに、あの遺跡のある森にいくにはやっかいな村の近くを通るハメになる。 凶暴で残忍、闘う事だけを命としている「エメロードタウン」、通称「野蛮族」。 そんなやつらに会ったが最後、ボコボコにされたうえ(というか9割は殺される・・・)とれるもの全部とられてしまう。村から大分離れた所にも野蛮族はう じゃうじゃいるというし・・・・。 「そりゃあ安心せい。・・奴らのいるところなどもうガッテン承知の介じゃ。・・ 奴らが100%でてこないルートを教えちゃる。あ、ついでに遺跡の見つけ方ものう。」 といって長老はゆっくり歩き引き出しまで行ってゴソゴソと何かを探している。 話に何度もでてきた「遺跡」というのはエメロードタウンの近くにある大きな森に ある遺跡のことである。 なんでも「水神一族」を生み出した・・ルギアとの混血の人間を生んだ一人の巫女 が彼女を快く思わない奴らから命を狙われ、逃げてきた際にこの森に隠れ家を作り、 さらに遺跡を特殊な「力」で隠し住んでいたという。 巫女がとあるきっかけで捕まり、殺された後巫女を崇拝していた者たちがその巫女の 隠れ家を改造し巫女をまつった・・・それがその遺跡なのだという。 んでもって「水神一族」というのが巫女が雨が降らなくなり、水を奪おうと争いが おこった際人々を守ってあげたいという気持ちで水神であるルギアに願い、そして ルギアとの間に生まれた者のことをいう。その力は水を操り人々を助ける「守りの力」でまた慈悲深く優しいもの。 今となってはそんな風に水の力を使えるほどこの血を濃く受け継いでいるものは、 もうこの遺跡を守っている少年・・水神 河悪蘇とその両親くらいなものだ。 あとは多少、ほんのちょっと気休め程度に血が流れているものがチラホラといる くらいだ。・・ちなみにこの長老一家も「気休め程度に血が流れている一族」である。 そんな気休め一族は遺跡の域からでることもなく、森のポケモンとともに遺跡を守る 少年、カオスを時々訪れては世話をする。森には豊かな自然があるから一応食べ物 には困らないが、服や最低限の知識は与えなければいけない。んで、その役目が フェードにきた・・というわけだ。 長老は古い地図のようなものをとりだすとそれをフェードにやった。 「じゃあ、頼んだぞ。」 「って、何をすりゃあいいんだ?」 「今回は特に無い。じゃが、カオスに一応お前のそのバカ面を覚えさせようと思ってな。・・ああ、あとあのコはもうそろそろ10歳になるらしい・・なったのかも しれんが、何かお祝いでもあげなさい」 「なんか曖昧だな。」 「仕方なかろう。水神一族にはわしらのように誕生日を祝うようなしきたりもないし、誕生日に深いこだわりはもたないし、戸籍もないし。水蓮(スイレン)さんに 戸籍くらいはつくったほうがいいんじゃないかとはいうたんじゃがなあ・・・。 じゃが、7月産まれである事はたしかじゃ。」 「本当に、曖昧だなあ・・・つうか誕生日祝いったって何やりゃあいいんだ?」 フェードは誕生日プレゼントをやれといわれても何も思いつかない。カオスは 男の子だが、車のおもちゃだのゲームだの貰ってもしょうがないだろう。 第一あそこには電気だってないんだから。 「・・なら、わしらが毎年誕生日になるとやるあれでいいじゃろう」 「男が喜ぶか?あれ」 「・・お前は小さい頃は『わあ〜〜キラキラしてるーやっほ〜〜すっげえ〜〜』 なんて喜んでおったが」 長老にいわれてフェードは顔を赤くする。 「って、なんで昨日の夕飯すら覚えてねえのにそういうくだらないことは覚えて やがるんだ!」 「わしの頭の都合じゃ。以上。とにかくさっさと行け!!」 と長老は半ばフェードを追い出すように怒鳴る。フェードは長老を怒らせると 怖い事はもう承知なのでさっさとギャロップの馬車に乗って出発した。 今日は仕事も無くのんびりできると思ったのに・・・くそお・・。 と心の中では文句たらたらだったが、まあいいや。行って怪物に食われるわけ でもないし。 長老のくれた地図は確かに役に立ち、奇跡的に野蛮族にはあわなくてすんだ。 しかし、あたりはもう真っ暗だ。フェードはランプをつけてあたりを照らしな がら未だに巫女の力によって「隠されて」いる遺跡を目指す。 この遺跡を見つけ出す事は非常に困難だ。何せ、財宝ときけばすぐにだって そこへいくようなエメロードタウンのものたちの目と鼻の先にあるような遺跡にも かかわらず一度もあらされていないのだから。まあ、悪の心・・やましい心を もったものには見えないんだけど。 それでも、あらされる心配はないと分かっていても水神は遺跡を守り続けている。 ただただひたすら遺跡を守り続けているのだ。 それに森のかなり奥、迷った旅人でもこないような偏狭の地にあるし(もともと この森に来るものも少ない) しかし、フェード達はここに入る事が出来る。何故なら水神から遺跡を見つけ出 す事のできる不思議な石をもらっているのだから。・・どうも巫女の力がはいっ ているものらしいが・・・。 フェードはその石の首飾りをつけている。首飾りは淡くどんな宝石よりも美しい 青い光を出している。 そして森に入って1時間ほどして、その青い光が伸びて一つの方向をさした。 「おっと、あっちか」 フェードは青い光をたどっていく。そしてそこからさらに1時間。 本当に険しい道のりで途中でフェードは馬車から降りなくてはならなかった (ギャロップはモンスターボールに戻す) やがて、青い光がふっと消えた。 「おいおい、いきなり消えるなって」 フェードは慌ててランプに再び灯をともした。目の前には木が生い茂っている( って森だし)そんななか、何千年もかけて育ったような巨木が同道とたっている。 しかし、この木すらこの首飾りをつけていないものには見えない。 もしこんなのが普通にあったらあきらかに目だつ。 「この木か・・・・」 フェードはすうーーっと息をすいこんで、目をつぶり目の前にある巨木に つっこんでいった。 そう、この木こそが遺跡への入り口、水神の守る「聖域」への入り口と なっているのだ。 そして再び目を開ける。 目の前には、大きな石を積んで作られた遺跡があった。歴史に疎いフェードにさえ その古さが一目でわかった。ところどころにびっしりとコケがついている。 石もボロボロだ。しかし、それでもその威厳と美しさ壮大さは長い歳月がたった今 でも残っている。 フェードは辺りを見回す。回りはただの森。さっきと光景が別段違うわけではない。 しかしここは隠されている。まるで異空間のように。 「なんだか、俺達世界には理解できねえことが多すぎるなあ・・・」 フェードはこの仕組みがさっぱり分からずにただ遺跡を、・・巫女が隠れて 住んでいた家を改造してつくられた巫女を祭るその祭壇をただ呆然と見つめ、 そうつぶやくことしかできなかった。 と、そんな祭壇の入り口から走ってくる人の影が見えた。フェードはぎくっとして その人影にランプを向ける。ぎくったってここにいる人間なんて一人しか ・・いや、人間というかどうかは微妙だが・・・。とにかく、一人しかいないと いうのに。 「誰だ!?そこにいるのは!?」 少年の声だ。まだ声変わりもしていない幼い少年の声。その声はやたら緊張していて 警戒しているようだった。 「ああ、俺の名前はフェードだ・・・じゃなくって長老の息子だ!オーチャズタウンの!!長老に代わってここに訪問したんだ!!ほら、首飾りもある・・・ ってこれいま光ってないし暗いから分かるわけねえか・・・」 フェードは自分が危害を加える存在ではなく決して少年に警戒されるような 人物でない事を説明しようとしたがなんか上手く説明できなかった。 しかし、少年は理解したらしい。 「長老の?長老の息子?じゃあ、貴方が長老の言っていたバカ息子って人だ!!」 少年の声は警戒心をすっかりなくし、純真そうな子供の声になった。心なしか 喜んでいるようだ。 「バカ息子って・・・ったくあの親父は・・・。」 「ああ、ごめんなさい。今までとは違う気配がしたからびっくりしちゃって。 あ、そうだよね。この遺跡には普通の人は入れないんだった。俺のはやとちりだ、 ヘヘ」 といって少年は舌を軽く出してへへヘと笑う。 「お前が・・・水神 河悪蘇?」 「そうです。って、長老がいってませんでした?ここにいる人間は俺だけだって」 「あ、いやあ・・・聞いていたよ。でも・・・・」 あまりに普通の少年だったから。目の前にいる少年が。フェードはもっとこう 神秘的なオーラを出している感じを想像していた。 しかし目の前にいる少年はそこらにいる10歳とあまり変わりなかった。 あ、でもなんとなくは他の子供たちと違うような気がする。しかし背丈も喋り方も なんら普通の少年と変わらない感じだった。 水色の髪の毛、緑色の瞳。青を基調とした服そう。 「でもびっくりしました。まさかこんな遅くにくるとは思わなかったから・・・」 「・・・いやあ、俺はこんな時間に来るきはさらさらなかったんだけどよお・・ ・クソ親父がさっさと行け行けうるさかったもんで。」 「ふうん。別に俺はこっからでることはないからいつでもいいのに。ねえ、 そう思うでしょ?・・・・えっとフェードだっけ?フェードもそう思うで しょ・・・・いてっ」 フェードがカオスの頭をコツンと殴る。 「バーカ、目上の人にはさんをつけろ、さんを。フェードさんだ」 「目上?ああ、そういえばフェード・・・さんは俺よりも背が高いから俺より 目は上にあるね」 カオスはあっけらかんといった。フェードは呆れた顔をする。 「お前な・・・そういう訳じゃなくって・・・・ってああー、ど う説明したらいいのか全然分からねえ〜〜!!」 フェードは頭をかきむしる。 「どうしたの?フェードさん。頭かゆいの?」 カオスが心配そうにフェードの顔を覗き込む。フェードはカオスの頭の上に手 をぽんとのせる。 「お前のせいだっつうの。まあ、どうでもいいか。とにかく!俺にはさん をつけること!いいな!?」 「うん、分かった!!」 カオスはそういって穢れなきその純真な笑顔をフェードに向けるのだった。 (全く・・・・。水の力をもっている以外は本当にタダのガキだ) ガサゴソ・・・・・・ガサ・・・・・・ 近くの草むらがゴソゴソいった。しかも一箇所だけ。風のせいではなさそうだ。 「ん?なんかいるのか?」 フェードは音のする草むらをじっと見た。 「ああ、俺の友達がいるんだよ。・・・このくらいだと皆寝ているのに。 きっとフェードさんがあまりにうるさくて起きちゃったんだよ」 「お前だって大きな声だしていただろう」 「俺は別だもん。ほら、怖がらなくてもいいよ皆。この人怖そうだけど全然 怖くないからさ」 カオスは草むらの前にしゃがみこんで優しくいった。 「怖そうは余計だ怖そうは、バカ」 本当にこういう大人に生意気な口を聞く辺り本当にただのガキじゃねえか。 「ほら、フェードさんがまたそうやって怖い口調で言うから皆おびえちゃったよ。 ほら、みんな。大丈夫だって、俺がいうんだから。・・・おいで、 エチンセル、マリン、ビューテ」 カオスがそう優しく問い掛けると、草むらからやがて3匹のポケモンが ひょいとあらわれた。ピカチュウとマリル、それにエネコである。 3匹はカオスをみ、見ず知らずのフェードをびくびくしながら見つめる。 「そいつら、お前のポケモンか?」 「ううん。この子達は隠された聖域の内部に住んでいるポケモンたちで、 俺が守っているポケモンたちなんだ。うっかりしてここからでると 、外にいる野生ポケモンにいじめられるから。・・・なんか縄張りとかなんとか あるんだって。面倒くさいよね、外って。だっていいじゃん。誰がドコで住ん だって。・・・・でもダメだって。だから、この子達は俺が守ってる。 ずっとずっと・・・。」 カオスはその場に座り込んでしんみり話し始めた。 「・・皆凄いいい子なんだよ、皆。おとなしくて、優しくて、仲間思いで。 でも・・・でも、決められたところにいなくちゃダメだって。変だよね。 あ、でもフェードさんはそうは思わないか。だって外の世界の人だから。 ・・・長老も仕方ないって言ってた。・・・なんで、なんでみんな仕方ないで 終わらせちゃうの」 「ピイカ?」 エチンセルと呼ばれたピカチュウはそんなカオスをじっと見つめる。 「・・・・・・・・・・」 フェードはカオスの言葉を聞いてしばらくじっとその場にたちつくしていたが やがてカオスのほうにいって肩をぽんと叩く。 「・・・お前なぁ。大切なポケモンの前でしんみりしてんなよ、バカだなあ。 ほら、守るべきみんなのほうがお前を心配しているぞ。守るお前が心配かけて どうする」 「そうだね・・・・。ねえ、さっきからバカバカっていっているけどバカって どういう意味なの?長老もよく言っているけど・・・」 「はあ?・・・・言われてみれば・・・何と説明すればいいのか・・ 分からないなあ。でも、うん・・誉め言葉じゃねえなあ。俺達は自然と使って いるから・・意味なんて深く考えねえから。まあ、んなことはどーでもいいだろう。 とりあえず、お前と色々話がしたい。」 「話し?」 「そうだ。俺は退屈は嫌いだからな。話し相手になってくれや」 「うん。じゃあね、エチンセル、マリン、ビューテ。また明日遊ぼう。」 そういわれるとピカチュウとマリルとエネコはまたもとの場所へと戻っていった。 フェードとカオスはその後、祭壇の中に入っていった。・・こんな一応聖域とか 呼ばれていそうなところに一般人のフェードが入ってよいものか疑問だが 「俺が許すんだから、いいんだよ。だってフェードさんは俺の話し相手だもん。 一緒の場所にいなきゃ、話なんてできないよ」 祭壇の奥は広かった。天井も高い。カオスはその部屋の隅っこに座った。 「・・・イスとかは・・・ないよなあ。」 「なあに?イスって?」 「・・・そっから説明する必要があるのか・・・。イスっていうのは俺達が座る時 に使う道具!以上!」 「えーー、それじゃあ説明になってないよーー、もっと詳しくせつめいしてよ!」 「うるせーー!!そんなに知りたかったら辞書でもひけ、辞書でも!」 「辞書って何!?」 「だああ・・・・・もう、そこらのガキ以上に何も知らないガキだなあー!!! くっそーー、親父は今までこいつに何を教えていたんだあー!!」 と文句をいっても仕方ない。カオスはこの森・・というか聖域から一歩も出ていない。外界との触れ合いはない。人との触れ合いもない。学校も無い。だから、 ものをしらなくて当たり前だ。・・・こうやってちゃんと自分達に 伝わる言葉を喋っているのが不思議だ。・・そこらへんを長老が教えたのかもしれない。 「ところで・・・親父って何?」 またこんな質問がでるから困る。 「・・・俺や、お前をつくった男の人だ。以上」 「それってお父さんじゃないの?」 「親父とも親父殿とも父上ともパパともいうんだ。」 「・・・人間の使う言葉って多すぎて訳わかんないよ。」 「まあ、確かに人間ってのは同じ意味のものにたくさんの言葉をつけたがるからなあ・・・。あ、そうだ、忘れてた。お前、10歳になるんだってなあ・ ・いや、またはもうなったっていうか・・・・」 カオスはきょとんとしていた。 「あ、うん。確か長老がそんなこと言っていたよ。それってすごいことなの?」 「・・・すごいさ。滅茶苦茶な。お前が10年間ちゃんと生きることが出来た 。俺も何十年も生きることが出来た。それは奇跡だ。すごいことなんだ。 というか、俺達が生まれたこと自体が奇跡さ」 「きせ・・・・・き?それって、すごいの?」 「ああ、すごい。滅茶苦茶な。んで、そんなお前に渡したいものがあるんだよ。・・・・気に入るかよく分からないけど」 フェードはガサゴソとポケットから何かをとりだした。 それは水色の勾玉の首飾りだった。すこしだけ欠けている。大分古いものだった。 「わあ、すごい。なんか綺麗だね。・・・精霊の泉の色だ・・・」 「なんだそりゃ」 「近くにある泉。すっごく綺麗な水なんだよ。今度フェードさんがきたとき に見せてあげる。・・あ、明日でもいいか。・・フェードさん、 今日のうちに帰らないよね?」 「ああ。なんだ、お前もさびしいのか」 「うん。さびしい」 カオスは少しも恥ずかしがることはなく、はっきりといった。 右手でフェードの服のすそを少しだけ握っていた。 「エチンセルとか、ポケモン達はたくさんいて、とっても楽しいよ。で も・・夜は誰もいないから・・・。なんかね、泣きたくなるんだ。 でも、番人はしっかりしなくちゃいけないから・・・・」 「そうか。安心しろ。今日はちゃーんとお前のそばにいてやるから。 ま、とりあえずこれやるよ」 とフェードはカオスの体をひきよせてから彼にに首飾りを渡す。 「それな、俺が生まれたときに家族から貰ったもんなんだよ。俺達村には 古い慣わしっていうのがあってな、誕生日のひに毎年毎年これを貰うんだ。 家族が願いを込めて、毎年毎年。『今年は○○でいられますように』 『今年も健康でありますように』って感じで。で、自分の子供が生まれたときに 自分の貰った勾玉を毎年毎年その子供にあげていく・・それの繰り返しさ」 「えー、じゃあ、これフェードさんの大切なものじゃん!」 「そりゃあそうだけどな。でも、こんな形にしなくてももう大丈夫だからさあ。 もうここにその願いはきちんとつなぎとめてあるし」 フェードは胸をくいと指差した。しかし、カオスはあまりよく分かっていない 様子で首をかしげている。 「お前にはわかんないかなあーー、まあ、大人になれば分かる!!うん、 そういうことだ!」 「大人になるまで後何年かかるの?」 「はあ?・・・・全くんなこと知らねえよ」 「フェードさんは子供なの?大人なの?」 「俺は・・・・・・・さあて、どっちなんだろうなあ・・・」 フェードはワラってごまかした。自分は大人になったつもりだが、親父から見れば まだ子供に違いない。 「でも、カオス。・・・・・・うーん、お前は俺の事好きか?ポケモンの こと好きか?長老も好きか?」 「大好きだよ、皆皆大好きだよ!!!嫌いなやつなんていないよ!みんな 大好きだ!・・まだあっていない人たちもみんなみんな。」 「そうか。なら、カオス。お前は忘れるな。決して。たとえお前が大きく なってもその心、決して忘れるな。俺の事も、嫌いになるなよ。・・・ たとえ、辛い事があっても、どんなに酷い目にあっても。・・・ 誰かを好きでいる心、絶対に忘れるな。約束だぞ」 「・・・・・・・うん、ずっと、ずっと大好きでいるよ。ずっと・・・ 俺、絶対みんなのこと嫌いにならないよ!!・・嫌いになりそうに なってもがんばるよ!」 「そうか。そりゃあよかった。・・お前は大きくなっても今のままで 変わらずにいろよな。・・・あ、でも少しは言葉は覚えろ、わかったな?」 「はい!」 カオスは元気よくそういった。そういって2人で笑った。 途中から何で笑っていたのか分からなくなったが、それでも構わずに笑った。 美しき月の夜に、家族のように強い絆を誓い合った2人の人間の、 温かい笑い声が響き渡った。 −−−カオス、人間にはさ中には悪い奴もいるんだ−−− −−−悪い奴?−−− −−−そう。みんなみんないい奴とは限らない。中には酷い奴もいるもんだ。−−− −−−フェードさんはいい人だよね?−−− −−−そういわれて自信もってハイ!っていえるやつはほとんどいないよ。で も、お前がそう思いたきゃそれでもいいさ。カオス、もしお前がいつか 悪い人間に出会って酷いことをしたとしてもこの世にはそんな奴しかいないなんて 思うなよ−−− −−−それは心配ないよ。だって、フェードさんや長老や他の村の人たちもいい人たちだもん。だから、そう思うことはないよ。簡単だよ、そんなこと−−− −−−ところが、簡単そうに見えて簡単じゃないんだよなあ・・・。 一度そう思い込むと、周りが見えなくなるし。−−− −−−大丈夫だって!・・フェードさん、信用してないなあ。 俺はぜーーーーったい大丈夫だって!!!−−− −−−ぜーーーーーーーったいか?−−− −−−うん!!絶対だ!!−−− 〜現代〜 「絶対・・・・・か。俺の絶対はあてにならんな。」 カオスはあの頃と少しも変わらない勾玉を見つめる。・・・どうしてだろうか、あ の時よりも勾玉の色が陰って見える。 約束を破ったからか。自分が変わったからか。 あれから、色々あった。 フェードは何回かカオスを尋ねるようになった。カオスはすっかり彼に 懐いて彼とよく遊んだものだ。 そしてそれから5年後にミドリコと出会い・・・・そして、全てを壊され奪われた。 人間は憎い。嫌いだ、嫌い以上に嫌いだ。 人など所詮はみな同じだ。みなあのように醜いのだ。ただ見た目だけいい人を 装っているだけなのだ。ただいい人という殻をかぶった化け物なのだ。 ・・・・あの男・・・フェードもきっと・・・そうだ。 そうなんだ・・・・・。 だってあの男は言っていたではないか。自信もっていえるものなどほとんどいないと。なら、あの男もやはりいい人を装っている化け物なのだ。 あの男の父親である長老だかも化け物だ。・・・第一あの遺跡までの道が 普通知られるはずが無い。 そうだ、彼らが教えたんだ。 そうだ・・・・ そうだ・・・・・・・・・・・・・・・・ そうなのだ・・。 俺は、だまされていたんだ。 「そうだ。・・・俺は・・・・だまされていたんだ・・・・醜い殻にだまさ れていただけなのだ・・・・・・虫どもめ・・・・やはり・・・ 滅べばいい・・・・消え去ればいい・・・・・そうだ・・・・」 カオスの瞳からは、もう捨てたはずの涙がとめどなく流れていた。 勾玉を握り締めながら。 ・・・・・・・やはりその勾玉を捨てる事は・・・できなかった。 「それで・・・やっとこさっとこ次の村までたどりついたんです」 テレビ電話の向こう側で1人の少女が疲れた顔をしながらも笑っている。 電話の相手の男は溜息をつく。 「お前なあ・・・。前の村からどんなにかかったって4日だろう? なんで2週間もかかるんだ?」 「だって、すぐに疲れてしまうんです。それでも早くしなきゃと思って急いだら 道には迷うし 食料も底をつき、バタリフラリと倒れまして。・・もしあそこを通りかかった 同じく方向音痴の方々 がいなかったら私多分死んでいました。なんでも近くであるポケモンゲッターの 大会に出場するとかで。」 少女は苦笑いだ。男は溜息をつく。 「お前なあ・・・。全く、体力のなさは天下一品だな、ミドリコ。それで・・ カオスは見つかったか・・・って聞くだけ野暮か」 「残念ながら・・・・。・・私の記憶もまだ曖昧でして・・・ 思い出したくないことが、たくさんあって・・・・」 ミドリコはしゅんとなって黙り込む。 「・・・お前1人に背負わせている俺も悪い・・・本当なら、俺が探して やりたかった。それでもって一発ぐらい殴ってやりたいよ。でも・・ 俺には無理だって事、わかってるから・・・俺は結局あいつの心をわかって やれるほどの器じゃなかったんだよ。・・・・俺はわからせてやりたかった・・・ でも俺とあいつの絆なんてもうとっくのとんまに消え去っているだろうからさ。 ミドリコ、決して無理強いはしない。お前の好きなようにやりなさい。」 「分かりました。でも、でも・・・・フェードさん!!!」 「・・なんだ?」 「フェードさんとカオスさんの絆、消えてなんていないと思いますよ」 「どうだかね。・・・最低でもあいつは俺の約束を破った。・・でもまあ、 俺もあいつを1人にさせた。・・・遺跡への道を誰が教えたかは知らないが、 でも俺は結局、まもってやれなかったからなあ・・・・」 「でも・・・・・」 「とにかく!!ミドリコ、お前は行きたい道を進め!それだけだ!! トロトロ旅で構わん!俺はこれから仕事だから、じゃあな!」 フェードはそれだけいうとまだいい足りなさそうなミドリコを無視してさっさと 電話をきってしまった。 陰らぬ水の時代・・・決して穢れる事のない水の時代はもう終わった・・。 もうあの頃に近づける事は会っても完全には戻れない。 誰一人、もう・・・・・。 愚かなる物語の一ページを開いた彼らには・・・。 もう、美しき水は戻ってこない・・・・・・・・・。                        終わり