番外編・ポケットモンスターRPG(リアルプレイングゲーム)    その5「ショウコ・・・大好きだったあの人のいた頃」 私の名前はショウコ。16歳。 私は、兄が好きだった。心のそこから大好きだった。 幼いときに交通事故で亡くなった両親の代わりに兄は私をずっと一人で育ててくれた。そんな兄が私は好きだった。 家族愛とかそういうものではなくてあれはもう一種の「恋愛感情」だったんだと思う。だった、ではない。私は16歳となった今でも兄を好いている。だから私は急に 私の前から姿を消した兄を探すためにカントー地方のグレンタウンからこのホウ エンへとやってきた。 優しくて、強くて、時に厳しいそんな私のお兄ちゃん。 大好きで大好きで仕方ない私のお兄ちゃん。 あまりに大好きで、私は小さいころからまるで親鳥についているカモの赤ちゃん みたいにいつもお兄ちゃんの後ろにくっついていた。 お兄ちゃんの近くに女の子が寄るのを嫌がって女の子が近づくと私はその子に 生意気なことを言ったりわざと蹴飛ばしたり睨みつけたり・・あからさまなや きもち行動をとっていた。 兄はそんな私を苦笑いしながら見ていた。兄は「こら、ショウコやめなさい」と私を たしなめる。でも私は「だって」といってそれをやめようとはしなかった。 ・・たった3歳差の兄妹なのに、兄が昔から大人びているせいで私はますます 子供に見えて仕方なかった。 お兄ちゃんは恋人もいなかったから、私はずーっとお兄ちゃんを独占していた。 これからだって、ずっとずっと。お兄ちゃんは私のものだもの。 ・・・・・でも、そういうわけにはいかなかった。 12歳のとき・・つまり、4年前にとうとう当時14(あと少しで15歳) 歳だったお兄ちゃんに「恋人」ができてしまったのである。 〜4年前〜 「こんにちわ。初めまして、貴方がユウ君の妹さんね。よろしく」 ある晴れた日の午後、ともし火山のポケモン観察から帰ってくる予定の お兄ちゃんのために、私がクッキーを焼いていた時、 その少女はあらわれた。 長い黒い髪の毛、やわらかい笑顔、水色のワンピースの上に黄色の長袖の上 着をきた、少女。まぶしい日の光をよりいっそう明るくしそうなほどまぶしい少女。 お兄ちゃんの友達だろうか。のんきな私はそんなことを考えていた。 ・・でも、お兄ちゃんに近づくような女の子は私は全員みて、 みんなに敵意をむきだしにしてきたはずだ。でもこの人は見たこと がなかった。あちらも「はじめまして」といっているのだからまあ 初対面なのだろうが。・・まあ兄が旅先でであった友達だろう。 それにしても私の知らないところで女の人と仲良くなっているなん て。やきもち焼きの私はちょっとばかり兄とこの少女に勝手に腹を たてた。 「はい、そうですけど」 少しそっけなさそうに返事する私。でも相手の少女は全くそれに気づいていない、 もしくは気づかぬふりをしているようだった。 「・・ユウ君は・・あ、そうかあれね。今日はともし火山にいって いるのだっけ。」 「ええ、そうですけど・・・」 「そう。・・・じゃあ、ユウ君が帰ってくるまで、ちょっと家、 あがらせてもらえないかしら?外が暑くて暑くてもうゆでオクタンに なっちゃいそうで。」 少女が手を合わせて私にお願いする。・・本当は入れたくないのだが、 追い返すとあとでおにいちゃんに何かいわれそうだったし、 確かにこの暑い外の中をまた歩かせるのも酷だと思い、仕方なく少女を向かいいれた。少女は「ごめんなさい」と一言言って家に上がった。 私は、とりあえず彼女にお茶とお菓子をだしてあげた。少女は 「あ、ありがとう」とお礼を言う。 ・・・しかし、その後二人は全く動こうとはしなかった。 私としても何を話せばいいか分からなかったし、きっと彼女のほう も私が放っている微かな敵意を敏感に察知していたのであろう。 ときたまお茶を飲むだけであとは動こうとも喋ろうともしなかった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・あの」 私がおもむろに口をあけた。 「ん?何かしら?」 「お兄ちゃんとはどんな関係なんですか?」 私はかなり冷たい声色で静かに言った。たいていの女はこれですぐ にびびり、私に何も言わなくなるはずなのだが、彼女は違うようで 優しい笑顔を見せながら私をじっと見た。 「・・・・・・知りたい?」 「・・・・一応」 「じゃあ、教えちゃおう。私はねえ・・・・」 バタン! 彼女の声を遮ったのは思いっきり開けられた入り口のドアの音だった。 「カナミ!カナミなのか!?」 ドッタドッタとおもすごい勢いで走り、私たちのいる部屋に来たの は、他でもない。私の一番愛する兄、ユウだった。 彼はだいぶあわてている様子でカナミと呼ばれたあの少女を見ていた。 カナミ・・さんはそんな兄とは対称的にニコニコ笑顔をさらににっ こりさせて、立ち上がった。 「あ、ユウ。おかえりなさい。ごめんなさいね、先にあがっちゃった」 「・・そうか。あ、いや別にいいんだけど・・・・ショウコ・・」 ユウはかなり気まずそうな表情で私を見る。 ああ・・・・あわてているおにいちゃんの顔も素敵ね!私はすぐに お兄ちゃんにとびついた。 「おかえり!お兄ちゃん!」 「あ・・・ああ・・・・あの、ショウコ・・お前、カナミに変な・ ・・・・失礼なこと、しなかったか?」 お兄ちゃんはそういった。・・私がお兄ちゃんに近づく女の子全て にいつも敵意を向けていたため、お兄ちゃんは私が女の子と二人 きりになった後、かならずそう聞いてくるのだ。 「お兄ちゃん、いきなりそれはないでしょう。・・私、別に変な事 しなかったよ。」 ・・まあ、確か少し冷たい声色で話しかけたことは事実だけど、 特に悪いことはしていない。全く、お兄ちゃんは心配性なんだから。 お兄ちゃんは「そうか・・・」と一言言うと私から離れ、 カナミさんのところへと向かった。 「カナミ、ショウコが・・変な事言わなかったか?」 「お兄ちゃん、私のこと信用していないの?」 ・・・まあ、前科があんなにあればそう思うのも当たり前だよねと今 ・・つまり16歳になった今ではちゃんとそう思えるのだが当時は そんなこと微塵も思いもしなかった。 それにしても、お兄ちゃんは私よりもカナミさんのほうが大事なのかしら? カナミさんはただニコニコ笑っているだけだった。 「そんな、何もされなかったよ。私においしいお茶とお菓子をくれたもの。 失礼なこともぜんぜん言っていないよ」 「そうか・・・よかった・・・・」 お兄ちゃんはほっと胸をなでおろす。 「ねえ、お兄ちゃん!この人誰なの!?お兄ちゃんの何!?」 私は自分よりもかまわれているカナミさんにやきもちをやき、 荒々しい口調でおにいちゃんに迫る。 お兄ちゃんは非常に困った表情をみせる。 「いや・・・・・それは・・・・・・・・・・・・・」 「あのね、ユウ君と私はね、恋人同士なんだよ♪」 カナミさんがお兄ちゃんの腕に抱きつく。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええ・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ええええええええええええええええええええええええええ!!?? 私はカナミさんがそっけなく言った言葉に絶句し、その場で固まってしまった。 「・・・・う・・・・実は・・・そうなんだ・・・」 お兄ちゃんが申し訳なさそうに一言小さな声でつぶやいた。 恋人? 恋人? 友達じゃないの? 恋人? 恋人? お兄ちゃんに恋人?私のお兄ちゃんに恋人? ・・・私以上に大切な人が。 できてしまったの? 私はその事実に怒ることもなにもできずにただ、固まるしかなかった。 結局、カナミさんはしばらく私たちの家に泊まることとなった。 今まで「私」と「お兄ちゃん」二人だけの家だったのに。 大体、何よ。何よ。おにいちゃんったら私にも言わずに恋人をつくってしまうなんて。まあ、言ったら言ったで私はどうせ反対するだけだったのだから、 黙っているのも無理は無いけれど。 それにしても、お兄ちゃんは一体この・・・今私の横で静かに 本を読んでいるこの人のどこが気に入ったのかしら。 どっからどうみても、どこにでもいそうな人じゃない。まあ、確かに顔は可愛いし・・・性格も・・・多分、悪くないと思うけれども。でも、 お兄ちゃんが傍におきたいと思うほどの人間なのか、私には分からなかった。 とにもかくにも、私はおにいちゃんとカナミさん、どちらにも腹を立てていた。 大体、2人とも私がいる前でわざわざ仲睦まじげに話しているんですもの、 あきずにずっと! 「カナミ、今度君が読んでいるその本、貸してくれないかな。それ、 前から読みたいと思っていたんだよ」 「ええ、いいわよ。なんなら今貸してあげる。これ、もう何回も読んだし」 そういってカナミさんはおにいちゃんにさっきまで読んでいた本を手渡す。 お兄ちゃんはそれを嬉しそうにうけとって、早速読み始めた。そりゃあもう、 暖かい、こっちが卒倒しちゃうような素敵な笑顔を彼女に見せながら。 ちょっと、ちょっと冗談じゃない!あの笑顔は私のものなのよ!? なんで、どっからふっと沸いてきたどこの馬の骨とも分からない得体の知れない娘 にとられなくてはいけないの!! あのときの私の気持ちはそう・・・息子の交際をがんとして認めない頑固 親父のようなものだった。 「カナミ、今度、ナナシマの5の島に行くんだけど、一緒に行かないか?」 お兄ちゃんは私がいすから離れると、そのいすに座り、カナミさんの横について 話し出した。ちょっと!?何あれえ!?お兄ちゃんってどっちかというと控えめ であんな大胆な(?)行動なんてとったためしがないわよ!?(まあぶちぎれ た時は別として)ああ、何あの目は!!恋人を見る目だ!・・・ってそりゃあ まあカナミさんは事実お兄ちゃんの恋人ではあるけれど・・。あんな目、 私にしたことない!・・・ってそりゃあ私はおにいちゃんの妹であって 恋人ではないから当たり前ではあるけれど・・・。 「え、いいの?・・・だって、私なんかいたら迷惑じゃない?」 「迷惑じゃないから言ってるんだろう。」 そうお兄ちゃんが言うとカナミさんは気持ち照れながら「用事が無かったら、 ぜひ行くことにするわ」と答えた。 「ちょっとちょっとお兄ちゃん!!私はお兄ちゃんと一緒に調査に付き合いた いっても『ショウコには無理だよ』っていって断っているくせに、カナミさん ならいいの!?」 私は我慢できずに2人を振り返って思いっきり怒鳴った。顔は真っ赤に鳴るし、 頭は煮えくり返ってもう自分でもわけがわからなくなっていた。 私が怒ったようにいうと、お兄ちゃんはとても困ったような表情になった。 「いや・・・・だって・・・お前は・・・まだ・・・その・・子供だし・・・・」 「子供っていったって、私とおにいちゃん、3つしか離れていないよ!それに、 私はもう12才!12歳なんてもうとっくにトレーナーとして旅立ってる 年齢なのよ。・・・お兄ちゃんってば、私をいつも子ども扱いするわ。 ・・・ああ、そうね。そうよね。カナミさんは恋人だもの。 デートに誘うのは当たり前よね。そうよね。」 私は、いてもたってもいられなくなって、気持ち大きな足音を立てながら 自分の部屋へと戻っていった。 もう!いつだって、お兄ちゃんは私を子ども扱いして!確かに年齢的に は子供だけど・・・でも、お兄ちゃんだってまだ14。もうすぐ 15歳になるにしても十分子供。・・・なのになんでこんなに、こんなに・・・・。 そうよね。私はどうあってもおにいちゃんの妹だものね。妹を子供扱いして しまうのは、当然のことよね。 そうね。 そうよね。 私はそう心の中で納得しようとしたが、結局納得しきることはできなかった。 今、この家に私の居場所はあるだろうか。 いや、ないかもしれない。 ここは、今はもう。 お兄ちゃんとカナミさんの居場所となっているのだ・・・・。 私は、自分の部屋に戻り、綺麗に並べられたアルバムを引っ張り出して、 ばっと開いた。 もう亡くなったお母さんとお父さんの写真もあった。私はお父さんに 抱きかかえられてニコニコ笑っている。お兄ちゃんは2人にはさまれて、 今と同じ柔らかな笑みを見せている。 両親が亡くなったときは私は7歳、お兄ちゃんは10歳。私たちはそのあと 周りの人に支えられながら2人で生きてきた。まだ幼かったからお兄ちゃんだって あまりいろんなことはできなかったけど、でも私はおにいちゃんに育てられた。 兄のように父のように。 私とお兄ちゃんが両親をなくしてすぐに撮った写真があった。 おせじにもいい表情とはいえなかった。2人とも、酷い顔をしている。 まるで、死人のようだった。お兄ちゃんだって、悲しかったのだ。 それでも、私の面倒を見てくれた。泣き言も言わずに。 そしていつからか、私たちの写真には笑顔が戻っていた。それが、 本当の笑顔だったのかは分からない。もしかしたら、無理やり作っている笑み かもしれなかった。それでも一生懸命笑っていたくて、写真の前でだけこんな 笑顔をみせていたのかもしれない。 でも、どんな笑顔でもおにいちゃんの笑顔はいつだって私に力や希望をくれた。 悲しいときも嬉しいときも、いつだって。 その笑顔は、笑顔だけは私のものにしたかった。 私のものであるのが当たり前だと思っていた。 でも、違ったのね。 もうおにいちゃんは、私のものでもないのね。私だけが抱きしめていては、 いけない人になったのね。 私はそう思うと、こらえていた涙をとめることができなくなっていた。 認めなくちゃ だって、お兄ちゃんの大切なひとだもの。 なんであの人がいいのか分からなくてもいい。それでもいいじゃない。 だって、お兄ちゃんの大切なひとだから。 大丈夫、お兄ちゃんは大切な人が出来ても、きっと私を大切におもってくれている。 たった一人の家族として、妹として。兄妹として。 私は机に顔を突っ伏せながら泣いていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。 夜になった。明かりをつけていなくても十分明るかった部屋はまっくらになっていた。窓の外にはつきが見えた。 私は、ふと目を覚ました。 ああ、私寝ていたのかあ・・・。私は、ぼうっとしながら目をこすった。 机に自分の涙やらなんやらがついていてぬれていた。 私はティッシュでそれをふきとって、ゴミ箱にすてる。 そして私は静かにドアを開け、明かりのついているリビングにそっと入った。 リビングには、明かりがついていたが、2人の姿は無かった。 「お兄ちゃん・・・・・?」 外に出たのか。靴が無い。私も慌てて外にでた。私たちの家は海沿い・・・ がけのようなところの上にぽつんとある。周りには木が生い茂っていて 、はたから見れば別荘かペンションである。 私は、そっとがけの下を除く。浜辺に、点が二つ。 ああ、きっとおにいちゃんとカナミさんだ。 私は、邪魔しないほうがいいかなあ・・・と思い、一度は家に戻ろうとした。 しかし、その足はとまる。 見過ごすことが、できなかった。どうしても気になってしまう。 私の足は、結局浜辺に進むことを選んだのだった。 2人は、テレビやマンガで見る恋人同士のようにお互い浜辺に腰をおろし、 月の輝く海をじっと見ていた。 私は、飛び出したい気持ちをぐっとがまんして、2人の話が聞こえるギ リギリのところにある岩場に座りながらことの様子を見つめていた。 ああ、なんであんなに絵になるんだろう。 「・・・やっぱり、グレンは綺麗なところね。私のいる町はもう盛りも木 もこーんなに綺麗な海もあんなに大きくてすてきな火山もないし。」 「うん。そうだね・・・。」 「もう、それだけえ。」 カナミはユウのそっけない態度に頬を膨らませる。ユウは苦笑いしながら 「ごめんごめん」と謝る。 「いやあ、あまりに景色が綺麗なもんだから・・・ぼけっとしていて」 「もう、本当に何かに夢中になると周りが見えないのね。貴方は。 でも、そんなところも好きよ。」 「いやだなあ・・・好きだなんて、恥ずかしいよ」 ユウは照れる。 「なーに、言ってんの。いまさら照れるなんて。キスまでして、 そんなこといっちゃって」 え。 何?何それ? え、え。 キス? 私はその二文字が信じられなかった。 「それは・・・そうだけど・・・。はは、こんなこと知ったら怒るだろうなあ・ ・ショウコは」 見てるわよ 聞いてるわよ 怒ってるわよ よく分かっているじゃない 「うふふ、そうね。でも、いいじゃない。恋人同士だもの。それくらい。 妹さんだっていつかは認めてくれるわ。 ・・・今は、だいぶ私のことがおきに召さないみたいだけど」 ええ、お気に召さないわ よーく分かっているじゃない。 にしても、キスなんて・・・そんな・・・・ウソでしょ 「・・・ショウコは・・・あの子は僕のことになると、 融通がきかないんだよ。それ以外ではいい子なんだけどね」 ・・悪かったわね。だって、しょうがないじゃない。 「相当、お熱なのね。お兄ちゃんに。でもいいんじゃない?別に。 好きでいてもらうことは嫌われてしまうことよりもいいことですも の」 「そりゃあそうだね・・・・。」 ユウはクスリと笑って、月を見上げた。カナミも同じく月を見上げ ていた。2人が、夜の海の前でつきを見るその光景はとても絵にな るものだった。私もそれは認める。・・・私とお兄ちゃんじゃあ ・・・こうはならないよね。だって私たちは「兄妹」だもの。それ 以上にもそれ以下にもなれないのだもの。 しばらくたってから、ユウが立ち上がる。 「そろそろ・・帰ろうか。・・あんまりゆっくりしていると、 ショウコにばれてしまうから。 ・・こんなところに2人っきりになっていたことを知ったら・・」 ・・・もう、知っているわよ。私は声を張り上げてそういいたくな ったが、どうにかそれをこらえた。今こんなところでとびだしたら それこそ気まずい展開だ。・・しかもさっきはふてていた身でもあ るし。 「そうね。・・・今日は帰りましょうか」 「うん」 「・・・じゃあ、キス、してよ」 ’(TOG(R’E%I&ERI%GLH*OP=P〜=!? 私はその言葉に声にもならない叫びをあげた(本当は声にだしたか ったんだけど・・・) ななな、なによそれ!!!ちょっと、やめて!私の目の前でそんな ・・・・・!!そんな・・・・・!! 「・・・・・君はどうしてそういうことを平気でいえるのかな」 お兄ちゃんはやたら照れていて、しどろもどろしていたが。 「まあ・・・・いいか・・・・・・・」 そういって・・・・・・・・・・・。 たしかに、カナミのその唇に自分の唇をあてていたのだ。 「何よ!!!!!!!!!」 私は気づくと、大きな声を張り上げて、岩場からひょっこりと出て きた。お兄ちゃんとカナミさんは酷く驚いた様子で私を見ていた。 「ショ・・・・ウコ・・・・・?」 「何よ!!そんな・・・・そんな・・・・・そんな!!酷い!こんな にコソコソして!!!何よ・・・何よ!!わた・・・わた・・・!」 私は、何を言えばいいのか分からなかった。ただ怒りと悲しみと・・ やるせなさだけがあとからあとからこみ上げてくるだけだった。 私は、どうがんばっても、どんなに大好きだといっても、兄妹だから、 だから・・・そういうことも、できなくて・・・。 でも、目の前にいる少女は、それをいとも簡単にやってみせたのだ。 くやしい。どうしようもなく、くやしくてむなしいのだ。 何で、こんな・・・・!! 「もう・・・・知らない!!!!」 何が知らないのか。それは言っている私自身にも分からないことだった。 きっと、これから先も分からないんじゃないかってそう思えてくる。 私は何かいいたげな、お兄ちゃんもカナミさんも無視して、その場を走り去った。 家に帰った後、2人はどうにかして私をなだめようとしたが、私は聞く 耳を持たなかった。二人の関係を一時は認めようとしたことすら、忘れていた。 何がなんだか分からない。どうして私は、自分の兄のことがこんなにも 大好きになってしまったのだろう。もし、お兄ちゃんが私のお兄ちゃんじ ゃなかったり、私が好きになった人が兄でもなんでもなければ、 こんな思いをすることもなかっただろうに。 そう思っても、どんなにそう思っても、兄のことを慕う思いは 打ち消せそうにもなかった。 ・・・・・・・思えば、あれがカナミさんと会った最後の日だった。 カナミさんはあのあと、私たちの家には来なかった。 きっと、私の前で会うことをためらったのだろう。 でも、会っていることに変わりはないに違いない。 卑怯だ。卑怯だ。こんなの・・・卑怯じゃない。 でも、そんな怒りやむなしさを彼女に伝えることはとうとう出来なかった。 カナミさんは亡くなってしまったのだ。そう・・・あの日のグレン火山噴火の日。 カナミさんは、たまたまグレン山に登っていたらしい。・・そして登っている時に・・・・火山が噴火したのだ。 生きていられるはずもなかった。 そして、お兄ちゃんもその数日後に旅立って、そしていなくなってしまった。 私は、ただ呆然とするしかなかった。 何で、こんな。 2人とも私の前から本当に姿を消してしまった。 分かり合うことは、できなくなってしまった。・・カナミさんは、 私のことをきっとどうしようもない子だと思い続けたまま亡くなったのだろうか。 私の脳裏に浮かぶカナミさんは、自分が認められない悲しさを帯びた表情だった。 彼女の言葉を聴けばよかった。認めてあげればよかった。 何故、兄の幸せを祈ってやれなかったのだろう。 でも、もう遅い。 いや、まだだ。まだ、お兄ちゃんはどこかにいる。 私は、お兄ちゃんを探し続けて旅をしている。 お兄ちゃんに言ってあげたい。 「2人とも、お似合いだった」 そう。 そして話は現代に戻る・・・。 私は、ピジョットに乗ってミナモ付近を飛んでいた。この前カズヤと ケイという少年から教えてもらった「キキミミ」に会いに行くためだ。 この世の全てを聞き、知る老婆。彼女に会えば、兄の居場所やこの十字架の ペンダントの石のことが分かるかもしれない。 小高い丘の上にぽつんとさびしげに家が建っていた。 あそこね。 私は、ピジョットに降りるように命じた。ピジョットは一回うなずくと ものすごい速さで、着地した。 「ありがとう。ごくろうだったわね」 私はピジョットを戻す。そして。 「・・・・貴方、高橋 翔琥?」 背後から、女の人の声が聞こえたので、私は後ろを振り向いた。 そこにはバスケットを持った女の人がいる。藤色の髪の毛、髪の毛よりも少 し濃い色の瞳。白い長袖のトレーナーの上に紺色のワンピースを着ている。 年は私より少し上。・・おにいちゃんと同じ位だ ろうか。 「・・・・・・え・・・ええ・・・」 私は何故自分の名前を初対面の人間が知っているのか驚いた。 しかし、すぐにキキミミは全てのことを知っていて、そして未来すら予見 する力があることを思い出した。なら、自分がココにくることを予測して いてもおかしくはない。 この少女はキキミミについている少女だろう。 「・・・どうぞ、ついてきてください。・・・キキミミ様がお待ちです」 少女はそっけなく言うとスタスタと歩き始めた。ショウコは慌ててそれについていく。 これで、私は何かを得るだろう。そしてその得たものが私にさらに何かを 与えるだろう。 。 いつか会えるだろう。あの。 大切な人の笑顔に。 きっと。