四天王の砦  第2話 VS茜髪の少女・前編 気が付くとそこは辺り一面草原だった。 ただ、前方だけに大きめの建物。その前に扉が閉ざされた門。 まずクリアは手を動かし、そのあと声を出してみる。 「あ……あ、あ」 手の動きも声の響きも現実とほとんど変わらない。 プロテクタは体の動きを再現するためのもの、 ヘルメットはこの映像――いや、光景と言うべきだろう――を見せるため、そして、自分が発した声を再現するためのものだろう。 「凄いな。」 そして、クリアは門に近づいて行く。 どんどん近づいて行くと、その門の前に一人の少女が立っているのが分かった。きっと、彼女が『門番』なのだろう。 クリアは彼女に見覚えがある。 「門番は貴方ですか……アカネさん。」 「そうや……クリア、久しぶりやな……」 彼女の口調は実際のアカネと同じ、しかも、彼女もクリアに見覚えがあるようだ。 「久しぶり……この世界でも『記憶』が有るんですね。」 ――ポケモンパーク―― 「シミュレーション内のキャラクターにも記憶があるんですか?」 その頃、アトラクションの『外』に居るパープルがポケモンパークの社員に聞いていた。 「はい、しかし、記憶自体を再現するのは難しい事ではありません。」 「どういうことですか?」 「記憶はその人の覚えている事を機械的に……文章を記録するように、コンピュータに記憶させれば良い訳です。 難しかったのは感情や性格を伴った記憶です。」 「同じ出来事でも、人によって受け取り方や考え方は変わるってことですね?」 パープルが確かめるように聞く。 「そうです。そして、この四天王の砦は四天王や門番であるジムリーダーの特徴・性格・感情・記憶等をほぼ再現しています。 例えば、言葉遣いで言えば、マチスさんなら英語混じりですし、アカネさんでしたらジョウト訛りです。 ちなみに、記憶の方は四天王やジムリーダーが自由に追加させる事が出来ます。」 ――四天王の砦・門―― 「門番は一応説明せなあかんからな。一応しとくで。パーティは6匹おるけど、バトルに使うのは3匹や。 先に、相手のポケモンを3匹倒したら勝ちや……アンタなら今の説明で分かったな?」 「もちろん、ポケモンパークで聞いた説明より分かりやすいです。」 ポケモンパーク社員が聞いたら落ち込むかも(何 2人は準備を整え、早速バトルに移った。 「ほな、行くで、まずはキリンリキ」 「行け、キュウコン。『大文字』だ」 「キリンリキ、『ど忘れ』や。」 大の字の炎がキリンリキに向かっていく。 かなり巨大な炎で、避ける事は出来なかった。だが、キリンリキにはあまり効いていない様子。 「危ないとこやった。ど忘れを使わんかったら、致命傷になってたかもしれへんな。 さて、こっからは攻めるで……キリンリキ、『サイコキネシス』」 「キュウコン、『穴を掘る』んだ。」 キリンリキのサイコキネシスは、直撃はしなかった。 キュウコンは少しダメージを受けたものの穴を掘ってそのままキリンリキを攻撃した。 アカネは穴を掘る攻撃を受けてよろけているキリンリキに指示した。 「キリンリキ、『噛み砕く』んや。」 穴を掘った直後の隙を突いたのだ。 結果、キュウコンは倒れてしまった。 「少し、こっちが有利ってとこやな。ま、油断は禁物や。次のポケモンは誰や?」 「行け、サンダース」 「特殊主体の電気タイプやとキリンリキの壁は崩せへんで……キリンリキ、『サイコキネシス』。」 「分かってますよ……サンダース、『恩返し』だ。」 サンダースが素早い動きで恩返しを放った。 「ど忘れが効いてるから、10万ボルトは効果が薄い。だったら、打撃技の恩返しだ。」 アカネは楽しそうに笑みを浮かべながら言った。 「こっからが本番やで……行くで、ピクシー」 なんか、どこかで似たようなセリフを聞いたような気もする(何) 「ピクシー『指を振る』んや」 「サンダース、『10万ボルト』」 サンダースは高電圧の電気をピクシーに放つ。その電撃は直撃。 だが、そう簡単には倒れず、ピクシーは指を振り始めた。 そして、振り終えると、ピクシーは泥を放った。 「ラッキーやわ。電気タイプのサンダースに対して、地面タイプ、しかも、命中率を下げる『泥掛け』が出るなんて。」 余裕の表情で言うアカネ。 だが、クリアはフッと笑って言い返す。 「指を振るを使うだけならアカネさんより強い……と言うか、運が良い人を知ってますよ。 その人だったら泥掛けなんか出たら運が悪いと言いますね。」 「なんやって?ピクシー、もう一度『指を振る』んや」 「サンダース、『10万ボルト』」 今までで最大規模の10万ボルトがピクシーにぶつかった。 その攻撃でピクシーはダウンした。 「これで、残り2対1……形勢逆転ですね。」 クリアは言った。 だが、内心はそう思っていなかった。 彼はアカネの切り札が強敵だという事を知っていたから。