四天王の砦  第5話 再戦 炎の貴公子・前編 ――ポケモンパーク―― クリアがエイジ戦に負けた直後、ポケモンパークの社員が驚きの声を上げた。 何に驚いたのか……それは 「大変です。クリアさん、コンテニューしないで最初からやり直してるみたいです。」 「え?」 一同が驚く。 マサキがパークの社員に尋ねた。 「あんた、ちゃんと説明したんか?」 「もちろんですよ。コンテニューは1回まで使えると言いました。」 社員は汗を拭きながら答える。 「あ、そうか……そう言う事か……」パープルは何かに気付いたようだった。 ――四天王の砦―― クリアには計算があった。 この先の敵は未知。 コンテニューを使えるのは1回。それを最初の四天王で使ってしまう様では、7人目のトレーナーに勝つ事はおろか、チャンピオンに辿り着けるかも危うい。 だから、序盤で負けた時はコンテニューを使わないことにした。 そして、数分後、クリアは門番ヤナギを簡単に倒し(爆)再び、エイジの元へとやって来たのだった。 「さて、初めからやり直したようだね。コンテニューは使いたくなかったんだね?」 エイジもクリアの『狙い』を分かっていた。クリアは素直に頷く。 「はい。では、行きます。ブラッキー」 「今度は相性で攻めないみたいだね。ブーバー、火炎放射。」 「ブラッキー、『どくどく』だ。」 ブーバーの火炎放射……ブラッキーはどくどくを放った後、左右にかわそうとする。 だが、ギリギリの所で避けられなかった。 ブラッキーを見ると、今度も、何とか3回耐えそうな様子。 しかし、例の『威力の上がる火炎放射』がある。油断は出来ない。 一方、ブラッキーの放ったどくどくはブーバーに命中した模様。 次の攻撃のチャンス。火炎放射と騙し討ちの勝負だった。 結果は双方命中。 必中の騙し討ちはともかく、相手の精度はかなりのものである。 そして、次の攻防に移った。クリアは気を引き締めた。 「ブーバー、火炎……放射。」 「ブラッキー、『見切り』だ。」 ブラッキーは素早く動き、炎をかわした。そして、その炎は壁を焦がした。 クリアはその焦げ痕をじっと見た。そして、エイジに言う。 「見切りました。威力の上がる『火炎放射』の正体……」 「へえ、君がそう言うなら、きっと正解だろうけど……どう考えたんだい?」 楽しそうに言うエイジ。 対してクリアは真面目な顔で言った。 「最後の一撃……あれは、『大文字』ですね?」 「確かに大文字の威力は火炎放射の上を行く。だけど、僕の指示は火炎放射だし、火炎放射と大文字は見た目で区別がつくよ?」 「そうですね。しかし、あの『火炎放射』の痕を見ました。あれは大の字の尖った部分を削った大文字です。」 クリアは焦げ痕を見てその事に気付いたのだった。なおも続ける。 「そして、その『大文字』の時、貴方は『火炎……放射』と言う。その微妙な沈黙が大文字の合図だったんです。」 束の間の静寂。エイジがそれを破る。 「……噂通りの観察眼だね。」 「いえ、以前同じような事をやったトレーナーと2人も出会いましたから…… まあ、流石に最初にカモフラージュする技を撃って油断させた訳では有りませんが……」 「なるほどね……でも、それだと少しおかしいね。 君ほどの洞察力があれば、似たようなことを以前に見たのなら、ジュゴンが倒れた時点で気付いても良かったはずだね。」 クリアは、否定はしなかった。 「そうかもしれませんね。」 「君は少し先を急いでいた。しかし、さっき僕に負けて冷静になったみたいだね。 ……じゃあ、僕もこの戦法は使わない。使っても意味が無さそうだし、僕も本当は使いたくないんだ。行くよ。」 中断していた試合が再開された。 クリアは再び気を引き締めた。