四天王の砦  第9話 VS予知の少年・前編 ――四天王の砦・第三の部屋―― 「久しぶりだね。クリア君。」 前の二人とは違う、聞き覚えの有る声。 そう、彼には会ったことが有る。 ただ、以前と違っている点が二つ。 一つは彼が後ろを向いている事。 つまり、彼はクリアの姿を見ずに(もちろんクリアは声を発していない)クリアが来たのが分かったのだ。 その彼が振り向く。 顔に赤紫の仮面をしている彼。彼は、そう、イツキである。 以前と違っているもう一つの事は彼の『部屋』が最初から三番目に移った事。 「君がセキエイで四天王を3人抜きしてから、半年……時は短いな……」 イツキがわざわざ『セキエイで』と付けたのは、ここと区別する為だろう。 そのまま彼は話し始める。 「あれからの君の活躍は知っているよ。」 活躍といってもさほどしている訳ではない。 大きな活躍は2ヶ月前の事件だけである。というより大きな事件そのものが起こっていないが…… つまり、イツキは2ヶ月前の事件のことを言っているのだ。 「君の仕事の最低条件はトレーナーバッジ6個所有だったね。でも、君は四天王戦まで進んだ。その成果が現れたわけだ。」 そこで、イツキは話を変える。 「ところで、この半年間、四天王のメンバーは入れ替わった。 ワタルさん、シバさんは抜けて、カリンさんがチャンピオンの位置に、そして、エイジとツツジが四天王入り。あの2人はどうだった?」 「なかなか、強かったです。特にエイジさんにはやられましたよ……」 「……エイジの様に相手を惑わすタイプは君が得意とするタイプだと思うけどね。 むしろ、相手を分析してからは真っ向勝負のツツジの方が君の苦手なタイプのはず。」 「まあ、負けた時は急いで焦っていましたので……今も急いでることには変わり無いですけど。とにかく、強かったです。」 クリアの言葉を聞き、頷いた後、イツキはポケモンを繰り出した。 「そうだな。彼らは強い。僕も負けてはいられない。早速、勝負だ。行け、ナッシー」 「行け、ジュゴン」 水は草に弱いが、氷は草に強い。 相性としては互角。 だが、イツキは戦ったことが有る為、エイジやツツジよりやりやすい感じがした。 「ジュゴン、『凍える風』」 「ナッシー、『ギガドレイン』」 ポケモンの中では遅い方のジュゴン。しかし、今回はナッシーよりも速かった。 (ナッシーよりは)速い動きからの『凍える風』 強力な冷気はナッシーの体の急所を捉えた。 ギガドレインで回復したもののもう体力は少ない。 「なるほど、急所か……これだと、これ以上耐えるのは無理だね。悪いね、ナッシー『大爆発』」 「ジュゴン『凍える風』で一気に決めるんだ。」 一気に勝負を決めようとするクリア。対して、賭けに出るイツキ。 ジュゴンが攻撃の体勢に移ろうとした瞬間、ナッシーのスピードが上がり、急に大爆発。 辺りが煙に包まれた。 「先制の爪が発動したみたいだね……これなら、もう少し粘れたかもしれないけど……良く頑張った。」 残念そうに言う、イツキ。 そして、イツキはナッシーをボールに戻すと突然言い出した。 「僕はあの時よりも強くなった。そして、僕はある力を身につけたんだ。それが『予知能力』。」 「予知能力って……ナツメさんとかが使えるあれですか?」 クリアが少し驚いた様子で言う。イツキは言葉を返す。 「まあ、僕の場合、彼女のような凄いものではないんだ。 ただ、次に会う生物……人やポケモンが誰だかが分かるんだ。 だから、急所攻撃や先制の爪の効果がいつ現れるかまでは分からない。」 「さっき、俺の姿を見ないで、俺が来たのが分かったのもその力ですか?」 「そう言う事になるね。」 しかし、本物のイツキならともかく、コンピュータのイツキが予知能力を使えるのはどういう理屈だろう?と思いながらも、考えても仕方が無さそうなので諦めた。 「じゃあ、僕は君が次に出すポケモンに不利なこのポケモンを出すよ。」 そう言って、モンスターボールを前に掲げ、静止するイツキ。 彼は、自分の力が本物だという事を見せようとしているのだろう。 「(でも、何で不利なポケモンなんだ。)行け、ハガネール。」 クリアは疑問に思いながらも次のポケモンを出す。 「行け、ネイティオ。」 ネイティオ対ハガネール。 確かに、こっちの最大の武器、地震こそ効かないものの、岩雪崩や大爆発で有利に進める事が出来る。 一方、サイコキネシス、ドリル嘴などはハガネールには効果が薄い。 イツキの言葉通りになった。 そこで、クリアがあることに気付く。 「分かりました……イツキさん。不利なポケモンを出したのではなく、有利なポケモンが居なかったんじゃないですか? 貴方は、俺がハガネールを出すことを知った。しかし、有利なポケモンが居なかった。」 イツキは複合エスパー使いである。 エスパーは鋼に効果が薄いからもう一つのタイプが重要になってくる。 「つまり、ヤドランやヤドキングが居ないと言う事では?」 「クリア君……」 少し、考えるイツキ。 何を考えているのだろう?とクリアは思う。しかし、それに構わず指示を出すことにした。 「行きます……ハガネール『岩雪崩』。」 大きな岩がネイティオに向かっていく。 イツキはモンスターボールを持った手をスッと出し、言った。 「あまり考えすぎるのも良くないよ。ちゃんと、ハガネールに有利なポケモンも居るんだ。行け、ヤドラン」 ヤドランは交代の隙により、岩雪崩に当たってしまったが、そこは持ち前の防御力と体力でカバーした。 その時、クリアはイツキの以前との違いを感じ始めた。 そして、前と同じように勝てるのか不安になった。