四天王の砦  第10話 VS予知の少年・後編 ――四天王の砦・第三の部屋―― 今、この場に居るポケモンはハガネールとヤドラン。 明らかにこちらが不利だった。 本来は、ワタッコやサンダースに代えたいが、イツキは敵のポケモンの交代を読む事が出来る。 その上、ヤドランは技マシンを使うことやコガネにいるおじさんに技を教えてもらう事によって技のレパートリーが格段に上がる。 例えば、地震。例えば、冷凍ビーム。 それらを受けてしまえば、サンダースやワタッコにとって致命的になる。 しかし、今のまま戦ったら間違い無く勝ち目が無い。 そんな間にもイツキは指示を出したようだ。 「仕方ない……戻れ、ハガネール、行け、ワタッコ」 「『サイコキネシス』。」 その技は、声と同時に……というより、むしろ声よりも早く発せられた。 空間を歪めながらワタッコにダメージを与える。強力な攻撃。 「君の心配とは違って、冷凍ビームは覚えていないんだ。」 イツキは言った。 しかし、クリアは微妙な違和感を感じた。 冷凍ビームが無くても、交代を読んでいたならネイティオに代えれば良い。 そこで、クリアの中である考えが浮かんだ。 「戻れ、ヤドラン、行け、ネイティオ。」 「ワタッコ、『眠り粉』だ」 空中にまかれる小さな粉。それは例のごとくネイティオの眠気を誘う。 そして、ネイティオが眠ったのを確認するとクリアは言った。 「なるほど……俺は勘違いをしていました……」 「何を勘違いしていたんだい?」 「貴方の力では『どのポケモンを出すか?』は分かっても『いつ交代するか?』までは分からないんですね?」 「そうだよ。まあ、隠しているつもりは無かったというか、君の勘違いなんだけど…… 間違いには、いつ気付いた?」 「俺がワタッコに交代した時、貴方はサイコキネシスを使いました。 でも、交代のタイミングが分かっていたなら、その時にネイティオに代えれば良かったんです。」 「よく、間違った先入観から逃れる事が出来たね。」 イツキの声は感心している。 予知の能力を見破ったクリア。 だが、ここからが問題だ。 ネイティオに対して、ワタッコでは分が悪い。ハガネールに代えたいところである。 だが、イツキはクリアが『いつか』ハガネールに交代させる事を読んでいるだろう。 「(だったら……逆に)ワタッコ……」 モンスターボールを持ちながら言うクリア、それを見て交代を確信したのかイツキは…… 「戻れ、ネイティオ。行け、ヤドラン。」 しかし、クリアは交代させずにそのまま攻撃した。 「『ギガドレイン』」 逆を突かれて、驚いているイツキ。しかし、すぐに指示を出す。 「ヤドラン、『サイコキネシス』だ。」 「ワタッコ『ギガドレイン』だ。」 双方の攻撃。当たればどちらにもチャンスがあるだろう。 だが、ワタッコは素早い動きでヤドランが攻撃に出る前に相手の体力を奪った。 そして、ヤドランはダウンしてしまった。 イツキがヤドランを戻し、ネイティオに交代する隙に、クリアもハガネールに入れ替えた。 そして、次の指示に移るが…… 「……!……ネイティオ『怪しい光』だ。」 一瞬、かなり驚いた様子を見せたイツキだったが、ネイティオが起きる事を願って、すぐに指示を出す。 「ハガネール、『岩雪崩』だ。」 もうイツキはポケモンを代えられない。 今度こそ、大きな岩が命中した。 その攻撃でネイティオの体力が尽きたようだ。 試合が終わって、イツキがクリアに近づいてきた。 「実はね……君が最後にハガネールを出した時に分かってしまったんだ…… 僕はそれを信じたくは無かった……だから最後まで戦ったんだけどね…… 次に会う生き物はキュウコンだった。ワタッコではなかった。つまり、それは僕の……」 「その能力も良い事ばかりではないんですね。」 イツキの言葉を遮るクリア。イツキは気を取りなおし言った。 「君の手持ちを見せてくれないか?」 その願いに対し、クリアは快く、キュウコン、サンダース、ブラッキーを見せた。 「サンダースが居たのかい?だったら、もっと早く勝負がついたと思うけど……」 一通り見るとイツキは言った。 「ハガネールで大爆発してヤドランかネイティオと相打ち。そして、サンダースで残りの1匹を倒せばもっと速く勝負を決められなかったかい?」 「それは俺も考えました。でも、それだと予知の力に勝ったわけじゃない。 試合には勝ったのに、勝負には負けたような感覚を味わうことになります。 俺はその感覚を『もう2度と』味わいたくない。 だから、賭けになるけど予知の力と勝負できるこの方法にしたんです。」 「君は大したトレーナーだ。健闘を祈るよ。」 イツキは礼をしてクリアを見送った。 そして、クリアは四天王第四の間へと進んでいった。