四天王の砦  第13話 VS悪使いの女帝・前編 ――四天王の砦・チャンピオンの部屋―― その部屋に入る前にクリアは今、自分が置かれている状況をもう一度見つめなおした。 ここ『四天王の砦』は『ヤマブキポケモンパーク』のアトラクション。 コンピュータが誤作動を起こし、プレーヤーはゲームから抜けられない。 チャンピオンを倒しても、7人目のトレーナーが立ちはだかっている。 そして、原因を突き止めるために、今、自分はここにいる。 目標はチャンピオンに勝つことではない。 だが、このチャンピオン戦ではコンテニューを使うこともやむを得ない。 何故なら…… そこまで考えてクリアは扉を開けた。 その部屋は今までの部屋とは違い、照明が十分な明るさではなかった。 目が慣れるのに少し時間がかかった。 時が流れるとともに目が暗さに順応し、次第にその部屋にいる人物が見えてきた。 クリアは戦慄を覚えた。 彼が今まで戦った中では唯一、勝った事の無いトレーナー。 もちろん、負けた事のあるトレーナーはもっと多い。 だが、1勝9敗だろうと1勝99敗だろうと、クリアはほとんどのトレーナーに勝ってきている。 彼女だけに0勝なのだ。 その彼女が実体ではないとは言え、今、クリアの目の前に居るのだ。 「久しぶりです。」 声をかけるクリア。そのトレーナー・カリンは答える。 「ええ、久しぶりね。貴方と初めて戦った時の事は良く覚えているわ……」 静かに語り出すカリン。 その口調はこれまでこの砦の中で戦ったどの相手よりも堂々としていた。 「貴方、人一倍、優しかった。自分のポケモンを信じていた。 あのまま、ポケモンリーグへの挑戦を続けて居れば多分、私に……いえ、ワタルにだって勝つことが出来た。でも……」 「俺はそれをしなかった。なぜなら俺は……」 クリアは言葉を区切る。 そして、言い直す。 「チャンピオンになる事は俺の夢でも目標でもなかったから。」 カリンは軽く頷くと、突然言い出した。 「強いポケモン、弱いポケモン。そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら……」 「自分の好きなポケモンで勝てるよう努力するべき……でしたね?」 クリアは続きを言った。 「ええ、そして、貴方はそれを十分、分かっていた。」 カリンは頷く。 「それでも、俺は貴方のことを凄いと思いましたよ。一般には強く育てるのが難しいと言われているヤミカラスをうまく育てていました。 そして、貴方のようなトレーナーを超えて、貴方のようなトレーナーになりたいと思いました。」 「それは光栄ね。」 フフッと笑い、カリンはクリアを見据える。 「貴方と戦ってから俺はそんなトレーナーに一人だけ会いました。逆にいえば一人しか会っていないとも言えますけどね。」 「そう、それで、その人には勝てたの?」 「……難しいですね。強いて言うなら、『勝ったけど負けた』……そんな感覚です。多分、超えていないことは間違いないと思います。」 「じゃあ、まずはここで私を超えるのね。」 「そうします。……では……行きます。……ハガネール。」 「頑張って、ブラッキー。」 黒い毛並みのブラッキーと、鋼鉄の体のハガネールが戦場に姿を現した。 「ハガネール、地震」 「ブラッキー、威張る」 ハガネールは地震の攻撃態勢に移る。 しかし、技を出す前にブラッキーの威嚇を聞いてしまう。 わけもわからず自分を攻撃してしまう。 「戻れ、ハガネール、そして、行けブラッキー」 クリアは混乱の効果を打ち消すためにポケモンを交代しようとする。 だが、ハガネールはその直前に、ブラッキーの攻撃を受けてしまう。 「追い討ちよ」 カリンは言う。 「セキエイで戦ったときも言ったはずだけど、ポケモン交換もこの技の前ではダメージを増やすことになるの。」 だが、クリアは言い返した。 「セキエイで戦った時、俺はその追い討ちを恐れた。そして、混乱の自滅ダメージでポケモンをダウンさせてしまった。あれは大きな間違いでした。 混乱状態が長く続いて戦えないよりもダメージを受けても戦える方が良いに決まっている。」 「少し、成長したようね。理論で考えてもこの技は破れない。ポケモンの気持ちを考えることが大切。 でも、こうしたらどうする……ブラッキー、黒い眼差し」 「ブラッキー、どくどく」 カリンは黒い眼差しを指示した。 これは相手を逃げられなくする技。 効果はどちらかが倒れるか、カリンがブラッキーを交代させるまで続く。 威張るで混乱しても、引くことはできない。 クリアはカリンのブラッキーに毒を仕掛ける。 相当とも長引くと危険である。 「ブラッキー、威張る」 ――ポケモンパーク―― 一方、外では進展しているのだろうか? 「駄目や、お手上げやわ……ところでクリアはどうしたん?」 マサキが文字通り手を上げた。ポケモンパーク社員が答える。 「チャンピオンまでノーコンテニューで進んでいます。」 「おお、凄いな。じゃあ、とりあえずクリアの結果次第やな」 「そうですね。」 どうでも良いけど、ポケモンパーク社員が喋ったのは久しぶりです(何 ところでパープルは…… 「……(……何かを見落としてるような気がする)」 彼女は何かに気付いたようだ。 だが、結論はまだ出ない。 彼女が結論に達するのはもう少し先のことである。 だから、砦に話を戻すことしよう(何 ――四天王の砦・チャンピオンの部屋―― ブラッキー対ブラッキーの攻防が続いていた。 双方とも体力はもう少ない。 「ブラッキー騙し討ち」 先にカリンが攻撃を指示する。 自分の姿を消し、次の瞬間、背後から攻撃を与えた。 クリアのブラッキーは何とか耐えぬいた。 だが、混乱の追加効果を受けるかどうかが問題だった。 「(今度、自滅したらダウンするな……)ブラッキー、騙し討ち」 ブラッキーは攻撃態勢に移る。 次の瞬間、ブラッキーが姿を消す。 「よし、混乱が解けたみたいだ。」 その攻撃でカリンのブラッキーはダウンした。 「良く、頑張ったわ。戻ってブラッキー……そして、頑張ってゲンガー『雷パンチ』」 ゲンガーはその太った体に似合わず素早い動きで先制攻撃。 電気を帯びたパンチを受けブラッキーは倒れてしまった。 試合は2対2……今は五分。 お互いにまだ緊張を解くわけにはいかなかった。