四天王の砦  第16話 無色との再会 ――ポケモンパーク―― クリアが七人目のトレーナーと対峙した頃、パープルも一つの結論を出していた。 「あの、このプログラムはいつ完成したんですか?」 パープルはその結論を確かめるためにシルフの社員に質問していた。 「プログラム自体は3ヶ月前には完成していました。」 「それからはこのプログラムはどうしていました?」 「データはセキエイのコンピュータに保管していました。」 「確か、その間にセキエイで変更されてもシルフのコンピュータでチェックしていたんですね?」 「はい。」 パープルはその返答を得て、頷く。その行動が何なのか、その場にいた他の人は分からなかった。 「では質問を変えます。この3ヶ月の間で、セキエイとシルフのコンピュータが繋がって居ない時期は有りませんでしたか?」 「あ……有りました。あの2ヶ月前の事件の時です。」 シルフ社員が忘れていたことを思い出したかのような声をあげる。 「セキエイで壊滅的な被害が起こるのを想定し、シルフの本社に被害が及ばないように、あの時は回線を切り離していました。」 「その時にプログラムが変更されたとしたらチェックは?」 「していません。まさか、あの組織がゲームのプログラムに手を出すとは思わなかったので……」 パープルは再び頷いた。その頷きの意味はその場のほとんどの人間が分かった。 彼女は、皆が気づいている結論を確認の意味をこめて言った。 「結論は、この事件の首謀者がグレネード団だということです。」 ――砦―― 「スケルさん……」 その名を口にすると、今まで何かに隠されていた感情が湧いてきた。 それは、また彼女に会えた喜びが大半。驚きが少し。 だが、それと同時に悲しみのようなものも込み上げてきた。 スケルを尊敬しているクリアにとってこの誤作動の原因が彼女ということが信じられないのだ。 しかし、いろいろな感情を抑え、クリアは冷静を装い、彼女に聞いてみた。 「何で貴方が『ここ』に居るんですか?」 そう、『彼女がやっているように見えること』と『彼女が実際にやっていること』とは大きく異なる時がある。 クリアはそれを知っていた。 そして、クリアがした最初の質問は、最も無難な質問だった。 「そうですね。驚きましたか?」 その質問に対して、スケルは微笑み、淡々と答えた。 「では、順を追って話しましょう。」 「私がグレネード団を結成した経緯は分かっていますね?」 「はい」 それはもちろんわかっている。 スケルは病気の身で、今まで一度も興奮するようなバトルをしたことがなかった。 悪性の病気で自分の命が残り少ないと知ったとき、彼女はグレネード団を結成し、彼女に勝てるような強いトレーナーを探そうとした。 スケルは続ける。 「貴方と戦うことで、私の願いは叶いました。しかし、残された人達の願いは叶えられていなかった。」 「どういうことですか?」 「例えばルリ……彼女がグレネード団に入った理由を覚えていますか?」 再び質問の形。クリアは即時に答える。 「『貴方に勝つため』……でしたよね?」 「そう……『私に勝つ』ことでした。しかし、私が倒れた事によってその願いは永遠に叶わなくなってしまった。 仮にあの時点でルリが私に勝っていたとしても……グレネード団の団長と戦ってみたい、勝ってみたいと思うトレーナーは他にも居るかもしれません。 そんな人達の願いを叶える為に、私は四天王の砦のプログラムを利用する事を思いついたのです。」 一気に話したスケルはここで一息入れる。クリアも一息入れる。 そして、少しの間をおき再び話し始めた。 「私の側近にはコンピュータの技術を持った人間が二人いました。その二人に頼んでセキエイにあるこのプログラムを改造してもらったのです。」 クリアは大体の経緯がわかった。 彼女の考えのほとんどが理解できた。 だが、一つ彼女の話の中で矛盾していることがあった。 多くの人に利用してもらいたいのなら何故プレーヤーを閉じ込めたりしたのか? クリアは意を決し、スケルに聞いてみることにした。 「だったら、なんでこんな事をしたんですか?……それが目的ならプレーヤーをコンピュータから抜けさせても良かったじゃないですか?」 声に少し感情がこもる。 途中でそれに気づき、沈黙を挟んで落ち着かせてから再度尋ねた。 だが、スケルの返した答えはクリアの予想外の答えだった。 「……?どういうことです?」 スケルはクリアの言っている『こんな事』というのが分かっていないようだった。 まるで、初めてその事実を聞いたような口調だった。 クリアは今自分がここに居る経緯を簡単に説明する。 「そんな、私は実際の16人のジムリーダーではない17人目の門番としてここに居るはずなのですけど」 クリアの説明を聞き終え、スケルが驚いた。 クリアは彼女が言ったことを確かめようとする。 「どういうことですか?」 「……何ということを……」 スケルはクリアの問いには答えず、独り言を呟いた。 だが、急にクリアを見つめ、言った。 「いいですか?良く聞いて下さい。シルフのプログラムを使用して私のプログラムを作ったのはシロガネとクロガネ。 まあ、主にシロガネが担当してクロガネがそれを補佐するという役割でした。」 クリアはしっかりと記憶するため集中する。 「しかし、シロガネは私の意に逆らってこんな事はしない男です。恐らく、その誤作動となるプログラムを作ったのはクロガネ。」 「じゃあ、そのクロガネに問い詰めれば良いんですね?」 「いえ、クロガネは貴方の言う事は聞かないでしょうし、居場所もわかりません。 しかも、恐らく『クロガネ』という名はシロガネを真似た偽名。 シロガネなら居場所もわかりますし、自分の作ったプログラムとの違いから原因を除去してくれるでしょう。」 「わかりました。」 クリアは頷いた。 スケルはシロガネの居場所をクリアに告げた。 改めて、スケルがクリアの方に向き直り、言った。 「さて、ここを抜けるには私に勝たなければいけないかもしれない……という事でしたね?」 「そうです。」 「戦いますか?」 「そうですね……では、行け、サンダース」 クリアは先鋒としてサンダースをその場に出した。 しかし、スケルはポケモンを出さずに言う。 「クリア……私の負けです。」 「今なんて……」 予想できないスケルの言葉に驚くクリア。スケルはそんなクリアの心情を察し、言う。 「クリア……私は戦うからには本気で戦いたい。もし、貴方と私が本気で戦えばとても長い戦いになるでしょう。貴方が負ける危険性だってあります。」 「それは……そうですね。」 確かに、そう。クリアとスケルの実力を考えれば当然である。 「そして、今も私に勝てないプレーヤーがここに閉じ込められて居る。 ……クリア……私はそんな事を望んで居ないのです。貴方は早く戻って、閉じ込められているプレーヤーを助けて下さい。」 スケルはそういって微笑む。 何度となく見てきた微笑。クリアは一礼する。 クリアは彼女が『守っていた』門に近づいて行く。……ゆっくりと 扉に手をかける。 ……開いた。 「クリア」 次の瞬間、スケルが呟いた。クリアは振り向く。 「もう一度私と戦ってくれますか?」 「もし、スケルさんが俺との戦いを望むなら……スケルさんは望んでいますか?」 「私は望んでいます。」 「俺も望んでいます。」 クリアは微笑んだ。 それは、クリアが今日スケルに会ってから初めて見せる微笑みだった。