四天王の砦  第19話 VS無色の天使・中編 お互いが放った『どくどく』と『ハイドロポンプ』。 それをお互いが避け、結局、時間だけが経過した事になっていた。 「俺はスケルさんに伝えたい事が有ります。」 最初の攻防の後、クリアは不意に口にした。スケルは質問の形でクリアに聞いた。 「きっと、それは今の私にとって意味の無い事ですね?」 クリアは考える。 確かにそう。今の彼女にこの事実を告げても彼女の得にも損にもならない。 だが、スケルはクリアの思考を遮り、言った。 「しかし、貴方がそれを私に伝えて、貴方にプラスになるなら聞きましょう。」 「プラスにはならないかもしれません。でも、ここで話さないとマイナスになるかもしれません。」 「そうですか……では、聞きましょう。」 「一つ。三幹部とクレナイさんの処遇です。」 「それは、是非聞きたいですね。」 スケルは頷いた。 「三幹部とクレナイさんは一般の団員と違い、あまり人を傷つけた訳ではありません。 よって、処遇は彼等の目的などで決められました。」 少し早い口調で話すクリア。 「『不屈のルリ』は貴方に勝つという純粋な目的の為にグレネード団に居た。 コガネを襲撃したりもしましたが、あれはジムリーダーに本気を出させる為の口実だった様です。 それを考えるとルリは罪にはならないでしょう。」 パープルはスケルの表情を窺っていた。 彼女はクリアの話に真剣に聞き入っていた。 「『強運のコウジ』ですが、彼もバトル自身に興味が有ったわけで、しかも、彼は町自体を襲ったりはして居ない。 彼もほとんど罪が無いものと判断されるでしょう。」 三幹部のうち二人についてあまり間隔をいれずに話すクリア。 パープルも軽く頷いている。意見が一致しているのだろう。 だが、最後の一人について話すときに少し間を取った。 「しかし、『疾風のウグイス』は全地域制覇という悪意を思っていた。 そのつもりでタマムシやクチバを襲っていました。 恐らく、2年位は罪を償ってもらうでしょう。」 三幹部の話を聞き終えてスケルは質問した。 ウグイスの事はある程度予想がついていたのか動揺はしていないようだ。 「そうですか……クレナイはどうですか?」 「『作戦のクレナイ』……ですか。 クレナイさんは一般団員を指揮する立場でしたから4年くらいが妥当だと思っていました。 しかし、彼は自分がもっと考えていれば、貴方にあんな行動を取らせずに済んだかもしれない。 それに他の幹部を止める事が出来たかもしれない。と悔やんでいます。 そう言って、クレナイさんは自分から6年間、罪を償う事を申し入れました。」 「そうですか……」 少し考え込むスケル。 6年間……それは非常に長い期間だ。それは彼女自身が一番良く分かっている。 そう、それは彼女の日常が奪われていた時間とほぼ同じ期間だった。 少し重い話になってしまったのを気遣ってか、クリアは話題を変えた。 「そして、もう一つ……これは、良い話です。トキワで貴方が助けた少女が、貴方の意志を語っていますよ。」 明るく話すクリア。だが、スケルはその中の一つの単語に疑問をぶつけた。 「助けた?……それは違います。グレネード団が無ければあの子は危険な目にあうことも無かった。」 「そうかもしれませんね。でも、貴方が助けた事はまぎれも無い事実です。 それはあの少女もわかっていますよ。」 「まあ、そんな訳でトキワを中心に貴方の人気は高いんです。パープル」 「え?」 急に名前を呼ばれ驚くパープル。 「世論だったら確実にスケルさんに人気が集まることを計算してただろ?」 「まあね」 片目を瞑って答えるパープル。 「そうですか……有難うございます。」 軽く頭を下げるスケル。 「さて、俺から話をそらしてしまいましたね……バトルを再開しましょう。」 「そうですね。」 そう言って二人はポケモンに、さっきは共に失敗した指示を出す。 「シャワーズ……『ハイドロポンプ』」 「ブラッキー、『どくどく』」 シャワーズは高水圧の水大砲を、ブラッキーは猛毒を放った。 先程と違い、互いにヒットする。 しかし、ブラッキーはそれほどダメージを受けてはいなかった。 「なるほど……シャワーズの特殊攻撃力は水タイプの中でトップクラス。 しかし、ブラッキーの特殊防御力はその攻撃をも防ぎきる様ですね。 では、これではどうですか?シャワーズ『雨乞い』」 「ブラッキー『怪しい光』だ」 ブラッキーの怪しい光で混乱しながらも、シャワーズは雨を呼び寄せた。 その雨を見てスケルがクリア達に聞いた。 「クリアさん、パープルさん……この雨どう思います?」 「どうって……良く再現されていると思います。」 すぐに答えるクリア。 実際、その雨は実に見事に再現されていた。 だが、そんなクリアの答えにスケルは問い返した。 「本当にそうでしょうか?」 「俺にはそう思えます。」 「待って、クリア……」 パープルが何かに気付き、呟く。 「この雨……冷たくない。」 クリアが雨に手を差し出してみる。確かに冷たさを感じられない。 「そう……ここでは温度を感じる事は出来ないのです。 この世界は完全なものでは有りません。 他人に触れることは出来ない、物の暖かさ冷たさ……それも分からない。 もし、ここに雪が降ったとしても、少しも冷たくない……」 クリアは四天王の一人目エイジ戦のことを思い出した。 あの時、あの部屋は炎に囲まれた部屋だった。それにもかかわらず、まるで暑くなかった。 「私がセキエイへ行った目的で、確実に叶えなければならないのは雪を見ることだったんです。 ……すみません、バトルでしたね……シャワーズ『ハイドロポンプ』」 「ブラッキー……『騙し討ち』だ。」 互いが再び攻撃態勢に移った。 しかし、シャワーズは混乱して自分の標的がわからず、自分を攻撃してしまった。 その隙にブラッキーは後から騙し討ちの一撃を当てた。 「ブラッキー、続けて『騙し討ち』だ。」 クリアがスケルがポケモンを交代しないことに疑問を持ったがあえて言わないことにする。 対してスケルは再び攻撃の体勢をとらせる。 「シャワーズ『ハイドロポンプ』」 ブラッキーは素早くシャワーズの背後に回りこみ騙し討ちで攻撃する。 その直後に、強力な水大砲が雨乞いによってさらに強力となりブラッキーを襲った。 ブラッキーはそれを受けてもまだ立ち上がった。 クリアはブラッキーの体力の減り具合から、雨乞いのときにハイドロを使われても2回は耐えると考えた。 その攻防でお互いの体力がかなり減ったようだ。 「このまま毒のダメージを受け続けるわけには行きませんね。シャワーズ……眠って体力を回復してください。」 「ブラッキー、眠るんだ。」 ここで双方が体力を全快にした。 スケルが微笑み、言う。 「これで毒攻撃は防げます。混乱と騙し討ちでは少し辛いのではないですか?」 「ハイドロポンプは何回も使える技ではないでしょう?そしたら貴方も決定的なダメージを与えられないのでは?……ブラッキー『騙し討ち』。」 「そうですね。しかし、それに加えてこの技を使えばハイドロポンプを使える回数が倍増します。シャワーズ『寝言』」 ブラッキーはいつもの通り、背後からの攻撃。 シャワーズは寝言を使う。 だが、またも混乱して自分にダメージを与えてしまう。 「なかなか上手く行きませんね。シャワーズ、寝言」 「ブラッキー『騙し討ち』だ。」 眠っている間は毒状態にはならないのでクリアはこれを使うしかない。 体力自慢のシャワーズには確かにわずかのダメージである。しかし、確実に体力を減らす方法だ。 シャワーズは寝言でいつの間かやんでいた雨を再び降らし始めた。 二人はすぐに次の指示に移った。 「シャワーズ『ハイドロポンプ』」 「ブラッキー『どくどく』だ。」 シャワーズは眠気が覚めたのか、起き上がってハイドロポンプを撃つ。 一方、ブラッキーは再度の毒攻撃。 スケルは毒を回復させようか、攻撃を続けるか迷ったが、結局、攻撃に出ることにした。 「もう一度、シャワーズ……『ハイドロポンプ』」 「ブラッキー『騙し討ち』だ。」 クリアの計算ではこの一撃を耐え、その後、眠る予定だった。 しかし、ブラッキーは水の大砲を受け、ダウンしていた。 その攻撃は急所にヒットしていたのだった。 スケルは攻撃が急所に当たった事に気づいて言った。 「コウジ風に言うと、『ラッキーやわ』でしょうか?」 その物まねが微妙に上手かったのでパープルはクスクス笑っていた。 「今では『冗談を言える』くらい時間が出来たんですね?」 「ええ、そうです。あの時は言える時間は無かったですね。今は有ります。」 「まあ、それは良いんですけどね。……さっきみたいに心臓に悪いジョークは止して下さいよ。」 「どうでしょう?それは貴方次第だと思います。……また脱線しましたね。次のポケモンは誰ですか?」 クリアはスケルの前半のセリフに戸惑いながらも2匹目のポケモンを出した。 「頑張れ、キュウコン」 「水ポケモンにキュウコンですか……シャワーズ、ハイドロポンプ」 「キュウコン、『大文字』」 攻撃に移ろうとしているシャワーズに放たれる大の字型の炎。 その炎を受けて、シャワーズは倒れてしまった。 スケルが2匹目のポケモンを出そうとしたとき、クリアが話し掛けた。 「スケルさん。俺はセキエイで貴方に勝った。でも、本当は負けたんだと思っています。」 「何故、そう思うのですか?」 不思議そうに聞くスケル。 「俺はスターミー・ギャロップ・マルマインで貴方のジュゴン・キュウコン・サンダースを倒した。でも、俺はその前にブラッキーを出していたんです。」 ゆっくりと思い出すように話すクリア。 「つまり、先に3匹倒されたのは俺の方です。 ……あの時の感覚は、勝負で勝っても、実際には負けたような感覚でした。」 「違いますよ。私は改めて3対3の勝負を申し出たのです。サンダースがブラッキーを倒したことは勝負に無関係です。」 「確かにそうかもしれません。でも、3対3の勝負もブラッキーでサンダースの技を見切れたから勝てたんです。」 「……」 クリアの主張に言い返せなくなるスケル。 そして、クリアは改めてスケルを見据え言った。 「だから、今、俺は貴方に勝ちたい。」 「では、行きます。頑張って、ラプラス。」 二人の声が辺りに響き渡った。