奪われた日常  第1章 鈍色の発端 ある秋の日。空は厚い雲に覆われていた。鈍色の空には、いつものような、すがすがしい青色の部分は見当たらない。 それどころか、濃いねずみ色の空から、雨が今にも降り出しそうだった。 そんな時、この事件は起こったのだ。そう、全ての発端である。 ニビジムリーダー、タケシはその日ジムの挑戦者が居なかったので、暇つぶしに外に出た。 その時、遠くの方で悲鳴が聞こえたような気がした。 タケシは気になったので、声がした方に行ってみる。 また、おつきみ山の野生ポケモンが降りて来たりしたのだろうか? あるいは、ケガ人でも出たのだろうか?などと思っていた。 だが、その悪い予想は外れていた。というより、もっと悪い事実が彼を待ち受けていたのだ。 「我々はグレネード団。今からこの町を占拠する。」 彼等――グレネード団――はポケモンを使って次々と人々を襲っていった。 「ちょっと待て、お前ら。」 「ん?誰だお前は?」 「俺はこの町のジムリーダー、タケシ。お前らの好きなようにはさせない。」 「何?……じゃあ、ポケモンバトルでお前が勝ったら潔くあきらめてやろう。 ただ、俺達3人は1人2体しかポケモンを持ってない。 それに、俺達は気が短いから、すぐに試合を決めたい。 だから、お前は3体を一度に出して良い。俺達も1人1匹づつ出すけどな。」 タケシは胡散臭い話だ……と思いながらも彼らの話に乗ることにした。 「勝負。まずは、イワーク、ゴローニャ、プテラ、行け。」 「行け、マルマイン。」 「行け、マルマイン。」 「行け、ストライク。」 マルマイン2匹に、ストライク?全然タイプの相性を考えていない。タケシは一瞬でそう判断した。 彼は、飛行の属性を持つプテラをマルマインに当てるのは避け、 プテラ対ストライク、イワーク・ゴローニャ対マルマイン2匹という構想を一瞬にして打ちたてた。 そして、指示を出した。 「イワーク、ゴローニャ。マルマインに『地震』だ。プテラはストライクに『翼で打つ』」 「マルマイン、『大爆発』」 「マルマイン、『大爆発』」 「ストライク、『堪える』」 その瞬間、『大爆発の2乗』の衝撃波がタケシの3匹のポケモンとストライクにさえも襲いかかる。 防御の弱いプテラや、体力が少ないイワークでは、その衝撃には耐えられなかった。 結局、この攻撃に耐えられたのはゴローニャとストライクだけだった。 本来、ストライクの技より先に発動するはずのプテラの『翼で打つ』は発動しないまま終わった。 ゴローニャは先程のタケシの指示『地震』を繰り出そうとした。 だが、すでに標的であるはずのマルマインは瀕死していた。仕方なしに残る敵、ストライクに向けて放つ。 しかし、飛行タイプであるストライクには全く効き目が無い。 ゆうゆう『地震』をかわしたストライクは凄いスピードでゴローニャに迫る。 そして、次の瞬間にはストライクの『起死回生』が決まっていた。 「な……」 タケシは絶句していた。 「さあ、次の……いや、最後の3匹は誰かな?」 グレネード団の一人が余裕の表情で聞いた。 彼等の手際の良い戦法と態度から考えると、このバトルは始めから彼等の計算だった様だ。 「行け、サイドン、オムスター、カブトプス。」 「俺らも補充だ。いけ、マルマイン。」 「行け、ナッシー。」 タケシはさっきのこともあり先に相手の技を見ることにした。 「マルマイン、『10万ボルト』」 「ナッシー、『大爆発』」 「ストライク、『堪える』」 タケシは先にナッシーとストライクを倒し、次のターンにマルマインの『大爆発』が打てないように考えた。 「オムスター、カブトプス、ナッシーに『冷凍ビーム』だ。サイドンはストライクに『岩雪崩』」 先にマルマインの『10万ボルト』がカブトプスとオムスターにヒットする。だがそれくらいでは倒れない。 次に、2匹の『冷凍ビーム』がナッシーに炸裂。だが紙一重で耐えた様だ。 ナッシーが『大爆発』を放った。『10万ボルト』を受けていたカブトプスとオムスターは耐えられない。 サイドンはそれに耐えながら『岩雪崩』を打つ。 『堪えた』直後だ。耐えられないだろう。 だが、『大爆発』の砂煙が消えると、かなりのスピードで近付いてくるストライクが見えた。 「何?『堪える』は連続では効かないはず。『大爆発』の直後に『岩雪崩』を打てばストライクは倒れるはずじゃあ?」 左端のグレネード団が答える。 「残念だったな。俺は、微妙に『大爆発』の速度をずらし、丁度『岩雪崩』が当たるのと同時にしたんだ。 つまり、『大爆発』と『岩雪崩』の2回攻撃は『大爆発と岩雪崩の威力』の一撃になったわけだ。」 そして右端のグレネード団が言った。 「説明も終わったところで……ストライク『起死回生』。」 かろうじて相手の『大爆発』を耐えていたサイドンは力尽きた。 タケシは目の前が真っ白になった。 彼が、次に気が付いたのはニビシティではなく、グレネード団のアジトだった。