奪われた日常  第3章 常磐色の制圧 ニビシティの事件から1日が過ぎた。 トキワシティではニビシティで起こった事は全く知られていなかった。(もちろん、ヨシノシティの事も、である。) 町の北にあるトキワの森では、今も鮮やかな緑の樹林が広がっていた。 それは、まさに常磐色と呼ぶのにふさわしかった。 淡い緑を放つその森が、トキワシティが平和であることの証のようにも思えた。 しかし、その平穏な日々は彼らの制圧によって奪われてしまった。 彼らは皮肉にもトキワの森からやってきた。 「くそ、なんで連絡がつかないんだ?」 トキワのジムリーダー、グリーンはいらだっていた。 今日はニビジムのタケシと電話で話しをする予定だった。 タケシは几帳面で、いつも自分から電話をかけてくる。 だが、今日に限って予定の時間になっても彼からの電話が無かった。 仕方なしにグリーンが電話をかけてみたが何度やってもつながらないのだ。 「何かあったのか?……」 グリーンは急ぎ足でトキワジムを出た。 ニビへの道のりはトキワの森があるとは言え、普段なら30分程度でつくはずである。 だが、今日はトキワの森の入り口(本来、森に入り口も何も無いが)から数人の怪しい集団が出てきた。 「我々はグレネード団。今からこの町を占拠する。」 「おい、お前ら何言ってるんだ?」 「聞こえなかったのかな?この町は我々の物になるんだ。邪魔をするなら容赦はしない。」 グレネード団員がモンスターボールに手をかける。 「まさか、ジムリーダーに勝負を挑んでくるとはね?いいぜ。勝負しても。」 「ジムリーダー?それはニビのタケシみたいな弱い奴らの総称か?」 その言葉と共にグレネード団はせせら笑った。 「タケシが弱いって?お前らまさか……」 グリーンの表情が少し曇った。 「タケシなら今ごろ俺らのアジトで眠っているな。」 「そこまで言うのなら勝負だ。」 「じゃあ、俺達3人は1人2体しかポケモンを持ってない。  それに、俺達は気が短いから、すぐに試合を決めたい。  だから、俺らは1人3人で同時に1人1匹ポケモンを出す。  お前は、同時に3匹のポケモンを出して、計6体のポケモンが先に尽きた方の負けだ。」 「おいおい、お前ら全員と戦わせてくれよ。」 「まあ、それは、俺ら3人に勝ってからにするんだな。」 ここで、グリーンは考えた。 タケシならこの勝負に乗るだろうか?確かにタケシは考えてから行動をする。 だが、こんなときには、きっと勝負に乗るだろう。そして、負けてしまった。 ならば、ここは1対1に持ち込んだほうがいい。 「待った。その勝負には乗れない。お前等の中の1人と2対2の勝負だ。」 「まあ、良いだろう。試合の時間が変わるわけではない。」 グリーンはグレネード団がタケシに勝ったことを考えて、彼らの主力ポケモンが『水』か『草』だろうと考えた。 だから、相性的に負けないナッシーを繰り出した。 「行け、ナッシー」 「行け、ストライク」 だが、予想に反してグレネード団のポケモンは岩に弱い虫・飛行タイプのストライクだった。 「……な?」 「どうした?『あの岩の坊やを倒した俺らのポケモンは水だ。』とでも思ったのか?」 「ポケモンを代えたのか?」 「フン。そんな無駄なことはしない。ストライク、『翼で打て』」 グリーンは交代でサイドンを出すことも出来た。 だが、相手が交代読みでポケモンを代えてくる危険性が捨て切れなかった。 だから、ストライクとは共倒れになって、相手のポケモンに有利なタイプを出す。 これしかないと思った。 「ナッシー『大爆発』だ。」 周囲に爆風が吹き荒れる。 さすがのストライクも『大爆発』には耐えられなかった。 「行け、フーディン。」 「行け、ストライク。」 相手の技は『翼で打つ』や『めざめるパワー』等が考えられる。 『めざめるパワー』の属性が虫だとしても、なんとか2発は耐えてくれる。 その間、こちらは『冷凍パンチ』を3回放つ事ができる。 「フーディン、『冷凍パンチ』だ。」 「ストライク、『めざめるパワー』だ。」 冷気を帯びた拳をストライクに向けて放った。 そのパンチは周囲の空気を冷やしながら、ストライクに直撃した。 だが、ストライクはその攻撃を受けながらも、次の攻撃に移る準備をしている。 小さな球の集合体を生み出し、フーディンに向けて撃った。 タイプは確実に虫だろう。しかし、ギリギリで体力は半分以上残っている。 相手の体力も半分にはなっていないが、少なくともあと2回で倒れるだろう。 「フーディン、そのまま『冷凍パンチ』だ。」 連続の『冷凍パンチ』は、ストライクに確実なダメージを与えていた。 ストライクは『気合いのハチマキ』で持ちこたえたのと見分けがつかなかった。 そして、フーディンは『めざめるパワー』を耐える。 グリーンは勝利を確信した。 しかし、彼の予想しない言葉がグレネード団員の口から出た。 「ストライク、『破壊光線』で一気に決めろ。」 全てを破壊する光が、フーディンに襲いかかった。 その『光線』はタイプ一致の『めざめるパワー』の威力をも上回る。 フーディンは体力の全てを使い果たし、倒れた。 グレネード団員はグリーンに詰め寄り、勝ち誇った。 「さて、これで、俺はお前に勝った事になるが、  お前はまだポケモンを持ってるな?他の二人とも戦うか?」 「俺が負けたらこの町は乗っ取られてしまう。  卑怯かもしれないが前言を撤回させてもらう。」 「そうか、なら仕方ない。オイ、お前らさっさとかたをつけろ。」 そう言ってストライクを使うグレネード団員は、町の中央へ消えてしまった。 残った2人の内1人が言う。 「オイ、面倒くさいから4対4でやろうぜ。」 「じゃあ、さっさと片付けて奴を追うか。」 グリーンは残りの手持ちを全てその場に出した。 しかし、グレネード団員は2匹しか出さなかった。マルマイン2匹だった。 「ふざけるなよ、2対4でやるって言うのか。」 グリーンは完全に頭に血が上っていた。 少し考えれば分かりそうなグレネード団の作戦に気付いていなかった。 「俺らはそれでも構わないぜ。」 「そうか。分かった、サイドン、『地震』で一気に決めろ。」 「遅い。マルマイン、全員で『大爆発』だ。」 一閃の光が休むことなく辺りを覆った。 その場はまるで小型爆弾でも落とされたような状況になっていた。 その中央でグリーンはただ呆然としていた。 グリーンの敗北。それは、事実上、グレネード団によるトキワの制圧だった。