奪われた日常  第5章 若葉色の宣言 「はい。分かりました。至急そちらに向かいます。」 パープルは受話器を置いた。 「どうしたんだって?」 ゴールドは聞く。パープルは目に掛かりそうな髪を軽く振り払い答えた。 「なんか、カントーの方で事件が有ったらしくて、私これから行かなくちゃなんだ。」 パープルはそういった事件に対処するポケモントレーナーである。 「大変だな。」 「うん、じゃあ、また。」 パープルが家を出ようとしたその時、再び電話が掛かってきた。 全く、忙しい時に……と思いながらも電話に出た。 「はい、パープルです。」 「あ、パープル?クリスだけど大変なの。」 もしかしたら、カントーの事件のことを言っているのかもしれない。 と思いながらも、パープルは聞いてみた。 「大変って……何が?」 「とにかく、ラジオを聴けば分かるから。」 カントーの事件のことはジョウトではやっていないはずである。 つまり、クリスはカントーの事件のことを言っているわけではない。 パープルは慌ててラジオをかける。 雑音がかなり混じりながらその声は聞こえてきた。 「……ガ……我……ガ……んきょする。繰り返す。  我々……ネード団……ワカバタウンとヨシノシティを占拠した。  我……は、数日中……コガネシティを占拠する。」 「大変!!」 「そう、大変よ。  多分、奴らはウツギ博士のところから電波を使ってると思うんだけど……  これから私はフスベ側からワカバへ向かってみようと思うけど……パープルは?」 「じゃあ、私はキキョウ側からヨシノへ向かってみる。」 ヨシノシティの入り口は怪しい連中(おそらく、グレネード団と名乗った奴ら)が 十数人位うろついていた。 この位なら強行突破できる自信があったが、町の内部にも居るかもしれない。 結局、パープルはその場を立ち去るしかなかった。 後日改めて体勢を立て直して、確実に勝てるときに行った方が良い、そう考えたのだ。 ワカバタウンのウツギ研究所で、ウツギ博士は捕らえられていた。 「君達……何が目的なんだ?」 「俺らの目的?さっき、ここの通信設備で話した通りさ。  邪魔する奴はただじゃあ済まない。あんたも逃げ出そうなんて考えちゃあ駄目だぜ。」 ウツギは出来ることならグレネード団の計画を阻止したかった。 しかし、両手と両足をふさがれてしまった上、 彼らの実力を目の前で見せられて自分では無理だということを悟った。 窓からはかろうじてあたりの風景が見える。 周りの木々は新緑では無い。 だが、ウツギにはそれが新緑の様な若葉色をしているように見えた。