奪われた日常  第8章 桧皮色の疑問 ヒワダジムリーダー、ツクシは考え事をしていた。 4日後に、今回の事件についてのジムリーダー会議が開かれる。 その会議に向けて各ジムリーダーが事件についての意見を考えておくのである。 おそらく、ニビ、トキワ、アサギのジムリーダーは来られないだろう。 その分の穴を残るジムリーダーが埋めなくてはならなかった。 ツクシが今回の事件のことで考えていること。 それは、彼らへの対策よりも疑問の方が多かった。 まず、第一に、何故、グレネード団は直接ヤマブキとコガネを狙わなかったのか?ということだ。 ヤマブキ・コガネを直接狙った方が速いし、このような対策会議を開く余裕も無くなるのではないだろうか? 仮に、彼らの目的が、ヤマブキ・コガネ制圧を通り越して、全地域制圧にあるなら、まだ分からないでもない。 しかし、それにしても、中心都市のコガネ・ヤマブキから攻めた方が人々の混乱が大きく、目的に達しやすいのではないだろうか。 また、近接地域からの反撃を受けないために外堀から埋めていくという考え方もある。 ヤマブキは四方が町でいきなり狙うと反撃を受けやすい。 だが、それにしても、ニビから襲い始めるのは対策をされてしまって、ヤマブキまで到達できない可能性が高い。 タマムシやクチバ辺りから狙い始めるのが妥当な線だろう。 まして、コガネは町に続く道が森と公園なので、公園と森さえ制圧すれば反撃を受けやすいとは思えない。 やはり納得がいかない。 次に、アサギを狙った理由は何か?ということだ。 普通に考えれば、ワカバ、ヨシノの順に襲った彼らは次にキキョウを攻めるのが最も効率が良く、妥当な線である。 だが、彼らはアサギを狙った。これはどう考えてもおかしかった。 全地域支配を目的としていても、タンバ側とエンジュ側で挟み撃ちされるようなことは効率が良いとは言えない。 (実際はヨシノ、ワカバの順であり、これはツクシの思い違いである。  なぜ思い違いをしたのかはグレネード団の犯行宣言で彼らは『ワカバとヨシノを……』  と言っていた。これを聞いたツクシ他、大多数の人が思い違いをしていた。) さらに、彼等の『犯行宣言』のタイミングが中途半端な気がした。 ツクシは別に事件の専門家というわけではないが、 こういった事件では、まったく犯行を行っていない時か、 犯行を全て終えたときに『宣言』した方がいいはずだ。 前者なら犯行を予告するという意味があり、堂々と向かってくるわけだ。 後者なら奇襲に向いている。そして、犯行後に自らが行ったことを示すという意味がある。 今回の場合は、よく言えば両方の要素を含んでいるといえるが、悪く言えばどっちつかずである。 最後に、グレネード団の強さも不思議だった。 彼らは、例え奇襲とは言っても、ジムリーダーがいる町を3つも制圧している。 つまり、ジムリーダーを3人倒しているのだ。 しかも、アサギのジムリーダー、ミカンと戦ったのは『犯行宣言』のあとで、ミカンも十分警戒していたはずだ。 つまり、彼らは相当強いと言うことになる。 そこまで考えると、ツクシは彼等の対策を考え始めようとしていた。 ジムの周りの森林は、緑色の葉よりも桧皮色の幹の方が目立っていた。 その落ち着いた感じは、ゆっくりと対策を考えるのにちょうど良かった。