奪われた日常  第9章 紅蓮色の敗退 ジムリーダー会議を2日後に控え、対策本部には異変が起こっていた。 3日前に、グレン島――正確にはふたごじま――に向かったクレナイが帰ってこないのだった。 グレン島は2年前の火山の噴火でほとんどの設備を失った。 ジムはグレン島のそばにあるふたごじまに移った。 クレナイは、通信設備の無い、ふたごじまにいるカツラに連絡を付けに行った。 本来、彼は昨日、ここにカツラを連れて戻ってくるはずである。 「私達もグレンに向かった方が良いんじゃないの?」 会議に先駆けてヤマブキを訪れていたパープルはクリアに言った。 クリアは先程からグレンに向かうべきかどうか悩んでいた。 しかし、今はナツメに加えてパープルも居る。 「よし、パープル、ここを頼んだ。」 「待った。」 聞き覚えのある声が部屋に響き渡る。クリアはすぐに振り返った。 「あ、クレナイさ……」 しかし、その姿を見て言葉が止まった。 クレナイの衣服はボロボロで、顔には傷ついた痕が有った。 パープルは急いでクレナイの元に駆け寄り、声をかける。 「どうしたんですか?」 「もう、グレンはグレネード団に乗っ取られてしまった。」 クレナイのその一言で対策本部に緊張が走る。 さらに、クリアが恐る恐る聞いた。 「カツラさんは?どうしました?」 「カツラはグレネード団に捕まった。私が行った時にはもう倒れていた。  私は奴らの攻撃に耐えられず最後に残ったネイティオで戻ってきたんだ。  完全な敗退だった。」 クレナイは下を向いて震えている。 その震えが悔しさから来る物なのか、怒りから来る物なのかクリアには分からなかった。 その後、クレナイはグレン等で起こった事を話し始めた。 話が終わっても、その場に居た人達は言葉を発しなかった。 しかし、その均衡はすぐに崩れた。 「今すぐ、グレンを奪回しましょう。」 そう言ったのはクリアだった。パープルもうなずく。 だが、クレナイだけはその意見に賛成しなかった。 「駄目だ。」 「何故ですか?」 パープルはクレナイの反対意見に疑問を投げかける。 「奴らに対し、攻めに回るのは不利だ。奴らが攻めて来た所を防衛し一気に反撃した方がいい。」 「確かにそうかもしれませんが……乗っ取られた町に住む人々は……」 「君の言う通りだ。だが、我々まで敵の手に落ちたらそれこそ取り返しがつかなくなる。  そうなるよりは確実に機をうかがって、確実に彼らを助けたい。」 クレナイの勢いと理論に押され、クリアは一応、納得してみせた。 「分かりました。だけど、この作戦を取るからには……」 「ああ、分かっている。次は絶対に負ける訳にはいかない。」 クレナイの目は紅蓮色に燃えていた。