奪われた日常  第11章 山吹色の真実 ヤマブキシティにジムリーダー達、及びクリア、クレナイ、パープルが集まった。 だが、ツクシの予想通り、ニビ、トキワ、グレン、アサギ、さらにエンジュのジムリーダーは来なかった。 タケシ、グリーン、カツラ、ミカンには連絡がとれず、マツバは町の防衛で精一杯だった。 エンジュの周りはグレネード団に囲まれ、外からなかなか突破できなかった。 ヤマブキは、昨日からの全国的な強風で散り始めたイチョウの葉に町全体を覆われて、 山吹色の絨毯が一面に敷かれているかのように思えた。 会議では、今回の事件に関するジムリーダー達の考えや対策案が述べられた。 ツクシの発表の番で彼は自分の疑問を話した。 彼の発表が終わると、クリアが立ちあがり話し始めた。 「実は、僕もツクシさんとほぼ同じ疑問を持ったんです。  ところで、ツクシさんはこの疑問に対する解答を考えましたか?」 「考えてはみたのですが……分からない事ばかりで……」 ツクシは恐縮する。クリアは軽く頷くと、全員を見回し言った。 「確かに、前線に来ないと分からない事が多いでしょうね……」 「!?クリアさんは考えがあるんですか?」 ツクシは驚いた。 自分がいくら考えてもわからなかった事が、現場に行けば分かるのだろうか? 「まあ、一応ね……確証は無いですけど……」 一同が騒然となる。最初に口を切ったのはマチスだった。 「どんな、Thinking(考え)があるんですカー?」 「まず、第一の疑問、『何故、グレネード団は直接ヤマブキとコガネを狙わなかったのか?』  これは、奴らの狙いが実はヤマブキ・コガネじゃないとしたら自然なことです。」 「確かに、それは、そうかもしれないが……だとしたら一体彼らの狙いは何なんだ?」 ヤナギが汗を拭きながら言った。彼にはこの部屋の暖房は暑いようだ。 「奴らはカントー・ジョウトの両側からある1ヶ所を囲む様に町を襲撃しています。」 「セキエイ高原か……」 ちょうど、クリアの隣に居るハヤトが呟いた。 「そうです。彼らは恐らく、セキエイ高原を目指しているのです。  そして、第3の疑問『宣言のタイミング』は僕らの注意をコガネ・ヤマブキに向けて  自分達の計画を成功させやすくするための作戦だったんです。」 「なるほどね。だけど、だったら『アサギを襲った理由』はなんだい?」 クリアの真向かいに居たアンズの疑問だった。 「それは、分かりません。でも、貴方なら分かるんじゃあないですか?クレナイさん?」 「……どういう意味だい?」 クレナイは少し驚くも、冷静に答える。 「この推理が正しいとすると、グレネード団はグレンを襲わなくて良いことになる。」 「ああ、だが、現にグレンは襲われ……」 「てないんですよ。」 クリアはクレナイの言葉をさえぎった。 「僕は本当にカツラさんが捕らえられてしまったのか調べにグレンへと行きました。  そこには至って平和に暮らす人々が居ました。そして……  カツラさん。もう出てきて良いですよ。」 廊下から現れたのは、グレネード団に捕らわれているはずのカツラだった。 「これでも何か言う事がありますか?」 クレナイは口を開こうとはしなかった。 クリアは続ける。反論する余地を与えない様に一気にまくし立てる。 「貴方に疑問を持ったのは最初にグレネード団を撃退した時です。  貴方は『泥棒』を使って『気合いのハチマキ』を取りましたが、  あれが僕にはどうもハチマキには見えなくて、紙切れに見えました。多分、何かの指示書ですね?  あの時のグレネード団の作戦はあの紙を渡す事だったんでしょう。」 さらに、クリアは続ける。 「だったら、何故、あのフーディンはその前の攻撃を耐えることが出来たのか?  あの時使った技は『居合い切り』ではなく『みねうち』じゃあ無いんですか?  効率を重視する貴方が、居合い切りの為のポケモンにそんなに経験を積ませるとは思えない。  あれは『みねうち』で野生ポケモンを捕らえる為のストライクですね? 」 「全くその通りだ。」 クレナイはクリアの方を向き、『4つの疑問』に対する答えを次々に語り出した。 「セキエイ高原を制圧する。これが私達の真の計画だった。  まあ、ヤマブキ・コガネも狙ってみても悪くは無かったが……アサギを狙ったのは計画に無いな。」 クレナイは少し考え、また話し出す。 「コガネが狙いという事に少し真実味が加わるかもしれないが、彼らはそんなに頭が働くとは思えない。  多分、彼らの苦手なタイプのジムリーダーがミカンさんだったんだろう。  エンジュも似たような理由だろうな。  それと、あの紙はセキエイ高原を攻め始めると言う報告書だった。」 「報告書?貴方は、グレネード団の幹部なんですか?」 クリアはそこで初めて驚く。 「私は、副団長、『作戦のクレナイ』だよ。この事件の計画は、ほとんど私が立てた。  グレネード団員の使う基本的な戦略も私が立てたんだ。  彼らは1対1で何の戦略もなしにジムリーダーと戦えば、十中八九負けるだろう。」 クレナイは一息ついた。 「なるほど、私の性格か……完璧だと思ったんだが、余計なことをしてしまったのかな。」 「『策士、策に溺れる』ですね。」クリアは微笑む。 「まあ、いいさ、ここまで計画が進めば、もうあの組織に私は必要ない。  もともと、あの組織は『スケル』一人でもやっていけるんだ。  私はおとなしく捕まるとしよう。皆さん、質問は?」 「グレネード団の構成はどうなっているんですか?」 ツクシが手を上げて言った。 「幹部としては団長、副団長の私、そして三幹部が居るだけだ。  あとは一般の団員。その他に準団員も居るが……他に質問は?」 誰も質問は無かった様だ。そして、クリアがクレナイの方を見て、言った。 「質問は有りません。ただ、僕は貴方と戦ってみたい。」 「まあ、いいが、私の実力は作戦を除けば、並のグレネード団とほぼ同じ……団長はおろか三幹部にも届かないが?」 「それでも構いません。」 「分かった。今は手持ちが居ないが、警察内で戦おう。」 グレネード団副団長『作戦のクレナイ』は1つの真実を残し、 10人以上のトレーナー達に背を向けてその場を後にした。 ――同時刻、セキエイ高原―― グレネード団が全てを支配していた。もちろんリーグの本部も、である。 そこへ、一人の女性がやって来た。大人びた風貌。しかし、まるで、少女のような顔立ち。 その彼女が微笑みながらやってくる。 「おい、止まれ。そこの奴、ここはグレネード団が占拠した。」 「だから、何ですか?」 「ここから立ち去れと言うんだ。立ち去らないとどうなっても知らんぞ。」 「……試してみますか?」 彼女は腰につけたモンスターボールに手を掛ける。 彼女の挑発に乗った団員はポケモンを繰り出す。 「行け、ゴローニャ。」 「頑張って、サンダース。」 余裕の表情でグレネード団員が指示を出す。 「お前、タイプの相性も分かってないのか?まあいい……『地震』だ。」 「サンダース、『電光石火』。」 「そんな技で、ゴローニャが倒れるとでも……」 だが、団員は声を失う。 サンダースの一撃を受けたゴローニャはその場で瀕死になっていた。 団員はその一撃で戦意を失ってしまった。 彼女は歩き出し、団員の横を通り過ぎながらつぶやく。 「よく、この程度の実力でここが乗っ取れましたね。よほど、奇襲が成功したのでしょう。クレナイのおかげですね。」 そして、振り返り、溜め息をつきながら言った。 「団長に勝負を挑むなら、もう少し強くならないといけないですね。」 彼女は再び、少女のような微笑を残し、セキエイの奥へ進んでいった。