奪われた日常  第12章 石竹色の休日 会議から一夜が明けた。グレネード団との戦いが本格化すれば休みは取れない。 そこで、対策本部のメンバーは一部を除いて、この日、休日となった。 休日となったメンバーにはクリアとパープルが居た。 クリアとパープルは、クリアの修理中のポケギアを受け取るのを兼ねて、現在、クリアの家が有るセキチクシティに来ていた。 まだ太陽も高くなく、その日差しが二人に穏やかに降り注いでいた。 歩きながら、日陰に来た時、クリアは突然切り出した。 「一昨日は何も言えなくて悪かった。幼馴染のパープルにも言えなくて……」 クリアはグレンに行く時、パープルに真実を話さなかった事を気にしていた。 「気にしないで、私に話してクレナイさんに聞かれてたら、考えが台無しになるし。」 うつむいたクリアを諭す様にパープルは言った。 「お互いを信じることって、思ったことを全部話す事だって考え方も有るけど、  私は……本当に信じてるなら、何も話さなくても伝わるって思うの。」 クリアは誰にもわからない程、小さく頷いた。 そこでクリアは少しの沈黙を挟んで唐突に話題を変えた。 「俺とパープルは10年前までコガネに居たんだよな。」 「そう。そして、クリアはここ、セキチクに引っ越した。」 先程、クリアがパープルのことを幼馴染と呼んでいたのもこの為だった。 「いろいろ、偶然はあるもんだな。  今、俺達はいろいろな事件に対処するっていう同じ目的の為にトレーナーになっている。」 本当に偶然だとはクリアは思っていなかった。それはパープルも同じだろう。 クリアは自分の過去と現在を思って、澄んだ空を見上げていた。 「ねぇ、クリア……クレナイさんと戦ったんでしょ?」 話は再び現在のことに戻っていた。クリアは前を見据える。 「ああ、あの人は強い。確実な作戦を練って勝負に挑んでくる。  それと、あの人が一般のグレネード団員に託した作戦も教えてもらったよ。  一般の団員が使ってくる戦法は主に『ジムリーダー対策』と『大爆発の2乗』だ。」 「と言う事は私たちが気をつけるのは『大爆発の2乗』ってこと?」 「ああ、だから一般の団員と戦う時は『守る』みたいな確実に防御できる技があればそんなに苦戦しないと思う。」 「それで……結果はどうだったの?」 「何とか勝てたよ。だけど、あの人が言うにはグレネード団の三幹部、そして団長はあの人よりも強い。だから……」 クリアは一瞬、言葉を止めた。そして、改めてパープルの方を向き強い口調で言った。 「これからのグレネード団との戦いで勝ちぬく為には自分達がもっと強くならなければいけない。」 しばし、辺りに沈黙が漂う。パープルは焦って話題を変えようとする。 「ごめんね。仕事の話しちゃって……」 「いや。最初に言い出したのは俺だしな……」 「それよりも今日は、この町で休日を過ごすんでしょ?」 「ああ、まずはやっぱりサファリパークだよな。」 そして、ゆっくりと二人は歩き出していった。 ――同時刻、セキエイ高原―― そこでは、グレネード団の三幹部と団長が話し合いをしていた。 しかし、どうやら話し合いは紛糾している様子。 「団長!今、何て言ったの?『グレネード団を解散します。』ですって?」 「ちゃんと聞こえているじゃありませんか。」 団長『スケル』は『三幹部の一人』の抗議を受け流した。 これに対してその幹部は激怒。 「そうじゃなくて……なんで解散するのかって事よ。」 「わいは構へんけどな……今までと違て自由に動ける訳やし。」 『ジョウト訛りの男』が抗議した少女をなだめる。 だが、少女は聞こうとしない。 「貴方は黙ってて、『コウジ』。」 「私も……『ウグイス』のように駄々をこねたりはしませんが。」 そこで『もう一人の三幹部』も意見を出す。 当然、『ウグイス』と呼ばれた少女は厳しい視線を向ける。 「何ですって?『ルリ』!私がいつ駄々をこねたの?」 ウグイスの言葉を無視して、ルリは続けた。 「理由も無いのに解散なんて言葉には賛成できません。  私は『スケルさんに勝つ』という目標のためにこのグレネード団に入りました。  まだ、1回も勝っていないのにここを去るなんて……」 ルリの言葉を受け、スケルはようやく言葉を発した。 「私に戦いを挑むのはもちろん自由です。  貴方達は別に今までやってきたことを同じようにやれば良いんです。  ただ、クレナイが抜けてしまって、今までのようには指示できなくなります。」 「じゃあ、目的自体は変わらないって訳ね?」 ウグイスの怒りはようやく収まり始めた。スケルも頷く。 「そうですね。『貴方達の目的』も『私の目的』も今までと何の変わりもありません。」 「じゃあ、私は引き続き『全地方制覇』を目指す。貴方は?ルリ……」 どうやら、やっと機嫌が元通りになったようだ。ウグイスはルリに話題を振る。 「私も、強くなるには戦わなければいけないから……  『グレネード団対策本部』の人達とでも戦いましょうか。」 「だったら、貴方に先を越されないように私はさっさと行くわ。  遅れて駄々をこねても知らないよ。」 そう言うと、ウグイスは自分の飛行ポケモンに乗ってどこかへ行ってしまった。 やれやれ……といった表情でウグイスを見つめるルリ。ウグイスが去った後で呟いた。 「さすが、『疾風のウグイス』と呼ばれてるだけのことはあるけど  ……『対策本部』のメンバーがどこにいるのか知ってるのかしら?」 「そう言う貴方は分かっているのですか?」 「ええ、多分、あの町で待ち構えていれば、彼らは私の元に向かってきます。」 そう言ってルリはゆっくりと外へと向かって行った。 「それで、貴方はどうするの?」 スケルは質問をコウジに向ける。コウジはニッと笑い、答える。 「わいは……そやな、やっぱり、『おもろいバトルをする』にはここに居たらあかんわ。」 「私とのバトルじゃあ駄目なのですか?」 スケルも微笑みを返して言う。 「わいが良くても、あんたが満足できへんやろ?」 「それもそうですね。」 「まあ、もうちょい実力ついたらまた戦わせてもらうわ。ほな。」 そう言ってコウジはその場を去っていった。