奪われた日常  第14章 丁子色の反撃 フスベでウグイスの進撃を阻止した翌日。 『グレネード団対策本部』のメンバーは予定通りチョウジタウンに辿り着いた。 「さて、じゃあ、これからエンジュに向かおうか?」 ポケモンセンターで休憩を取ると、クリアはメンバーに声を掛けた。 エンジュとチョウジの中間に有るスリバチ山。このスリバチ山に沿って進んでいく。 途中、3ヵ所に洞窟が有るはずである。そして、その1つ目の入り口が近づいてきた。 その時、パープルが洞窟の入り口を指して、声を上げる。 「あれ?あそこに居るのは?」 そこには、長い髪を後ろで束ねた眼鏡を掛けた少女が立っていた。腰に付けたモンスターボールは3つ。 彼女は、クリア達の姿を確認すると、ゆっくりと語り掛けてきた。 「待っていましたよ。」 「あんたは?」 「私はグレネード団三幹部のルリです。」 ウグイスとは違い、丁寧な言葉遣いで挨拶をするルリ。 ウグイスとの性格の違いに驚きながらもクリアは聞く。 「幹部と言うことは、あんたにも『作戦』とか『疾風』とかの言葉が付いているのか?」 「ええ、私は『不屈のルリ』と呼ばれています。」 辺りに一瞬の緊張が走る。 クリアは更に質問を投げかけた。 「もう一つ聞くけど……あんたも『全地域制覇』を狙っているのか?」 「私は、そんなことには興味がないです。というよりも、グレネード団の幹部でそれを考えているのはウグイスだけです。」 「じゃあ、何であなたは私達と戦うの?」 思った事を素直に口にするパープル。 「私の場合、あの組織にいたのはスケルさんに勝つためです。そして、実力を付けるには戦い続けるしかないんです。  ……さて、貴方も私を倒すのが目的なんでしょう?では、早速、始めましょう。頑張って、ゴローニャ。」 「行け、ブラッキー、『怪しい光』だ。」 ルリと同時にポケモンを出すクリア。三幹部ルリとのバトルが幕を開けた。 そのバトルはかなり一方的だった。『怪しい光』と『だまし討ち』によって確実にダメージを与えるブラッキー。 逆に、ルリのゴローニャは2、3回しか攻撃して居ない。 そろそろ、ゴローニャの体力が尽きるかという時、ルリが指示を変えた。 「私は最後まで諦めませんよ。ゴローニャ。『大爆発』」 一般の団員がよく使う技『大爆発』。だが、ルリは一般の団員とは違って、粘るに粘ってから、その技を使った。 確かにその威力は申し分無い。敗色濃厚だったバトルを相打ちに持っていった。 だが、その明らかに『普通』の作戦にまたも驚きを隠せないクリア。 「あんたは複合技、使わないのか?」 「それは、今からのお楽しみです。頑張って、マルマイン、プクリン。」 「じゃあ、こっちも俺とパープルで1匹ずつ。行け、ハガネール。」 「エーフィ、頑張ってね。」 「プクリン『カウンター』の体勢に入って。」 クリアは疑問に思った。こちらが技を出す前に『カウンター』を宣言していたら、こっちはいくらでも対処できるからだ。 しかも、ルリはマルマインに指示を出して居ない。 しかし、クリアは構わず、自分のポケモンに指示を出す。パープルもそれに続く。 「ハガネール、マルマインに『地震』。」 「エーフィ。プクリンに『サイコキネシス』。」 「マルマイン、フィールド全体に『ミラーコート』。プクリンはマルマインの前に出て。」 ルリは指示をここで完成させる。 マルマインを狙ったハガネールの地震。その衝撃を全てプクリンが受け、『カウンター』を発動させる。 さらに、プクリンを狙った『サイコキネシス』は、マルマインの『ミラーコート』の効果で、威力が倍増されて帰ってくる。 「これが、複合技『ネオカウンター』……貴方達に破れますか。」 今まで、笑わなかったルリが初めて不敵な笑みを浮かべた。 その場には、2匹のポケモンが倒れていた。 「ギリギリまで粘って最後まで諦めない。そして、防御系の技を操る。……『不屈』って訳だな。  だが、その技なら破れるさ……行けワタッコ。」 「ミルタンク、『恩返し』。」 「マルマイン。プクリン。『ネオカウンター』。」 その場に出た指示は2つ。クリアはワタッコに指示を出さない。 『ネオカウンター』は『恩返し』のダメージも倍返しした。ミルタンクはかなりのダメージを受ける。 パープルは、指示を出さなかったクリアに詰め寄る。 「どうして、指示をしなかったの?」 クリアは軽く頷くと、説明を始める。と同時に、ワタッコに指示を出す。 「さっきは様子を見ていたんだ。ワタッコ、『アンコール』」 アンコールを受け、ルリのポケモンは指示不能になる。 「これで、もう『ネオカウンター』を出し続けるしかない。そして、こっちが『宿り木の種』とかを使っていけばあんたに勝ち目は無い。」 明らかにルリは焦りを顔に出していた。 「さあ、観念するんだな、ルリ。もう、ポケモン居ないだろ。」 詰め寄るクリア。さらに、パープルが後ろを固めた。 しかし、その時、とてつもない風が辺りを支配した。 「!?この風は……」 次の瞬間、一同の目の前にウグイスが立っていた。 「キャハハハ、もう少し粘るかと思ったのにもう終わり?行くわよ。『最弱のルリ』。」 ウグイスはそう言ってルリを強引にピジョットに乗せ、連れて行った。 「何がしたかったの?あれは……」 パープルは考え込む。クリアは肩をポンと叩き、言う。 「そんなに考えなくても良いんじゃないか?」 「そうね。」 パープルは頷く。しかし、クリアは思っていた。 (そんなことより、あの風、あの威力……アイツが起こした風なのか?) 少しの間を置いて、クリアがパープルに話しかける。 「そうだ。パープルに頼みたいことがあるんだ。」 「何?」 パープルは聞き返す。 「カツラさんとアンズさんにマサラの奪回を頼んできてくれないか?」 「いいよ。セキチクには行った事があるし。コガネに行けば一気にカントーまで行けるしね。」 彼女は微笑む。 「じゃあ、出来れば明日の朝に出発して欲しい。」 「簡単簡単、じゃあ、頼んだ後に電話するね。」 「ああ……さて、こっちも少しずつ奪回しなくちゃな。」 ――その夜―― 「よし、後はあんただけだな。」 暗闇の中、少年が呟く。少年と対峙している男は「クッ」と息をもらした。 少年は持ちポケモンであるギャロップで相手のポケモンを攻撃した。 相手は、一撃で倒れてしまった。 少年はポケギアを手に取り、電話機能を使い始めた。 「もしもし、こちらクリア、こっちは無事アサギを奪回した。そっちも残ってるグレネード団を捕まえられたか?……そうか、じゃあ……」 クリアは電話を切る。バトルを終えた町はとても静かだった。 クリアをリーダーとしたグループはアサギとエンジュを奪回したのだった。 しかし、実際は『無事』ではなかった。そこにはミカンの姿が無かった。 クリアはその状況を目の当たりにして、改めてグレネード団への反撃を誓ったのだった。