奪われた日常  第16章 朽葉色の攻防 ――シオンタウン―― 昨日の一件、つまり、コウジがやって来た事について、クリアとパープルが話し合っていた。 「なるほどな。多分、そのコウジという男、また改めて戦いにくるつもりだろう。」 「そうね。」 パープルもその意見に同意する。だが、クリアはそこで話を終わらせて、新たな話題に移った。 「それよりも……気になるのはグレネード団の団長スケルは何故セキエイを乗っ取ったのかってことだ。」 「どういうこと?」 「今までの相手の幹部の話をまとめると、グレネード団のウグイス以外の幹部は支配というものに興味が無さそうだ。  それは、団長スケルも同じだ。だったら、何でこんな計画を立てたのか?それに、何かセキエイでなきゃいけない理由もあるのか……」 クリアは遠いセキエイの方を見て呟いた。 ――同時刻、セキエイ高原―― 「今日、『あの二人』はクチバを攻めるって言ってましたね。」 今日は、いつもと違って男がスケルに話しかけた。 「ええ、そうみたいです。」 スケルは答える。男は更に会話を続ける。 「しかし、驚きました。一見、戦法的にも性格的にも合っていないあの二人が組んでクチバを攻めるなんて……」 「そうですね。そして、組むと言っても二人の目的は……」 「全く……違う目的でしたね。」 ――同時刻、クチバシティ―― 6日前、つまり、ジムリーダー会議前日の強風で散った落ち葉は少し朽ち始めていた。 多くの朽葉が落ちている中、2対2の攻防が緊迫していた。 「くっ、こいつら強い。」 「ミスタークリアとミスパープルにコンタクト(連絡)は?」 「今、しました。二人はシオンにいるみたいです。」 「シオンか……だったらすぐ来れるな。それまでは私たちで防衛しないと。」 クチバを2人のグレネード団三幹部が襲っていた。町を守るのはマチス、ナツメ。 だが、一人は笑って、一人は無表情で、更なる攻撃を加える。 「キャハハハ。それは無理だね。ヤミカラス『目覚めるパワー』」 「……オムスター『目覚めるパワー』」 この『複合技』により、残っていた2人のポケモンは全滅してしまった。 町を襲っているのは、そう、ウグイスとルリである。 2人のポケモンが全滅した瞬間、連絡を受けたクリアとパープルが現れた。 これにルリ、ウグイスの順で反応する。 「真打ち、登場みたいですね。」 「キャハハ、今回は本気だから邪魔をして欲しくないけど、邪魔するつもりなら戦うよ。」 「ああ、今回は本気であんた達を捕まえなくちゃな。」 「今日は2対2で戦うの?」 こちらも、クリア、パープルの順で話しかける。 そして、ウグイスがパープルの問いに適当に答えた。 「まあ、どっちでもいいけどね。その方が手っ取り早いんじゃない?」 その場には既にルリのオムスターとウグイスのヤミカラスが居た。 「じゃあ、そうしよう。行くぞ、スターミー、オムスターに『サイコキネシス』。」 「頑張って、ニューラ、ヤミカラスに『冷凍パンチ』。」 相性的にこちらが有利。クリアとパープルは一気に攻勢に出た。 冷気を帯びたパンチと空間の歪みがそれぞれ、ヤミカラスとオムスターを襲う。 「ヤミカラス、オムスター、お互いに位置を交換して。」 指示を出したのはルリ。ヤミカラスが『サイコキネシス』を無効にし、その代わり、『冷凍パンチ』をオムスターが受ける。 だが、ダメージが減ったにもかかわらず何故かウグイスは怒る。 「ちょっと、勝手に指示を出さないでよ。」 「ヤミカラスにダメージが無かったから良いじゃないですか?」 その様子を見て、クリアはウグイス達に言う。 「あんたら、チームワークが無いな。何で、2人で来たんだ?」 ウグイスはクリアの問い掛けに一度キッと睨んだ。だが、すぐにいつもの様に笑う。 「キャハハハ。その答えを見せてあげる。ヤミカラス『目覚めるパワー』」 「え?いきなりそれを使うんですか?」 ルリは驚く。 「一気に決めちゃう方が良いでしょ?」 「そうですか。……オムスター『目覚めるパワー』」 ヤミカラスとオムスターが放った『目覚めるパワー』。光を放つ無数の球体。 それは空中で融合し、新たな光とともに、スターミーとニューラを襲う。それを避けきれず、2匹は直撃してしまう。 「『目覚めるパワー』のタイプは炎と悪です。そして、融合後、両方の属性になっています。」 「キャハハハ。これ『魔なる炎』って名付けたの……結構いい名前でしょう?」 「両方の属性?目覚めるパワーを融合させたのか?」 「キャハハハ。そう。複合技はだいたい同じタイプか似たタイプでしか使えないけど例外がこれ。  『目覚めるパワー』は言ってみれば『波』みたいな物。2つの波長の違う波が合わされば新しい波長の波が出来あがる。  そして、もし、相性が良ければ威力は倍増する。」 ウグイスの言う通り、確かに、その破壊力は凄まじかった。 大爆発の2乗には劣るが、おそらく大爆発くらいの威力があるだろう。 スターミーとニューラはもう体力が残っていない状態だった。しかも、大爆発と違い、何度でも使うことができる。 いつも通りウグイスは得意そうだ。 「キャハハ。『乱れ飯綱』を見切った貴方もこれを破れるかしら?」 「……なるほど、ウグイス、ヒントをありがとう。」 クリアはそう言ってワタッコを出す。パープルも続けてミルタンクを出した。 「!?何言ってるの?『魔なる炎』は絶対に破れないの。ヤミカラス『目覚めるパワー』」 「オムスター『目覚めるパワー』。」 「ワタッコ、オムスターに近づけ。」 「何をする気?」 「ウグイス。あんたの『乱れ飯綱』を破った時に俺は技が合成する前にポケモンを捨て身で突っ込ませた。」 「まさか、あんた。」 今日のバトルの中で初めてウグイスの顔が青ざめた。 「そう、波が合成する前に当たってしまえば普通の威力になる。」 ワタッコはオムスターの『目覚めるパワー』を受けながらオムスターに近づく。 「そして、片方のポケモンを倒す。ワタッコ『ギガドレイン』だ。」 さすがに効果が抜群だった。ギガドレインを受けてオムスターは倒れる。 その瞬間、オムスターをモンスターボールに戻し、無言のままその場を去ろうとするルリ。ウグイスはルリを引き止める。 「ちょ、ちょっと待ちなさい。」 「何故です?オムスターが倒れた今、私がここにいる意味は無いはずですが?」 「まだ、貴方のパーティの新戦力、『目ざパ虫』を使えるアイツが……」 「忘れたんですか?『虫』と『悪』は相性が悪いのを……それにアイツはまだ、実際のバトルに参戦するには経験が足りません。  さらに、アイツはもう『目覚めるパワー』を覚えていません。」 ルリは一気に言い放つ。そして、最後にこう付け加えた。 「そして、貴方と私は同じ三幹部……貴方の指示に従う義務は、私にはありません。」 ルリはさっさとどこかへ行ってしまった。 残ったウグイスをクリア・パープル・ポケモンを回復させたジムリーダーが囲む。 「貴方はグレネード団の中でも全地域制覇を狙う最上級危険人物……ここで捕まえます。」 「そうね……それが出来ればの話だけどね。クロバット、ピジョット」 「バトルする気か?マルマイン。」 クリアはポケモンの準備をする。しかし…… 「クロバット『空を飛ぶ』。」 その場に居た大勢の予想を裏切って、クロバットに乗ってその場を飛び立った。 ――その夜―― 「はい、こちらクリア……はい、分かりました。」 「誰からの電話だったの?」 パープルが尋ねる。 「カツラさんとアンズさんから……ニビ・トキワ・マサラからグレネード団員が撤退したらしい。」 「それじゃあ……」 「ああ、これでセキエイに向かうことができる。」