奪われた日常  第18章 桔梗色の情報 ――キキョウシティ―― 今がもし夏ならこの町は咲き乱れる桔梗(キキョウ)が綺麗だっただろう。 ここにはまだグレネード団員が残っている地域、すなわちワカバ・ヨシノを奪回する為にパープル他数名が集まっていた。 「パープルさん。」 空から声を掛けてきたのは昨日と同じくハヤトである。 「あ、ハヤトさん。どうでしたか?ワカバとヨシノは?」 「ああ、一般のグレネード団員は撤退したよ。これで残るは……」 「私達三幹部だけですね。」 「ええ、……残るは三幹部だけ……?」 ハヤトと『誰か』の声に同調しかけるパープル、しかし、途中でおかしなことに気付く。 「『私達』……?」 不審に思ったパープルが振り返るとそこにはルリが居た。 「ルリさん!?」 ルリは軽く微笑んでから、すぐにバトルを始めようとする。 「さて、今日も私の手持ちは3匹です。では、まず、頑張ってデンリュウ、ヤドラン。」 2体出したルリに対し、こちらはハヤトとパープルがポケモンを繰り出した。 「前とポケモンが変わってる?まあ、ここはワタッコ頑張って。……『ギガドレイン』」 「まずは、あのデンリュウを何とかしないと俺のパートナーが使えないからな。行け、グライガー。『泥掛け』」 『ギガドレイン』と『泥掛け』がルリのポケモンを襲う。対してルリの指示は…… 「ヤドラン『リフレクター』、デンリュウ『光の壁』。」 打撃技と特殊技を防ぐ壁が合成し、2匹の前に強力な壁が出来あがった。 その壁はいとも簡単に『泥掛け』、『ギガドレイン』を防ぐ。 「どうです。複合技『マルチシールド』。破れますか?」 「前と技も違ってるのね。でも、やっぱりそれも攻撃技じゃあないから、この前みたいに封じれば有利になる。  ワタッコ『アンコール』。」 「それは、クリアさんのワタッコですね?」 ルリは相変わらず表情を変えない。 「ええ、クリアから貴方の複合技対策として預かったの。」 「でも、それでは私の対策になっていません。  良いですか?『ネオカウンター』と違ってこの『マルチシールド』は……ポケモンを交代しても効果が残るんです。」 彼女は、デンリュウとヤドランを引っ込めて、鋼鉄の体をもつハッサムを繰り出した。 「そして、ハッサム、『高速移動』。」 「くっ。グライガー『泥掛け』だ。」 「ワタッコ戻って。ライチュウ『10万ボルト』。」 素早く高速移動するハッサムに対し、泥掛けと10万ボルトを当てた。 だが、壁の効果があるのかもしれないが、電撃の威力はいつもよりも数段低かった。ルリはパープル達に聞く。 「今のは『電気ショック』ですか?」 「そうか。泥で電気が遮断されて威力が弱まったんだ。」 ハヤトがはっとしたように言った。 「クリアさんが私とウグイスさんに言ってましたね。『チームワークが無い』って。  ……でもそれは今の貴方達も同じじゃないですか?そんな事ではハッサムは倒せません。そして……ハッサム、『切り裂く』」 素早さの上がったハッサムの『切り裂く』は強力だった。 ライチュウ、グライガーの順に攻撃をくらい、しかも、ライチュウには急所に当たってしまい、ライチュウはダウンした。 「ありがとう、ライチュウ。頑張って、ゴルダック。」 「グライガー。『泥掛け』。」 「ゴルダック。『泥掛け』の後ろから『ハイドロポンプ』。」 グライガーの『泥掛け』。その後ろから強力な水の大砲がぶつかりスピードを上げる。 「これなら、壁を破る位に威力が倍増するはず。」 パープルは得意げに言う。これは耐えられないと思ったのか、ルリは新たな指示を出す。 「ハッサム。『こらえる』。そして、『起死回生』。」 体力が少ない状況で繰り出す『起死回生』は高威力だ。 グライガーは耐え切れずに倒れてしまった。しかし、パープルがその隙を突いて指示を出す。 「確かに、『起死回生』は強力だけど……2対1の状況だと隙を突いて倒せる。ゴルダック、『冷凍ビーム』。」 堪えた直後で体力の残っていなかったハッサムはここで倒れた。 「ハッサム。よく頑張りました。  さて、ヤドラン、デンリュウ。もう一度頑張って下さい。『サイコキネシス』と『10万ボルト』です。」 残った2匹のポケモンに指示を出すルリ。 「『マルチシールド』を使ってくれないのね?」 「ええ、貴方はワタッコを連れていますから。」 「なら、こっちも攻撃で行くわ。ミルタンク『恩返し』。」 「オニドリル『ドリル嘴』だ。」 パープルとハヤトは攻撃をヤドランに集中させる。だが、体力のあるヤドランはなかなか倒れない。 「ミルタンク、貴方がオニドリルに来る10万ボルトを防いで。」 ミルタンクはオニドリルの方へと向かう。だが、何故かオニドリルはみずから前に出て電撃を受ける。ここでハヤトがもう一度指示を出した。 「オニドリル、ヤドランに向かって『オウム返し』だ。」 「確かに、それなら、効果は抜群ですね。しかし、デンリュウ、前に出て。」 『オウム返し』による電撃をデンリュウで防ごうとするルリ。 しかし、パープルはその隙を見逃さなかった。 「ここで……ミルタンク、『地震』」 「しまった。ヤドラン、前に……」 しかし、動きの遅いヤドランではデンリュウの前に出ることができなかった。 大きな地震を受けたデンリュウはここで倒れた。 「いくら貴方でも、ヤドラン1匹では戦えないんじゃない?」 パープルは言った。 ルリは2匹をモンスターボールに戻した。彼女は特に落胆はしていない様子。にっこりと笑ってパープルに話し掛ける。 「良い勝負、ありがとうございました。私もまだまだ未熟ですね。」 「そうね。良い勝負だった。……さて、ルリさん一緒に来てもらうけど……」 しかし、ここでルリの口から予想だにしない言葉が発せられた。 「パープルさん。良い情報を貴方に教えておきます。明日、グレネード団の三幹部がタマムシとコガネを襲撃します。」 いきなりのことでパープルは虚を突かれてしまった。 「え?そうなの?……でも、出来るの?三幹部で残っているのはウグイスしか……」 「ええ、まず、ウグイスさんは明日の朝、タマムシを襲うって言ってました。」 「だったら、タマムシを防げば、コガネも防げるってことね。」 「いいえ、何故なら……」 次の瞬間。辺りは煙に包まれる。ルリが隠し持っていた煙玉を使ったのだ。 「明日の昼に私がコガネに行くからです。  ……パープルさん。私もスケルさんに勝つにはここで捕まるわけには行かないんです。では、また……」 その言葉を残し、ルリは消えていった。 ――同時刻、トキワシティ―― クリアはセキエイへ最も近い町、トキワにやって来ていた。 「さて、いよいよ、ここからチャンピオンロードを抜けるのか……まあ、一日くらいで着くかな?」 「クリア君。セキエイは寒いぞ。カントー・ジョウトを含めて一番早く冬が来る場所だからのお。明日は雪が降るかも知れん。」 数日前にグレネード団から解放されたオーキド博士が声を掛けた。 「大丈夫です。寒いよりも暑い方が苦手ですから。」 「そうか?気を付けてな。」 「はい。」 「そうそう、さっきラジオでワカバ・ヨシノを奪回したと言ってたぞ。」 トキワに来ていたカツラがジョウトの様子を伝えた。それを聞いてクリアは少し安心した。 「それは、良かった。これで、僕もセキエイの方に集中出来ます。では……」 こうして、クリアは一人、セキエイ高原に向かって行った。